2025年3月28日金曜日

ヴェーバーの社会的行為(難易度は高くない)

前回に引き続き,今回もヴェーバーの社会的行為です。


目的合理的行為

価値合理的行為

伝統的行為

感情的行為

 

目的を達成するために行う行為。

 

行動そのものに意味がある行為。結果は重視されない。

 

慣習や習慣によって行う行為。

 

感情によって行う行為。


それでは,今日の問題です。


第34回・問題19

社会的行為に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。 

1 パーソンズ(Parsons,T.)は,相互行為における無意識的,習慣的な行為に着目し,そうした行為において利用される個人の文化的な蓄積を「文化資本」と呼んだ。

2 ハーバーマス(Habermas,J.)は,個人に外在して個人に強制力を持つ,信念や慣行などの行為・思考の様式,集団で生じる熱狂などの社会的潮流を「社会的事実」と呼び,社会学の固有の領域を定式化した。

3 ブルデュー(Bourdieu,P.)は,相互行為が相手の行為や期待に依存し合って成立していることを「ダブル・コンティンジェンシー」と呼んだ。

4 ヴェーバー(Weber,M.)は,社会的行為を四つに分類し,特定の目的を実現するための手段になっている行為を「目的合理的行為」と呼んだ。

5 デュルケム(Durkheim,E.)は,言語を媒介とした自己と他者の間で相互了解に基づく合意形成を目指す行為を「コミュニケーション的行為」と呼んだ。


人名が苦手な人にとっては,いやになるような問題だと思います。


しかし,いわゆるタクソノミーⅠ型の単純な出題スタイルなので,知識があればすぐに答えられます。

人名問題は,主語を入れ替えていることがあるので,そこに気がつくことができれば,正解しやすくなります。


それでは解説です。


1 パーソンズ(Parsons,T.)は,相互行為における無意識的,習慣的な行為に着目し,そうした行為において利用される個人の文化的な蓄積を「文化資本」と呼んだ。


個人の文化的な蓄積のことを「文化資本」というのは適切ですが,提唱したのは,ブルデューです。


2 ハーバーマス(Habermas,J.)は,個人に外在して個人に強制力を持つ,信念や慣行などの行為・思考の様式,集団で生じる熱狂などの社会的潮流を「社会的事実」と呼び,社会学の固有の領域を定式化した。


