国試が終わったあとの感想としてよくあるのは
今年の出題傾向が変わったね
というものです。
しかし,国試は
少しずつ重なっていて,少しずつ違う
が基本です。
少しずつ違うの部分は毎年1~2割です。
逆に少しずつ重なっている部分は,8~9割です。
1~2割の部分が国試のくせ者です。
ここの部分に振り回されて,本来は解けるべき問題でも解けなくなります。
さて,今日のテーマは,「想像力を高めること」です。
どんなに勉強しても,1~2割は勉強したことがないものが出題されます。
知っているものを「ど忘れ」するのではなく,知らないものです。
そこの対応法が想像力です。
創造力は,確かな知識があることが前提となります。
しかし確かな知識があっても,勉強するときに意識しないと想像力は高まりません。
それでは,今日の問題です。
第28回・問題44 福祉事務所に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 都道府県の設置する福祉事務所は,身体障害者福祉法,知的障害者福祉法に定める事務のうち,都道府県が処理することとされているものをつかさどる。
2 福祉事務所の所長は,その職務の遂行に支障がない場合においても,自ら現業事務の指導監督を行うことはできない。
3 現業を行う所員の定数は,被保護世帯数に応じて最低数が法に定められている。
4 町村が福祉事務所を設置した場合には,社会福祉主事を置くこととされている。
5 2003年(平成15年)4月現在と2014年(平成26年)4月現在を比べると,都道府県の設置する福祉事務所数は増えている。
福祉事務所は,社会福祉法に「福祉に関する事務所」として,規定されるものです。
福祉事務所は,頻出でありながら,この問題を初めて見た人は「ハッ」とさせられたことでしょう。
なぜなら,法制度だけではなく,動向を含めて出題されているからです。
それでは解説です。
1 都道府県の設置する福祉事務所は,身体障害者福祉法,知的障害者福祉法に定める事務のうち,都道府県が処理することとされているものをつかさどる。
市町村の福祉事務所は,福祉六法をつかさどりますが,都道府県の福祉事務所は,権限移譲によって,生活保護法,児童福祉法,母子及び父子並びに寡婦福祉法の3法をつかさどっています。よって間違いです。
勉強していなくても,設問では生活保護が入っていないことで間違いだと想像できるでしょう。
2 福祉事務所の所長は,その職務の遂行に支障がない場合においても,自ら現業事務の指導監督を行うことはできない。
これは,過去に何度も出題された実績があるものですし,どの参考書にも必ず以下のように書いてあります。
査察指導員と現業員は社会福祉主事でなければならない。
福祉事務所の長は,その職務の遂行に支障がない場合,自ら現業事務の指導監督を行うことができる。
よって間違いです。
3 現業を行う所員の定数は,被保護世帯数に応じて最低数が法に定められている。
ここで,先日の覚え方が生きてきます。
<基準に従い>
文字通り,国の基準に従わなければならないものです。福祉施設の建築基準,職員の配置数などがこれに当たります。
<基準を標準として>
国の基準と異なっていても,合理的な場合は許されるものです。福祉施設の入所定員,通所施設の利用定員,福祉事務所の現業員(ケースワーカー)数,児童相談所の児童福祉司数などがこれに当たります。児童相談所の児童福祉司は,以前は,「基準を参酌して」でしたが,現在は拘束力が大きい「基準を標準として」に変更されています。
<基準を参酌して>
国の基準を参考にして,定めることができるものです。民生委員・児童委員の定数などがこれに当たります。そのほかには,「基準に従い」「基準を標準として」以外のすべてのものです。
ということで,現業員数は,最低数ではなく,「標準」ということになります。よって間違いです。
4 町村が福祉事務所を設置した場合には,社会福祉主事を置くこととされている。
これは正解ですが,これを間違いだと思った人がいたと思います。
なぜなら,町村は福祉事務所の設置は任意なので,社会福祉主事の配置も任意だと思ってしまう可能性があるからです。しかし,福祉事務所には社会福祉主事は必置ですから,当然任意で設置した福祉事務所であっても必置となります。
5 2003年(平成15年)4月現在と2014年(平成26年)4月現在を比べると,都道府県の設置する福祉事務所数は増えている。
これが最も難しいものだと思います。
もともと任意だったものが,必置になれば増加する可能性はあります。
しかし,都道府県は福祉事務所は必置です。増加する可能性は少ないです。
そこでピンと来た人もいるかもしれませんが,2000年代になって,いわゆる「平成の大合併」が行われました。それによって3,000以上あった市町村数が2,000を切りました。
都道府県が設置していた郡部が市に昇格した自治体があります。
そのため,都道府県の設置する福祉事務所は減少しています。よって間違いです。
平成の大合併を想像できることが,この問題をより正解できる決め手だったように思います。
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