現・生活保護法の目的は「最低限度の生活保障」と「自立の助長」です。
最低限度の生活保障は日本国憲法第25条の生存権規定に基づくものなので,比較的新しいものと言えます。
もう一方の自立の助長は,救護法に「生業扶助」が組み込まれています。
救護法は単に生活困窮者の救護だけではなく,自立の助長も目的にしていたのはとても興味深いものです。
日本では,自立の助長は江戸時代に既に始まっています。
近年は,国試に出題されたのを見たことがないですか,参考書には記載されている「石川島人足寄場」がそれです。
これを提案したのは,岩波正太郎の歴史小説「鬼平犯科帳」の鬼平こと,長谷川平蔵です。
軽犯罪人に対して,大工や建具などの技能を修得させたものです。
軽犯罪人に関して,懲罰を科すことが効果的ではないことをよく知っていたのでしょう。
しかし,残念ながら明治になって廃止されました。
自立の助長は,1929年(にくい年)の救護法まで待たなければなりません。
さて,それでは今日の問題です。
第25回・問題66
生活保護における各種の扶助に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 生活扶助には,基準生活費に当たる第1類費や第2類費のほか,各種の加算があり,うち,母子加算は,母子世帯のほか父子世帯も対象としている。
2 生活扶助は,個々人に必要な生活費としての側面もあるため,世帯員が複数の場合,個人に対して金銭が給付されるのが原則である。
3 教育扶助は,高校や大学での修学にも対応できるよう,義務教育終了後においても支給される。
4 医療扶助は,医療保険制度による指定医療機関に委託して行われ,現物給付を原則としている。
5 生業扶助は,現に就いている生業の維持を目的とするため,生業に就くために必要な技能の修得はその範囲に含まれない。
現在の扶助の種類は,8つあります。
救護法では先述の生業扶助も含めて4種類。
旧・生活保護法ではそれに葬祭扶助を加えた5種類。
現・生活保護法ができた時点では,それに住宅扶助と教育扶助を加えた7種類。
2000年の介護保険に伴い,介護扶助が加わり,現在は8種類です。
それでは詳しく見て行きましょう。
1 生活扶助には,基準生活費に当たる第1類費や第2類費のほか,各種の加算があり,うち,母子加算は,母子世帯のほか父子世帯も対象としている。
今はもう忘れてしまった人も多いかもしれません。
自民党政権が民主党政権に変わる前,一度母子加算は廃止されました。
その後民主党政権の時に,母子加算を復活させましたが,その時に父子も対象としています。
よって正解です。
2 生活扶助は,個々人に必要な生活費としての側面もあるため,世帯員が複数の場合,個人に対して金銭が給付されるのが原則である。
生活保護は原則は世帯単位です。これにより難い時は,個人を単位とする世帯分離を行います。
よって×。
3 教育扶助は,高校や大学での修学にも対応できるよう,義務教育終了後においても支給される。
教育扶助は,日本国憲法の「教育を受ける権利」を保障するために,現・生活保護法で加わったものです。
教育扶助は,小中学校の義務教育期間を対象としています。義務教育後は支給されません。
よって×。
ただし,現在の高校進学率は97%となり,高校を卒業しないと仕事を見つけることはかなり厳しい状況です。
そのため,高校分は生業扶助の高等学校等就学費が支給されます。
4 医療扶助は,医療保険制度による指定医療機関に委託して行われ,現物給付を原則としている。
医療扶助は,医療保護施設又は生活保護法の指定医療機関で原則行われます。
よって×。
5 生業扶助は,現に就いている生業の維持を目的とするため,生業に就くために必要な技能の修得はその範囲に含まれない。
生業に就くために必要な技能の修得は,経済的自立の助長のためには極めて重要です。
もちろん範囲に含まれるので☓。
現在の自立の考え方は,単に経済的自立だけではなく,社会自立,日常生活自立も含むことを覚えておきましょう。