今回のテーマは,属性主義と業績主義です。
属性主義とは,自分の出自などによって地位が決まっている社会のことです。
業績主義とは,自らの努力などによって地位が変化していく社会のことです。
このように地位が変化することを社会移動といいます。
社会移動にもいろいろな用語がありますが,問題を解きながら覚えていきましょう。
それでは,今日の問題です。
第34回・問題15
社会階層と社会移動の諸概念に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 純粋移動とは,あらかじめ定められたエリートの基準に見合う者だけが育成され,エリートとしての地位を得ることをいう。
2 構造移動とは,産業構造や人口動態の変化によって社会的地位の移動を余儀なくされることをいう。
3 業績主義とは,本人の努力によって変更することができない要素によって社会的地位が与えられることをいう。
4 属性主義とは,個人の能力や成果に応じて社会的地位が与えられることをいう。
5 世代間移動とは,一個人の一生の間での社会的地位の移動のことをいう。
日本語の専門用語は,文字から意味を推測することができるので,それを手がかりとして覚えていくと覚えやすいと思います。この覚え方はとても重要なので,いつも忘れないようにしていてください。
それでは,解説です。
1 純粋移動とは,あらかじめ定められたエリートの基準に見合う者だけが育成され,エリートとしての地位を得ることをいう。
あらかじめ定められたエリートの基準に見合う者だけが育成され,エリートとしての地位を得ることは,庇護移動です。
庇護移動の対義語は,競争移動です。競争で勝ち残っていくことで,地位を得るのが競争移動です。
純粋移動は,自らの意思によって,地位を変えることです。
サラリーマンが早期退職して,故郷でカフェを開業することなどが純粋移動です。
純粋移動の対義語は,構造移動(あるいは純粋移動)です。
これは次に出てきますので,その時に解説します。
2 構造移動とは,産業構造や人口動態の変化によって社会的地位の移動を余儀なくされることをいう。
これが正解です。
構造移動(強制移動)は,自らの意思ではなく,環境の影響によって移動することです。
例えば,過疎化によって商売ができなくなる,ダムの建設によって立ち退きが必要となる,炭鉱が閉山となってヤマを下りなければならなくなる,などが構造移動です。
3 業績主義とは,本人の努力によって変更することができない要素によって社会的地位が与えられることをいう。
4 属性主義とは,個人の能力や成果に応じて社会的地位が与えられることをいう。
この2つは,入れ替えになっています。
属性主義とは,本人の努力によって変更することができない要素によって社会的地位が与えられることをいう。
業績主義とは,個人の能力や成果に応じて社会的地位が与えられることをいう。
属性主義の属性とは,家柄,出身校,国籍,性別など,本来の能力に関係なく個人に付属しているものです。
5 世代間移動とは,一個人の一生の間での社会的地位の移動のことをいう。
一個人の一生の間での社会的地位の移動は,世代内移動です。
世代間移動は,親と子の間で地位が変わることをいいます。
〈今日のまとめ〉
この問題で出題されたものを整理して,2つの文章を作ることができます。
業績主義によって,競争移動し,世代内移動が実現した。
その子も業績主義によって,さらに社会内の地位が変わり,世代間移動が実現した。
属性主義によって,庇護移動し,社会移動は行われなかった。
なお,社会移動に必要なのは,教育です。
日本が明治維新を成し遂げ,短期間に産業革命が起こり,工業化社会になったのは,江戸期からの高い識字率によるところが大きいと言えます。
国連開発計画が発表する「人間関係指数」の中には,識字率があります。
人間関係指数は,アマルティア・センのケイパビリティ(潜在能力)・アプローチの考え方を取り入れたものです。
識字率が潜在能力である理由は,字を読めることは,本を読むことであり,教育を受けるために必要なものだからです。
字を読めないことは,社会移動が起きないことにもつながります。