2019年4月30日火曜日

ストレングス視点に基づいた事例問題

今回も「ストレングス」について取り組んでいきます。

早速今日の問題です。


第26回・問題98 事例を読んで,病院の医療福祉相談室に勤めるC医療ソーシャルワーカー(社会福祉士)のストレングス視点に基づく対応として,適切なものを2つ選びなさい。

〔事 例〕
Dさん(30歳,男性)は,パートナーとの性交渉によって体調に異変を感じながらも悪い検査結果が出るのを恐れ,医療機関を受診していなかった。しかし気になっていたため,悩みを打ち明けた友人に強く勧められて半年を過ぎてようやく受診に至った。その結果,HIV感染症と診断され,初めて医療福祉相談室に紹介されてきた。Dさんは「この歳でアルバイトだけで一人暮らしをしている。実家の両親には話していない。自分はダメな人間だ」と自分を強く卑下する心情を吐露した。C医療ソーシャルワーカーは,その深刻な気持ちを受け止めて対応した。 

1 「この病気になったのはとても大変なことですよね」と言う。

2 「親身になって受診を勧めてくれる友人がいるではないですか」と言う。

3 「エイズ発症後の入院に備えて,両親に早く知らせた方が良いですよ」と言う。

4 「HIVに感染してもエイズを発症するとは限らないので安心してください」と言う。

5 「こうして受診にこぎ着けられたのは大きな一歩だと思いますよ」と言う。


このうち,ストレングス視点に基づいた対応なのは

2 「親身になって受診を勧めてくれる友人がいるではないですか」と言う。

5 「こうして受診にこぎ着けられたのは大きな一歩だと思いますよ」と言う。

の2つです。

選択肢2は,友人にストレングス視点を見出しています。
選択肢5は,Dさんの受診行動にストレングス視点を見出しています。


これら以外の選択肢には,ストレングス視点がありません。

1 「この病気になったのはとても大変なことですよね」と言う。

Dさんの気持ちを共感していますが,ストレングス視点はありません。


3 「エイズ発症後の入院に備えて,両親に早く知らせた方が良いですよ」と言う。

両親もストレングスになり得ます。しかし両親が支えてくれるとは限りません。


4 「HIVに感染してもエイズを発症するとは限らないので安心してください」と言う。

ワーカーもストレングスになり得ます。しかし,根拠のない安易な励ましは,ストレングスにはなりません。



<今日の一言>

人と環境について,約半月にわたって紹介してきました。

しっかり理解できましたでしょうか。

「相談援助の理論と方法」は,21問もある科目です。

最もボリュームが科目で,国試合格にはここで点数を稼ぐ必要があります。

多くの理論家の考え方も出てきて覚えるのは面倒だと思いますが,こういったところを押さえることが重要です。

2019年4月29日月曜日

ストレングスの見出し方

ストレングスは,「強さ」を意味しています。

人にも環境にも「強さ」を見出すことができます。

「弱さ」は容易に見出すことができますが,「強さ」を見出すのは容易ではありません。

だからこそワーカーにとって重要です。

それでは今日の問題です。


第30回・問題110 事例を読んで,C相談支援専門員(社会福祉士)によるストレングス視点に基づいた対応として,最も適切なものを1つ選びなさい。

〔事 例〕
X指定特定相談支援事業所のC相談支援専門員は,軽度の知的障害があるDさん(18歳)の,特別支援学校高等部卒業後のサービス利用に関する会議を開催することとなった。会議では,Dさん自身からサービス利用について話をしたいとの希望があったので,発言の機会を持つことにしていた。しかし,直前になって,「みんなの前に出るのが不安なので,発言できるか分からない」と言った。

1 サービス実施には専門職の意見が重要視されるので,Dさんが発言をやめても差し支えないと伝える。

2 C相談支援専門員がDさんの思いを代わりに伝えるので,発言しなくても良いと説明する。

3 発言すると自分が決めた以上は,最後まで責任を持ってやり遂げるように指導する。

4 自分から発言しようとしたことを尊重し,会議で発言する内容や方法を一緒に考える。

5 代わりに家族に発言してもらった方が良いと提案する。


この事例の中で,どこにストレングスを見出すことができますか?

正解は,選択肢4です。

4 自分から発言しようとしたことを尊重し,会議で発言する内容や方法を一緒に考える。

「自分から発言しようとしたこと」

これがストレングスです。

ここに着目することがストレングス視点です。

改めて各選択肢を見てください。

そのほかの選択肢は,すべて「自分から発言しようとしたこと」を重視したものとはなっていません。


1 サービス実施には専門職の意見が重要視されるので,Dさんが発言をやめても差し支えないと伝える。

2 C相談支援専門員がDさんの思いを代わりに伝えるので,発言しなくても良いと説明する。

3 発言すると自分が決めた以上は,最後まで責任を持ってやり遂げるように指導する。

5 代わりに家族に発言してもらった方が良いと提案する。

どうですか?

ポイントを定めて見てみると,ストレングス視点がないことがわかることでしょう。


今日の一言>

今日の問題は,「ストレングス視点に基づいた対応」です。

このような条件を忘れてしまうと,適切ではないものを選んでしまう可能性があるので要注意です。

2019年4月28日日曜日

ストレングスモデルって何?

社会福祉士の国試は,出題基準に沿って出題されています。

その中に「様々な実践モデルとアプローチ」があります。

様々な実践モデルで示されているものは

・治療モデル
・生活モデル
・ストレングスモデル

の3つです。


システム理論の流れで,治療モデルと生活モデルを紹介しました。
今回から,ストレングスモデルを紹介します。


ストレングスとは,ストロングの派生語で,「強さ」を意味しています。

強さは,「人」の中にもあります。

「環境」の中にもあります。

それでは今日の問題です。


第22回・問題91 サリービー(Saleebey,D.)の唱えるストレングス視点に関する次の記述うち,正しいものを一つ選びなさい。

1 問題解決を行うためのストレングスは,個人や家族のみならず,地域の中にも見い出すことができる。

2 クライエントの希望やビジョンには,ストレングスを見い出すことができない。

3 逆境や困難な体験における苦しみは,ストレングスの形成を妨げる。

4 ストレングスを高めることと,クライエントの目に見えない潜在力の強化とは反するものである。

5 クライエントのストレングスの見極めは,ソーシャルワーカーの客観的判断に基づくものである。


ストレングスの意味が分からなくても,日本語的に解けてしまう問題かもしれません。


正解は,選択肢1です。

1 問題解決を行うためのストレングスは,個人や家族のみならず,地域の中にも見い出すことができる。


クライエントに関係するものは,すべて環境です。

地域も環境です。

例えば,地域住民にもストレングスを見出すことができます。


2 クライエントの希望やビジョンには,ストレングスを見い出すことができない。


クライエントの希望やビジョンはストレングスになります。


3 逆境や困難な体験における苦しみは,ストレングスの形成を妨げる。


逆境や困難な体験における苦しみを乗り越えることは,ストレングスの形成につながります。


4 ストレングスを高めることと,クライエントの目に見えない潜在力の強化とは反するものである。


クライエントの目に見えない潜在力の強化は,ストレングスを高めます。


5 クライエントのストレングスの見極めは,ソーシャルワーカーの客観的判断に基づくものである。


「あなたのストレングスは,私のスケールでは10段階中第5段階です」といったことは意味がないことです。


<今日の一言>


ストレングスは「強さ」です。

数多くのストレングス視点を持つことは,ソーシャルワーク実践に重要なことだと思います。

「弱さ」は容易に見つけることはできるかもしれませんが,「強さ」を見出すことは簡単ではないからです。

2019年4月27日土曜日

人と環境の交互作用

システム理論は,「人と環境」を一体のものとしてとらえます。

それをさらにすすめたと言えるのが,「生活モデル」です。

システム理論は,多くの人が感じるように,冷たい響きがあります。

生活モデルは,クライエントの生活全体をとらえ,人と環境の交互作用に着目します。

生活モデルの対置概念は「治療モデル」です。

治療モデルの発祥は,リッチモンドです。

その後,診断主義派ケースワークに受け継がれていきます。

生活モデルのクライエントの生活に主眼を置いたものですが,治療モデルはクライエントの治療に主眼が置かれます。

様々なアプローチで改めて紹介しますが,ポストモダン系であるナラティブアプローチや解決志向アプローチは,治療は主眼点にはありません。


それでは,今日の問題です。

第25回・問題100 事例を読んで,C社会福祉士による生活モデルに基づいた対応に関する次の記述のうち,この段階で最も適切なものを1つ選びなさい。

〔事 例〕
Dさん(59歳)は刑務所での生活が長かった。独身で身寄りはない。出所後のDさんの地域生活の支援は,相談支援事業所のC社会福祉士が担当している。療育手帳の発給を受けた後,Dさんは,現在,中学校時代の同級生が経営する会社で,廃品回収の職に就いている。社長は,Dさんのために,社長命令で若手社員をサポート役として付けた。しかし,Dさんは廃品回収の仕事をなかなか覚えることができず,知らない土地での寮暮らしのため精神的にも不安定になってしまった。DさんとC社会福祉士との信頼関係は構築されており,定期的な面接のなかではDさんからの不満も聞いている。そして,最近では,頑固なDさんとサポート役の若手社員との関係も悪くなってきており,社長自身も困惑している。

1 相手が年下の社員でも,敬語を使い低姿勢で接するようDさんに指導する。

2 Dさんが廃品回収業務で自立できるように,丁寧な技術指導を行う。

3 新人であるDさんのために,全入寮者による歓迎会開催を社長に提案する。

4 社長にDさんへの協力を再度求め,関係者による話合いへの同席を依頼する。

5 地元の自治会長にDさんを紹介して,地域活動への参加を勧める。


設問のテーマは「生活モデル」です。

生活モデルが,「人と環境の交互作用」に着目したものであることがわからなければ,答えはわからないと思います。

迷うところとすれば,選択肢3と5でしょうか。

しかし,もう一つのポイントは「この時点」です。

「生活モデル」に基づいたもので「この時点」で最も適切なのは,選択肢4です。
人と環境の交互作用に着目した生活モデルに基づいたものと言えます。

ほかの選択肢も解説します。

1 相手が年下の社員でも,敬語を使い低姿勢で接するようDさんに指導する。

Dさんにしかアプローチしていません。
Dさんの問題を変えるのは「治療モデル」だと言えます。

2 Dさんが廃品回収業務で自立できるように,丁寧な技術指導を行う。

Dさんにしかアプローチしていません。
技術指導も大切ですが,それでは「治療モデル」になります。


3 新人であるDさんのために,全入寮者による歓迎会開催を社長に提案する。

全入寮者という環境への働きかけがようやく出てきた選択肢です。
しかし,逆にDさんへのアプローチがありません。


5 地元の自治会長にDさんを紹介して,地域活動への参加を勧める。

これも自治会長という環境への働きかけがありますが,選択肢Dと同様にDさんへの働きかけがありません。


<今日の一言>

生活モデルに関する出題はたった一回しかありませんが,これからも出題される可能性は高いと言えます。

なぜなら「生活モデル」という言葉から,「人と環境」につながるのは,しっかり勉強した人だけです。

今日の問題に限らず事例では,「この時点」というポイントが重要です。

「次の時点」では適切かもしれませんが,「この時点」で最も適切なものを選択しなければなりません。

今日の問題では,選択肢3と5は,この時点でなければ正解になり得るものと言えます。

選択肢3は,Dさんが入職した時点。

選択肢5は,若手社員との関係がよくなって,仕事をうまく進めていくことができるようになった時点。

事例問題は,正解のほかに,正解になるものがあってはなりません。
そのためにある条件に当てはまるものを正解にするように道筋をつけていきます。

今日の問題は,選択肢1と2の作り方が下手なので,もしかするとそれほど迷わなくても済むかもしれません。

しかし,事例問題の中には,センスの良い問題もあり,受験生を迷わせるものも存在します。

そういった問題で,試験委員の仕掛けたトラップにはまることなく,正解するには「この時点」という視点で必要です。

2019年4月25日木曜日

「システム理論」のまとめ

人は,一人で存在するものではなく,環境の中で生きています。

人と環境を一体のものとしてとらえるのが「システム理論」です。

人は環境に影響を受けて,人は環境に影響を与えます。

人⇔環境

この双方向性を「交互作用」と言います。

多くのソーシャルワークの理論家が「人と環境」の関係について述べています。
それぞれ特徴があります。

リッチモンド
ソーシャル・ケース・ワークは,「人と社会環境との間を個別に意識的に調整することを通して,パーソナリティを発達させる過程」


ソロモン
人は抑圧された環境に置かれると,無力(パワーレス)の状態に陥ることが多い。


パールマン
クライエントは,役割ネットワークのなかで役割を生成している存在。


バートレット
人々が試みる対処と環境からの要求との間で保たれる均衡関係。


ホリス
人と環境及び両者の相互作用の連関性としてとらえる。


ピンカスとミナハン
人々と資源システムとの連結や相互作用に着目。


ジャーメインとギッターマン
生態学の視点を用いて,個人と環境との接点に介入する。


ラップとゴスチャ
人にも環境にもストレングスを見出すことができる。


今までの国試ではこれらのことが問われていますが,最後は第27回です。

第28~31回は,「人と環境」についての人名を問う問題は出題されていません。


しばらく出題されていないのがとても不気味です。

このまま,このスタイルの出題がなくなってしまうのか?

それとも

そのうち,また出題されるのか?

