前説なしで,今日の問題です。
第26回・問題10
集団の機能に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 社会的促進は,未学習で複雑な課題については,動因水準が高まるほど,顕著に生じる。
2 PM理論によれば,どのような集団でも,PとMの両機能が低いpm型リーダーが,片方の機能だけ高いPm型やpM型よりも優れている。
3 内集団ひいきは,初対面の人々を,何かの好みのようなささいな基準でその場で2グループに分けた即席の集団間では生じることがない。
4 集団のサイズはある大きさまでは同調を促進させるが,あるサイズ(課題や被験者によって異なる)以上では差が生じないか,あるいは減少をもたらす。
5 集団思考(groupthink)は,集団の凝集性が高ければ高いほど生じにくい。
心理学を難しく感じさせる理由はいくつかあると思います。
その一つとして,医学などの自然科学系の学問は「A+B=C」であると証明できやすいものに対し,心理学,社会学,哲学などの人文科学系の学問は,Aはこう述べた,というものが多く,目に見えるものを言葉を使って説明しようとしているので,用語が明快ではないということがあるのではないでしょうか。
そのことによって,
知識 = 得点
になりにくい分野である,と言えます。
さて,問題を見てみましょう。
集団に関連した出題です。
ある程度勉強した人なら・・・
・社会的促進
・PM理論
・内集団
・同調
・集団思考
の知識はある程度知っているでしょう。
しかし,だからと言って,単純に得点させてくれないのが,この試験の特徴と言えます。
簡単に得点させてくれない
一度でも受験されたことのある方は,強く実感されていることでしょう。
それでは,改めて見ていきましょう。
1 社会的促進は,未学習で複雑な課題については,動因水準が高まるほど,顕著に生じる。
動因水準
という聞いたことがない言葉ですね。
この言葉に惑わされると,この問題で正解を引き出すことが難しくなります。
最初の選択肢にわかりにくいものを配置するのは,この国試の常とう手段です。
動因とは,英語ではdrive,動かすことを言うそうです。
水準はレベルです。
二つ合わせると「動かすレベル」となります。難解な表現です。
社会的促進は,周りに引っ張られて作業効率が上がることですね。
有村架純さんが演じたNHK朝ドラの「ひよっこ」の主人公のみね子は,電機メーカーの工場で働いていました。
不器用な彼女は,トランジスタラジオの組み立ての作業効率をなかなか上げることができません。ミスも起こします。
そんな彼女を見かねて,周りの人が「遅くても気にしないで。その分,私たちがカバーするから大丈夫」と声をかけます。
するとその日は失敗せず,しかも効率を上げることができたのです。
その要因の一つは「仕事なのにちゃんとできない」という気負いが,周りの人の言葉で気が楽になったことがあると思います。
もう一つは,不器用だった彼女が作業慣れしてきたことがあります。
作業慣れすると,周りに作業が早い人がいると,それに引っ張られて,作業が早くなります。
これこそが「社会的促進」です。
作業慣れしていないと,周りに作業が早い人がいても,それに引っ張られて,作業が早くなることはありません。
作業は複雑なものよりもなるべく単純なほうがより促進します。
徒競走で,早い人と一緒に走るとタイムが上がる,という話を聞いたことはないでしょうか。
これも社会的促進の一場面ととらえることができます。
徒競走のような単純な運動なら社会的促進はありますが,障害物競争のような複雑な運動ならあまり社会的促進は起きないことが予測できますね。
問題に戻ります。
1 社会的促進は,未学習で複雑な課題については,動因水準が高まるほど,顕著に生じる。
未学習で複雑な課題 ×
学習済みで単純な課題 〇
と言えそうですね。よって×。
動因水準に惑わされると,未学習で複雑な課題の部分に目がいかなくなってしまいます。
難しい用語は,無理に理解しようとせず,そのほかの部分で判断できないかを考えてみましょう。
2 PM理論によれば,どのような集団でも,PとMの両機能が低いpm型リーダーが,片方の機能だけ高いPm型やpM型よりも優れている。
PM理論は,日本人の三隅二不二先生提唱のリーダーシップ理論です。
大文字 → 強い
小文字 → 弱い
で表現します。
PM型,Pm型,pM型,pm型
のうち,最も優れたものは,PM型だとしました。
よって×。
3 内集団ひいきは,初対面の人々を,何かの好みのようなささいな基準でその場で2グループに分けた即席の集団間では生じることがない。
内集団,外集団は,それぞれ,私たち,あの人たち,と認識される集団のことです。
内集団ひいきという言葉は勉強していなくても,
内集団をひいきすること
だとイメージがつくことでしょう。
ひいきならイメージがつきやすいですが,第28回国試では,内集団バイアスと出題されました。バイアスは「偏見」を言いますが,かなり難しくなりますね。
話を戻します。
文の終わりに着目すると・・・
生じることがない
と断定しています。断定表現は,数が多いなので一度でもその事象が起きると破たんするので,不正解になる率が高くなります。
初めて顔を合わせた人でも,自分と同じ趣味,同じ出身地,など共通点が見つかれば親しく感じることがあるのは,多くの人が経験したことがあるのはないでしょう。
人と親しくなるためには「一緒探し」をするのが効果的です。
それはさておき,選択肢3は不正解ですね。
4 集団のサイズはある大きさまでは同調を促進させるが,あるサイズ(課題や被験者によって異なる)以上では差が生じないか,あるいは減少をもたらす。
この選択肢が最も考えさせられる問題ではないでしょうか。
同調は,周りの人の言動に合わせることですね。
集団が大きくなると,同調しやすいのか,あるいは同調しにくいのか,が問われています。
同調のメカニズムは,
人と違う言動は取りにくい。
という社会心理が働いていると考えられます。
集団が大きくなれば,自分の行動は目立たなくなります。
また,同調しない人も増えてきます。
それらを考えると,集団が大きくなった時は,同調は促進しなさそうだ,と考えてよいと思います。
ただし,この時点では,はっきりわからないので▲をつけておきます。
5 集団思考(groupthink)は,集団の凝集性が高ければ高いほど生じにくい。
集団思考には,一人で決断するよりもみんなで出した結論の方が危険なものになりやすい「リスキーシフト」などが知られています。
凝集性は,集団のまとまりの強さのことです。
凝集性が低ければ,同調しないが表れて,危険な意見にくぎを刺すこともあるでしょう。
しかし,凝集性が高ければ,みんなが同じような意見を持っているので,結論を十分精査しないままに,結論を出してしまうこともあるでしょう。
凝集性に関連する出題は,「福祉サービスの組織と経営」でよく出題されているので,凝集性が高くなればどのようなことが起きるのか,低ければどのようなことが起きないのか,をよく理解しておきましょう。
話を戻すと,凝集性が高ければ高いほど,集団思考は起きやすくなります。よってこの選択肢は×。
4番目の選択肢の△を〇に格上げして,これが正解となります。
この問題のポイントは,「動因水準」という言葉に惑わされないことです。
そこを乗り越えることができたときに,道は大きく開かれます。