信念や慣行などの行為・思考の様式,集団で生じる熱狂などの社会的潮流のことを「社会的事実」というのは適切ですが,提唱したのは,デュルケムです。


3 ブルデュー(Bourdieu,P.)は,相互行為が相手の行為や期待に依存し合って成立していることを「ダブル・コンティンジェンシー」と呼んだ。


相互行為が相手の行為や期待に依存し合って成立していることを「ダブル・コンティンジェンシー」というのは適切ですが,提唱したのはパーソンズです。


4 ヴェーバー(Weber,M.)は,社会的行為を四つに分類し,特定の目的を実現するための手段になっている行為を「目的合理的行為」と呼んだ。


これが適切です。


社会的行為を四つに分類し,特定の目的を実現するための手段になっている行為は「目的合理的行為」です。


5 デュルケム(Durkheim,E.)は,言語を媒介とした自己と他者の間で相互了解に基づく合意形成を目指す行為を「コミュニケーション的行為」と呼んだ。


言語を媒介とした自己と他者の間で相互了解に基づく合意形成を目指す行為を「コミュニケーション的行為」というのは適切ですが,提唱したのはハーバーマスです。


いろいろな人が出題されていますが,結局正解となっているのは,ヴェーバーの社会的行為でした。


国家試験問題は,こういったように問題がつくられることが多いものです。


難しそうに見えても,実は正解は極めてスタンダードなものだったりします。


それを無視すると,正解できなくなり,第37回国家試験のように,ボーダーラインが下がります。


第37回・問題17

差別や偏見に関する次の記述のうち,適切なものを2つ選びなさい。

1 ゴッフマン(Goffman,E.)は,主に身体に付随し,それが他者にとっての偏見を呼び起こす「印」として機能するものをスティグマと呼んだ。

2 オルポート(Allport,G.)は,民族的偏見を「誤った,柔軟性のない一般化に基づいた反感」と定義づけた。

3 リップマン(Lippmann,W.)は,人々の知覚や認識を単純化して理解することをダブル・コンティンジェンシーと呼んだ。

4 コールマン(Coleman,J.)は,政治・経済・軍事などの分野のトップが社会の権力を握るとするパワーエリート論を展開した。

5 ミルズ(Mills,C.)は,一次的逸脱と二次的逸脱という概念を用いて,逸脱的アイデンティティが形成されるメカニズムを説明した。


この問題は,正解が1つのものであれば,それほど難しくないものですが,2つだったために超難しくなってしまいました。


正解は,選択肢1と2でした。

1 ゴッフマン(Goffman,E.)は,主に身体に付随し,それが他者にとっての偏見を呼び起こす「印」として機能するものをスティグマと呼んだ。

2 オルポート(Allport,G.)は,民族的偏見を「誤った,柔軟性のない一般化に基づいた反感」と定義づけた。


3 リップマン(Lippmann,W.)は,人々の知覚や認識を単純化して理解することをダブル・コンティンジェンシーと呼んだ。


ダブル・コンティンジェンシーはパーソンズが提唱したものです。

人々の知覚や認識を単純化して理解することは,ステレオタイプといいます。提唱したのは,ここに出題されているリップマンです。


4 コールマン(Coleman,J.)は,政治・経済・軍事などの分野のトップが社会の権力を握るとするパワーエリート論を展開した。


パワーエリート論を展開したのは,ミルズです。


5 ミルズ(Mills,C.)は,一次的逸脱と二次的逸脱という概念を用いて,逸脱的アイデンティティが形成されるメカニズムを説明した。


逸脱的アイデンティティが形成されるメカニズムを説明したのは,レマートです。

2025年3月27日木曜日

ヴェーバーの社会的行為

 「行為」とは,外から観察可能な「行動」と異なり,その人にとって意味のあるものをいいます。

 

別な言い方をすると,外から観察可能な行動に意味づけするのが,行為だと言えるでしょう。

 

ヴェーバーは,社会的行為を4つに分類しました。合理的がつくものとつかないものがありますが,すべて社会的行為です。

合理的がつかないものは,前近代的なもの。

合理的がつくものは,近代化の中で必要な行為。

といった意味合いなので,特に意識することはありません。4つすべてが社会的行為です。

  

目的合理的行為

価値合理的行為

伝統的行為

感情的行為

 

目的を達成するために行う行為。

 

行動そのものに意味がある行為。結果は重視されない。

 

慣習や習慣によって行う行為。

 

感情によって行う行為。

 

それでは今日の問題です。

 

26回・問題20 

社会的行為に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 目的合理的行為とは,ある目的を達成するために行われる行為を意味するので,祈願や祈祷などの行為もそれに含まれる。

2 伝統的行為とは,昔から家族や地域共同体等で行われてきたもので,季節の行事や慣習的な行為等を意味する。

3 価値合理的行為とは,信奉する価値の実現のために行われる行為を意味するので,その価値が実際に実現したかどうかという結果が重視される。

4 感情的行為とは,個人の内面における感情の表現が重視される行為を意味するので,社会的行為とはいえない。

5 コミュニケーション的行為とは,相互に相手の役割を確認しつつ行われる戦略的行為のことであって,相互了解や合意を目指すものではない。

 

なかなかの難問です。

 

ヴェーバーの社会的行為は4つしかないので,ハーバーマスの社会的行為を加えて,5つの選択肢にしています。

 

おそらくこの問題がハーバーマスの社会的行為が出題された最初でしょう。合わせて覚えておきたいです。

 

それでは解説です。

 

1 目的合理的行為とは,ある目的を達成するために行われる行為を意味するので,祈願や祈祷などの行為もそれに含まれる。

 

目的合理的行為は,ある目的を達成するために行われる行為を意味するのは,適切です。

 

しかし,祈願や祈祷などの行為は,価値合理的に含まれます。

 