今はまだ時間があります。

しばらく出題されていないということは,3年間の過去問で勉強している人は,問題は目にする機会がないということです。

ほかの受験生と差がつく部分であると言えます。

多くの受験生は「システム」と聞くと苦手な感じがするはずです。

なおのこと,差がつきやすいと言えます。

システム理論は,人と環境を一体のものととらえて,その交互作用に着目するものです。

(2022/06/05追記) システム理論に関する人名問題は第33回に久しぶりに出題されています。

それでは,今日の問題です。


第25回・問題98 ベルタランフィ(Bertlanffy,L.)の「一般システム理論」を構成する概念に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 システムを,有機体としてではなく,機械論的な立場からとらえる。

2 システムを,外部環境に対して開かれている開放システムとしてとらえる。

3 システムの変容結果は,初期条件によって決定づけられるものと考える。

4 システムを要素還元主義の立場から,全体は部分の総和であると考える。

5 個々のシステムを独立したものととらえ,システム間の非階層性を強調する。


「魔の第25回国試」の問題です。

二度と出題されないかもしれませんが,ダメ押しです。

言葉自体が難しすぎますね。


答えは,選択肢2

2 システムを,外部環境に対して開かれている開放システムとしてとらえる。

システムには,

外部環境に対して開かれている「解放システム」
外部環境に対して閉じられている「閉鎖システム」

があります。

一般システム理論が対象とするのは,「開放システム」です。

解放されているから,有機的に変化していくことができます。


それでは,ほかの選択肢の解説です。

1 システムを,有機体としてではなく,機械論的な立場からとらえる。

システムは絶えず変化しているものです。

システムと聞くと「機械的」と感じる人が多いところから出題されたものです。
これが正解なら

 システムを,機械論的な立場からとらえる。

でよいはずです。

有機体としてではなく,とわざわざ排除しているところがとても怪しいと言えます。


3 システムの変容結果は,初期条件によって決定づけられるものと考える。

システムは絶えず変化しているものです

介入によって,どんどん変化していきます。


4 システムを要素還元主義の立場から,全体は部分の総和であると考える。

組織の構成要素は,それぞれ関連しながら発展するものがシステムです。

一人ひとりが力のないチームでも,みんなの力が発揮できれば,個々の力以上の力を発揮することができます。

全体は部分の総和(足し算)ではありません。


5 個々のシステムを独立したものととらえ,システム間の非階層性を強調する。

システムは関連し合っています。

日本というシステム
都道府県というシステム
市町村というシステム
地域というシステム
家族というシステム

上位のシステムの下に下位システムがあります。

システムには階層性があり,すべて関連し合っています。


<今日の一言>

システム理論は今回で終わりです。

「人と環境」について,理解が深まりましたか?

多くの理論家が「人と環境」について述べていますが,それぞれ特徴があります。

丸暗記することなく,特徴を理解しながら覚えていくことが大切です。

2019年4月24日水曜日

バートレットによる「人と環境」

人はその人だけで存在しているのではなく,周りの環境に影響を受けている存在です。
言われてみれば,至極当たり前のことではあります。

しかし,ここに至るには長い年月を要しました。

古くさかのぼれば,慈善組織協会(COS)の時代は,貧困になるのは,個人的な理由だと考えられていました。

しかし,ブース,ラウントリーらの貧困調査によって,古典的な貧困観は多く変化していくことになります。

それらは今まで学んてきたことです。

システム理論では「人と環境」は一体のものととらえます。

ソーシャルワークの理論家たちは,「人と環境」についてどのように述べているのか,を勉強してきました。


リッチモンドは

ソーシャル・ケース・ワークは,「人と社会環境との間を個別に意識的に調整することを通して,パーソナリティを発達させる過程」である。

と述べています。

リッチモンドは,ケースワークの科学化を目指したので,「個別に意識的に」が特徴です。


ソロモンは

人は抑圧された環境に置かれると,無力(パワーレス)の状態に陥ることが多い。

と述べています。

ソロモンは,エンパワメントアプローチの提唱者です。「無力の状態」が特徴です。


パールマンは

クライエントは,役割ネットワークのなかで役割を生成している存在である。

と述べています。

パールマンは,問題解決アプローチの提唱者です。

問題解決アプローチは役割理論の影響を受けています。
クライエントは,問題解決の主体者としての役割があります。

クライエントが解決に向けた動機づけがなされていることが必要です。

「役割」というのがパールマンの特徴です。


さて,今回はバートレットを取り上げます。

バートレットは,「人と環境」について,

人々が試みる対処と環境からの要求との間で保たれる均衡関係


と述べています。


これは以下のように整理できます。


環境からの要求
 ↓  ↓
(交互作用) ⇒ バランスを取る
 ↑  ↑
人が試みる対処


バートレットの特徴は,均衡関係(バランス)というところに焦点を当てていることです。

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それでは,今日の問題です。


第27回・問題98 ソーシャルワークが対象としている「人と環境との関係」に関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。

1 リッチモンド(Richmond,M.)は,人々と資源システムとの連結や相互作用としてとらえた。

2 パールマン(Perlman,H.)は,人と環境及び両者の相互作用の連関性としてとらえた。

3 ホリス(Hollis,F.)は,他の相互作用によって影響を受けた累積的相互作用としてとらえた。

4 バートレット(Bartlett,H)は,人々が試みる対処と環境からの要求との間で保たれる均衡関係としてとらえた。

5 ジャーメイン(Germain,C)は,社会生活の基本的要求を充足するために,社会成員が社会制度との間に取り結ぶ関係としてとらえた。



正解は選択肢4です。

今日の問題もとても難しいものです。

消去法で正解にたどりつくことができないからです。

前回取り上げた問題を下書きにして,この問題が作られています。

チームfukufuku21は,これを

国試は少しずつ重なっていて,少しずつ違う

と表現しています。


第25回では,

ゴスチャ(Goscha,R.)らは,社会生活機能の概念を,環境からの要求と個人が試みる対処との交換及び均衡に焦点化してとらえた。(第25回問題101選択肢4)

と出題されています。

ここではバートレットではなく,ゴスチャと出題されています。
この出題があるので,今日の問題は正解できた率は,第25回よりも高くなったはずです。

ほかの選択肢も解説します。


1 リッチモンド(Richmond,M.)は,人々と資源システムとの連結や相互作用としてとらえた。

リッチモンドが述べたのは,

ソーシャル・ケース・ワークは,「人と社会環境との間を個別に意識的に調整することを通して,パーソナリティを発達させる過程」である。

です。


2 パールマン(Perlman,H.)は,人と環境及び両者の相互作用の連関性としてとらえた。

パールマンが述べたのは,

クライエントは,役割ネットワークのなかで役割を生成している存在である。

です。


3 ホリス(Hollis,F.)は,他の相互作用によって影響を受けた累積的相互作用としてとらえた。

ホリスは,「心理社会的アプローチ」の提唱者です。

「人と環境」について

人と環境及び両者の相互作用の連関性

と述べています。

連関性とはつながりのことを意味しています。


5 ジャーメイン(Germain,C)は,社会生活の基本的要求を充足するために,社会成員が社会制度との間に取り結ぶ関係としてとらえた。


ジャーメインは「エコロジカルアプローチ」の提唱者です。

個人と環境との接点に介入するのが特徴です。



<今日の一言>

今まで取り上げてきた中で,正解になっていないのは,

ホリス
ジャーメイン
ラップ

です。

次にこのような出題がある時は,これらが正解になりそうです。

2019年4月23日火曜日

パールマンによる「人と環境」

ソーシャルワークの理論家たちは,「人と環境」についてどのように述べているのかを確認するシリーズを続けます。

第1回では,リッチモンドを確認しました。

リッチモンド

ソーシャル・ケース・ワークは,「人と社会環境との間を個別に意識的に調整することを通して,パーソナリティを発達させる過程」である。


第2回では,ソロモンを確認しました。

ソロモン

人は抑圧された環境に置かれると,無力(パワーレス)の状態に陥ることが多い。


それぞれ個性あふれるとらえ方をしているのがよくわかります。


第3回は,パールマンを取り上げます。

パールマンは,問題解決アプローチの提唱者です。

問題解決アプローチは,クライエントは問題を自ら解決できる能力をもつ存在であるととらえ,クライエント自らが問題解決できるように働きかけるものです。

そのため,クライエントは自ら問題解決する役割を担っていることを認識して,問題解決に向けた動機づけがなされていることが必要です。


ケースワークが社会問題に対応できていないことに対して,マイルズは「リッチモンドに帰れ」と主張し,パールマンは「ケースワークは死んだ」と述べています。

パールマンは,自己批判を含めて「ケースワークは死んだ」と述べましたが,それだけにとどまらず,問題解決アプローチを提唱したのが,マイルズと違う点です。

問題解決アプローチは,科学性を追求した「診断主義派ケースワーク」とクライエントを潜在的問題解決者としてとらえる「機能主義派ケースワーク」の折衷的アプローチであると言われています。

さて,パールマンは,「人と環境」について以下のように述べています。


クライエントは,役割ネットワークのなかで役割を生成している存在である。

これもとても特徴的ですね。

問題解決アプローチは,「役割理論」に強く影響を受けているアプローチです。

クライエントは,問題を解決する役割を担い,ワーカーはその支援を担う役割を担います。

主体はあくまでもクライエントです。

このアプローチが機能するためには,先に述べたように,クライエントは自ら問題解決しようと動機づけられていることが必要です。

それでは今日の問題です。


第25回・問題101 相談援助における「個人」と「環境」をめぐる諸説に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 ジャーメイン(Germain,C.)らは,生態学の視点を用いて,個人に焦点化した適応概念について説明した。

2 ホリス(Hollis,F.)は,パーソナリティの発達を目指して,個人と社会環境との間を個別に意識的に調整することについて論じた。

3 パールマン(Perlnan,H.)は,役割概念を用いて,役割ネットワークのなかで生成している存在として個人をとらえた。

4 バートレット(Bartlett,H.)は,人間にとってふさわしい場所の質は,その人の願望,能力,自信,環境の資源の機能によって決定されるとした。

5 ゴスチャ(Goscha,R.)らは,社会生活機能の概念を,環境からの要求と個人が試みる対処との交換及び均衡に焦点化してとらえた。



私たちチームfukufuku21は「魔の第25回国試」と呼んでいる第25回国試の問題です。
とても難易度が高いです。
実際に受験された方は,正解するのはとても難しかったのではないかと思います。

正解は,選択肢3

3 パールマン(Perlnan,H.)は,役割概念を用いて,役割ネットワークのなかで生成している存在として個人をとらえた。

パールマン=問題解決アプローチといった覚え方では到底対処できない内容のものです。
しかし,これが正解です。
難易度が高い理由は,消去法で正解を見つけにくいからです。
とはいうものの,今後に備えてしっかり押さえていかなければなりません。

それでは,そのほかの選択肢の解説です。


1 ジャーメイン(Germain,C.)らは,生態学の視点を用いて,個人に焦点化した適応概念について説明した。


ジャーメインとギッターマンは,人と環境を生態学の視点からとらえて,エコロジカルアプローチを提唱しています。

人と環境の交互作用に着目し,その接点に介入します。

個人に焦点化するものではないです。



2 ホリス(Hollis,F.)は,パーソナリティの発達を目指して,個人と社会環境との間を個別に意識的に調整することについて論じた。


これはリッチモンドが述べたものです。


4 バートレット(Bartlett,H.)は,人間にとってふさわしい場所の質は,その人の願望,能力,自信,環境の資源の機能によって決定されるとした。

バートレットの「人と環境」は

社会生活機能の概念を,環境からの要求と個人が試みる対処との交換及び均衡に焦点化したのが特徴です。

交換及び均衡

ここがバートレットの特徴です。


5 ゴスチャ(Goscha,R.)らは,社会生活機能の概念を,環境からの要求と個人が試みる対処との交換及び均衡に焦点化してとらえた。


ゴスチャとラップは,ストレングスモデルの提唱者です。


<今日の一言>

人名が出題される問題は多いですが,実際に覚えなければならないものはほんの少しです。

ソーシャルワークに関連するものは,覚えなければならないものの一つです。

今日の問題の難易度が高いのは,バートレットを正解にしたことです。
多くの受験生は,「ソーシャルワーク実践の共通基盤」しか覚えていなかったことでしょう。
こういったものでも消去法で正解できるものが多いのですが,この問題はそうならなかったのは,合格基準点が72点と過去最低になった第25回らしいと言えます。

次回の問題は,この反省をもとに作られた問題を取り上げたいと思います。

2019年4月22日月曜日

ソロモンによる「人と環境」

リッチモンドは,「人と環境」について


ソーシャル・ケース・ワークは,「人と社会環境との間を個別に意識的に調整することを通して,パーソナリティを発達させる過程」である。


と述べています。

リッチモンドがこう述べたのは,1922年のことです。

しかしその後,「個」に傾倒しすぎて,社会問題に対処できないことが批判されるようになります。

そのため,マイルズは「リッチモンドに帰れ」と述べたのです。


さて,今回は「ソロモン」を取り上げます。

ソロモンは,ソーシャルワークにエンパワメント(力づける)概念を導入した人物として知られます。

エンパワメントアプローチは,クライエントが自分の能力に気づくことで,問題に対処できるように働きかけるものです。

ソロモンは,「人と環境」について


人は抑圧された環境に置かれると,無力(パワーレス)の状態に陥ることが多い。


と述べています。

それでは今日の問題です。

第23回・問題95 ソーシャルワークにおける人と環境に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 リッチモンド(Richmond,M.)は,個人と社会環境とを明確に区別し,社会環境に焦点を当てて対処することが必要であることを強調する。

2 ホリス(Hollis,F.)は,「状況の中にある人間」といった概念を用いて,個人の人格が社会環境によって形成されていく過程を分析しようとする。

3 パールマン(Perlman,H.)は,「4つのP」の一つに「場所(place)」を含めることによって,個人を取り巻く環境を視野におさめようとしている。

4 キャプラン(Caplan,G.)は,通常の方法では対処できないほどの急激な環境変化を危機としてとらえ,環境を元に戻すための介入を重視している。

5 ソロモン(Solomon,B.)は,個人と敵対的な社会環境との相互関係によって,人は無力な状態に陥ることが多いとしている。


正解は,選択肢5です。

エンパワメントアプローチを正しく理解していることで,正解できます。

ソロモンは,エンパワメントアプローチの人ですから,「人と環境」の関係性は,環境はクライエントが抑圧される敵対的な環境に特化してとらえていることが特徴です。

それでは,ほかの選択肢も解説します。


1 リッチモンド(Richmond,M.)は,個人と社会環境とを明確に区別し,社会環境に焦点を当てて対処することが必要であることを強調する。

リッチモンドは,

人と社会環境との間を個別に意識的に調整する

と述べています。

「明確に区別する」,「別々のものととらえる」といったものは,不適切です。


2 ホリス(Hollis,F.)は,「状況の中にある人間」といった概念を用いて,個人の人格が社会環境によって形成されていく過程を分析しようとする。


ホリスといえば「状況の中の人間」という概念を用いて「人と環境」について述べているものが特徴です。

しかし,個人の人格が社会環境によって形成されていく過程を分析するものではありません。

「状況の中の人」とは,人と環境はつながりのあるものだということを意味したものです。


3 パールマン(Perlman,H.)は,「4つのP」の一つに「場所(place)」を含めることによって,個人を取り巻く環境を視野におさめようとしている。

4つのPは

Person(人)
Problem(問題)
Place(場所)
Process(過程)

