解けそうで解けない
社会福祉士の国家試験の特徴だと言えます。
国家試験終了後の講評で「〇〇をチェックしていた人は解けたでしょう」などと書かれている記事を見ることがあります。
そういうものを目にすると本当にそうなのだろうか,という疑問が浮かび上がって来ます。
この疑問は,チームfukufuku21のメンバーの問題を解く力が足りないから出てくるのでしょうか。
いや,決してそんなことはないと言い切ります。
問題を見るのと,実際に解くのはかなり違うことだと確信しているからです。
特に理論系科目では,消去法が重要です。
うまく消去法を使えた人は合格基準点を上回る
うまく消去法が使えなかった人は合格基準点を下回る
ある程度勉強をしてきた人にとって,合否を分けるのはこれだけの違いです。
白書などに目を通しておくだけで数点アップなんてことは夢物語のように聞こえます。
試験対策サイトや試験対策講座などで「ここが出ますよ。チェックしておいてください」という話を鵜呑みにして,そこに時間をかけるのはナンセンスだと考えています。
他の受験者よりも1点でも多く取らなければならない入学試験であれば,その言葉を信じてもよいかもしれません。
しかし社会福祉士の合格基準点は・・・
6割程度と決まっています。
それを上回れば合格できます。8割は必要ありません。
社会福祉士の国家試験を突破するためには,たくさんの中途半端な知識はかえってじゃま
それでは,今日の問題です。
第25回・問題13
心的外傷後ストレス障害(PTSD)に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 心的外傷によるトラウマ反応は,出現の様相についての個人差が小さい。
2 この概念によって,戦争や自然災害・犯罪被害体験に対する反応などを統一的に論じることが可能となった。
3 危機介入における危機は,「災害における危機」と「状況に伴う危機」とに大別される。
4 トラウマに対するカウンセリングでは,フラッシュバックを積極的に生起させる。
5 レジリエンスは,ストレスからの自然な回復を生じる力に関する脳内分泌物質である。
PTSDは,現在ではかなり一般に知られるようになっているので,知らないという人は少ないでしょう。
「私,〇〇にトラウマがあるの~。だから嫌い」などと自分の好き嫌いをトラウマで語ってしまう人もいるくらいです。
PTSDはこのように一般的なので,一見すると問題は簡単そうです。
しかし,うっかりするとトラップにはまります。
それでは詳しく見ていきましょう。
1 心的外傷によるトラウマ反応は,出現の様相についての個人差が小さい。
この問題の前の問題は,前回紹介した「臨界期」に関するものです。
それに対して,この設問はひねりが加えられていません。そこに,選択肢1はこの文章です。
ちょっとひねりが入っているとすると,「様相」という言葉でしょう。
こんなところに引っ掛かっては,もう一歩も先に進めません。
ちょっとくらい違っていても,大体のニュアンスが間違っていなければOKです。
様相は様子で十分でしょう。
そこをくぐり抜ければ,この選択肢で間違うことはめったにないと思います。
もちろん,個人差は多いです。
よって×。
この選択肢は,おそらく正しい文章を先に作ってから,それを間違いの文章に変えたものだと思われます。
「大きい」 → 「小さい」 となっているからです。
2 この概念によって,戦争や自然災害・犯罪被害体験に対する反応などを統一的に論じることが可能となった。
「統一的に論じることが可能となった」。
何か怪しげな感じがしませんか?