2 伝統的行為とは,昔から家族や地域共同体等で行われてきたもので,季節の行事や慣習的な行為等を意味する。

 

これが正解です。

 

伝統的行為は,慣習や習慣によって行われる行為です。祭りなどが含まれます。

 

3 価値合理的行為とは,信奉する価値の実現のために行われる行為を意味するので,その価値が実際に実現したかどうかという結果が重視される。

 

価値合理的行為は,信奉する価値の実現のために行われる行為を意味するのは,適切です。

 

しかし,価値合理的行為は,その行為そのものに意味があるので,結果は重視しません。

 

4 感情的行為とは,個人の内面における感情の表現が重視される行為を意味するので,社会的行為とはいえない。

 

感情的行為は,「合理的」がつきませんが,感情的行為も社会的行為です。

 

5 コミュニケーション的行為とは,相互に相手の役割を確認しつつ行われる戦略的行為のことであって,相互了解や合意を目指すものではない。

 

これが,ハーバーマスの社会的行為です。ハーバーマスは,コミュニケーション的行為と戦略的行為などを論じています。

 

そのうちのコミュニケーション的行為は,コミュケーションを通して相互の理解を目指す社会的行為です。

 

戦略的行為は,自分の主張を通すための社会的行為であり,コミュニケーション的行為と正対する社会的行為です。

2025年3月26日水曜日

国民生活基礎調査

社会福祉士の国家試験では国民生活基礎調査がかなりの頻度で出題されています。


覚えるものが多くて大変ですが,得点したい問題です。


それでは,今日の問題です。

落ち着いて考えれば正解できます。


第34回・問題18

「平成27年国勢調査」(総務省)並びに「2019年国民生活基礎調査」(厚生労働省)における家族と世帯に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 国勢調査においては,世帯を「一般世帯」と「非親族世帯」の二つに大きく分類している。

2 国民生活基礎調査においては,「核家族世帯」には「三世代世帯」は含まない。

3 国民生活基礎調査においては,2019年(令和元年)現在,「65歳以上の者のいる世帯」の中で,「三世代世帯」の割合は「夫婦のみの世帯」の割合よりも高い。

4 国民生活基礎調査においては,2019年(令和元年)現在,65歳以上の単独世帯に占める割合は「男の単独世帯」の方が「女の単独世帯」よりも高い。

5 国民生活基礎調査においては,2019年(令和元年)現在,全世帯に占める「児童のいる世帯」の割合は「児童のいない世帯」の割合よりも高い。


よくわからないものは,選択肢1ではないかと思います。


1 国勢調査においては,世帯を「一般世帯」と「非親族世帯」の二つに大きく分類している。


国勢調査の分類は,一般世帯と施設等の世帯の2つです。


それでは,ほかの選択肢も解説します。


2 国民生活基礎調査においては,「核家族世帯」には「三世代世帯」は含まない。


核家族は,親と子の家族なので,親の親が同居する三世代世帯は含みません。


ということでこれが正解です。


落ち着いて考えると正解できそうだというのがわかるでしょう。


3 国民生活基礎調査においては,2019年(令和元年)現在,「65歳以上の者のいる世帯」の中で,「三世代世帯」の割合は「夫婦のみの世帯」の割合よりも高い。



三世代世帯は,子ども家族と同居する家族です。

夫婦のみ世帯のほうが多いです。


核家族が多いのですから当然でしょう。


4 国民生活基礎調査においては,2019年(令和元年)現在,65歳以上の単独世帯に占める割合は「男の単独世帯」の方が「女の単独世帯」よりも高い。


多いのは,女の単独世帯です。


女性の平均寿命が長いので,当然でしょう。


5 国民生活基礎調査においては,2019年(令和元年)現在,全世帯に占める「児童のいる世帯」の割合は「児童のいない世帯」の割合よりも高い。


多いのは児童のいない世帯です。

少子化の時代なので,当然でしょう。

2025年3月25日火曜日

リスク社会とは

  

今日のテーマは,リスク社会です。

 

前説なしで,今日の問題です。

 

