国家試験に出題される問題の中には一定程度,初出問題が含まれます。
受験者は,そういった問題を見ると,焦り,冷静になれなくなります。
実に怖いです。
それでは,法に関する前説なしに今日の問題です。
第31回・問題26
「ヘイトスピーチ解消法」の内容に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 外国人観光客に対する不当な差別的言動を規制することを目的としている。
2 不当な差別的言動に対する罰則が規定されている。
3 雇用における差別的処遇の改善義務が規定されている。
4 地方公共団体には,不当な差別的言動の解消に向けた取組を行う努力が求められている。
5 基本的人権としての表現の自由に対する制限が規定されている。
(注) 「ヘイトスピーチ解消法」とは,「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」のことである。
こういった問題の場合,どのように考えると正解に近づけると思いますか?
ヒントになるものには,法律名があります。
法律名は,この法律の目的,性格を表わしているからです。
「解消法」がついている法律でよく知っているものは「障害者差別解消法」があるでしょう。
この法律の場合,その内容には,国,地方公共団体,民間企業に対する義務や努力義務が含まれます。
この法律の正式名称は,「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」です。
障害者差別の解消を推進するものです。秘密保持義務以外に罰則は設けられていません。
差別があっても罰則が規定されていないのは,虐待防止法に似ています。
こういったところから,ヘイトスピーチ解消法にも罰則はないだろうというとあたりをつけることができそうです。
もう一つのポイントは,法律の正式名称です。
ヘイトスピーチ解消法の正式名称は
本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律
この名称から,法律の目的がわかります。
本邦外出身者とは,外国出身者,つまり外国から日本に来て生活している人を指します。
もう答えは見えてきたのではないでしょうか。
それでは,解説です。
1 外国人観光客に対する不当な差別的言動を規制することを目的としている。
外国人観光客に対するヘイトスピーチも不適切ですが,外国人観光客に限定した立法はあまりに不自然です。
本邦外出身者という法律名称から,外国人観光客を対象にしたものではないことは明らかにわかります。
外国人観光客を対象にした法律だとしたら,「外国人観光客に対する」といった文言が法律名に入るはずです。
2 不当な差別的言動に対する罰則が規定されている。
罰則はありません。
もし本当に罰則が規定されているなら,「〇〇の規定に違反した者は,〇年以下の懲役又は〇万円以下の罰金に処せられる」といったように,出題されるでしょう。
そもそも推進法に罰則はそぐいません。
3 雇用における差別的処遇の改善義務が規定されている。
雇用とヘイトスピーチに関連しないと考えられます。
4 地方公共団体には,不当な差別的言動の解消に向けた取組を行う努力が求められている。
これが正解です。
法律の正式名称は「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」です。
この法律名と同じく「不当な差別的言動の解消に向けた取組」という部分があります。
そこからこれが正解であると推測できそうです。
悩むとすれば,「努力」という部分かもしれません。しかし,こういった細かいところが問われるのは,出題基準に含まれ,過去に何度も出題されてきた法制度です。
ヘイトスピーチ解消法のように出題基準に含まれず,しかもこれまでに出題されたことのないような法制度は,重箱の隅をつつくような出題がされないものです。
こういった社会福祉士の国家試験の特徴を知っておくと得点力は確実にアップします。
5 基本的人権としての表現の自由に対する制限が規定されている。
選択肢4を正解にできなかった人は,この選択肢に引っ掛かりがちです。
しかし,ヘイトスピーチをわざわざ憲法が規定する「表現の自由」を引き合いに出さなくても,ヘイトスピーチは誰もが不適切な行為だとわかるでしょう。
この選択肢も本当に正しければ「不当な差別的言動は,基本的人権としての表現の自由に制限される」といったように,より具体的な表現で出題されるはずです。
現在のところ,直近の第37回では,以下のように出題されています。
第37回・問題23
多文化共生社会の実現に向けた取組に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」では,外国人に情報を伝えるときは,外来語(カタカナ語)を多く使用するよう示している。
2 「地域における多文化共生推進プラン(改訂)」では,外国人材の都市部への居住を促すことを目指している。
3 多文化共生に取り組もうとする地方自治体への情報提供等のために,総務省は多文化共生アドバイザーの名簿を作成することとなっている。
4 災害時外国人支援情報コーディネーターは,外国語を母語とする者を充てることとされている。
5 「ヘイトスピーチ解消法」では,本邦外出身者も,日本文化の理解に努めなければならないと規定している。
(注)1 「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」とは,出入国在留管理庁と文化庁が2020年(令和2年)8月に作成したガイドラインのことである。
2 「地域における多文化共生推進プラン(改訂)」とは,総務省が2006年(平成18年)3月に策定し,2020年(令和2年)9月に改訂したプランのことである。
3 「ヘイトスピーチ解消法」とは,「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」のことである。
第31回の問題を詳細に覚えてもこの問題は正解できません。
しかし,ヒントになるのは,ヘイトスピーチ解消法の正式名称です。
「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」です。
「ヘイトスピーチ解消法」では,本邦外出身者も,日本文化の理解に努めなければならないと規定している。
これが正しいとすれば,その論理には,外国人が差別されるのは,外国人が日本文化を知らないからだ,ということになってしまいます。
これは,いじめられるのは,いじめられる側にも原因があるという話とまったく同じです。
社会福祉の原理と政策では,「原理」を学びます。
原理は,根底に流れる思想になります。
さまざまな事象に応用的に出てくることでしょう。
なお,この問題の正解は,選択肢3です。
3 多文化共生に取り組もうとする地方自治体への情報提供等のために,総務省は多文化共生アドバイザーの名簿を作成することとなっている。
これを覚えても,おそらく二度と出題されないでしょう。
しかし,こういった問題を解く意味は,推測する力をつけていくためにほかなりません。
これを意識しない勉強では,得点力を高めることはできないでしょう。