日本の社会保障制度は,1922年・大正11年にできた炭鉱労働者などのいわゆるブルーカラーを対象とした健康保険法から始まりました。
日本の社会保障制度の施策を整理すると・・・
1962年 社会保障制度審議会による
社会保険 → 一般所得階層に対する施策
社会福祉 → 低所得階層に対する施策
公的扶助 → 貧困階層に対する施策
人口割合でみると
一般所得階層 > 低所得階層 > 公的扶助
となります。
ベンサムによる功利主義「最大多数の最大幸福」で考えると,最大多数なのは一般所得階層なので,社会保険制度を充実させることが,国家全体で見た時,最も幸福度が大きくなります。
さて,今日のテーマは「日本の社会保障制度の仕組み」です。
社会保障制度は,財源によって,社会保険と社会扶助に分けられます。
社会保険は,日本には5つの制度があります。日本の社会保険には財源には公費も使われていますが,基本的には社会保険料を使って運用されます。
そのため,財源割合で言えば,公費が社会保険料を上回ることは絶対にありえません。
公費負担分は社会保険を支えるためのものです。
社会扶助は,児童手当などの各種手当や公的扶助(生活保護)などです。
社会扶助は,公費で行われ,事前の拠出は必要とされていません。
それでは特徴を整理してみましょう。
<社会保険>
・防貧的に作用する。(貧困にならない)
・保険料の拠出を前提とする。
・保険事故が発生した場合に給付される。
・基本的には給付に所得制限はない(基本的という条件をつけているのは,20歳前に初診日がある場合は,20歳になると障害年金が給付されるが,所得が多いと給付されないため)。
<社会扶助>
・救貧的に作用する。(貧困から救う)
・事前に納税していなければならないなどの条件はない。
・所得制限があるものが多い。
さて,これらを元に今日の問題です。
第25回・問題63
我が国における社会保険と公的扶助の性質・機能の違いに関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 社会保険は原則として金銭給付により行われ,公的扶助は原則として現物給付により行われる。
2 社会保険は保険料の拠出を給付の前提とし,公的扶助は事前の納税を給付の前提としている。
3 社会保険では個別の事情に応じた給付が行われるのに対し,公的扶助では最低限度の生活を保障するために定型的に一律の給付が行われる。
4 社会保険は貧困に陥った後に給付が開始され,公的扶助は貧困に陥らないように事前に支給される。
5 社会保険では保有する資産に関係なく給付が行われるが,公的扶助では資産調査を経て給付が行われる。
社会保険と公的扶助の違いに関する問題です。
「社会保障」の科目では,社会保険と社会扶助の違いとして出題されます。
2つの科目にまたがるのでしっかり覚えておきたいです。
それでは詳しく見て行きましょう。
1 社会保険は原則として金銭給付により行われ,公的扶助は原則として現物給付により行われる。
どちらも原則は,金銭給付です。
よって×。
公的扶助のうち,原則現物給付なのは,医療扶助と介護扶助の2つだけです。
社会保険も基本は,金銭給付です。医療保険と介護保険は,原則現物給付です。
医療と介護は,それぞれのサービスを提供することで,それぞれのニーズを充足するからです。
2 社会保険は保険料の拠出を給付の前提とし,公的扶助は事前の納税を給付の前提としている。
公的扶助は,貧困層を対象としています。
生活保護は,憲法第25条の生存権保障,つまりは「健康で文化的な最低限度の生活保障」のための法律です。
事前の納税を前提としていたら,セーフティネットとしての機能は果たさなくなってしまいます。
もちろんこんな規定はありません。
よって×。
3 社会保険では個別の事情に応じた給付が行われるのに対し,公的扶助では最低限度の生活を保障するために定型的に一律の給付が行われる。
社会保険は,その保険が設定した保険事故が発生した場合に給付されます。
個別の事情は考慮されません。
公的扶助は,最低限度の生活を維持できない不足分を給付するものです。
社会保険の記述も公的扶助の記述もどちらも間違いです。
よって×。
4 社会保険は貧困に陥った後に給付が開始され,公的扶助は貧困に陥らないように事前に支給される。
社会保険は,貧困に陥らないように防貧的に機能します。
公的扶助は貧困に陥った人を救うために機能します。
よって×。
5 社会保険では保有する資産に関係なく給付が行われるが,公的扶助では資産調査を経て給付が行われる。
これは正解です。資産調査(ミーンズテスト)が行われるのは,公的扶助です。
「貧困に対する支援」は,覚えるアイテムが少ないので,法制度系の科目の中では最も点数が取りやすい科目です。