「福祉行財政と福祉計画」は,分野論ではありません。
各分野の制度の横並び,いわゆる横断的に出題されるのが特徴です。
別な見方をすれば,各分野で学ぶことの「総まとめ」です。
ということは,この科目でしっかり覚えておくことは,各科目の底力をアップさせることになります。
さて,今日の問題は,前回に関連して,費用の支払い方式です。
第23回・問題42 社会保障各制度における利用者による費用の一部負担に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 健康保険法に基づき保険医療機関等から療養の給付を受ける者は,原則として定率の一部負担金を保険医療機関等に支払わなければならない。
2 児童福祉法に基づく保育の実施として保育所への入所が行われた場合は,所得にかかわらず一定額の費用徴収が行われる。
3 都道府県の措置により児童養護施設への入所が行われた場合の費用の一部負担額は,原則として家庭裁判所がこれを定める。
4 市町村の措置により養護老人ホームへの入所が行われた場合は,原則として応益負担原則に基づき,費用徴収が行われる。
5 介護保険における居宅介護サービス費の支給は,指定事業者が代理受領することにより,結果として応能負担原則に基づく利用者負担を実現している。
この問題を解くポイント
応能負担
支払い能力によって,利用料を支払う方式。福祉サービスなどが応能負担を取っています。
応益負担
サービスを受けた量に対して,利用料を支払う方式。医療保険,介護保険などが応益負担を取っています。
これを読んで「あれっ?」と思った人は,勉強が進んでいる証拠です。
社会保障制度審議会の1962年勧告では,社会保障制度を以下のように区分しました。
貧困階層に対する施策 → 生活保護制度
低所得階層に対する施策 → 社会福祉制度
一般所得階層に対する施策 → 社会保険制度
福祉サービスは,低所得者層に対する施策です。
社会保険制度は,一般所得階層に対する施策です。
社会保険制度は,支払い能力がある一般所得階層に対する施策であるため,応益負担が取られていると言えます。
応能負担,あるいは応益負担が出題されたときは,その制度は,社会福祉制度なのか,社会保険制度なのか,を考えましょう。
以前は,シンプルな覚え方ができませんでした。
なぜなら,障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)ができたとき,社会福祉制度にもかかわらず,応益負担を原則としたからです。
この部分が問題となり,法では応益負担を原則としながら,応能負担を取り入れました。応能負担が原則と法に明記されたのは,総合支援法成立時です。
しかし,社会福祉制度である障害福祉サービスに応益負担を取り入れることは,国にとって大きなチャレンジだったと思います。
応能負担は,ややもすると利用者にスティグマを与えます。応益負担は,それがありません。
本当の論点は,障害者が応益負担できるほどの所得がなかったことだったと思います。
そうであれば,応益負担できるほどの所得補償をする方法もあったはずです。
福祉サービス提供事業者には,応益負担であっても応能負担であっても同じ収入があります。それを考えると,障害者に対する所得補償をしても国等の負担は増加することはないはずです。
障害者にスティグマを与えずにサービス利用できる道を開いたのに,応能負担に戻ってしまったことはちょっと残念だと思ってしまいます。
そのことで,国試での覚えるポイントは,とてもシンプルになったのは確かです。
社会福祉制度は応能負担が原則。
社会保険制度は応益負担が原則。
それでは解説です。
1 健康保険法に基づき保険医療機関等から療養の給付を受ける者は,原則として定率の一部負担金を保険医療機関等に支払わなければならない。
これが正解です。「定率の一部負担金」とは,応益負担を示しています。
2 児童福祉法に基づく保育の実施として保育所への入所が行われた場合は,所得にかかわらず一定額の費用徴収が行われる。
保育所は,社会福祉制度です。
保育所はなじみ深いので間違いだと分かると思いますが,応能負担です。よって間違いです。
3 都道府県の措置により児童養護施設への入所が行われた場合の費用の一部負担額は,原則として家庭裁判所がこれを定める。
児童養護施設の費用負担は,都道府県が定めます。よって間違いです。家庭裁判所が出てきてびっくりしたことでしょう。成年後見制度における後見人への謝礼は,家庭裁判所が定めるのでそれに引っ掛けて出題されたものだと思います。
4 市町村の措置により養護老人ホームへの入所が行われた場合は,原則として応益負担原則に基づき,費用徴収が行われる。
高齢者分野は,老人福祉法と介護保険法の2つがあります。
老人福祉制度は社会福祉制度。
介護保険制度は社会保険制度。
措置によって利用するのは,社会福祉制度です。したがって,養護老人ホームの利用料は,応能負担です。
よって間違いです。
5 介護保険における居宅介護サービス費の支給は,指定事業者が代理受領することにより,結果として応能負担原則に基づく利用者負担を実現している。
介護保険制度は,社会保険制度は応益負担です。よって間違いです。
<今日の一言>
社会保障制度は,さまざまな制度で成り立っているので,複雑そうに見えます。
しかし,制度にはそれを成り立たせる原理があります。
それを整理できれば,かなり得点力が上がります。
効率よく勉強する人は,こういう部分を見つけるのが上手です。
共通するものを覚えて,それに当てはまらないものを見つけたら,それを重点的に覚えます。
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