です。

Placeは環境のことではなく,ソーシャルワークを行う場所のことです。


4 キャプラン(Caplan,G.)は,通常の方法では対処できないほどの急激な環境変化を危機としてとらえ,環境を元に戻すための介入を重視している。

キャプランは危機介入アプローチを提唱した人物として知られます。

危機介入アプローチでは,危機に対する対処力を高めるものです。

環境を元に戻すことは重視されません。


<今日の一言>

今日の問題は,ソロモンが正解となっています。

国試は,少しずつ重なっていて,少しずつ違う

同じようには出題しません。

同じものが出題されるのであれば,記憶力に優れていることが重視され,考えるということは必要でなくなってしまいます。

国試は,社会福祉士に必要な素養を問うものです。

記憶力に優れているだけの社会福祉士は必要とされません。

2019年4月21日日曜日

リッチモンドによる「人と環境」

システム理論は,人と環境を一体のものとしてとらえるものです。

今回からは,様々な研究者がソーシャルワークにおける「人と環境」をどのようにとらえているのかを取り上げていきます。

第1回は,リッチモンドに着目します。

リッチモンドは,アメリカ慈善組織協会の指導者として活動し,ケースワークの科学化に貢献した人物です。

リッチモンドは,ソーシャル・ケース・ワークを以下のように定義しています。


人と社会環境との間を個別に意識的に調整することを通して,パーソナリティを発達させる過程。

著書『ソーシャル・ケース・ワークとは何か?』は,1922年に刊行されたものですが,既に人と環境について述べていることが特筆すべきものです。


ここで言う「個別」には「個別化して」,「意識的に」は「科学的に」といった意味だと考えられます。

「科学的に」は,行き当たりばったりではなく,計画的なかかわりのことを指しています。

その後,診断主義派ケースワークは,フロイトの精神分析学に影響を受けて,クライエントの「治療」に傾倒していきます。


リッチモンドも「パーソナリティ(人格)を発達させる」と述べているものの,そこには環境が影響していることを忘れてはなりません。


それでは,今日の問題です。

リッチモンドに着目して問題を読んでください。


第20回・問題111 ソーシャルワークにおける「人」と「環境」をめぐる学説に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 ジャーメイン(Germain,C.)らは,生態学の視点を用いて,個人に焦点を当てつつ,個人の適応についての説明をしようとした。

2 ハミルトン(Hamilton,G.)は,社会生活機能という概念を用いて,社会環境からの要求と人の対処努力との間の交換・均衡に焦点を合わせることを提唱した。

3 バートレット(Bartlett,H.)は,状況の中の人間という概念を用いて,ケースワークにおける診断についての特徴を明らかにしようとした。

4 リッチモンド(Richmond,M.)は,人と社会環境との間を個別に意識的に調整することを通して,パーソナリティを発達させる過程について論じた。

5 ソロモン(Solomon,B.)は,人を環境との相互関連の中でとらえようとし,人は状況により変化するという考え方をソーシャルワークに導入した。



人と環境をめぐる学説について,現在のカリキュラムでは

第23回
第25回
第27回

に出題されています。


第28回以降は,具体的な人名が出題された問題は,

第31回の問題98の「ケンプ」
問題100の「ピンカス」

の2問だけです。

おそらく今日の問題のようなスタイルの出題は「相談援助の基盤と専門職」の問題っぽいという理由からなのかもしれません。


しかし,過去に3度も出題されているので,押さえないわけにはいきません。

その3回の問題の出発点になったのが,今日の問題です。

旧カリキュラムで実施された最後の国試での出題です。

現在のカリキュラムに変わったのは,第22回国試からです。
実は第21回国試は,旧カリキュラムによるものですが,
次回からはこのように出題しますよ
というお知らせをした内容になっています。

そのおかげで,旧カリキュラムから現カリキュラムへの移行は,比較的スムーズに進むことができたと考えられます。

次のカリキュラム改正についての内容は,2019年4月現在,いまだ発表されていません。
そのため,導入はもうちょっと先になります。

しかし,カリキュラムが変わっても,学ぶべき内容は基本的に変わるものではありませんし,また,スムーズに移行するための配慮がなされることになるので,それほどの心配はないと言えます。


それはさておき,今日の問題です。

知識がなければ,難しい問題となりますが,答えは選択肢4です。

他の選択肢も解説します。


1 ジャーメイン(Germain,C.)らは,生態学の視点を用いて,個人に焦点を当てつつ,個人の適応についての説明をしようとした。

ジャーメインの名前は,分からなくても,「人と環境」がテーマなのに,「個人に焦点を当てつつ」というのは,適切ではないと思えるでしょう。

ジャーメインらが提唱したのは「エコロジカルアプローチ」です。
人と環境の「交互作用」に着目して介入していきます。

「交互作用」という言葉はこの辺りから使用されてくるようになりました。


2 ハミルトン(Hamilton,G.)は,社会生活機能という概念を用いて,社会環境からの要求と人の対処努力との間の交換・均衡に焦点を合わせることを提唱した。


社会生活機能という概念を用いて,社会環境からの要求と人の対処努力との間の交換・均衡に焦点を合わせることを提唱したのは,バートレットです。


3 バートレット(Bartlett,H.)は,状況の中の人間という概念を用いて,ケースワークにおける診断についての特徴を明らかにしようとした。


「状況の中の人」という概念を用いているのは,ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」です。

このアプローチは診断主義派ケースワークが発展したものです。


診断主義派ケースワークと違う点は,診断主義派ケースワークは「個」に傾倒しすぎていることに対して,心理社会的アプローチは,「環境」に目を向けていることです。

そのため「社会的」という名称がついています。


5 ソロモン(Solomon,B.)は,人を環境との相互関連の中でとらえようとし,人は状況により変化するという考え方をソーシャルワークに導入した。


ソロモンは,エンパワメントアプローチを提唱しました。

ソロモンが,環境について述べているのは,人は抑圧された環境におかれると無力(パワーレス)になることが多いというものです。


<今日の一言>

今日の問題は,とても難しい問題です。

ここで,整理しておくことができた人だけが,第23回国試の同様の問題を正解できたと思います。

次回は,第23回問題を取り上げます。

しっかり整理していきましょう!!

2019年4月20日土曜日

交互作用とは何だろう?

数回にわたってシステム理論を取り上げてきました。

システムと聞くととても難しく感じるかもしれませんが,実はそれほど難しいものではありません。

前回は,結論として以下のようにまとめました。

<結論>

人と環境を一体のものととらえるのが,システム理論です。

システムは,仕組みの意味ではありません。

人と環境には交互作用があり,その接点に働きかけるのがシステム理論に基づくソーシャルワークです。

ソーシャルワークにおけるシステム理論の整理
https://fukufuku21.blogspot.com/2019/04/blog-post_19.html

環境とは,人(クライエント)を取り巻くすべてのものです。

家族
地域
会社
友人 
そして
ワーカー etc・・・

これらすべてが環境です。


システム理論を理解するときの重要なキーワードは

交互作用

です。

人は一人で存在しているものではなく,環境から影響を受けて,そして環境に影響を与えながら絶えず変化しています。

これを

交互作用

と表現します。

クライエントが抱えている問題の解決には,クライエント本人に働きかけることも重要ですが,環境に働きかけることで,クライエントが変化することを期待するものがソーシャルワークにおけるシステム理論です。

家族の場合は,家族システムアプローチという手法があります。

家族の構成メンバーのうち,たとえば長男に問題があった場合,他の家族が変化することで長男が変化するように働きかけます。

これがシステム理論です。

問題のある家族の構成メンバーを家族から切り離すといった出題が多くみられますが,切り離してしまったら,システム理論ではなくなってしまいます。

それでは,今日の問題です。


第30回・問題98 ソーシャルワーク実践における人と環境の関わりに関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 クライエント自身が捉える環境の意味を把握する。

2 環境要因に対するクライエント自身の他罰的な考え方を強化することを目的に支援する。

3 クライエントが抱えている問題の原因となっている環境要因を排除することで,問題解決を試みる。

4 クライエントを,環境から一方的に影響を受ける存在とみなして,支援を行う。

5 クライエントが問題を抱えた原因を,クライエントの性格に求める。


人と環境の交互作用に焦点化したものは,選択肢1しかありません。

これが正解です。

そのほかの選択肢も簡単に解説します。

2 環境要因に対するクライエント自身の他罰的な考え方を強化することを目的に支援する。

他罰的な考え方とは,「周りの人が悪いのだ」と考えることです。
それを強化するのはおかしなことです。


3 クライエントが抱えている問題の原因となっている環境要因を排除することで,問題解決を試みる。

システム理論は「人と環境の交互作用」に着目するものです。
環境要因を排除するのでは,システム理論ではなくなります。


4 クライエントを,環境から一方的に影響を受ける存在とみなして,支援を行う。
システム理論は「人と環境の交互作用」に着目するものです。

交互作用とは,
環境から影響を受けて,そして環境に影響を与えるもの
です。環境から一方的に影響を受ける存在ではありません。

クライエント ← 環境

ではなく

クライエント → 環境

でもなく

クライエント ⇔ 環境 

この関係性が「交互作用」です。


5 クライエントが問題を抱えた原因を,クライエントの性格に求める。

このようなアプローチ方法もあります。

しかしそれは,システム理論に基づいたソーシャルワークではありません。


<今日の一言>

今日の問題は決して難しいものではありません。

しかし,システム理論を正しく理解していなければ,確実に正解するのは決して簡単なものではありません。

今日の問題は,ボーダーラインが99点になった第30回国試のものです。

今後ボーダーラインがここまで上がることはまずないと思います。

しかし,いつの国試であっても,今日の問題のような問題を取りこぼすことは,不合格につながります。

何度か受験されている方は,こういった問題の取りこぼしがないか,考えてみることも大切です。

今の国試は,ボーダーライン90点,合格率30%を理想としていることが伺われます。

しかしみんなが得点できる国試になってしまった場合は,ボーダーラインを上げることも辞さないことが判明しています。

合格するためには,上位30%に入ることが条件です。
周りの人と同じ勉強では,周りの人に差をつけることができません。

そういった意味では,まだ多くの人が勉強を始めていない今のうちから勉強を始めることは重要な意味を持ちます。

また,確実に得点するための力をつけるには時間がかかります。

今勉強している人は,来年の国試を受験する人の中では少数派(マイノリティ)です。

国試の合格率は,25~30%であり,合格できるのは多数派(マジョリティ)ではありません。

合格できるのは,マイノリティです。

2019年4月19日金曜日

ソーシャルワークにおけるシステム理論の整理

<結論>

人と環境を一体のものととらえるのが,システム理論です。


システムは,仕組みの意味ではありません。


人と環境には交互作用があり,その接点に働きかけるのがシステム理論に基づくソーシャルワークです。


人と環境を別のもとととらえるといったものはすべて間違いです。


それでは今日の問題です。



第23回・問題91 ソーシャルワークの特性について,システム理論の視点からなされた次の記述のうち,適切なものを一つ選びなさい。

1 生活システムの中心は個人であるため,個人を特化して,その変化に焦点を当てて働きかける。

2 生活問題の原因が個人と環境のどちらにあるのかを見極めて,その原因の除去を目指して働きかける。

3 個人と環境とをシステムとして一体的にとらえることは容易でないため,環境の問題については,個人と切り離して働きかける。

4 個人や家族,地域のそれぞれを相互に独立したシステムとしてとらえ,各システムに個別に働きかける。

5 個人はその環境との間で常に交互作用を行っており,個人と環境との適合のあり方に焦点を当てて働きかける。



適切なものは,選択肢5です。

これ以外には正解はあり得ません。


現在の社会福祉士の国試は,

知っていれば解ける,知らなければ解けない。

このような問題が大半です。

そのため,

まじめにコツコツ勉強した人は,必ず報われます!



正解以外の解説をしてみましょう。



1 生活システムの中心は個人であるため,個人を特化して,その変化に焦点を当てて働きかける。


人と環境を切り離すのは,システム理論に基づいたソーシャルワークとは言えません。


2 生活問題の原因が個人と環境のどちらにあるのかを見極めて,その原因の除去を目指して働きかける。


人と環境は交互作用を行っています,

どちらに原因があるというものではありません。

例えば,家族システムアプローチでは,問題のある家族の構成員に働きかけるのではなく,それ以外の構成員に働きかけることで改善を目指すこともあります。



3 個人と環境とをシステムとして一体的にとらえることは容易でないため,環境の問題については,個人と切り離して働きかける。


人と環境を切り離してしまったら,システム理論ではなくなってしまいます。

人と環境を一体のものとしてとらえるのがシステム理論です。


4 個人や家族,地域のそれぞれを相互に独立したシステムとしてとらえ,各システムに個別に働きかける。


人と環境は,一体のものとしてとらえます。
独立したシステムではありません。
クライエントに関係するものはすべて環境であり,それがシステムです。




<今日の一言>


システム理論は整理できましたか?


人と環境を一体のものとしてとらえる


これを押さえるだけで,十分に得点できます。

2019年4月18日木曜日

システム理論を徹底的に理解しよう!!

「システム」にはどのようなイメージを持つでしょうか?