34回・問題17

 次のうち,ベック(BeckU.)が提唱した,産業社会の発展に伴う環境破壊等によって人々の生活や社会が脅かされ,何らかの対処が迫られている社会を示す概念として,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 脱工業化社会

2 情報社会

3 ゲゼルシャフト

4 大衆社会

5 リスク社会

 

近年は,このような設問で内容を示し,選択肢は用語一言で示すタイプの問題が見られます。

 

知識の差がはっきり出るので,受験生泣かせだと言えるでしょう。

 

正解は,選択肢5の「リスク社会」です。

 

しかし,この問題の場合は,リスク社会を知らずとも「人々の生活や社会が脅かされ」からリスクに意味がつながるので,正解することができます。

 

この問題で,特に覚えておきたいのは,「ゲゼルシャフト」です。

 

 

ゲマインシャフト

(共同社会)

ゲゼルシャフト

(利益社会)

自然的な「本質意志」に基づいて結合する基礎的な集団です。

家族,地域の仲間,ムラなどがゲマインシャフトに当たります。

血縁,地縁,宗教などによって結合します。

ゲマインシャフトでは,個人よりも集団が優位な社会となるのが特徴です。

人為的(自然的ではないこと)な「選択意志」に基づく機能的な集団です。

会社,組織,大都市,国などがゲゼルシャフトに当たります。

共通の目的をもって結合します。

ゲゼルシャフトでは,集団よりも個人が優位な社会となるのが特徴です。

 

語弊を恐れずに言えば,ゲマインシャフトは田舎的な社会,ゲゼルシャフトは都会的な社会です。

2025年3月24日月曜日

属性主義と業績主義,そして社会移動


今回のテーマは,属性主義と業績主義です。


属性主義とは,自分の出自などによって地位が決まっている社会のことです。


業績主義とは,自らの努力などによって地位が変化していく社会のことです。


このように地位が変化することを社会移動といいます。

社会移動にもいろいろな用語がありますが,問題を解きながら覚えていきましょう。


それでは,今日の問題です。


第34回・問題15

社会階層と社会移動の諸概念に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 純粋移動とは,あらかじめ定められたエリートの基準に見合う者だけが育成され,エリートとしての地位を得ることをいう。

2 構造移動とは,産業構造や人口動態の変化によって社会的地位の移動を余儀なくされることをいう。

3 業績主義とは,本人の努力によって変更することができない要素によって社会的地位が与えられることをいう。

4 属性主義とは,個人の能力や成果に応じて社会的地位が与えられることをいう。

5 世代間移動とは,一個人の一生の間での社会的地位の移動のことをいう。


日本語の専門用語は,文字から意味を推測することができるので,それを手がかりとして覚えていくと覚えやすいと思います。この覚え方はとても重要なので,いつも忘れないようにしていてください。


