前回までは「社会学と社会システム」を見てきました。
何度も何度も「最も難解な科目である」と書きました。
苦手意識をあおってしまったかもしれないことをお許しください。
しかし,その中でも時々は「仏様」のような問題が混じっていることは分かっていただけたのではないでしょうか。
今日からは「社会福祉の原理と政策」に入ります。
それでは,今日の問題です。
第25回・問題22
社会福祉制度と社会保障等の政策の関連についての次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 社会保障制度審議会の「1962年の答申・勧告」では,社会保障に関する施策を「貧困階層に対する施策」「低所得階層に対する施策」「一般所得階層に対する施策」に区分し,社会福祉対策を,「低所得階層に対する施策」として位置づけた。
2 「21世紀福祉ビジョン」(1994(平成6)年)は,「年金」「医療」「福祉等」の給付費が当時,およそ6:3:1の割合であったのを,将来的には「年金」から「福祉等」へ資金を移す施策を講じておよそ5:3:2の割合とする必要があると提起した。
3 孝橋正一は,「新・社会事業概論」(1977(昭和52)年)において,社会事業が,一般対策(社会保険,公衆衛生教育等)に対して,並立的補充関係,補足的補充関係,又は代替的補充関係にあると論じた。
4 社会保障制度審議会の「1995年の勧告」では,格差拡大と貧困問題が深刻化するなかで,社会福祉は,貧困・低所得対策を重視していくべきであると指摘した。
5 ティトマス(Titmuss,R.)の「福祉の社会的分業(Social Division of Welfare)」の考え方によれば,福祉制度は,政府部門・非営利部門,営利部門,インフォーマル部門の四部門から構成される。
(注)1「1962年の答申・勧告」とは,「社会保障制度の総合調整に関する基本方策についての答申および社会保障制度の推進に関する勧告」のことである。
2「21世紀福祉ビジョン」とは,高齢社会福祉ビジョン懇談会の報告書として発表されたものである。
3「1995年の勧告」とは,「社会保障体制の再構築に関する勧告―安心して暮らせる21世紀の社会を目指して―」のことである。
福祉政策は,福祉をどのように国民に提供していくか
という極めてマクロな世界です。
そのために,現場実践とは距離が遠いように感じて,そのため,難しく感じるのだと思います。
現代社会に生きていると,社会保障制度は出来上がっているように思うかもしれません。
確かに基本的な制度設計は変わることなく,戦後の社会保障制度は発展して来ました。
しかしだからと言って次の時代も同じで良いとは言えません。
新しいものを考える時は,どのような考えで制度設計されているのかを知る必要があります。
この部分は最も社会福祉士らしいなぁ,と感じるところでもあります。
クライエントのニードがあるから,制度は作られます。制度が先にあるわけではなく,常にニードが先です。
それを知っていると,ソーシャルワーク実践も確実に変わっていくことでしょう。
ソーシャルアクションは,ソーシャルワークの重要な側面でもあります。
クライエントのニードを福祉実践の中でつかんでいることは,社会人で国家資格にチャレンジする人にとって,最も有利なことの一つです。
それでは,詳しく見て行きましょう。
1 社会保障制度審議会の「1962年の答申・勧告」では,社会保障に関する施策を「貧困階層に対する施策」「低所得階層に対する施策」「一般所得階層に対する施策」に区分し,社会福祉対策を,「低所得階層に対する施策」として位置づけた。
社会保障制度審議会の勧告はどのくらい出ているのか知りませんが,国試に出題されるのは,50年勧告,62年勧告,95年勧告の3つです。
50年勧告は,社会保障の範囲と方法を示しました。
62年勧告は,社会保障の施策を示しました。
95年勧告は,21世紀に向けた社会保障のあり方を示しました。
50年勧告は,また別の機会に詳しく書く機会があれば,書きたいと思います。
50年勧告は,社会保障の範囲と方法を決めたと言いましたが,実は「生活保障」について国の責任があるとも述べています。
さて,62年勧告です。