柔らかい ⇔  硬い

温かい  ⇔  冷たい

有機的  ⇔  機械的


こういった逆のイメージの言葉を使って社会調査を行う方法を「SD法」といいます。

ひとによってもちろん違いますが,どちらかというと,後者の「硬い」「冷たい」「機械的」といったイメージを持つのはないでしょうか。

しかし,システム理論はどちらかと言えば,前者の「柔らかい」「温かい」「有機的」の方が本来に近いです。

システム理論では,システムはシステムの構成要素の交互作用によって,変化していくととらえます。

変化するのがシステムです。

それにもかかわらずシステムと聞くと,プログラム化した機械というイメージを抱きがちです。

言葉から受けるイメージと実際が違うところが,試験委員のねらいどころとなります。

勉強した人は正解できる。
勉強が足りない人は正解できない。

国試にとって理想の問題です。

国試は,勉強した人と勉強が足りない人の差がつかなければならないのです。

「相談援助の理論と方法」は,あまり勉強せずに国試に臨む傾向があるので,なおのこと差がつきやすいものとなります。


それでは,今日の問題です。


第28回・問題99 システム理論に基づく相談援助の対象に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 クライエント・システムの単位は,小集団に限られる。

2 人と環境との全体的視座から把握される。

3 家族への対応は,援助の全過程で,問題の原因となる構成員に焦点化される。

4 実践者の志向するケースワークなどの特定の方法によって把握される。

5 相談援助の対象としての個人は,システム概念から除外される。




正解は,選択肢2です。

2 人と環境との全体的視座から把握される。

システム理論では,人と環境を一体のものととらえるのが特徴です。

システム理論を理解していれば,答えはすぐわかるはずです。
システム理論を理解していなければ,答えがわからないでしょう。

社会福祉士の国試は難しく感じますが,結局はこういったところに差が生じます。


正解以外の解説はいらないかもしれませんが,一応解説します。


1 クライエント・システムの単位は,小集団に限られる。

クライエントに関連するものは,すべて環境です。

小集団に限られるものではないです。


3 家族への対応は,援助の全過程で,問題の原因となる構成員に焦点化される。

問題の原因となる構成員(クライエント)を取り巻く環境は,家族です。

援助の全過程で,問題の原因となる構成員に焦点化するのであれば,人と環境を一体化して働きかける,というシステム理論の視座がありません。


4 実践者の志向するケースワークなどの特定の方法によって把握される。

ソーシャルワークのアプローチには様々なものがあります。

エコロジカルアプローチなら,システム理論と言えるでしょう。

しかし,問題解決アプローチや危機介入アプローチに代表されるアプローチでは,システム理論の視座は強調されていません。


5 相談援助の対象としての個人は,システム概念から除外される。


人と環境がシステムです。

個人をシステムから除外してしまったら,システム理論ではなくなってしまいます。



<今日の一言>

システムと聞くと,難しそうだ,と思う人は多いと思います。

しかし,システム理論は,人と環境を一体のものとしてとらえて,その接点に働きかけるものだということさえ理解していれば,多くの問題は解けます。



2019年4月17日水曜日

システム理論ってソーシャルワークにどうかかわっているのだろう?

ソーシャルワークは,様々な学問に影響を受けて発展しています。

例えば,

心理社会的アプローチは,精神分析理論

行動変容アプローチは,学習理論

危機介入ブローチは,危機理論

エコロジカルアプローチは,システム理論

課題中心アプローチは,プラグマティズム(道具主義)

ナラティブアプローチは,社会構成主義

といったものです。

歴史をさかのぼると,

ソーシャルワークは,
ケースワーク
グループワーク
コミュニティワーク

に分かれて発展しましたが,その統合化に影響を与えたのがシステム理論です。


システム理論は,人と環境を一体のものとみなします。

人は,クライエント
環境は,クライエントに関係するすべてのもの

クライエントは,クライエント一人で存在するものではなく,環境に影響を受け,環境に影響を与える交互作用の中で存在するものです。


今,考えると極めて当然のことですが,ここに至るには,簡単なことではなかったことと思います。

それでは,今日の問題です。


第29回・問題98 システム理論に基づくソーシャルワーク実践モデルに関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークの主要三方法を統合する視座を示した。
2 システムの中心を個人とみなし,個人の変化に焦点化する方法を示した。

3 クライエントの自己への評価の低さに伴う否定的な感情に注目する視座を示した。

4 現実は社会的に構成されるという見方を示した。

5 精神の力動性に着目し,パーソナリティの変容を目指す視座を示した。



答えは,すぐ分かりますね?


1 ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークの主要三方法を統合する視座を示した。


これが正解です。

ほかのものも解説します。


2 システムの中心を個人とみなし,個人の変化に焦点化する方法を示した。


システムは,人と環境です。

システム理論で個々にアプローチするといったものはすべて間違いとなります。


3 クライエントの自己への評価の低さに伴う否定的な感情に注目する視座を示した。


システム理論の中心は,人と環境を一体のものととらえるものです。

否定的な感情に注目するのも大切かもしれませんが,それはシステム理論に基づくものではありません。


4 現実は社会的に構成されるという見方を示した。


第31回国試でも出題された「現実は社会的に構成される」ととらえる「社会構成主義」に影響を受けているのは,ナラティブアプローチです。


5 精神の力動性に着目し,パーソナリティの変容を目指す視座を示した。


パーソナリティの変容を目指すのは,フロイトの精神分析理論に影響を受けた心理社会的アプローチです。



<今日の一言>

国試は,とても難しく感じるかもしれません。

しかし今日の問題でわかるように,ポイントを押さえれば一つひとつは決して難しいものではありません。

合否をわけるのは,一つひとつをしっかり押さえているか否かです。

3か月の短期集中で合格できる人もいると思いますが,確実に合格したいなら,まだ時間のある今から勉強を始めることです。

来年の国試で再受験を目指す方は,国試のことを考えるのは嫌かもしれません。

しかし,ここで終止符を打つ覚悟をするなら,今です!!

2019年4月16日火曜日

合格する人は,相談援助の2科目の点数が高い!!

社会福祉士の国試の問題数は,150問です。

「相談援助の基盤と専門職」は7問
「相談援助の理論と方法」は21問

2科目合わせると28問もあります。

社会福祉士の国試の中核をなす2科目の割に,重視している人は少ないのが現実です。

事例問題が一定数含まれるので,勉強していなくてもそこそこの点数が取れることで力を入れないのではないかと考えています。

不合格になる人は2科目合わせて,15点も取れていない傾向にあります。
逆に合格する人は,20点を超えます。

この2科目でいかに点数を取れるかが大きな分かれ目となっているのです。

さて,今日から科目は,相談援助の2科目めである「相談援助の理論と方法」に入ります。

21問もある最もボリュームのある科目であり,そして内容も重要な科目です。

ソーシャルワークは外国生まれです。

そのために,専門用語のカタカナ語が多いために,その部分を避けたい気持ちがあるように思います。

しかしポイントが理解できれば決して難しくないです。

まずは,出題基準の最初に示されている「人と環境の交互作用」に取り組んでいきます。

ここで必要な理解は「システム理論」です。

システム理論というととても難しく感じるのではないでしょうか。
「相談援助の基盤と専門職」では,ソーシャルワークの統合化にシステム理論の影響があったことを学びました。

「システム」と聞くと一般の人は「機械の仕組み」といったイメージを抱くことでしょう。

システム理論は,社会学でも学びますが,システムの構造が発展していくものととらえます。

ソーシャルワークでのシステム理論で最も分かりやすいのは,エコロジカルアプローチです。

人と環境の接点に介入していくアプローチ方法です。

環境とは,クライエントにかかわりをもつすべてのものです。
人と環境には影響を与え,影響を受ける交互作用があります。

システムは,機械の仕組みのように,どこかが壊れれば,その部分を交換すればよいというものではありません。システムの構成要素は,関連し合っていると考えます。

クライエント単体で存在しているわけではないのです。



これを押さえて,今日の問題です。


第31回・問題98 ケンプ(Kemp,S.)らによる「人―環境のソーシャルワーク実践」に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 環境を「知覚された環境」,「自然的・人工的・物理的環境」など5種に分類した。

2 ソーシャルネットワークの活用に対し,一定の制限を加えた。

3 クライエントが抱える欠損の修正による問題解決に主眼を置いた。

4 クライエントの環境よりもクライエント自身のアセスメントを強調した。

5 支援者とクライエントは,それぞれ異なる基盤に存在するものと捉えた。


システム理論がわからなければ正解するのは,とても難しい問題です。
逆にシステム理論がわかっていれば正解できます。

それでは解説です。


1 環境を「知覚された環境」,「自然的・人工的・物理的環境」など5種に分類した。
これは正解なのか間違いなのかわかりません。


この選択肢で要注意なのは「5種に分類した」という部分です。

多くの場合,このタイプの問題は正解になりません。

5種を6種,あるいは4種に変えることで間違い選択肢ができるためです。
とりあえず,冷静に△をつけます。


2 ソーシャルネットワークの活用に対し,一定の制限を加えた。

これは間違いです。

クライエントを取り巻くネットワークは,極めて重要な社会資源です。

システム理論ではもちろん重要視されますが,システム理論に限らなくても,重要です。
更には「一定の制限を加えた」ということに必然性がありません。


3 クライエントが抱える欠損の修正による問題解決に主眼を置いた。

これも間違いです。

システム理論は,問題を抱える人=IPに直接働きかけなくても,環境を変えることでIPも変化すると考えます。


4 クライエントの環境よりもクライエント自身のアセスメントを強調した。


これも間違いです。

システム理論ですから,クライエントの環境が重要です。クライエントを重視するなら,システム理論ではないです。


5 支援者とクライエントは,それぞれ異なる基盤に存在するものと捉えた。


これも間違いです。

支援者もクライエントにとっては環境です。別の基盤に存在するものではありません。

ということで,△をつけた選択肢1が正解ということになります。


<今日の一言>

今日の問題は,ケンプは知らなくてもシステム理論を理解していれば,正解できます。
しかし,勘では正解できません。

そういった面では,実によい問題だったのではないかと思います。

2019年4月15日月曜日

国試勉強は早めのスタートがおすすめです!!

社会福祉士の国家試験の合格率は,約25~30%です。

つまり7割以上は不合格になる試験です。

受験生の半分以上は,不合格になります。

そのため,防衛機制の「合理化」が生じやすいのではないかと思います。

合理化とは,失敗の理由を最もらしい理由をつけて言い訳することです。


社会福祉士の国試の場合の「合理化」とは・・・

7割の人が不合格になるのだから,合格できなくて当然

という気持ちです。

逆に7割の人が合格できる試験なら,このような言い訳はできません。

受験生全員が勉強して受験しているなら,合格率30%はとても厳しい試験であると言えるでしょう。

しかし,受験生の中には,一定数の記念受験の人が含まれます。

福祉コースの学生であっても,一般企業などに就職が決まっていて,社会福祉士の資格は必要としていないけれど,受験資格はあるので,とりあえず受験してみよう,というタイプの人です。


現在の国試は,記念受験の人が合格できるようなものではないので,当然不合格になります。

この人たちが合格率を下げています。

記念受験の人を含めての合格率が約25~30%です。

真剣に勉強した人は,7割は合格するだろうと考えています。

しかし,世の中には,間違った勉強法を行っている人がいます。

間違った勉強法とは,効果が出にくい勉強法のことを指します。


例えば・・・

丸暗記
参考書の丸写し


などです。

どちらも,理解するというプロセスが欠如しています。

「私は書いて覚える」

という学習スタイルを持っている人もいるでしょう。

それはそれで良いと思いますが,社会福祉士は覚える分量が多いので,おそらく最後までは行き着かないと思います。

覚え方の方法は,ほかのサイトに任せるとして,合格を確実にするためには,早期の勉強が大切だと考えています。


国試は,受験者の上位30%が合格できます。

横並びではだめなのです。

記念受験の人を含めて勉強を十分にしないで受験している人は全体の3割程度いるのではないかと思います。

第31回国試の受験者数は約42,000名です。そのうち,3割を引くと約29,500名です。

集団には,2:6:2の法則というものがあります(国家試験には出題されません)。

2は,熱心な人,優秀な人
6は,普通の人
2は,熱心ではない人,だめな人

という割合です。

29,500名の中にも,下の2となる人がいます。

そこをまた引いてみます。

そうすると分母は,約23,600名となります。

第31回の合格者数は,約12,500名です。

この数で計算してみると,合格率は53.0%となります。

ちゃんと勉強して受験した人は,半数以上の人が合格するという数値になります。

合格率が50%だと聞くと,合理化はできないのではないでしょうか。


さて,今日のテーマは「国試勉強は早めのスタートがおすすめです!!」です。

参考書が発売されてくるのは,6月以降です。

参考書は最新のものが良い,なんてことを吹聴するする人がいるので,ほとんどの人は今の段階で勉強していないでしょう。

しっかり勉強して受験するであろう23,600名のうち,現時点で勉強しているのは1割もいないのではないでしょうか。

この「学習部屋」に来ていただいているのは,例年5月が最も少ない月です。

6月から徐々に増えていき,一気に増えるのが11月です。

現時点で勉強している人は,他の受験予定者よりも一歩も二歩も差がついていると言えるでしょう。


6月から勉強を始めても5割の人は合格できるでしょう。

今,勉強を始めている人は,合格へのパスポートを手に入れたと言っても過言ではないように思います。

そのくらい,他の受験生とは差がついています。

自信をもって勉強をすすめていきましょう。

そうすれば,国試当日には,大きな力が発揮できることになります。


<今日の一言>

私たちチームfukufuku21は,本気で合格を目指す人のサポート集団です。

そのため,記念受験組の人が合格できるような国試であってはならないと考えています。
だからといって,国試は見かけの合格率ほど難しいものではありません。

なぜなら

国試は,全員がしっかり勉強して受験しているわけではありません。
勉強していても効果的な勉強をしているとは限りません。

本気で合格したいと思う人は,必ず合格できる試験です。

2019年4月13日土曜日

モダニズム,ポストモダンとは何?