それでは,解説です。


1 純粋移動とは,あらかじめ定められたエリートの基準に見合う者だけが育成され,エリートとしての地位を得ることをいう。


あらかじめ定められたエリートの基準に見合う者だけが育成され,エリートとしての地位を得ることは,庇護移動です。


庇護移動の対義語は,競争移動です。競争で勝ち残っていくことで,地位を得るのが競争移動です。


純粋移動は,自らの意思によって,地位を変えることです。


サラリーマンが早期退職して,故郷でカフェを開業することなどが純粋移動です。


純粋移動の対義語は,構造移動(あるいは純粋移動)です。


これは次に出てきますので,その時に解説します。


2 構造移動とは,産業構造や人口動態の変化によって社会的地位の移動を余儀なくされることをいう。


これが正解です。


構造移動(強制移動)は,自らの意思ではなく,環境の影響によって移動することです。


例えば,過疎化によって商売ができなくなる,ダムの建設によって立ち退きが必要となる,炭鉱が閉山となってヤマを下りなければならなくなる,などが構造移動です。



3 業績主義とは,本人の努力によって変更することができない要素によって社会的地位が与えられることをいう。

4 属性主義とは,個人の能力や成果に応じて社会的地位が与えられることをいう。


この2つは,入れ替えになっています。


属性主義とは,本人の努力によって変更することができない要素によって社会的地位が与えられることをいう。

業績主義とは,個人の能力や成果に応じて社会的地位が与えられることをいう。


属性主義の属性とは,家柄,出身校,国籍,性別など,本来の能力に関係なく個人に付属しているものです。


5 世代間移動とは,一個人の一生の間での社会的地位の移動のことをいう。


一個人の一生の間での社会的地位の移動は,世代内移動です。


世代間移動は,親と子の間で地位が変わることをいいます。



〈今日のまとめ〉


この問題で出題されたものを整理して,2つの文章を作ることができます。


業績主義によって,競争移動し,世代内移動が実現した。

その子も業績主義によって,さらに社会内の地位が変わり,世代間移動が実現した。


属性主義によって,庇護移動し,社会移動は行われなかった。


なお,社会移動に必要なのは,教育です。


日本が明治維新を成し遂げ,短期間に産業革命が起こり,工業化社会になったのは,江戸期からの高い識字率によるところが大きいと言えます。


国連開発計画が発表する「人間関係指数」の中には,識字率があります。


人間関係指数は,アマルティア・センのケイパビリティ(潜在能力)・アプローチの考え方を取り入れたものです。


識字率が潜在能力である理由は,字を読めることは,本を読むことであり,教育を受けるために必要なものだからです。


字を読めないことは,社会移動が起きないことにもつながります。

2025年3月23日日曜日

心理療法

心理学と心理的支援は,攻略しやすい科目です。

 

<得点しやすい理由>

 ①出題基準に沿って出題されている。

②間違い選択肢には言い回しの不自然がある。

 

特に

 

①出題基準に沿って出題されている。

 

はありがたいです。

 

たった6問しか出題されないにもかかわらず,今のところ,毎年出題される領域があります。

 

それが今日のテーマの心理療法です。

 

社会福祉士は実際に心理療法を行うことはないため,詳細な知識は求められていません。

 

おおよそどんなものであるかを理解していれば,十分です。

 

種類が多くて覚えるのが大変だと思う人もいると思いますが,出る可能性が高いものを覚えることなく国家試験に臨むのは,戦略ミスです。

 

それでは,今日の問題です。

 

34回・問題14

心理療法に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 精神分析療法では,無意識のエス(イド)の活動と,意識の自我(エゴ)の活動とが適切に関連するよう援助する。

2 家族療法は,家族問題を抱える個人を対象とする療法である。

3 遊戯療法(プレイセラピー)は,言語によって自分の考えや感情を十分に表現する方法であり,主として心理劇を用いる。

4 系統的脱感作法は,四肢の重感や温感,心臓調整,呼吸調整,腹部温感,額部涼感を順に得ることで,心身の状態を緊張から弛緩(しかん)へと切り替える。

5 臨床動作法は,「動作」という心理活動を通して,身体の不調を言語化させる療法である。

 

この問題は,知識ゼロでは正解するのは,5分の1以上の確率で正解することは困難です。

 

しかし,この問題の中には「言語」が含まれているものが2つあります。

 

3 遊戯療法(プレイセラピー)は,言語によって自分の考えや感情を十分に表現する方法であり,主として心理劇を用いる。

5 臨床動作法は,「動作」という心理活動を通して,身体の不調を言語化させる療法である。

 

この試験委員が言語にこだわっていることが推測できますが,遊戯療法と臨床動作法は,いずれも言語を用いるのは,それらの言葉からそぐわない感じがしませんか。

 

ここに気がつくことができれば,正解できる確率を3分の1まで引き上げることができます。

 

それでは,解説です。

 

1 精神分析療法では,無意識のエス(イド)の活動と,意識の自我(エゴ)の活動とが適切に関連するよう援助する。

 

これが正解です。

 

この問題の難易度が高いのは,これが正解だからです。

 

エス(イド)とエゴの働きについては,多くの教科書には掲載されていると思いますが,国家試験に出題されるのは多くありません。

 

生まれたばかりの時は「●●したい」という「エス(イド)」の塊です。

 

成長するにしたがって,「●●してはいけない」という「超自我(スーパーエゴ)」が生まれてきます。

 