社会保障を
「一般所得階層に対する施策」
「低所得階層に対する施策」
「貧困階層に対する施策」
に区分しています。
この勧告によると,社会福祉制度は,低所得階層に対する施策だとしています。
よって正解です。
なお,
社会保険制度は,一般所得階層に対する施策
生活保護制度は,貧困階層に対する施策
です。
国民の多くは,一般所得階層です。
つまり・・・
我が国の社会保障制度の中心は社会保険である。
社会保障給付費の財源は,公費よりも社会保険料の多くなるのは当然です。
2「21世紀福祉ビジョン」(1994(平成6)年)は,「年金」「医療」「福祉等」の給付費が当時,およそ6:3:1の割合であったのを,将来的には「年金」から「福祉等」へ資金を移す施策を講じておよそ5:3:2の割合とする必要があると提起した。
5:3:2はよく出題されるので覚えている人は多いと思いますが,もともとはどんな割合だったのを変えていくのか,5:3:2は,それぞれその部門だったのか,は忘れがちです。
しっかり覚えましょう。
もともとは,5:4:1の割合です。
医療を減らして,福祉その他を増やしたということになります。
医療を減らすためには,もちろん診療報酬の引き下げも必要ですが,大きく変えるためには制度改正が必要です。
そこで創設されたのが介護保険です。
これによって老人医療の一部が「福祉その他」に移り,5:3:2の割合が今日では実現しています。
答えはもちろん×です。
3 孝橋正一は,「新・社会事業概論」(1977(昭和52)年)において,社会事業が,一般対策(社会保険,公衆衛生教育等)に対して,並立的補充関係,補足的補充関係,又は代替的補充関係にあると論じた。
この選択肢は,今後,とても重要になります。このタイプの出題が復活してくるからです。
並立的補充関係,補足的補充関係,又は代替的補充関係と述べたのは仲村優一です。
よって×。
孝橋正一は,社会政策は社会問題に対する施策であり,社会事業はそこから派生する社会的問題に対する施策であると述べています。
4 社会保障制度審議会の「1995年の勧告」では,格差拡大と貧困問題が深刻化するなかで,社会福祉は,貧困・低所得対策を重視していくべきであると指摘した。
95年勧告は,21世紀に合ったサービスの向上などを示したものです。
貧困・低所得対策を重視するのであれば,50年勧告モデルを引きずったままのものです。
よって×。
95年勧告で示された方向性が,現在の社会福祉法につながっていきます。
50年勧告は,生存権保障を目指したものですが,95年勧告は,幸福追求権を尊重したものだと言えます。
サービス利用は,行政処分としての措置制度から,利用契約に基づくものに変わるなど,社会福祉が,社会福祉サービスに変わっていくこととなります。
5 ティトマス(Titmuss,R.)の「福祉の社会的分業(Social Division of Welfare)」の考え方によれば,福祉制度は,政府部門・非営利部門,営利部門,インフォーマル部門の四部門から構成される。
ティトマスはこんなことを言ったのかなぁ,と思った人も多かったと思います。
社会福祉士の国家試験は,範囲は広いですが,出題されるポイントはそんなに広くはないです。
つまり・・・
出題されるポイントはそんなに変わらないということです。
ここで心が弱くなって,「知らないのは自分の勉強不足だ」と思ってしまったら深みに入ります。
福祉制度は,政府部門・非営利部門,営利部門,インフォーマル部門の四部門から構成されると述べたのは,ウォルフェンデン報告です。
同報告は福祉多元主義を示したものなので,そう言われると納得できる人もいるでしょう。
よって×。
ティトマスは,福祉国家を「残余的福祉モデル」「産業的業績達成モデル」「制度的再分配モデル」というように類型化しました。
<今日の一言>
この人は,こんなことを言ったかなぁ,と思う文章は,自分の勉強不足ではありません。
多くの場合は,誤りを作るための文章です。
考えても分からず
ええい,正解にしちゃえ!!
と思うのはとても危険です。
そこには,正解はないことが多いです。
何度も受験しても合格をつかめない方は,特にここを心にとどめておいていただきたいです。