19世紀後半から20世紀は科学化の時代です。

建築で使われるコンクリートのもともとは「具体的な」といった形容詞です。
大量生産・大量消費の時代でもあります。

大量生産を可能にしたのは,標準化された手続きを踏んだ生産方法にあります。

こういったものを「モダニズム」といいます。

ソーシャルワークもモダニズムの影響を受けて発展していきます。

ソーシャルワークのモダニズムは,客観的なもの,実証できるもののアプローチです。

心理社会的アプローチはフロイトの「精神分析理論」,機能的アプローチはランクの「意志心理学」を基礎理論としています。

エンパワメントアプローチ以降の比較的新しいアプローチは,ポストモダン(ポストモダニズム)と呼ばれます。

ポストモダンの代表は,ナラティブアプローチです。

現実は人によってつくられるという「社会構成主義」が基盤のアプローチです。

語りの中から新しい世界をつくり出します。

モダニズム系では,治療,問題解決,行動変容などを求めますが,ポストモダンは,そういったものとは異なるアプローチだと言えます。

語りの中から作られる世界は,実証できるものではありません。

方法論はあっても,得られる結果は変わるからです。

それでは今日の問題です。

第31回・問題93 ポストモダンの影響を受けたソーシャルワークに関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 クライエントの主体性や語りを重視する。

2 クライエントの欠点を直す援助を指向する。

3 社会構成主義への批判から発展している。

4 客観主義,実証主義を追求する。

5 サービス提供の効率性を求める。


ポストモダンという言葉が国試に登場したのは,この問題が初めてです。

しかしポストモダンの意味がわからなくても,丁寧に分類すれば,そしてもともとのモダニズムとは何かを想像すると正解できます。


それでは解説です。

1 クライエントの主体性や語りを重視する。

これが正解です。

ナラティブアプローチのことを述べたものです。


2 クライエントの欠点を直す援助を指向する。

これは間違いです。

クライエントの欠点を直すものは,行動変容アプローチなどの学習理論に基づいたものと言えます。行動変容アプローチは,モダニズム系です。


3 社会構成主義への批判から発展している。

これも間違いです。

社会構成主義は,ナラティブアプローチが基盤とするものです。

ポストモダニズムは,客観主義,実証主義などを批判して誕生しています。

4 客観主義,実証主義を追求する。

これも間違いです。

客観主義,実証主義を追求するのは,モダニズム系です。


5 サービス提供の効率性を求める。

これも間違いです。

サービス提供の効率性を求めるのはモダニズムですが,ソーシャルワークのモダニズムの視点に,サービス提供の効率性が含まれているのかは不明です。

もちろんポストモダニズムではありません。


<今日の一言>

この問題は,今までには出題されたことがなかったので,びっくりした人も多いのではないかと思います。


国試はいつも新しいタイプの問題を組み込んで出題します。


知識だけで勝負しようと思うと,試験委員の仕掛けたトラップにはまります。

決して焦らず,冷静に考えると答えのヒントが見つかる問題は多くあります。

こういったところであわてると簡単な問題でさえ解けなくなってしまいますので,注意が必要です。

2019年4月12日金曜日

正しいものを選ぶ問題は難しい

社会福祉士の国試は,平成元年に第1回が実施されました。

第1~21回までが旧カリキュラムでの実施です。
第22回以降が現行カリキュラムでの実施です。

多くの方は,旧カリキュラム時代の問題は見たことがないと思います。

旧カリキュラムと現行カリキュラムでは科目が変わっただけではなく,出題方法も変化しています。

旧カリキュラム時代にあったのは,

①間違っているものを選ぶ問題
②問題文がABCDの4つのみで,〇×の組み合わせで5つの選択肢がある問題。
③問題文がABCDの4つのみで,正しいものを2つ選ぶ5つの選択肢がある問題。

これらは,いずれも現行カリキュラムでは消滅しています。

実際に解いてみるとわかりますが,この出題は難易度がグーンと下がります。

それでは,①の例を見てみましょう。

15回・問題113 社会福祉援助技術の原理等に関する次の記述のうち,適切でないものを一つ選びなさい。

1 メイヤロフ(Mayeroff,M.)は,ケアする人が,ケアする際にケアされる人を支配したり,評価したりすることで自分を高める喜びをもつことがケアの本質であると述べている。

2 バートレット(Bartlett,H.)は,実践において適切に活用することの重要性を指摘した価値,知識,技法を社会福祉援助活動の本質的要素とした。

3 ブトゥリム(Butrym,Z.)は,人間の本質に内在する普遍的価値から引き出した「人間尊重」「人間の社会性」「人間の変化の可能性」を,社会福祉援助活動の価値前提とした。

4 フリードランダー(Friedlander,W.)は,社会福祉援助技術の根本的原理を「個人の価値」「人格に固有なる尊厳」「個人の福祉に対する社会の責任」「共通善に貢献すべき個人の責任」という民主主義的な諸価値から導き出した。

5 バークレイ委員会報告では,ソーシャルワーカーにとって特に重要な価値の一つとして,「クライエントの秘密保持の権利及び法律の許す範囲での自己決定権を尊重すること」が述べられている。


現在のように正しいもの(適切なもの)を選ぶ問題なら,知識がなければ正解することができません。

ものすごく難しいです。

しかし,間違っているもの(適切ではないもの)を選ぶ問題なら,知識がなくても正解することができます。

それは国試として不適切です。

誤っているものはこれです。


1 メイヤロフ(Mayeroff,M.)は,ケアする人が,ケアする際にケアされる人を支配したり,評価したりすることで自分を高める喜びをもつことがケアの本質であると述べている。


正解できるかどうかは,落ち着いて読むことだけです。

これが正しいと思う人は,合格基準点に達していたとしても不合格にしても良いくらいの問題でしょう。


②問題文がABCDの4つのみで,〇×の組み合わせで5つの選択肢がある問題。
③問題文がABCDの4つのみで,正しいものを2つ選ぶ5つの選択肢がある問題。


は,いずれもクイズのようなものです。

1つでも2つでも正しいか,間違っているものが分かれば,正解率はかなり上がります。

ここで言いたかったのは,現行カリキュラムの問題の方が難しいということです。

合格基準点は第15回から公表されるようになりました。

第15回 91点
第16回 85点
第17回 83点
第18回 80点
第19回 81点
第20回 87点
第21回 85点

第20回の時には,第22回からカリキュラムが変わることが判明していたので,多くの人が勉強して臨んだことで,点数が上がったと考えられます。

第21回も同様です。

恐らく,旧カリ時代の受験生よりも現在の受験生の方が勉強して臨んでいると思います。
その結果が,第30回の99点であり,第31回の89点です。


<今日の一言>

旧カリキュラムと現行カリキュラムを比べると,格段に現在の問題の方が正解するのが難しいです。

3か月勉強で合格するという離れ業は実現が難しいと思います。

しっかり勉強した人だけが合格できる試験です。

大変だと思いますが,合格を目指して頑張りましょう!!

2019年4月11日木曜日

国試で知識以上の得点を稼ぐ方法

現時点(4月)で,国家試験の勉強をしている人はそれほど多くないことでしょう。

今年度の参考書が発売されるのは,6月以降です。

多くの受験予定者はそれ以降に勉強を開始することでしょう。
それでも合格できる人はできます。

しかし国家試験の合格率は,25~30%です。
大多数の人は,不合格になります。

他の人と同じ勉強では不合格組になる可能性が高いということです。

実際には,勉強をあまりしないで受験する,いわゆる「記念受験組」もいるので,実質上の合格可能性はもう少し高いですが,それでも不合格者の方が多い試験であることは間違いないです。

国試に合格するためには,最低限の知識は必要です。

しかし,国試の文字数がまた多くなる傾向が続けば,以前のように問題を読む力が必要になってくるでしょう。

知識は詰め込むことができます。

しかし問題を読む力は,一朝一夕には身につきません。
問題を読む力があれば,足りない知識を埋めることができるので,得点力は確実に上がります。

別な言い方をすると,問題を読む力がなければ,得点は伸びないと言えます。

何度も受験されている方は,なぜ合格できないのだろう,と思っているのではないでしょうか。

「なぜ」の理由は明確です。

問題を解くことに精いっぱいで,頭ががちがちになっているからです。

それでは,今日の問題です。


第25回・問題93 ブトゥリム(Butym,Z.)が示したソーシャルワークの3つの価値前提(「人間尊重」「人間の社会性」「人間の変化の可能性」)に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 この3つの価値前提は,それら自体がソーシャルワークの実践から生まれたソーシャルワークに独自かつ固有の価値であり,不可欠なものである。

2 この3つの価値前提は,相互に等しい道徳的価値である。

3 「人間尊重」は,個別的自由と普遍的自由との統合を図る人倫概念を示したヘーゲル学派の哲学による考え方を基盤とする。

4 「人間の社会性」は,人間がそれぞれにその独自性の貫徹のために他者に依存する存在であることを示す。

5 「人間の変化の可能性」は,環境の変化と人間の変化及び成長との因果関係に基づく決定論的な人生観に依拠する。

「魔の第25回国試」の問題なので,格別に難しい問題です。
第25回国試は,合格基準点は過去最低の72点になった年です。

しかも合格率は20%を割り込んだ年です。
72点を超えた人は,20%もいなかったという極めて過酷な国試となりました。

この後,合格基準点90点,合格率30%を目指した国試問題づくりに取り組んでいくことになります。

現在の国試では,ここまで難解な言い回しは出題されることはありません。

しかし,問題を解く力をつける訓練のためには,うってつけの問題です。
こういった問題は,知識ではなく,日本語的に解けます。

それでは解説です。


1 この3つの価値前提は,それら自体がソーシャルワークの実践から生まれたソーシャルワークに独自かつ固有の価値であり,不可欠なものである。


これは間違いです。

「人間尊重」「人間の社会性」「人間の変化の可能性」は,いずれもソーシャルワーク独自のものではありません。

「人間の社会性」「人間の変化の可能性」は,よくわからなくても「人間尊重」はソーシャルワーク独自の価値ではないことはわかるはずです。


2 この3つの価値前提は,相互に等しい道徳的価値である。


これも間違いです。

「相互に等しい」が極めて怪しいです。

実際に国試では,落ち着いて問題を読むことは難しいですが,違和感があるものはたいてい間違いです。

結果的には,等しいものではなく,人間尊重が上位にあります。


3 「人間尊重」は,個別的自由と普遍的自由との統合を図る人倫概念を示したヘーゲル学派の哲学による考え方を基盤とする。


これも間違いです。

「ヘーゲル学派の哲学」というわけのわからないもので煙に巻く問題です。

こういったものはまず正解にならないです。

もう二度と出題されるものではないので,詳しく解説しませんが,人間尊重は「カント哲学」によると言えます。


4 「人間の社会性」は,人間がそれぞれにその独自性の貫徹のために他者に依存する存在であることを示す。


これが正解です。

ここで「人間の社会性」についての説明が出てきました。

この文章も難しいですが,人間は独自性はあるものの,周りの人との関係があってこそ成り立つものである,といったことを述べています。


5 「人間の変化の可能性」は,環境の変化と人間の変化及び成長との因果関係に基づく決定論的な人生観に依拠する。


これも間違いです。

「決定論」というのは,未来は過去によって決まっているものだ,というものです。
これでは,新しい未来を描くことができません。


<今日の一言>

現在は,ここまで難解な問題は出題されません。

なぜなら,勉強した人でも解けない。
勉強が足りない人でも正解できる可能性がある。

という資格試験に向かない問題になってしまうからです。

知識の差がつかないためです。

しかし,覚えておきたいことは,

国試では,不適切問題にしたくないので,

正解は確実に正解に・・・
間違いは確実に間違いに・・・

という問題のつくり方がなされることです。

今日の問題の中では「ヘーゲル学派」「決定論」といったものが確実に間違いにするためのワードです。

内容がわからなくて,焦ってしまい,こういったものを選んでしまうことをねらって出題しています。

問題を読む力をつけるには,問題をつくる側の思いに心を寄せてみることも必要だと言えるかもしれません。

2019年4月10日水曜日

ソーシャルワーク実践の共通基盤~価値・知識・介入

ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきました。

その統合化については,今まで紹介してきたとおりです。

バートレットは,ソーシャルワーク実践の共通基盤として,価値・知識・介入(調整活動)があることを明らかにしました。

今回からソーシャルワークの価値について取り上げたいと思います。

覚えるのは面倒だと思いますが,社会福祉士がソーシャルワーカーであるためには,価値を身につけることが欠かせないのです。

それでは今日の問題です。

第23回・問題88 ソーシャルワークの価値に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 バートレット(Bartlett,H.)は,調整活動のレパートリーに応じて価値や知識が異なることから,方法が価値や知識より優位にあると述べている。

2 ブトゥリム(Butrym,Z.)は,ソーシャルワーク固有の価値前提として,「人間尊重」「人間の社会性」「教育の可能性」を挙げている。

3 コーズ(Kohs,S.)は,価値の根源を求めていく中で,ソーシャルワークの基本的な諸価値は単一の哲学から導き出されたものであると結論づけている。

4 レヴィ(Levy,C.)は,倫理を人間関係及びその交互作用に価値が適用されたものと規定し,人間関係における行動に直接影響を及ぼす点に特色があると述べている。

5 ベーム(Boehm,W.)は,ソーシャルワークが社会的責任を負うことから,ソーシャルワークの価値はその社会における支配的な価値に一致すると述べている。


ものすごく難しく感じることでしょう。

この問題が出題された時点で正解できた人はほとんどいなかったものと思われます。

つまり,国試でこのような問題が出題されたときは,必ずしも正解できなければならないという問題ではないということです。

しかし,今は覚えなければなりません。

それでは解説です。

1 バートレット(Bartlett,H.)は,調整活動のレパートリーに応じて価値や知識が異なることから,方法が価値や知識より優位にあると述べている。

これは間違いです。

バートレットは絶対に覚えたいです。

前説に書いたように,価値・知識・介入(調整活動)は,ソーシャルワーク実践の共通基盤です。

分野やニーズが異なっていても,そのベースには価値・知識・介入(調整活動)があります。これらはバランスが取れていることが必要です。

2 ブトゥリム(Butrym,Z.)は,ソーシャルワーク固有の価値前提として,「人間尊重」「人間の社会性」「教育の可能性」を挙げている。

これも間違いです。

旧カリ時代にもブトゥリムは出題され,この後も出題されています。

特にしっかり覚えたいです。

ソーシャルワーク固有の価値前提として,「人間尊重」「人間の社会性」「変化の可能性」を挙げました。

クライエントは,変化するものです。

教育は,ソーシャルワークには向きません。


3 コーズ(Kohs,S.)は,価値の根源を求めていく中で,ソーシャルワークの基本的な諸価値は単一の哲学から導き出されたものであると結論づけている。

これは間違いです。

単一の哲学から導き出されたものではないと述べています。


4 レヴィ(Levy,C.)は,倫理を人間関係及びその交互作用に価値が適用されたものと規定し,人間関係における行動に直接影響を及ぼす点に特色があると述べている。


これが正解です。

このとおりのことを述べています。


5 ベーム(Boehm,W.)は,ソーシャルワークが社会的責任を負うことから,ソーシャルワークの価値はその社会における支配的な価値に一致すると述べている。


これは間違いです。

一致しては危険です。

一般的な価値と対決することも時には求められます。


<今日の一言>

今日の問題には,実は元ネタがあります。

第16回・問題6 社会福祉援助における価値に関する次の記述のうち,誤っているものを一つ選びなさい。
1 コーズ(Kohs,S.)は,『ソーシャルワークの根源』において,価値の根源を求めていく中で,社会福社の基本的な諸価値は,単一の哲学から導き出されたものではないと述べている。
2 バートレット(Bartlett,H.)は,『社会福祉実践の共通基盤』において,ソーシャルワーク実践における本質的な要素は,価値,知識及び調整活動の総体から構成され,知識と価値が優先されるべきであると述べている。
3 パールマン(Perlman,H.)は,『ソーシャルワークとは何か』において,三つの価値前提として「人間尊重」「人間の社会性」「変化の可能性」を挙げ,これらは,ソーシャルワークにのみ固有の価値であって,他の援助方法に対するソーシャルワークの独自性を示していると述べている。
4 「レヴィ(Levy,C.)は,『ソーシャルワーク倫理の指針』において,人間関係と人間交互作用に価値が適用されたものが倫理であると規定し,倫理も選択されたものであるが,人間関係における行動に直接影響を及ぼす点に特色があると述べている。
5 ベーム(Boehm,W.)は,『ケースワークの基礎』の中の論文「ソーシャル・ワークの性格」において,社会全体に対するソーシャルワークの責任について述べているが,それは,その社会で支配的な価値とあらゆる点で一致するような一組の価値を,ソーシャルワークに賦与することを意味するものではないと述べている。