「●●したい」という欲望を「●●してはいけない」という「超自我(スーパーエゴ)」が抑圧していきます。

 

フロイトの精神分析学では,無意識の領域に抑圧したものが心身に影響を及ぼすと考えました。

 

「エス(イド)」と「スーパーエゴ」のバランスを取るのが,「自我(エゴ)」と呼ばれるものです。

 

エゴは,別な言い方をすれば,「冷静な自分」ということができるかもしれません。

 

精神分析療法では,エゴの適切に働くようにアプローチしていきます。

 

2 家族療法は,家族問題を抱える個人を対象とする療法である。

 

家族療法は,家族問題を抱える個人ではなく,家族全体を対象とする心理療法です。

 

家族の成員同士が影響を与え,影響を受けるものだからです。

 

3 遊戯療法(プレイセラピー)は,言語によって自分の考えや感情を十分に表現する方法であり,主として心理劇を用いる。

 

心理劇を用いるのは,サイコドラマです。

 

遊戯療法は,遊びの中に抑圧されているものが表現されていると考えます。うまく言語化できない子どもなどを対象として実施されます。

 

4 系統的脱感作法は,四肢の重感や温感,心臓調整,呼吸調整,腹部温感,額部涼感を順に得ることで,心身の状態を緊張から弛緩へと切り替える。

 

四肢の重感や温感,心臓調整,呼吸調整,腹部温感,額部涼感を順に得ることで,心身の状態を緊張から弛緩へと切り替えるのは,催眠療法の一つである自立訓練法です。

 

系統的脱感作法は,学習療法を用いて,不安に思うものに徐々に慣れさせていく心理療法です。

 

5 臨床動作法は,「動作」という心理活動を通して,身体の不調を言語化させる療法である。

 

臨床動作法は,動作を通して心理的問題を改善させようとする心理療法です。

2025年3月22日土曜日

ウェクスラー式知能検査

日本で知られる知能検査として,ビネー式とウェクスラー式があります。

 

どちらも改訂を重ねていますが,古いのはビネー式です。

 

ビネー式を開発したビネーは,知能指数という概念を提唱した人物です。

 

臨床現場でよく用いられるのは,ウェクスラー式です。

 

ウェクスラー式の知能検査には,低年齢児用のWPPSI(ウィプシ),子ども用のWISC(ウィスク),成人用のWAIS(ウェイス)があります。

 

ウェクスラー式の対象年齢

WPPSI-Ⅲ

2歳6か月~7歳3か月

WISC-Ⅳ

5歳0か月~1611か月

WAIS

16歳0か月~9011か月

 

発達検査は,対象年齢が厳格です。

対象年齢以外では,適正な検査を行うことができません。

しかし,公認心理師の試験ではないので,対象年齢をきっちり覚える必要はありません。

覚えるのは

低年齢児用 → WPPSI(ウィプシ)

子ども用  → WISC(ウィスク)

成人用   → WAIS(ウェイス)

 

これだけで十分です。近年の国試では,対象年齢が問われるので,これだけは覚えることが必要です。

 

WAISWISCで検査できるもの

全検査IQ

言語理解

知覚推理

ワーキングメモリ

処理速度

 

この4つの指標を測定します。

このうちのワーキングメモリは,聴覚記憶(耳で聞いたものを想起する)に関する知能指数を測定します。

 

4つの指標によって,得意なものや不得意なものがわかります。それによって,指導の方法や選択する職業の参考にすることができます。

 

全検査IQと4つの得点指標の数値の読み方

130以上

非常に高い

120129

高い

110119

平均の上

90109

平均

8089

平均の下

7079

低い

69以下

非常に低い

 

 

それでは,今日の問題です。

 

34回・問題13

心理検査に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 ウェクスラー児童用知能検査第4版(WISC-Ⅳ)は,対象年齢が2歳から7歳である。

2 ミネソタ多面人格目録(MMPI)では,日常生活の欲求不満場面を投影法により測定する。

3 改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は,高齢者の抑うつを測定する。

4 ロールシャッハテストは,図版に対する反応からパーソナリティを理解する投影法検査である。

5 矢田部ギルフォード(YG)性格検査は,連続した単純な作業を繰り返す検査である。

 