この時点では,〇を付けることができません。
こんな時は,落ち着いて△を付けておくことが大切です。
結論を言うとこれが正解です。
戦争,自然災害,犯罪体験など,多くの場面で心的外傷は起き,それが原因となり,ストレス障害となります。
原因となる場面は違っても,ストレス障害は発生します。
これがこの選択肢の「統一的に論じることが可能となった」ということの意味です。
3 危機介入における危機は,「災害における危機」と「状況に伴う危機」とに大別される。
これはちょっと分からないと思います。これも△をつけておきましょう。
しかし,落ち着いて考えると,「状況に伴う危機」の状況の中に「災害」が含まれていそうです。
結論を言うと,この選択肢は間違いです。
正しくは,「発達における危機」と「状況に伴う危機」だそうです。
国家試験の選択肢を見た場合,このように「〇〇〇〇」と「〇〇〇〇」というように2つの要素がある場合は,どちらかが違っている可能性が高いです。
間違い選択肢を作りやすいからです。
4 トラウマに対するカウンセリングでは,フラッシュバックを積極的に生起させる。
フラッシュバックは辛い経験が繰り返し生起されるものです。とても辛いです。
積極的に生起させるのは何のお仕置きかと思ってしまいます。
もちろん生起させないように行います。
よって×。
5 レジリエンスは,ストレスからの自然な回復を生じる力に関する脳内分泌物質である。
レジリエンスは,精神保健福祉士では何度も出題されていますが,社会福祉士ではこの時初めて出題されました。
これを〇にした人も多かったのではないでしょうか。
これもよく分からないので△をつけておきます。
結論を言うと,これは×です。
レジリエンスは,脳内分泌物質ではなく,抵抗力・回復力のことです。テレビCMでも,髪のトリートメントなどで「レジリエンス力を高める効果」などと使われてくるようになってきました。
さて,△をつけたのは,以下の3つです。
2 この概念によって,戦争や自然災害・犯罪被害体験に対する反応などを統一的に論じることが可能となった。
3 危機介入における危機は,「災害における危機」と「状況に伴う危機」とに大別される。
5 レジリエンスは,ストレスからの自然な回復を生じる力に関する脳内分泌物質である。
一見易しそうに見えるこの問題でも選択肢が3つも残りました。こんなところに第25回国家試験の難しさがあります。
さて,まずこの問題の設問から考えてみます。
心的外傷後ストレス障害(PTSD)に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
何もひねりを加えていません。
PTSDに関する問題ですよ。と言っています。
つまり問題はPTSDに関するものです。しかしPTSDそのものについて述べていない選択肢があります。
それは,選択肢5のレジリエンスです。
こんなところで脳内分泌物質を出してくるのは違和感があります。
これを×にしましょう。
ここで無理にレジリエンスを出題してきたのは・・・
今後レジリエンスについて出題しますよ。皆さん勉強しておいてくださいね。
という試験委員からのメッセージに他なりません。
前回のアヴェロンの野生児は,間違い選択肢を作るためのものであり,二度と出題されない可能性が高いものとは,趣きが大きく違います。
残ったのは次の2つです。
2 この概念によって,戦争や自然災害・犯罪被害体験に対する反応などを統一的に論じることが可能となった。
3 危機介入における危機は,「災害における危機」と「状況に伴う危機」とに大別される。
3は,誤りになりそうなパターンの文章です。2も「可能となった」というところがとても引っ掛かります。
しかし,先に述べたように,この設問は「PTSD」についてのものであり,何もひねりが加えられたものではありません。
つまり,PTSDとはどういうものなのか,しっかり覚えてもらいたいものが正解になるはずです。
なぜなら,一問丸々出題されることは少なく,こういう一問丸々使った問題は貴重だからです。
しかも・・・
一番覚えてほしいものを正解に配置することがよく見られます。
次の年の受験参考書には,「PTSDの概念によって,戦争や自然災害・犯罪被害体験に対する反応などを統一的に論じることが可能となった」が掲載されます。
これで試験委員の目論見は達成されます。
次回出題しても参考書に書かれているので,勉強した受験生は対応可能となります。
話を戻します。次回出題される時には,「PTSDの概念によっても,戦争や自然災害・犯罪被害体験に対する反応などを統一的に論じることはできない」といったスタイルが予測されます。
勉強した人なら×をつけることが可能です。
<今日の一言>
国家試験問題は,解けそうで解けない。
知識をつけることを優先するのは良いですが,ずっとそのままの勉強法で国家試験に突入するのは極めて危険です。
問題を解く訓練の時間は,絶対に必要です。
今回が再チャレンジという方は,特に心に留めておいていただきたいです。