答えは,選択肢3です。

パールマンではなく,ブトゥリムです。

この問題もとても難しいですが,この問題にも前年の第15回に元ネタがあります。

かつては,このように続けて出題されることが多くありました。
3年の過去問で合格できる,といったアドバイスはこの当時のものです。

文章は難しくでも,ある程度勉強したら合格できる試験でした。
誤っているものを1つ選ぶ問題は難易度が低いのです。

今は,このような出題はありません。

3年間の過去問解くだけで正解できる試験ではありません。

2019年4月9日火曜日

必ず解けなければならない問題と解けなくても良い問題

社会福祉士の国家試験は,合格基準点以上の得点があれば合格できます。

合格基準はおおむね6割程度です。

問題の難易度によって上下するのが,面倒なところです。

しかし,難易度によって合格基準点が上下するだけであり,合格基準が今年は7割程度,来年は5割程度といったように変化しているわけではありません。

受験生が勉強すべき内容が変わるものではありません。

第30回国試の合格基準点が99点,第31回国試が89点と大きく上下しているので,受験生は混乱しそうですが,押さえるべき問題をしっかり押さえていけば,合格基準点は超えられます。

合格基準点を超えられないとすれば,押さえるべきものを押さえていないということに他なりません。

国試では,対策が取れる問題と対策が取れない問題があります。

また,解けなければならない問題と解けなくてもよい問題があります。

解けなくても良い問題が出題されることが多い科目は「社会理論と社会システム」と「現代社会と福祉」です。

「相談援助の基盤と専門職」にもたまにそのような出題があります。

今日はそんな問題を取り上げたいと思います。

第27回・問題94 人権に関する国際的な条約などについての次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」では,締約国が母性保護を目的とした特別措置をとることは,差別と解してはならないと定められている。

2 「高齢者のための国連原則」では,高齢者と開発,高齢に至るまでの健康と福祉の増進,支援環境の整備の三つの優先的方針が定められている。

3 「あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約」では締約国がアタッチメント促進のための特別措置をとることは,差別と解してはならないと定められている。

4 「児童の権利に関する条約」では,締約国は結社の自由についての児童の権利を制限できると定められている。

5 「障害者の権利に関する条約」では,自立,参加,ケア,自己実現,尊厳の五つの一般原則が定められている。


問題だけを見ると,まるで「現代社会と福祉」のようです。

正解は,選択肢1です。

選択肢2は,「高齢者のための国連原則」ではなく,「高齢化に関するマドリッド国際行動計画」です。

選択肢3は,条約名は存在しますが,内容が間違っています。

選択肢4は,制限できるということはあり得ないと思えるでしょう。もちろんこのようことはありません。

選択肢5は,「障害者の権利に関する条約」ではなく,「高齢者のための国連原則」です。


<今日の一言>

この問題で出題したかったのは,正解の女子差別撤廃条約で,そのほかのものは,問題を成立させるためのものです。

そう思う根拠は障害者権利条約の重要ポイントである「合理的配慮」が出題されていないためです。

必ず正解しなければならない問題はありますが,今日の問題はそうではありません。

必ず正解しなければならない問題で正解できることが重要です。

2019年4月8日月曜日

ジェネラリスト・アプローチとは何だろう?

繰り返しになりますが,ソーシャルワークは欧米生まれです。

なじみのない外国語がたくさん使われますが,苦手だと思うととても損です。

さて,今日のテーマは「ジェネラリスト・アプローチとは何だろう?」です。

まずは前回の復習からです。

ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。
その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。
その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム理論に影響を受けたジェネラリスト・ソーシャルワークとなっていきます。


それでは,今日の問題です。

第25回・問題97 ジェネラリスト・アプローチに関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。

1 生活上の逆機能が現れた問題の内的・心理的原因と外的・社会的原因の両方を認識し,個人が社会関係のなかで自らのニーズを充足することを目指す。

2 従来のソーシャルワークの分類の枠を超えて,社会構成主義の立場から包括的に援助を展開することを目指す。

3 ケアマネジメントと類似点が多いこともあって,我が国においては高齢者福祉分野に特化して用いられている。

4 総合的包括的な視点からのニーズの把握と生活への介入が,セルフアドボカシーなど当事者運動の立場からは,生活の管理統制につながるとして批判を受けることがある。

5 援助の過程においては,ミクロ,メゾ,マクロの各レベルごとに,それぞれ異なるジェネラリスト・アプローチ固有の方法が開発されている。


前回と違って,設問の中にヒントはありません。

難易度がかなり上がります。

それだけではなく,「魔の第25回国試」の問題です。

言い回しの難解さが際立っています。

それでは解説です。


1 生活上の逆機能が現れた問題の内的・心理的原因と外的・社会的原因の両方を認識し,個人が社会関係のなかで自らのニーズを充足することを目指す。


これは間違いです。

何を言っているのか,勉強した人でも訳がわからないのではないでしょうか。

これが「魔の第25回国試」の実態です。

簡単に言えば・・・

生活上の問題が起きたとき,心理的問題と社会的問題を自覚して,自らが問題解決を目指すアプローチである。

といったものです。


2 従来のソーシャルワークの分類の枠を超えて,社会構成主義の立場から包括的に援助を展開することを目指す。


これも間違いです。

「従来のソーシャルワークの分類の枠を超えて」の部分は正しいですが,

「社会構成主義」と言えば,ナラティブアプローチです。

社会構成主義とは,簡単に言えば「人が社会をつくる」という概念です。

捉え方次第で,社会は変わる,というものです。

そこから,語りによって,新しい社会をつくり出すナラティブアプローチにつながっていきます。

ジェネラリスト・アプローチが影響を受けているのは,システム理論です。


3 ケアマネジメントと類似点が多いこともあって,我が国においては高齢者福祉分野に特化して用いられている。

これも間違いです。

ジェネラリスト・アプローチという意味がわからない人のために用意された選択肢です。
ケアマネジメントは,ソーシャルワークの一手法を取り出したものです。

ケアマネジメントとジェネラリスト・アプローチには親和性があるのは当然のことです。
しかし,高齢者福祉分野に特化されたものではありません。

というか,分野を飛び越えるのがジェネラリスト・アプローチです。


4 総合的包括的な視点からのニーズの把握と生活への介入が,セルフアドボカシーなど当事者運動の立場からは,生活の管理統制につながるとして批判を受けることがある。

これが正解です。

しかし,結果的にこれが正解になっているだけで,これをすぐ正解にできる人はいないでしょう。

これが「魔の第25回国試」です。

とはいうものの,正解になる要素はあります。

ことがある」は,間違いになりにくいからです。

というか,「ことがある」はほとんどが正解になると言っても良いでしょう。


5 援助の過程においては,ミクロ,メゾ,マクロの各レベルごとに,それぞれ異なるジェネラリスト・アプローチ固有の方法が開発されている。


これも間違いです。

ジェネラリスト・アプローチは,システム理論に影響を受けたものです。

各レベルで異なるアプローチがある,というのはいかにも間違いっぽいと言えるでしょう。

もちろん間違いです。


<今日の一言>

「ことがある」という選択肢は間違いになりにくいものです。

第26回~31回では,では以下が正解になっています。

第26回
呼吸筋障害による呼吸不全をきたすことがある。
正常圧水頭症による認知症は,外科手術で回復することがある。
注意欠陥多動性障害(ADHD)の治療には,薬物を用いることがある。
官僚制は形式合理性を重視するがゆえに,実質合理性を失って,逆機能的になることがある。
薬事法上は承認されたが,薬価基準に収載されておらず医療保険が適用されない医薬品を用いて治療を行う場合,保険外併用療養費が支給されることがある。

第27回
1 号観察も2 号観察も,対象者が成人(20 歳)に達した後でも行われることがある。

第29回
サービス供給体制の整備に伴い,潜在的な福祉ニードが顕在化することがある。

第31回
半構造化面接では,面接中に新たな質問項目を追加することがある。


正解になっていないのは以下のみです。

第29回
統合化の背景には,専門分化されたソーシャルワーク実践が多様化する社会問題に対応できていたことがある。

同じことがあるでも,内容が違った「ことがある」であることが分かります。

「ことがある」は,正解になる確率が高いと言えます。

こういったものが頭に入っているか否かによって,正解できることもあります。
迷ったときの優先順位の高いものと言えるでしょう。

2019年4月7日日曜日

ジェネラリスト・ソーシャルワークって何だろう?

ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。

その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。

その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム理論に影響を受けたジェネラリスト・ソーシャルワークとなっていきます。

これによって,従来の方法にとらわれない「総合的かつ包括的な相談援助」が可能となってきました。

改めて考えてみると当然です。

縦割りの法制度や方法論は,支援する側の都合であり,支援を必要としている人の都合ではありません。

特に昨今の福祉ニーズは,複雑化していることもあり,ジェネラリスト・ソーシャルワークの視点が求められているとも言えます。

ジェネラリスト・ソーシャルワークのジェネラリストとは,スペシャリストの対義語であり,「全体像をとらえること」を意味しています。

それでは今日の問題です。


第23回・問題90 総合的かつ包括的な相談援助に向けたジェネラリストの視点に関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。

1 地域住民の参加を得ながら発見と見守りの機能を強化することで,予防的な働きかけを重視する。

2 困難な問題が重複したクライエントについては,最初に相談を受けた機関の担当ワーカーによって最後まで対処することが求められる。

3 既存の社会福祉制度の対象となる人を優先し,適切にサービスを提供することを重視する。

4 支援困難な事例であっても,できる限り専門職の力を借りずに地域住民で対処できるように働きかけることが目標となる。

5 援助者の方からクライエントに積極的に働きかけるのではなく,本人の意志を尊重して自ら援助を求めてきた人を対象とすることを基本とする。

旧カリキュラム時代にあった「社会福祉援助技術論」という科目は,現行カリキュラムでは「相談援助の基盤と専門職」と「相談援助の理論と方法」に分割されました。

その際に加わった内容が「総合的かつ包括的な相談援助」です。

現行カリキュラムの第1回国試では出題されず,初めて出題されたのは,今日の問題である第23回です。

その後,第24回,第25回と出題され,第29回では事例問題として出題されています。

一般的な一問一答式は,第25回に出題されたっきりです。

もう十分浸透したと考えているのか,しばらく間を空けて次の出題機会を待っているのかはわかりません。

しかし,出題基準で示されている限り,覚えておかなければならないことは間違いありません。

それはさておき,今日の問題は,設問によって勉強不足の人でも解ける可能性を高めている問題です。

「初めて問題」なので,サービスだったと言えるでしょう。


それでは解説です。


1 地域住民の参加を得ながら発見と見守りの機能を強化することで,予防的な働きかけを重視する。


これが正解です。

予防的な働きかけを重視する,の重視するという部分に引っかかるところかもしれません。

しかし,結果的にこれが残ります。

問題の発生後,つまり事後的にかかわるのが従来のソーシャルワークだったと言えますが,問題の発生を事前に予防するということは,新しいソーシャルワークの視点だと言えます。

まさしく,全体像をとらえた「ジェネラリスト」としての視点でしょう。


2 困難な問題が重複したクライエントについては,最初に相談を受けた機関の担当ワーカーによって最後まで対処することが求められる。


これは間違いです。

ジェネラリストの視点は,全体像をとらえることです。ニーズを充足するための最善の方法で支援します。

最初に相談を受けた機関が最後まで責任を持って対応するというのは,支援者側の都合でしかありません。


3 既存の社会福祉制度の対象となる人を優先し,適切にサービスを提供することを重視する。


これも間違いです。

既存の方法にとらわれないのが,ジェネラリストとしての視点です。


4 支援困難な事例であっても,できる限り専門職の力を借りずに地域住民で対処できるように働きかけることが目標となる。


これも間違いです。

目的はニーズの充足です。地域住民の力で解決できるものなら,そのような働きかけも必要でしょう。

しかし,この場合は支援困難な事例です。様々な機関の専門的な力が必要となると考えられます。


5 援助者の方からクライエントに積極的に働きかけるのではなく,本人の意志を尊重して自ら援助を求めてきた人を対象とすることを基本とする。


これも間違いです。

本人の意志を尊重するのはいつの時代も必要です。

自ら援助を求めてきた人を対象とするのは当然です。ジェネラリストとしての視点ではもう一歩必要です。

この場合は「援助者の方からクライエントに積極的に働きかける」がジェネラリストとしての視点だと言えるでしょう。


<今日の一言>

今日の問題は,設問が勉強が足りない人でも正解できる可能性を高めていると述べました。

その理由は設問に「総合的かつ包括的な相談援助」だと明記されているからです。

ジェネラリスト・アプローチもジェネラリスト・ソーシャルワークもわからなくても,総合的かつ包括的な相談援助にあたる選択肢を探し出せばよいのです。
ここで「ジェネラリストって何?」と思うと問題は解けなくなる元となるので注意が必要です。

特にこの問題の場合は,「総合的かつ包括的」という言葉から「地域包括支援センター」などを思い起こせる柔軟な思考があることで正解可能性を高めることになります。

問題を発生させない一次予防,問題の早期発見の二次予防といったものからの連想です。

難易度がそれほど高くない問題でも確実に正解するのは,決して簡単なものではありません。

だからこそ,こういった推測,連想などのプラスアルファのものをフル活用して,「正解可能性」を高める必要があるのです。

合格する人と合格できない人の差は,こんなところにも表れていきます。

2019年4月6日土曜日

外国語に弱いと損です~アカウンタビリティ

新聞などの報道機関では,外国語などの用語は(  )をつけて補足しています。

誰にでもわかりやすく伝えるためです。

しかし,試験の場合はわかりやすい問題は受験者に差がつかないので,わざとわかりにくい,混乱しそうなもの,あるいは覚えにくいものをあえて出題します。

外国語は,そういった意味では国試に向いたものだと言えるでしょう。

今日のテーマである「アカウンタビリティ」はソーシャルワークの専門用語ではありません。社会一般でも使われます。

しかし,言葉から意味を推測できないので,「知っていれば解ける」「知らなければいくら考えても解けない」というものとなります。

アカウンタビリティは説明責任のことです。

行ったことに対しての説明をすることを「説明責任を果たす」といった使い方がされます。


それでは今日の問題です。


第24回・問題88 社会福祉士の相談援助におけるアカウンタビリティに関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。