心理検査には,さまざまな種類がありますが,社会福祉士の国家試験で出題されているものはほぼ固定されています。

 

参考書に書かれているものは,確実に覚えておきたいです。

 

なお,今日の問題には出題されていませんが,心理検査でもう一つ重要なものとして,カットオフ値(カットオフポイント)というものがあります。

 

カットオフ値とは,検査結果の分かれ目となる点数のことです。

 

改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)の場合は,30点満点のうちの20点がカットオフ値です。

 

この点数よりも低い場合は,認知症が疑われます。できるものが得点となるからです。

 

逆に点数が高い方が可能性が高いものもあります。

 

たとえば,抑うつ状態を調べるBDI(ベック抑うつ質問票)は,当てはまるものの数が多いほど抑うつ状態の可能性が高くなります。

 

それでは,解説です。

 

1 ウェクスラー児童用知能検査第4版(WISC-Ⅳ)は,対象年齢が2歳から7歳である。

 

WISC-Ⅳの対象年齢は,5歳0か月~1611か月です。

 

2歳から7歳(正確には,2歳6か月~7歳3か月)を対象とするのは,WPPSI(ウィプシ=低年齢児用)です。

 

2 ミネソタ多面人格目録(MMPI)では,日常生活の欲求不満場面を投影法により測定する。

 

日常生活の欲求不満場面を投影法により測定する心理検査(パーソナリティ検査)は,PFスタディです。

 

ミネソタ多面人格目録(MMPI)もパーソナリティ検査ですが,投影法ではなく,質問紙法です。

 

3 改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は,高齢者の抑うつを測定する。

 

改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)は,認知症の可能性を調べる検査です。

 

認知症のスクリーニング検査として,HDS-RのほかにMMSEが知られます。MMSEの点数もHDS-Rと同じ30点満点ですが,カットオフ値はHDS-Rよりも少し高い23点あたりです。

 

4 ロールシャッハテストは,図版に対する反応からパーソナリティを理解する投影法検査である。

 

これが正解です。ロールシャッハテストは,図版(インクのしみの図)に対する反応からパーソナリティを理解する投影法検査です。

 

5 矢田部ギルフォード(YG)性格検査は,連続した単純な作業を繰り返す検査である。

 

矢田部ギルフォード(YG)性格検査は,質問紙法によるパーソナリティ検査です。

 

連続した単純な作業を繰り返す検査は,作業検査法です。日本では,内田クレペリン検査が知られます。

 

内田クレペリン検査は,1桁の数字の足し算を時間内で行う作業検査法です。

 

開始後の成績はよくて,そのうち,成績が下がります。

終わりに近づくとまた成績が良くなります。

 

そこで休憩します。

 

休憩後の最初の成績はよくて,そのうち,成績が下がります。

終わりに近づくとまた成績が良くなります。

 

これが良い結果とされます。

2025年3月21日金曜日

汎適応症候群(一般適応症候群)とは

 今回は,セリエによる汎適応症候群(一般適応症候群)です。


汎適応症候群(一般適応症候群)のプロセス


警告反応期

  ↓

 抵抗期

  ↓

 疲弊期



ストレスを受けると,最初にストレスに耐えられるように抵抗力を高める準備します。

 

これが警告反応期です。

 

ストレスが続くと,ストレスに抵抗していきます。

 

これが,抵抗期です。

 

さらにストレスが続くと,ストレスに耐え切れなくなります。

 

これが疲弊期です。

 

それでは,今日の問題です。

 

34回・問題12

ストレスに関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 汎適応症候群(一般適応症候群)における警告反応期とは,ストレス状況にうまく適応した時期のことである。

2 汎適応症候群(一般適応症候群)における抵抗期とは,外界からの刺激を長期間受け,生体のエネルギーが限界を超えた時期のことである。

3 ホメオスタシスとは,外的内的環境の絶え間ない変化に応じて,生体を一定の安定した状態に保つ働きのことである。

4 タイプA行動パターンには,他者との競争を好まないという特性がある。

5 心理社会的ストレスモデルでは,ある出来事がストレスになり得るかどうかに,個人の認知的評価が影響することはないとされている。

 

