国家試験問題は,同じように出題することはめったにありません。
丸覚えは,理論系科目に通用しないのが辛いところでもあります。
さて,今日のテーマは「知らないものを知らないままにしない問題の読み方」です。
勉強したことがない,分からない
で終わらせるのは,実にもったいないです。
よく見ると問題のはしばしにヒントが隠されていることがあります。
それでは今日の問題です。
第25回・問題101
相談援助における「個人」と「環境」をめぐる諸説に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 ジャーメイン(Germain,C.)らは,生態学の視点を用いて,個人に焦点化した適応概念について説明した。
2 ホリス(Hollis,F.)は,パーソナリティの発達を目指して,個人と社会環境との間を個別に意識的に調整することについて論じた。
3 パールマン(Perlnan,H.)は,役割概念を用いて,役割ネットワークのなかで生成している存在として個人をとらえた。
4 バートレット(Bartlett,H.)は,人間にとってふさわしい場所の質は,その人の願望,能力,自信,環境の資源の機能によって決定されるとした。
5 ゴスチャ(Goscha,R.)らは,社会生活機能の概念を,環境からの要求と個人が試みる対処との交換及び均衡に焦点化してとらえた。
この問題を見た時は,ものすごく難しくて,勉強不足を強く感じたものです。
なぜなら,ジャーメイン,ホリス,パールマン,バートレット,ゴスチャはいずれも何度も出題されているにもかかわらず,それまでの内容とは違っていたからです。
多くの受験生はこの問題を見て,
「勉強したことがない。分からない」と感じて,頭の中が真っ白になったのではないでしょうか。
それでは,詳しく見て行きましょう。
1 ジャーメイン(Germain,C.)らは,生態学の視点を用いて,個人に焦点化した適応概念について説明した。
これは比較的分かりやすいですね。
エコロジカル・アプローチは,個人と環境の交互作用に着目して,その接点に介入するものだからです。
個人に焦点化するということはあり得ません。
よって×。
2 ホリス(Hollis,F.)は,パーソナリティの発達を目指して,個人と社会環境との間を個別に意識的に調整することについて論じた。
これは絶対に覚えておいてほしいものです。
リッチモンドが述べたものです。よって×。
リッチモンドは,「個人と社会環境との間を個別に意識的に調整する」と述べています。
既にこの時から環境を視野に入れているのは,さすが,ケースワークの母と呼ばれるリッチモンドだなぁ,と思います。
それにもかかわらず,その後,診断派と機能派が対立し,ソーシャルワークは社会問題に対応できなくなっていきます。
マイルズが「リッチモンドに帰れ」と述べたのは1950年代のことです。
「環境」を忘れるな,といった原点回帰だったのかもしれない,と思っています。
人名では,絶対に覚えておきたい筆頭です
3 パールマン(Perlnan,H.)は,役割概念を用いて,役割ネットワークのなかで生成している存在として個人をとらえた。
正解はこれです。
続けて出題されるものは少ないですが,第24回では以下のような問題が出題されています。
しかも正解です。過去問を丁寧に取り組んだ人は正解できたと思います。
パールマンは問題解決アプローチで,クライエントが社会的役割を遂行する上で生じる葛藤の問題を重視し,その役割遂行上の問題解決に取り組む利用者の力を重視した。
さまざまなアプローチでは,いくつも出題されていますが,その中で「役割」ということを中心概念に据えているのは,問題解決アプローチです。
パールマンは,「ワーカビリティ」という概念を提唱したことを覚えている方もいるかもしれません。
ワーカビリティとは,援助を自分に取り入れることの能力を言います。
クライエントに問題解決の動機付けがされてこそ援助可能となります。つまりクライエント自身がその役割を理解して問題解決に取り組むことが大切です。
この出題があったからこそ,この問題は成立できています。
役割=パールマン
と覚えましょう。覚える時のヒントは「ワーカビリティ」です。
その意味を一緒に覚えておくと,理解しやすいはずです。
4 バートレット(Bartlett,H.)は,人間にとってふさわしい場所の質は,その人の願望,能力,自信,環境の資源の機能によって決定されるとした。
これは難しいです。パールマンを正解に出来なかった人はこれを正解にしてしまった人もいたかもしれません。
しかし,ここで重要なのは,知らないことは,勉強不足ではなく,そんなことは述べていない,と考えることができる大胆さです。
もちろんこのようなことは述べていません。
よって×。
5 ゴスチャ(Goscha,R.)らは,社会生活機能の概念を,環境からの要求と個人が試みる対処との交換及び均衡に焦点化してとらえた。
環境からの要求
↓ ↓
(交互作用) ⇒ バランスを取る
↑ ↑
人が試みる対処
このような理解が最低でも必要です。
バートレットは,社会生活機能の概念を,環境からの要求と個人が試みる対処との交換及び均衡に焦点化してとらえた。
と丸暗記していたら,おそらく正解の
バートレット(Bartlett,H)は,人々が試みる対処と環境からの要求との間で保たれる均衡関係としてとらえた。
は正解だと思えなかったのではないでしょうか。
というものです。
つまり,この選択肢はバートレットです。
バートレットはとても重要です。しっかり押さえてほしいです。
すべての選択肢が分からなくても,正解することはできます。
理論系科目は,丸暗記はあまり覚える意味がありません。
これはこんなことを述べている,と詳しく分からなくても,大体こんなことを言っているのではないか? と思えるためには,自分なりに理解することが大切です。
今の時代は調べるとすぐ分かります。
分かると安心します。
しかし国試では,調べることができません。
そうすると,どうしよう,困った(頭の中が真っ白になる)
といったことが起きます。
分からないことは調べないと不安に思う,という人は,このパターンにはまりやすいので要注意です。
模擬試験は,自分の推測が正しいか,ずれているかを確かめる機会でもあります。
分からないものがあった場合
それでも今日の問題のように知っている知識を総動員して,正解できれば,自分の考え方はそんなに間違っていない,ということに自信を持って良いと思います。
国試では,1つの問題の中の5つの選択肢が正解か間違いなのかが分かる問題は稀有です。
つまり分からない選択肢も含まれているということになります。
それでも推測して,解いていくことが求められます。
模擬試験は,その訓練を行う大切な機会となるでしょう。
1回も模擬試験を受験しないで国試に臨むのは,すごいチャレンジャーだと思います。
模擬試験で推測のセンスがずれていたことが分かれば,その後の時間で修正することができます。
文章で出題される問題は意味を読み取るのは難しいです。
しかし,訓練で突破できます。