問題を作るときに,正しい選択肢を作るのと,誤りの選択肢の文章を作るのでは,誤りの選択肢を作るほうが何倍も難しいって知ってました?
正しい選択肢は,そのままの文章で良いですが,誤りの選択肢は,正しいものを下書きにして,間違った文章を作るという作業を行わなければなりません。
上手に文章を作らなければ,その文章はとても違和感があるものになってしまいます。
第26回・問題3
健康に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 健康寿命とは,介護を受けたり病気で寝たきりになったりせずに自立して生活できる期間をいう。
2 WHO憲章では,「健康とは,身体的,精神的,社会的,そしてスピリチュアル的に完全に良好な状態をいう」と定義された。
3 集団の健康を図る指標に罹患率は用いられない。
4 プライマリ・ヘルスケアの理念は,一次医療(プライマリケア)による治療で健康を改善すべきという考えである。
5 「健康日本21」(第二次)の基本的な方針は,活力ある社会の実現のために高齢者の死亡率を減少させることである。
正解は1です。
1 健康寿命とは,介護を受けたり病気で寝たきりになったりせずに自立して生活できる期間をいう。
比較的分かりやすい選択肢が答えとなりました。
同じものでも正解が問題の後半に配置されていると,正解にたどり着くまで迷い道があるので,正解するのが難しくなります。
それはあとで解説することにして,本題です。
3 集団の健康を図る指標に罹患率は用いられない。
違和感がありませんか? わざわざ「罹患率は用いられない」と述べていますね・・・
この文章は,
集団の健康を図る指標に罹患率が用いられる。
を単に否定形にしたものと考えられます。
もしもっともらしい文章にするなら,健康を図る指標として絶対に用いられないものを入れて,
集団の健康を図る指標に「・・・・・・」が用いられる。
とすると,引っ掛けられる率が高くなるとなると思います。
しかししかし・・・
健康に対するアプローチはたくさんありますので,絶対に用いられないものというのを探し出すのは,実質困難だと考えられます。
そのため,
集団の健康を図る指標に「・・・・・・」が用いられる。
にすると,誤りの選択肢を意図して作った文であっても,正解選択肢になってしまう恐れが出てきてしまいます。そうなると不適切問題になってしまいます。
誤りの選択肢を作るのは,とても難易度が高いことがわかるでしょう。
そこで違和感がある文章であっても,
集団の健康を図る指標に罹患率は用いられない。
にせざるを得なかったのではないでしょうか・・・
これだと,めったに用いられないものであっても,たまに用いられることがあれば,意図通りの間違いの文章となります。
それ以外も見ていきましょう。
2 WHO憲章では,「健康とは,身体的,精神的,社会的,そしてスピリチュアル的に完全に良好な状態をいう」と定義された。
正しくは,身体的,精神的,社会的,です。
「スピリチュアル的」は含まれません。
実は「スピリチュアル的」が含まれた文章が過去に何度か出題されたことがあります。
不思議だなぁ,と思っていました。
調べてみると,WHOは1999年に健康の定義の見直しをしたことがあり,その改正案でスピリチュアル的を含めたものを提示されていたようです。
しかし,結局現行の健康の定義で十分であるとのことで,「スピリチュアル的」が含まれたものに定義が改正されることはなかったそうです。
4 プライマリ・ヘルスケアの理念は,一次医療(プライマリケア)による治療で健康を改善すべきという考えである。
聞き慣れない「プライマリ・ヘルスケア」と「プライマリケア」が出題されています。こういった理解しにくいものは,繰り返し出題される可能性が高いですね・・・
プライマリ・ヘルスケア
「健康を基本的人権と位置づけ,健康のための自己決定権を保障する」とアルマ・アタ宣言で位置づけられているものです。
プライマリケア
身近な医療機関で医療を受けることで,自分の健康をよく知っているかかりつけ医療のようなものと押さえましょう。
プライマリ・ヘルスケアとプライマリケアを混同させられそうです。しっかり覚えてしまいましょう。
5 「健康日本21」(第二次)の基本的な方針は,活力ある社会の実現のために高齢者の死亡率を減少させることである。
人は必ず死ぬので,高齢者の死亡率を減少させるって難しいと思いませんか?
不老不死の人を作ること?
4番目の選択肢で混乱させられた人は,こんな文章でも正しく理解ができなくなったことでしょう。これが国試の怖いところです。
今日の教訓
違和感のあるものは,間違いである可能性高し
難しめの用語には要注意! しかしそこには正解少なし
こういったところに気がつくようになると,実力がアップすること間違いなしです。