2023年2月18日土曜日

日本の社会保険制度の発展

日本の社会保険制度は,現在5つあります。


最初にできたのは,医療保険制度です。


そのあとに年金保険制度ができます。


これらは,第二次世界大戦が終わる前までに始まっています。


この2つの社会保険制度は,戦前にあった制度を利用して,皆保険,皆年金をつくり上げたために,複数の制度があり,複雑です。


戦後にできた,雇用保険制度,労働者災害補償保険制度,介護保険制度は,1つの制度で成り立っています。


最も先に出来上がったのは,労働者を対象とする健康保険制度です。


大正期にできました。


この時期にできた理由の一つには,ロシア革命が起きたことがあります。


日本でも労働争議が激しくなっており,社会主義運動も激しくなります。


そこに米騒動が起こり,政府を震撼させます。


そこで作られたのが,健康保険法です。


よく知られるドイツのあめとむち政策によく似ています。


次にできたのが,農業者や自営業などを対象とする国民健康保険制度です。


国民健康保険法は,1938年(昭和13年)につくられました。これは,戦争対策です。


農村の次男三男などを徴兵するために,健康でいてくれなければならなかったからです。


これで皆保険の原型ができましたが,まだこの時は任意加入でした。


皆保険は,1958年・昭和33年に強制加入の新しい国民健康保険法ができて,それが施行された1961年・昭和36年にできました。


年金保険制度で最初につくられたのは,厚生年金制度です。


日中戦争が激化する中,戦費を調達するためにつくられたものです。


厚生年金に加入していない人が加入する国民年金は,1959年・昭和34年にできて,それが施行された1961年・昭和36年にできました。


これによって皆年金ができたことになりますが,実際には,主婦などは任意加入でした。


本当に皆年金になったと言えるのは,1986・昭和61年の国民年金法改正によってできた基礎年金制度ですが,皆年金ができたとされるのは,1961年・昭和36年なので,間違えないようにしたいです。


労働保険と呼ばれる雇用保険と労災保険は,日本国憲法が定める働く権利を保障するためにつくられました。


それでは,今日の問題です。


第25回・問題50 医療保険制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 我が国初の社会保険立法である健康保険法は,1911(明治44)年に制定された。

2 1938(昭和13)年には,強制加入を求める国民健康保険法が制定された。

3 「福祉元年」と呼ばれた1973(昭和48)年から,老人保健制度が実施された。

4 1984(昭和59)年の健康保険法等の改正で,退職者医療制度が創設された。

5 2004(平成16)年の医療制度改革で,高齢者医療制度が創設された。


さすがは,魔の第25回国試と呼ばれる第25回らしい問題です。


合格基準点が過去最低の72点になりましたが,問題が難しすぎて,この点数を上回ることができたのは,わずか18%しかいなかったのです。


それでは解説です。


1 我が国初の社会保険立法である健康保険法は,1911(明治44)年に制定された。


健康保険法ができたのは,大正期です。


2 1938(昭和13)年には,強制加入を求める国民健康保険法が制定された。


この時はまだ任意加入でした。


3 「福祉元年」と呼ばれた1973(昭和48)年から,老人保健制度が実施された。


老人保健制度,すなわち老人保健法ができたのは,1983・昭和58年です。


福祉元年と呼ばれた年に老人医療費が無料化されて,老人保健法によって,老人医療費の一部負担が始まりました。


4 1984(昭和59)年の健康保険法等の改正で,退職者医療制度が創設された。


これが正解です。


退職者医療制度とは,健康保険と国民健康保険の間を埋めるための制度です。


労働者が現役の時には,健康保険に加入しますが,退職すると国民健康保険に加入することになります。


国民健康保険を圧迫しないために健康保険制度からの拠出金で運営されました。現在は廃止されています。


5 2004(平成16)年の医療制度改革で,高齢者医療制度が創設された。


この問題の難易度が高くなったのは,この選択肢のためです。


高齢者医療制度,すなわち,後期高齢者医療制度は,2004(平成16)年の医療制度改革で創設されたのではなく,2006(平成18)年の医療制度改革関連法によって創設されたものです。


意地が悪すぎです。


〈今日の一言〉


今日の問題はひどくないですか?


今は,もうこんな意地の悪い出題はされません。


そのために,この当時よりも正解しやすい問題が多くなり,合格基準点が高くなってきたのです。


正しく勉強した人は解けて,勉強不足の人は解けない


これが国家試験の理想です。


この問題が出題された年は,


正しく勉強した人も,勉強不足の人も解けない


という問題が多かったのです。


こういった問題だと受験者に差がつきにくく,逆に勉強不足の人が合格できる可能性が出てきてしまいます。


第26回以降は,国試改革が静かに進行して,現在に至っています。


第35回・問題49 日本の社会保障の歴史に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 社会保険制度として最初に創設されたのは,健康保険制度である。

2 社会保険制度のうち最も導入が遅かったのは,雇用保険制度である。

3 1950年(昭和25年)の社会保障制度審議会の勧告では,日本の社会保障制度は租税を財源とする社会扶助制度を中心に充実すべきとされた。

4 1986年(昭和61年)に基礎年金制度が導入され,国民皆年金が実現した。

5 2008年(平成20年)に後期高齢者医療制度が導入され,老人医療費が無料化された。


なんと素直な問題なのでしょう。


正解は,

1 社会保険制度として最初に創設されたのは,健康保険制度である。


勉強した人なら必ず目にしたはずのものを正解にしています。

勉強した人はできる可能性が限りなく高い問題だと言えます。


今後は,こんな出題が続いていくことでしょう。

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