1 援助における判断や介入の根拠,援助の効果やそのための費用についての情報の開示や説明を,関係者や社会に対して行うことである。

2 利用者が自分の権利や生活ニーズを表明できないときに,社会福祉士がサービス提供者や行政機関などに利用者に代わって要求することである。

3 相談援助の終結段階において,援助計画とそれに基づくサービスの提供が十分に実施されたかどうかを自己評価することである。

4 利用者が抱える問題や環境などの情報を収集し,それらをもとに問題状況における相互作用などを分析し,問題状況の全体を把握することである。

5 利用者自身で自分の問題を解決し,自らの目的を達成するための行動ができるように側面から支援することである。


答えは,選択肢1だとすぐわかるでしょう。

説明責任に関連する内容のものはこれ以外にないからです。

選択肢2は,アドボカシーです。「ぼかさないで代弁する」のアドボカシーです。
選択肢3は,自己評価を何と言うのかは分かりませんが,説明責任とは違います。
選択肢4は,アセスメントです。
選択肢5は,側面からクライエントを支援することを何と言うのかわかりませんが,説明責任とは違います。


<今日の一言>

今日の問題の難易度は,勉強した人にとって決して高い難易度ではありません。

言い回しの難解さで煙に巻くような問題は,勉強をした人でも正解するのは大変です。
このような問題は,国試の理想形です。

知っている人は解ける,知らない人は解けない,というものだからです。

出題の中には,消去することで正解選択肢が残るものもたくさんあります。
この場合は難易度が高くなります。しかし勉強不足の人は,明らかに間違いなもの以外は消去することができないために,正解できません。

国家試験に合格するのは,しっかりした知識があれば決して難しくはありません。
しかし,勉強不足の人を合格させてくれるものではありません。

勉強不足の人が解ける問題だということは勉強した人も解けます。
そういった問題が多ければ,第30回国試のように,合格基準点が上がってしまうので,結局勉強不足の人は合格するのが難しくなってしまいます。

勉強不足の人が合格できるチャンスがあるとすれば,難解な言い回しで勉強した人も正解できないような問題が数多く出題される場合でしょう。

しかし現在の国試ではそれはあり得ないと思います。
合格基準点を90点あたりになるような出題がされるからです。

一つひとつを確実に覚えていけば,必ず合格できます。
決して深い知識は求められません。

2019年4月5日金曜日

ノーマライゼーションって何だろう? と考えた人は誰?

前回は,ノーマライゼーションはどのように誕生し発展してきたのか学びました。

https://fukufuku21.blogspot.com/2019/04/blog-post_4.html

歴史系は,覚えるのが苦手だと感じる人も多いと思います。

しかし,登場してくるのはたったの3人だけです。

①バンク-ミケルセン
②ニイリェ
③ヴォルフェンスベルカー

しかも覚えるべきポイントは,とても明確です。

①バンク-ミケルセン
 ノーマライゼーションは,知的障害者の親の会とともに処遇改善運動を行ったときの理念。それがデンマークの1959年法として世界で初めて明文化された。

②ニイリェ
 ノーマライゼーションの8つの原理を提唱した。

③ヴォルフェンスベルカー
 文化的・社会的役割としてのノーマライゼーションである「ソーシャル・ロール・バロリゼーション」を提唱した。

たったこれだけです。

ニイリェが提唱したノーマライゼーションの8つの原理

①ノーマルな1日のリズム
②ノーマルな一週間のリズム
③ノーマルな1年間のリズム
④ライフサイクルにおけるノーマルな発達体験
⑤ノーマルな尊厳
⑥ノーマルな異性との生活
⑦ノーマルな経済水準
⑧ノーマルな環境水準

これで分かるのは,ニイリェが提唱したノーマライゼーションとは,ノーマルな生活とはどのようなものであるかを明らかにしたものだということです。

福祉政策,地域福祉,施設ケアなど,様々な場面で活用できるものだと言えるでしょう。

テーマである「ノーマライゼーションって何だろう? と考えた人は誰?」の答えは,ニィリエということになります。



それでは今日の問題です。

第30回・問題95 次のうち,ノーマライゼーションの原理を八つに分けて整理した人物として,適切なものを1つ選びなさい。

1 ソロモン(Solomon,B)

2 バンク-ミケルセン(Bank-Mikkelsen,N)

3 ヴォルフェンスベルガー(Wolfensberger,W.)

4 サリービー(Saleebey,D)

5 ニィリエ(Nirje,B)


シンプルですが,この問題が優れていると思うのは,でたらめな文章は使われていないことです。

すべてがこのような問題であればそれはそれで問題がありますが,たまに挿入されるなら極めて適切な問題だと思います。

でたらめな文章で煙に巻くような問題にしなくても,

分かる人は,すぐに答えられる。
分からない人は,どれだけ考えても答えられない。

となるからです。

それでは解説です。

1 ソロモン(Solomon,B)

ソロモンは,著書「黒人のエンパワメント」でソーシャルワークにエンパワメントという概念を導入した人として知られます。

ソロモンは,「相談援助の理論と方法」で学ぶ人物ですが,ソロモンと言えばエンパワメントアプローチ,エンパワメントアプローチと言えばソロモン,というくらいにしっかり覚えておきたいです。

2 バンク-ミケルセン(Bank-Mikkelsen,N)

勉強不足の人のために用意された選択肢です。

単純に「バンク-ミケルセンと言えばノーマライゼーション」だと思うからです。

しかし,ノーマライゼーションと言えばバンク-ミケルセンではありません。
どのような活動を行ったのかという知識が必要です。


3 ヴォルフェンスベルガー(Wolfensberger,W.)

ヴォルフェンスベルカーは,文化的・社会的役割としてのノーマライゼーションを提唱した人です。

国家試験では,この出題を含めて3回しか出題されたことはないですが,極めて重要です。


第12回

ヴォルフェンスベルガー(Wolfensberger,W.)は,文化的なノーマライゼーションや社会的役割の面でのノーマライゼーションを強調した。


これは正解です。

第24回

バンク-ミケルセン(Bank-Mikkelsen,N.)はノーマライゼーションの原理を世界に広めるためには,各国の文化の違いを考慮して,「可能なかぎり文化的に通常となっている手段を利用すること」という要素をこの原理の定義に含める必要があると主張した。


これは,バンク-ミケルセンではなく,ヴォルフェンスベルガーです。

とても難しい内容が問われていますが,バンク-ミケルセンは,ノーマライゼーションを最初に提唱した人であり,その活動で精いっぱいだったはずです。世界に広げるという視点をもつ時代ではなかったと思えると正解にはならないと思えるので,主張した内容を知らなくても消去できます。


4 サリービー(Saleebey,D)

サリービーは,ストレングスアプローチの提唱者です。
サリービーも「相談援助の理論と方法」で学ぶ人です。


5 ニィリエ(Nirje,B)

これが正解です。


<今日の一言>

第24回にヴォルフェンスベルガーが出題されたときの正解選択肢は以下です。

障害者の自立生活運動は,カリフォルニア大学バークレー校に在学する重度障害をもつ学生によるキャンパス内での運動として始まり,やがて地域での自立生活センターの活動に発展し,保護から自立支援と福祉理念の変化を促した。

いわゆる「自立生活運動=IL運動」の始まりについて述べられたものです。
これも極めて重要です。
IL運動も合わせて覚えておきたいです。

2019年4月4日木曜日

ノーマライゼーションの理念はどのように生まれた?

ノーマライゼーションとは,「ノーマル(普通)」の派生語で「ノーマル化する」という意味です。

「ノーマル化する」のは,障害者の生活です。

世界で最初にノーマライゼーションを提唱したのは,デンマークのバンク-ミケルセンです。

1950年代のデンマークでは,保護の名のもとに知的障害者は大型施設に隔離されていました。

その処遇に疑問をもち,知的障害者の親の会とともに処遇改善を始めます。

知的障害者の生活を普通の状態に近づけることことを求めた活動が「ノーマライゼーション」です。

この理念は,デンマークの1959年法として実現します。

この法律が世界で初めてノーマライゼーションを明文化したものとなりました。

1960年代には,スウェーデンにもノーマライゼーション思想は広がっていきます。

スウェーデン知的障害者協会の事務局長だったニィリエは,ノーマライゼーションの8つの原理を提唱しました。

ノーマライゼーションの8つの原理

①ノーマルな1日のリズム
②ノーマルな一週間のリズム
③ノーマルな1年間のリズム
④ライフサイクルにおけるノーマルな発達体験
⑤ノーマルな尊厳
⑥ノーマルな異性との生活
⑦ノーマルな経済水準
⑧ノーマルな環境水準

これによって,ノーマライゼーションがどのようなものであるかが明確になりました。

スウェーデンでは,ノーマライゼーションの理念に基づく社会サービス法(1982年)ができています。同法は1990年代のエーデル改革の根拠となったものです。

北欧生まれのノーマライゼーションは,北米にも広がっていきます。

アメリカのヴォルフェンスベルガーは,障害者の役割に着目して「ソーシャル・ロール・バロリゼーション」を提唱しました。

ノーマライゼーションは,生活をノーマル化するものですが,ソーシャル・ロール・バロリゼーションは一歩進めて,文化的・社会的役割のノーマル化を提唱したのです。

その後,国連では,1971年「知的障害者の権利宣言」,1975年「障害者の権利宣言」,1981年「国際障害者年」と続いていきます。

自立生活運動(IL運動)なども相まって,施設から地域へという流れが生まれていきました。

ノーマライゼーションの理念は,現在では様々に広がっていき,障害のあるなしにかかわらずすべての人が包み込まれて生活できる「ソーシャル・インクルーション」(社会的包摂)という理念も生まれています。

それでは,今日の問題です。


第26回・問題93 ノーマライゼーションの理念に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 すべての人間とすべての国とが達成すべき共通の基準を宣言した世界人権宣言の理念として採用された。

