2023年2月20日月曜日

社会保障制度の歴史~過去の出来事は過去の出来事ではない

今日のテーマは「社会保障制度の歴史~過去の出来事は過去の出来事ではない」です。


何の話をしようと思っているのか想像がつく人は,この学習部屋のディープな住民だと言えます。


ありがとうございます。


過去にできた制度は,その後に制度改正がなければ,今の制度となります。


当然のことだと言えますが,緊張感あふれる試験会場では,こういったことでさえ忘れてしまいます。とても怖いことだと思います。


それでは,今日の問題です。


第31回・問題53 医療保障制度の歴史的展開に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 健康保険法(1922年(大正11年))により,農業従事者や自営業者が適用対象となった。

2 老人福祉法(1963年(昭和38年))により,国民皆保険が実現した。

3 老人保健法(1982年(昭和57年))により,高額療養費制度が創設された。

4 介護保険法(1997年(平成9年))により,老人保健施設が創設された。

5 健康保険法等の改正(2006年(平成18年))による「高齢者医療確保法」により,75歳以上の高齢者が別建ての制度に加入する後期高齢者医療制度が創設された。

(注) 「高齢者医療確保法」とは,「高齢者の医療の確保に関する法律」のことである。


特に注意が必要なのは,選択肢1です。

1 健康保険法(1922年(大正11年))により,農業従事者や自営業者が適用対象となった。


日本の医療保険は,被用者を対象とした健康保険と自営業者などを対象とした国民健康保険があります。


社会保障を少しでも勉強していれば,この過程で必ず出てくるものです。

しかし,このように歴史の展開の中で出題されると途端に難しくなります。


これが国家試験の現実です。確実に得点を積み重ねていくことは,一般的に考えられているほど簡単ではありません。


そこを乗り越えるために,この学習部屋では,毎日毎日情報を発信し続けています。


さて,今日の問題に戻ります。


もし,健康保険法ができたときに,農業従事者や自営業者が適用対象になっていたとしたら,そこから分離させて,国民健康保険をつくるにはよほどの理由があったはずです。


しかし,そんなことは勉強の最中に出てこなかったはずです。出てくるはずがありません。これは嘘なのですから。


日本の医療保険制度は,健康保険が先にできています。そしてこの健康保険法が日本の初めての社会保険立法となりました。


被用者を対象とする健康保険が先にできた理由は,その当時,盛んになっていた労働争議に対応するためです。


国は,ロシア革命や米騒動によって,国民の不満は国家を転覆させかねないことに気づき,この辺りから,社会事業に国が関与するようになっていきます。


国民健康保険ができた背景は,日中戦争が本格化する中,健康な兵士を送り出すことがあります。


ほかの選択肢も解説します。


2 老人福祉法(1963年(昭和38年))により,国民皆保険が実現した。


老人福祉法は,今は介護保険に隠れて,地味な存在になっていますが,法の目的は,高齢者の福祉の向上です。


社会保険に関する法律ではありません。そこから考えると矛盾していることがわかるでしょう。

しかし,そんなことにも気づかないのが国家試験の怖いところです。


国民皆保険が実現したのは,1958年・昭和33年の国民健康保険法が施行された1961年・昭和36年のことです。


あれっと思うでしょう。1958年は戦後です。国民健康保険は日中戦争に関連したものだと言っていなかったっけ?


戦前に作られた国民健康保険は,加入が任意でした。


戦後にできた国民健康保険は,加入が義務づけられました。そのようにして,健康保険と合わせて国民皆保険がつくり上げられました。


3 老人保健法(1982年(昭和57年))により,高額療養費制度が創設された。


これも落ち着いて考えると矛盾していることに気がつくはずです。


高額療養費制度は,高齢者のみを対象としているものではありません。


高額療養費制度は,健康保険法などを改正して1973年・昭和48年に創設されたものです。


福祉元年と呼ばれたこの年の出来事としては,老人医療費無料化,年金の物価スライド制の導入と並ぶ目玉の一つが高額療養費制度の創設です。


4 介護保険法(1997年(平成9年))により,老人保健施設が創設された。


老人保健施設は,現在は介護保険法に規定される介護保険施設です。


しかし,もともとは老人保健法が根拠法でした。


1986年・昭和61年の同法の改正によって創設されています。


社会人は,この資格の受験に圧倒的に有利だと思うのは,こういったことを人生の中で知っているからです。


大学生の中には,基礎的な勉強をしたことがない社会人が社会福祉士になってどうするのかと言う人がいると聞きます。


社会福祉士の国家試験は,資質のない人をふるいにかけるフィルターになっていることを忘れている発言です。


受験資格を得るルートを多様に設けているのは,多様な人材を求めていることに他ならないことを知らない発言です。


勉強不足の人は,福祉系大学生であっても,社会人であっても合格できないことを忘れています。



5 健康保険法等の改正(2006年(平成18年))による「高齢者医療確保法」により,75歳以上の高齢者が別建ての制度に加入する後期高齢者医療制度が創設された。


これが正解です。


しかし,これを正解にしにくいのは,高齢者医療確保法は,老人保健法によるものではないか,と考えてしまうからです。


冷静に考えてみると,既存の制度から独立させて新しい制度をつくる場合,既存の制度も改正しなければならないことに気づくはずです。


なぜなら,法制度は,複数の制度に重ならないようにつくられるからです。


例えば,国民年金法で,第一号被保険者は


日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の者であって厚生年金保険法に基づく老齢給付等を受けることができる者その他この法律の適用を除外すべき特別の理由がある者として厚生労働省令で定める者を除く


と規定されています。


このように規定されているのは,厚生年金が先にあって,そのあとに国民年金ができたことに他なりません。


第35回国家試験では「労働者の業務災害に関する保険給付については,労働者は労働者災害補償保険又は健康保険のいずれかの給付を選択することができる。」という出題がありましたが,そんなことは通常考えられません。法制度は,複数の制度に重ならないようにつくられるからです。

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