この問題自体は,ある程度知識があれば正解できます。しかし,それで満足していては,今日のテーマである「汎適応症候群」(一般適応症候群)を覚えることなくスルーしてしまいます。

 

それでは,解説です。

 

1 汎適応症候群(一般適応症候群)における警告反応期とは,ストレス状況にうまく適応した時期のことである。

 

警告反応期は,ストレスに耐えられるように準備している時期です。

ストレス状況に適応しているわけではありません。

 

2 汎適応症候群(一般適応症候群)における抵抗期とは,外界からの刺激を長期間受け,生体のエネルギーが限界を超えた時期のことである。

 

外界からの刺激を長期間受け,生体のエネルギーが限界を超えた時期は,疲弊期です。

 

抵抗期は,ストレスに抵抗している時期です。

 

3 ホメオスタシスとは,外的内的環境の絶え間ない変化に応じて,生体を一定の安定した状態に保つ働きのことである。

 

これが正解です。

 

ホメオスタシスとは,外的内的環境の絶え間ない変化に応じて,生体を一定の安定した状態に保つ働きのことです。

 

これまでに何度も出題されています。

 

4 タイプA行動パターンには,他者との競争を好まないという特性がある。

 

フリードマンが述べた「タイプA行動パターン」は,他者との競争を好むとされます。

 

心筋梗塞になりやすい傾向があることが指摘されています。

 

ストレスに気がつかずに,無理を重なるからでしょう。

 

5 心理社会的ストレスモデルでは,ある出来事がストレスになり得るかどうかに,個人の認知的評価が影響することはないとされている。

 

心理社会的ストレスモデルとは,ストレス環境をどのように受け止めるか,によってストレスになると考えるものです。

 

人によってはストレスにならないことでも,ある人にはストレスになることもあります。

 

これは,心理社会的ストレスモデルで説明することができます。

2025年3月20日木曜日

エリクソンの発達理論

第34回国家試験では,珍しくこの2つが並んで出題されています。

エリクソンの発達理論は,人生を8つの段階に分けて,それぞれの発達課題を設定しているのが特徴です。


エリクソンによる発達段階の発達課題vs危機

乳児期(01歳) 基本的信頼 vs 基本的不信

幼児前期(13歳) 自立性 vs 恥・疑惑

幼児後期(36歳) 自主性 vs 罪悪感

児童期(711歳) 勤勉性 vs 劣等感

青年期(1220歳) 同一性獲得vs 同一性拡散

前成人期(2030歳) 親密 vs 孤立

成人期(3065歳) 世代性 vs 停滞

老年期(65歳以降) 統合 vs 絶望


訳し方によって,表現が異なるものもありますが,おおよそのことだけを理解していれば何とかなります。


それでは,今日の問題です。


34回・問題11

エリクソン(EriksonE.)の発達段階説における各発達段階の課題に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 乳児期では,自発性の獲得である。

2 幼児期後期では,信頼感の獲得である。

3 学童期(児童期)では,親密性の獲得である。

4 青年期では,自律感の獲得である。

5 老年期では,統合感の獲得である。

 

危機については,これまでほとんど出題されたことはありませんが,これからの出題に備えて,発達課題だけではなく,危機も覚えておくと良いと思います。

 

それでは,解説です。

 

1 乳児期では,自発性の獲得である。

 

乳幼児の発達課題は,信頼性の獲得,危機は,不信です。

 

2 幼児期後期では,信頼感の獲得である。

 

幼児期後期の発達課題は,自主性,危機は,罪悪感です。

 

3 学童期(児童期)では,親密性の獲得である。

 

児童期の発達課題は,勤勉性,危機は,劣等感です。

 

4 青年期では,自律感の獲得である。

 

青年期の発達課題は,同一性獲得,危機は,同一性拡散です。

 

5 老年期では,統合感の獲得である。

 

これが正解です。

 

老年期の発達課題は,統合感の獲得,危機は絶望です。

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