社会福祉士の問題ばかりを見ていると,精神保健福祉士の問題で戸惑うことがあります。
社会福祉士の場合,多くの事例の答えは,自己決定の尊重であることが多く,生命の危険と組み合わさった出題がほとんどありません。
しかし,精神保健福祉士の場合は,自死という危険性があるので,自己決定の尊重よりも,生命の保護の方が優先される場面があります。
その辺りの違いが,精神保健福祉士法には,
精神保健福祉士は,その業務を行うに当たって精神障害者に主治の医師があるときは,その指導を受けなければならない。
という規定を設けていることにつながるのではないでしょうか。
この規定は,社会福祉士にはありません。
今日の問題です。
第25回・問題96
ソーシャルワークの専門職倫理に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 ソーシャルワーカーは,法制度の規定のもとでその実践を行うので,制度とのジレンマや矛盾を起こすことはない。
2 守秘義務を遂行することにより第三者に危害が及ぶことが予測される場合などは,クライエントの個人情報を開示してもよいと考えられている。
3 倫理的原理の優先順位を明らかにした「倫理的原理のスクリーン(Ethcal Principles Screen:EPS)」では,クライエントの生活の質が最も優先される。
4 アメリカの「マネジドケア(managed care)」では,ソーシャルワーカーの裁量と患者の自己決定に矛盾が起きることはない。
5 子ども虐待のケースにおいて,子どもの権利と親の権利の間でジレンマが現れる場合は,子どもの年齢や状況にかかわらず,子どもの希望に従い支援を行う。
ソーシャルワークで優先するのは「自己決定の尊重」である,と考えていると間違えますので要注意です。
それでは詳しく見て行きましょう。
1 ソーシャルワーカーは,法制度の規定のもとでその実践を行うので,制度とのジレンマや矛盾を起こすことはない。
もしジレンマを感じることがないとしたら,ソーシャルワーカーではなく,ただの法の執行者です。
クライエントの権利擁護しようとした時,ジレンマを感じたり,矛盾を感じたり,他職種とも対立することもあるでしょう。
もちろん×です。
2 守秘義務を遂行することにより第三者に危害が及ぶことが予測される場合などは,クライエントの個人情報を開示してもよいと考えられている。
最も優先されるのは,生命の保護です。
これはクライエントに限られたものではなく,周囲に対しても同じです。
第三者に危害が及ぶことが予測される時は,個人情報の保護は守秘義務に優先されると考えられます。
よって正解です。
3 倫理的原理の優先順位を明らかにした「倫理的原理のスクリーン(Ethcal Principles Screen:EPS)」では,クライエントの生活の質が最も優先される。
生命の質とは,QOLのことです。今日のテーマの通り,最も優先されるのは,生命の保護です。
本人の自己決定はQOLを高めるためには必要なことですが,「生命の保護」が最も優先されます。
よって×。
4 アメリカの「マネジドケア(managed care)」では,ソーシャルワーカーの裁量と患者の自己決定に矛盾が起きることはない。
マネジドケアは,アメリカの医療保険の支払制度です。
医療費が高くなると,医療保険が成り立たなくなります。
そのため医療費を抑制するために,医療機関の制限,疾患による入院期間の制限などかなり厳しい制度となっています。
つまりクライエントが自己決定できない場面が多くあることが想像できますね。
またまた出て来ました。
言い切り表現に正解少なし
もちろん☓です。
5 子ども虐待のケースにおいて,子どもの権利と親の権利の間でジレンマが現れる場合は,子どもの年齢や状況にかかわらず,子どもの希望に従い支援を行う。
児童福祉法改正(2016)では,
全て国民は,児童が良好な環境において生まれ,かつ,社会のあらゆる分野において,児童の年齢及び発達の程度に応じて,その意見が尊重され,その最善の利益が優先して考慮され,心身ともに健やかに育成されるよう努めなければならない。
と規定されました。
「児童の年齢及び発達の程度に応じて」と規定されています。この規定がなくても,年齢や状況に合わせた子どもの最善の利益に向けた支援が必要であることは言うまでもありません。
よって×。
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