2 1950年代のデンマークにおける精神障害者本人の会の活動を通して生み出された。

3 ニィリエ(Nirje,B)が唱えた原理には,ライフサイクルにおけるノーマルな発達経験が含まれる。

4 バンク-ミケルセン(Bank-Mikkelsen,N.)らの働きにより,スウェーデンにおいて世界で初めて法律の基本的理念として位置づけられた。

5 全米ソーシャルワーカー協会の倫理綱領(1996年採択,2008年改定)において,倫理的原理の一つとして明記された。


勉強が足りない人は,まったく歯が立たない問題でしょう。
しかし勉強した人なら,それほど難しくはないはずです。

それでは解説です。


1 すべての人間とすべての国とが達成すべき共通の基準を宣言した世界人権宣言の理念として採用された。


これは間違いです。

勉強不足の人はこれを正解にしそうな選択肢です。

いかにもそれっぽいですね。

しかし,世界人権宣言は,第二次世界大戦後の1948年に国連で採択されたもので,バンク-ミケルセンの活動よりもずっと以前です。

世界人権宣言の内容を知らないと解けないと思うと間違えそうですが,世界人権宣言の中にノーマライゼーションが含まれるわけがないのです。


2 1950年代のデンマークにおける精神障害者本人の会の活動を通して生み出された。


これも間違いです。

しっかり勉強した人でも間違いそうです。

バンク-ミケルセンは,知的障害者の親の会と一緒に活動しました。

精神障害者が地域で生活するには,薬剤が今のように十分に開発されていなかったその当時では,時期が早いと言えるでしょう。

精神障害者に対しては,1963年のいわゆる「ケネディ教書」が知られます。

脱施設化が目指されましたが,ホームレスが増加するなどうまくすすめることができませんでした。


3 ニィリエ(Nirje,B)が唱えた原理には,ライフサイクルにおけるノーマルな発達経験が含まれる。


これが正解です。

ニィリエが提唱した「ノーマライゼーションの8つの原理」の中には,ライフサイクルにおけるノーマルな発達経験が含まれています。


4 バンク-ミケルセン(Bank-Mikkelsen,N.)らの働きにより,スウェーデンにおいて世界で初めて法律の基本的理念として位置づけられた。


これは間違いです。

ノーマライゼーションと言えば,スウェーデンというイメージが強いので,この選択肢が作られたと思われます。

しかし,世界で初めて法に明文化されたのは,デンマークの「1959年法」です。


5 全米ソーシャルワーカー協会の倫理綱領(1996年採択,2008年改定)において,倫理的原理の一つとして明記された。


これも間違いです。

世界人権宣言や全米ソーシャルワーカー協会の倫理綱領を含めて出題しているのがこの問題のいやらしいところです。

この問題では,選択肢3を正解にできないと,世界人権宣言や全米ソーシャルワーカー協会の倫理綱領を正解にしてしまいそうです。

しかし,全米ソーシャルワーカー協会の倫理綱領には,ノーマライゼーションは明記されていません。



<今日の一言>

社会福祉士の国家試験は,合格率30%という大変厳しい試験です

みんなが正解できるとボーダーラインを調整して,合格率30%程度にしてしまうという荒業も登場します。

しかし,受験生みんなが勉強して受験しているわけではありません。

勉強不足で受験している人は半分程度いると思われます。

そういう人が合格できてしまう試験ではだめなのです。

勉強した人は解ける
勉強が足りない人は解けない

という問題が資格試験には最も向きます。

その観点から言えば,今日の問題は,社会福祉士の国試には最も適したものの一つだと言えます。つまり,勉強が足りない人と差がつく問題なのです。

社会福祉士の国家試験は出題範囲は広いですが,詳しい知識は必要とされません。

そのような問題を出題すると,合格基準点が過去最低の72点となった「魔の第25回国試」のようなものになってしまいます。

合格基準点は,ある程度高いところにならないと,受験生に差がつきにくいので,勘の良い人が合格できてしまうということも発生してしまいます。

そんな試験であってはなりません。


<おまけ>

国試は,知識に裏付けられた推測力がものをいう場面は多く見られます。

たとえば,今日の問題で言えば,選択肢5です。

全米ソーシャルワーカー協会の倫理綱領(1996年採択,2008年改定)と書かれています。

1970~80年代ならノーマライゼーションの理念が明文化していても不思議ではありません。

しかし,1990年代ではインクルージョンという理念も登場する中,ノーマライゼーションを明文化することの必然性を見出すことができません。

こういったことを考え合わせると,選択肢5正解として選んでしまうミスは起きないでしょう。

2019年4月3日水曜日

カタカナ用語を覚えるコツを教えます

社会福祉士を目指す方の中には,介護支援専門員もいるでしょう。

ケアマネジャーということばでわかるように,これらも外国生まれです。

一部の用語は,日本語に置き換えられているので外国生まれだとイメージを持つ人はそれほどいないかもしれません。

それほど介護保険は,日本になじんだと言えるでしょう。

ケアマネジメントはソーシャルワークの一手法を取り出したものです。

ケアマネジメントは,また別な機会に紹介したいと思います。

さて,今日のテーマは「ソーシャルワークは外国生まれ」です。

当然,外国の言葉の専門用語はたくさん登場します。

「カタカナが嫌だ」と思う人も多いことでしょう。

しかしそう思っても始まりません。


<カタカナ用語を覚えるコツ>

ソーシャルワークは,イギリスで生まれて,アメリカで発展したものです。
外国生まれだとしても,英語圏です。

英語ではない用語が出てくるのは,ゲマインシャフト(本質意志)とゲゼルシャフト(選択意志)くらいでしょう。それ以外は,ほとんどが英語です。

そのものの意味は知らなくても,勉強する時に,もともとの用語と結び付けて覚えることができます。

例えば,コンサルテーションであれば,コンサルタント業があるところから,現場の人ではないという連想をしながら覚えます。

アウトリーチは,腕を外に向かって伸ばすのをイメージ化すれば,相談機関で来所を待っているのではなく,外に出かけてつかまえるというイメージができることでしょう。

エンパワメントは,パワーの派生語であることが「パワーづける」と覚えられます。

しかし,アドボカシーは,そうはいきません。

勉強不足の人が意味を推理することができません。

つまり,勉強しない人は解けないものとなります。

社会福祉士の国試は,マーク式です。

正式に覚えなくても,おおよそがわかっていれば,問題文に正しいものがあります。

カタカナ語は覚えにくいですが,いわゆる「語呂合わせ」のようなもので覚えるのは,カタカナの方が向いています。

以下,そのコツです。

アドボカシーの例です。

まず「アドボカシー」という言葉のどこが強く印象をもつことができるかを考えます。

どこを取り出しても良いですが,ボカシーという部分に印象を強く持ったとします。

ボカシーは,ぼかすという日本語に似ています。そこから


ぼかさないで代弁する


という言葉が生まれます。

これでアドボカシーは,代弁機能であるということが覚えられるでしょう。

少なくとも,代弁機能は,メディエーターでも,エデュケーターでも,ブローカーでも,ネゴシエーターでもないことがわかります。


この覚え方は,日本語よりもカタカナ用語の方が向いています。

覚えにくいと思ったものは,ひと手間かけることで,グーンと覚えやすくなります。

なお,年号を語呂合わせで覚えるのは,社会福祉士の国試ではほとんど得点につながらないので注意です。

なぜなら,年号を覚えて解ける問題はほとんどないからです。
社会福祉士の国試は,歴史の試験ではありません。

正しい努力は,合格に結びつきます。
しかし間違った勉強法では,努力が得点に結びつきません。


それでは,今日の問題です。


第25回・問題91 Jさん(50歳,女性)は,夫と義父の3人暮らしで,1年前から寝たきりになった義父の介護を1人で行っていた。義父は要介護認定を受けており,何度か介護保険サービスの利用を勧められていたが,夫は,介護は嫁の役割だからと断り,Jさんに任せていた。Jさん自身もそう思い,孤独でつらい生活を過ごしていた。民生委員のKさんは,そんなJさんを心配して,社会福祉協議会のL社会福祉士を紹介した。L社会福祉士は,事務所に訪れたJさんの話に耳を傾け,Jさんの忍耐強さや様々な工夫を認めて評価した。Jさんは,その後もL社会福祉士と話すうちに,自分が介護だけでなく,他のこともできるのではないかと思えるようになった。また,夫へのL社会福祉士の働きかけもあって,Jさんは夫とも介護について何度も話し合い,介護サービスを利用することになった。他の介護者とも交流するようになり,これからは自分と同じような思いをしている人達の支えになろうと考えている。

次のうち,L社会福祉士が行った支援機能に当たるものとして,適切なものを2つ選びなさい。

1 コンサルテーション

2 アウトリーチ

3 エンパワメント

4 ソーシャル・アクション

5 アドボカシー


事例問題は,実はみんなが思うほど簡単ではありません。

答えがわかりにくいものもあるからです。

しかも適切なものを2つ選ぶ問題は,適切なものを選ぶというよりも,不適切なものを消去するといった方法でしか答えを見つけられない問題もあります。

それでは解説です。


1 コンサルテーション

これは間違いです。

コンサルテーションは,専門家から助言を受けることをいいます。

コンサルテーションする人はコンサルタント,コンサルテーションを受ける人はコンサルティです。

コンサルテーションは,スーパービジョンとセットにして覚えることが多いと思います。

スーパービジョンと似ていますが,違う点は,スーパービジョンには管理的機能がありますが,コンサルテーションには管理機能がありません。


2 アウトリーチ


これも間違いです。アウトリーチは地域に出かけていって,ニーズをキャッチすることをいいます。

アウトリーチのもともとの意味は,腕を外に伸ばすことです。


3 エンパワメント


これは適切だと言えます。

エンパワメントは,「パワー(力)」の派生語で,クライエントに対する力づけをいいます。

この事例では,Jさんの忍耐強さや様々な工夫を認めて評価した結果,Jさんが自分の可能性を見出したことがエンパワメントと言えます。


4 ソーシャル・アクション


これは間違いです。ソーシャル・アクションは,社会活動法と訳され,制度創設などを求めて活動することをいいます。


5 アドボカシー


これが正解です。アドボカシーは,「権利擁護,代弁」と訳されます。

この事例では,Jさんの夫に働きかけたことで,義父がサービス利用できるようになったところがアドボカシーだと言えます。


<今日の一言>

実は,今日の問題の解説は,後付けの解説です。

先に述べたように,適切なものを選んだものではなく,適切ではないものを消去して残った2つから,その根拠となる部分をこじつけたものです。

事例問題は,時々こういったものもあります。

いくつかの視点で問題を読んでみることも時には必要かもしれません。

今日の問題は,合格基準点が72点という過去最低となった「魔の第25回」のものです。

用語で最初のふるいにかけたうえで,事例でもわかりにくいという2つの段階があります。

こんな問題が連発したことで,合格基準点が大幅に下がったのです。勉強した人も解けないという最悪の試験です。

勉強した人は解けて,勉強不足の人は解けない試験が理想です。

勉強不足の人が解ける問題であっても,勉強した人が解けない問題であってもだめなのです。

2019年4月2日火曜日

外国語の専門用語に強くなろう~アドボカシーって誰のためのもの?

欧米生まれのソーシャルワークの用語には,外国語が多く使われています。

外国語の用語は,その言葉を知らないと意味がわかりません。

漢字のように文字から意味を推測することができないので,勉強不足では確実に得点するのは難しいと言えるでしょう。

覚えるのが面倒かもしれません。

しかし覚えてしまえば,問題自体はそれほど入り組んだものではないので,得点できます。

合格できる人と合格できない人の差は,実はこういったところにも原因があるように思います。


「相談援助の基盤と専門職」は,勉強をしっかりしないと得点できない科目です。

しかし,一つひとつを確実に覚えれば,得点できる科目になります。

しかも,社会福祉士19科目の中では,ソーシャルワークにとって「価値」「知識」を身につける科目なので,とても大切です。

さて,今回もアドボカシーです。

アドボカシーは,権利擁護,代弁と訳されます。

もちろんアドボカシーは,クライエントの利益のために行うものです。


それでは今日の問題です。


第31回・問題95 アドボカシーに関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。 

1 ソーシャルワーカー自身の利益のために,サービス利用者の権利を擁護することである。

2 サービス利用者の主体的な生活を実現するために,その意思や権利を代弁することである。

3 サービス提供機関が利用者に訴えられた場合に,サービス提供機関の権利を代弁することである。

4 自らの意思を示すことが困難なサービス利用者の権利を,その家族や友人の判断に基づいて擁護することである。

5 サービス利用者の主張と,利害の対立する相手方の主張とを中立的な立場で調整することである。


アドボカシーという用語がわからなくても,「これは違うだろう」と消去できる選択肢はいくつかあると思います。

しかし,しっかり覚えておかないと,正解するのは難しいです。

知識不足の人は間違えてしまう選択肢が含まれているからです。

そういった意味では,上手に作った問題だと言えるでしょう。


それでは解説です。


1 ソーシャルワーカー自身の利益のために,サービス利用者の権利を擁護することである。


これは間違いです。

サービス利用者の権利を擁護することは正しいですが,目的がまったくだめです。

目的はサービス利用者(クライエント)の利益です。


2 サービス利用者の主体的な生活を実現するために,その意思や権利を代弁することである。

これが正解です。

アドボカシーは,権利擁護や代弁と訳されます。

ソーシャルワークの機能はいくつもありますが,その中でも権利擁護は中心的な機能ということができるでしょう。


3 サービス提供機関が利用者に訴えられた場合に,サービス提供機関の権利を代弁することである。


これも間違いです。

ぜんぜんだめです。

アドボカシーの意味を正しく理解していなくても,これを正解とする人はほとんどいないでしょう。

アドボカシーの目的は,クライエントの利益のためです。


4 自らの意思を示すことが困難なサービス利用者の権利を,その家族や友人の判断に基づいて擁護することである。


これも間違いです。

サービス利用者が自分の意思を示すことができなかった場合,家族や友人も重要な手がかりとなります。

しかし,それはあくまでもサービス利用者の権利のためです。家族や友人の判断で行われるものではありません。


5 サービス利用者の主張と,利害の対立する相手方の主張とを中立的な立場で調整することである。


これも間違いです。

サービス利用者の主張と,利害の対立する相手方の主張とを中立的な立場で調整するのは,ソーシャルワークの機能のうちの「メディエーター(調停機能)」です。メディエーターはもともと「仲介者」という意味です。



<今日の一言>

ソーシャルワークの機能について,第31回国試では,問題95と問題107の2問も出題されました。

現行カリキュラムで本格的に出題されるのは,第31回が初めてと言っても良いでしょう。

外国語の用語は難しいですが,今後はしっかり学ぶことが必要です。

2019年4月1日月曜日

アドボカシーって何をするの?

ソーシャルワークは,欧米で誕生したものです。

そのため,専門用語には英語が多く使われています。

明治以降から戦前までなら,日本語に訳していたことでしょう。

こう書くと「日本語の方がわかりやすいのに」と思う人もいるでしょう。

しかし日本語に訳されるのも善し悪しでしょう。

第31回国試では,ウェーバーが提唱したのは何か,という出題がありました。
以前からウェーバーの社会学は「なぜ理解社会学と訳したのだろう」と思っていたら,そんなものが出題されてとてもびっくりしました。

おかしな訳をされるくらいなら,そのまま使った方が良いようにも思います。

社会福祉士に必要な知識は,理解社会学という名前でもウェーバーではなく,その内容です。

それはさておき,外国語の専門用語は覚えにくいかもしれませんが,出題される以上,勉強しなければならないことは間違いありません。


さて,アドボカシーは,権利擁護,代弁と訳されます。

国試では,なぜか,アドボカシーは自分が所属するために行うものである,といった内容が出題されることがあります。

アドボカシーという言葉の意味を知らなければ,言葉から推理することができないからでしょう。

しかし意味がわかっていれば,間違うことはないでしょう。

つまり・・・

勉強した人は解ける。
勉強が足りない人は解けない。

という理想的な問題が出来上がります。

それでは今日の問題です。


第26回・問題94 アドボカシーに関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 利用者の権利を主張し,必要なサービスを要求する実践であり,その権利を擁護するためにまず法的手段を行使する。

2 福祉サービスの提供者が利用者のアドボカシーを行うことは,所属する機関への利益相反行為に当たり,専門職倫理から逸脱する。

3 マイノリティなど,特定のグループに属する人々の利益を主張・代弁する活動は行わない。

4 利用者の権利が侵害された状態が調整や交渉によっても解決しない場合は,福祉施設,行政機関などとも対決する。

5 利用者にとって最適な選択を専門的見地から決定し,利用者を説得する。


前回の問題とつながる内容が出題されています。

それでは解説です。


1 利用者の権利を主張し,必要なサービスを要求する実践であり,その権利を擁護するためにまず法的手段を行使する。


これは間違いです。

アドボカシーには,法的手段を行使する「法的(リーガル)アドボカシー」といいます。

一見,正解に見えますが,「まず」というところが間違いです。

アドボカシーには様々な方法があります。

その状況によって,手段は異なります。「まず」ということはないと言えるでしょう。


2 福祉サービスの提供者が利用者のアドボカシーを行うことは,所属する機関への利益相反行為に当たり,専門職倫理から逸脱する。


これも間違いです。

選択肢4と逆の内容になっています。セットであるとも言えるでしょう。

利用者のアドボカシーを行わないことの方が,むしろ専門職倫理から逸脱します。


3 マイノリティなど,特定のグループに属する人々の利益を主張・代弁する活動は行わない。


これも間違いです。

アドボカシーには,

クラス・アドボカシーとケース・アドボカシーがあります。

そのうち,特定のグループに属する人々を対象にするものは,クラス・アドボカシーといいます。


4 利用者の権利が侵害された状態が調整や交渉によっても解決しない場合は,福祉施設,行政機関などとも対決する。


これが正解です。

交渉はネゴシエーションといいます。ソーシャルワーカーはいつもクライエントの立場に立ちます。クライエント第一です。


5 利用者にとって最適な選択を専門的見地から決定し,利用者を説得する。

これも間違いです。

「説得する」というのは,いかなる場合でもだめです。

利用者が最適な選択ができるように情報提供を行います。


<今日の一言>


社会福祉士の国試は,第22回から現行カリキュラムになりました。

その際,新しい国試をどのような内容にするかが検討されました。

その中には,合格基準点が超えていても,ある選択肢を選んだら不合格にする,というものもありました。

結果的にそれは実現しませんでしたが,「説得する」というものがそれにあたるような内容でしょう。

現場では,実際に「説得する」ということもあるかもしれません。
しかし,「説得する」は地雷に相当するくらい不適切なものです。

地雷は踏まないようにしましょう。現場で行っているからといって,必ずしも正しいこととは言えないので要注意です。

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