社会福祉士の国家試験の科目には,法制度を中心とした科目と理論を中心とした科目があります。
法制度を中心とした科目は,法律をもとにして出題します。
誤りの文章を作るのは,そんなに難しくはありません。
市町村を都道府県に変える,などです。
作るほうは簡単ですが,解くのは難しいです。
それに比べると,理論を中心とした科目は,目に見えないものを言葉にして表現するので,文章自体が難解になります。
法制度のように決まった言い回しが存在しないからです。
そのため,同じような言葉で出題されることがありません。
こう聞くととても難しく感じるでしょう。
しかし・・・・・・
人が作った問題です。どこかにはほころびが生じます。
それでは今日の問題です。
第25回・問題12
臨界期に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 推定11~12歳で発見されたアヴェロンの野生児は,医師イタールによる熱心な教育の結果,基本的生活習慣のほか同年齢の子どもがもつ言語能力を身に付けた。
2 乳児期に白内障などにより視力を失った人が,成人期以降に開限手術で目が見えるようになると,物の形を認識することもできるようになる。
3 ハイイロガンのヒナは,孵化直後の臨界期に出会った運動体に対して,後追い行動をする。
4 未成熟な人格であれば,神経回路の再組織化は比較的容易になされるが,臨界期を過ぎると困難になる。
5 乳児期においで何らかの原因で,長時間,片限が閉じられた状態に置かれた場合であっても,永続的な弱視になるようなことはない。
この問題を見て
「臨界期って何? 分からない」
と思った人は多いはずです。
ここで頭の中が「???」と一杯になると,冷静に思考することが困難になります。これが国家試験のトラップです。
一つ目の選択肢に難しいものがあると混乱しがちですが,この問題のように設問にこの手法を取り入れた問題もあります。
臨界期は,「周りの世界に臨む」と熟語のイメージができれば上々です。
チームfukufuku21のメンバーの中では,以前,原子力の研究所で,臨界事故を起こしたところから,連想したという人もいます。
原子力の臨界は,核分裂がどんどん起きてくるぎりぎりの状態のことです。
ここから,大きく成長する前の状態のことなのかな,と思ったとのことです。
これらのことから,周りの世界に接して,大きく成長する前の状態である,と考えられれば,もう大丈夫です。
心理学の臨界期とは,成長する際,その時期を過ぎるとうまく獲得できなくまる前の時期を指すそうです。
ちょっとニュアンスは違いますが,予想したものと大きくは外れていません。
この問題は,臨界期が分からなくても,ちゃんと勉強した人なら,答えられます。
それでは,詳しく見ていきましょう。
1 推定11~12歳で発見されたアヴェロンの野生児は,医師イタールによる熱心な教育の結果,基本的生活習慣のほか同年齢の子どもがもつ言語能力を身に付けた。
最初の選択肢は,またまた奇異なものが出題されています。
アヴェロン
イタール
何これ? って感じですよね。
しかし,アヴェロンの野生児はもう二度と出題されないと思います。
問題を成立させるために作った選択肢だからです。誤りの選択肢が必要です。
臨界期,アヴェロンで思考が混乱した受験生は多かったのではないでしょうか。
さて,本論に戻ります。
アヴェロンの野生児が,11・12歳の時に保護された当時,言葉を話すことができませんでした。
言葉を話す訓練をすれば話せるようになると考えられていましたが,結局言葉を獲得することはできませんでした。
よって×。
この問題は臨界期に関する問題なので,臨界期を過ぎると言葉を獲得できない,という文脈だったと思いますが,この野生児は知的障害だったとの説もあります。
人道上,人の手をかけないで育てることは,人道上できるわけがないので,本当に臨界期を過ぎると言葉を獲得できないかは分かりません。
2 乳児期に白内障などにより視力を失った人が,成人期以降に開限手術で目が見えるようになると,物の形を認識することもできるようになる。
選択肢1が×なら,2も同じ文脈で×がつけられるはずです。
もちろん×です。
3 ハイイロガンのヒナは,孵化直後の臨界期に出会った運動体に対して,後追い行動をする。
落ち着いてここまでたどり着けることができれば,これが正解だとできたことでしょう。
刷り込みですね。正しいです。
答えは,そんなに難しくないものです。
しかしいつも紹介しているように,周囲にいろいろなトラップを仕掛けて,簡単には正解にたどり着かないように工夫されています。
この選択肢は,本当はそんなに難しくないですが,実際にはこれを正解にできなかった受験生は多くいたはずです。国家試験問題は,ほかの選択肢に難しいものがあると,途端に難しくなります。
4 未成熟な人格であれば,神経回路の再組織化は比較的容易になされるが,臨界期を過ぎると困難になる。
これも1と2と同じ文脈で×なので,逆の言い回しのこの選択肢を〇にしてしまった人もいるはずです。
しかしよく読んでみると,人格は関係なさそうです。
正しくは,未成熟な人格ではなく,未成熟な脳です。
よって×。
5 乳児期においで何らかの原因で,長時間,片限が閉じられた状態に置かれた場合であっても,永続的な弱視になるようなことはない。
これも1と2と同じ文脈ですね。
もちろん×です。
今日の問題は,よく見てみると,そんなに難しくない問題ですが,試験会場で冷静にこの問題で正解を選ぶのは,そんなに簡単なことではありません。
この問題は,設問の「臨界期」が特に効いています。
臨界期を深読みして,ふ化直後は臨界期ではない,などと迷うと正解できなくなります。
二重・三重の仕掛けがある問題は,これからはそんなに多くありません。
同じような問題が出題されることはあまりないかもしれませんが,こういった問題もあることを覚えておきたいです。