前回,「ソーシャルワークの基盤と専門職」は「価値」を中心に学ぶ科目である旨を書きました。
「価値」は,ワーカーのバックボーンとなるものです。
「価値」は,現場から離れたところで振り返りながら考えていくことで身についていくものだと思います。
社会福祉士になる意味は,まさに「価値」を学ぶことにあるのだと思います。
「理論」に比べると「基盤」は難しく感じるかもしれません。
難しいかもしれませんが,ポイントを押さえると必ず学び取れます。
「基盤」である「価値」がない上に,「知識」を積み上げても,それはとてももろいものです。
しっかりした「基盤」を持った上で,「理論」を積み重ねてこそ,クライエントの権利擁護者としてのソーシャルワーカーになると思います。
それでは,今日の問題です。
第25回・問題93
ブトゥリム(Butym,Z.)が示したソーシャルワークの3つの価値前提(「人間尊重」「人間の社会性」「人間の変化の可能性」)に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 この3つの価値前提は,それら自体がソーシャルワークの実践から生まれたソーシャルワークに独自かつ固有の価値であり,不可欠なものである。
2 この3つの価値前提は,相互に等しい道徳的価値である。
3 「人間尊重」は,個別的自由と普遍的自由との統合を図る人倫概念を示したヘーゲル学派の哲学による考え方を基盤とする。
4 「人間の社会性」は,人間がそれぞれにその独自性の貫徹のために他者に依存する存在であることを示す。
5 「人間の変化の可能性」は,環境の変化と人間の変化及び成長との因果関係に基づく決定論的な人生観に依拠する。
ブトゥリムは,過去に以下のように出題されています。
第23回・問題88・選択肢2
ブトゥリム(Butrym,Z.)は,ソーシャルワーク固有の価値前提として,「人間尊重」「人間の社会性」「教育の可能性」を挙げている。
この選択肢は,今日の問題の中に答えがあるので,間違いであることが分かると思います。
「教育の可能性」ではなく,「変化の可能性」が正しいです。
実は,ブトゥリムの価値前提の中身を本格的に出題したのは,この時が唯一です。
第25回はとても難易度が高い国試となりましたが,もしかするともう一段階出題を深めてみたらどうなるのかを試してみたのかもしれません。
それはさておき,詳しく見て行きましょう。
1 この3つの価値前提は,それら自体がソーシャルワークの実践から生まれたソーシャルワークに独自かつ固有の価値であり,不可欠なものである。
ソーシャルワークのグローバル定義では,
「ソーシャルワークの理論,社会科学,人文学,および地域・民族固有の知を基盤として,ソーシャルワークは,生活課題に取り組みウェルビーイングを高めるよう,人々やさまざまな構造に働きかける」と述べています。
つまり,ソーシャルワークは,ソーシャルワーク理論だけではなく,出自のさまざまなものが複雑に関連し合いながら,実践されるものだと考えられます。
このようなことから,ソーシャルワークの固有の価値とは思えないと思います。
ブトゥリムは,やっぱり「ソーシャルワークの固有の価値とは言えない」と述べています。
ブトゥリムがどのように考えたのかが分からなくても,ヒントは見つけられます。
2 この3つの価値前提は,相互に等しい道徳的価値である。
3つの価値前提が等しいと言うことはなさそうです。
なぜなら,「人間尊重」が基本的価値(ベース)となり,そのベースに「人間の社会性」と「人間の変化の可能性」が載っているように感じるからです。
ブトゥリムは,その3つの関連性は述べていないので,実際にはどのような構造になっていのかは分かりません。
どちらにしても間違いです。
3 「人間尊重」は,個別的自由と普遍的自由との統合を図る人倫概念を示したヘーゲル学派の哲学による考え方を基盤とする。
さて,この問題の中では,この選択肢が最も意味が分からないものだと思います。
分からない時は焦らず,冷静に▲をつけます。
結果的には,これはヘーゲル学派ではなく,カント学派だそうです。
カントは,第23回に功利主義に関連して出題されていました。
カントの考え方はよく分かりませんが,功利主義(このような結果を得たいからこのように行動するなど)とは対極をなし,「結果を重視するものではなく,動機を重視」するものです。
そういう意味では,人間尊重は,何かの結果を得るために尊重するものではない,人間尊重しなければならないから,人間尊重するのだ,ということになるのだと思います。
答えを導き出すヒント
言葉は何となく聞いたことがあるけれど,テキストや参考書には出ていないようなものが出題された時は,正しくないものであることが多い。
覚えておきましょう。ヘーゲル学派がいかにもそれです。
4 「人間の社会性」は,人間がそれぞれにその独自性の貫徹のために他者に依存する存在であることを示す。
「心理社会的アプローチ」,「エコロジカル・アプローチ」,「エンパワメント・アプローチ」,そしてシステム論などを考えてみると,人は,その人だけで存在しているものではなく,その人を取り巻く環境の中で存在していることを重視しているのがよく分かります。
その交互関係の中で,いろいろな問題が生じています。
それを調整するのがソーシャルワークです。
そこから考えると,「独自性の貫徹」と「他者に依存」というのがとても大仰な感じを受けますが,自分が自分であるためには,他者(環境)との関連性が大切なので,正しそうだという見当がつくはずです。
もちろんこれが正解です。
5 「人間の変化の可能性」は,環境の変化と人間の変化及び成長との因果関係に基づく決定論的な人生観に依拠する。
人間の変化の可能性があるから,機能的アプローチ,問題解決アプローチなどが成り立つのだと思います。
「決定論的な人生観」は,どのような意味で使用しているかは分からないかもしれません。
しかし,文字から「人間は,最初から結果はある程度決まっているものだ」という印象を受けるでしょう。
「変化の可能性」という意味には取れません。
正しくは,変化の可能性は,クライエントが自らの意思で道が開ける,ということです。
これだとしっくりきますね。
よって×。
「価値」はいろいろなものが複雑に関連し合い,紡ぎ出されるものだと思います。
ぜひ盤石な「基盤」の上に,ソーシャルワークを組み立ててほしいと思います。