「福祉行財政と福祉計画」はまとめの科目ではなく,最初に取り組んでほしい科目です。
実は,法制度の中心的科目は,「社会保障」だと考えていました。
それも間違いではないのですが,「社会保障」は,社会保障制度全体を学ぶのではなく,基本は「社会保険制度」を学ぶ科目のように思います。
カリキュラムが改正される時には,社会保障制度全体を押さえる科目にするか,逆に潔く「社会保険」という科目にしてしまえば良いと思います。
何を言いたいかといえば,社会保険は,分野論で言えば,保健医療,高齢者にしか適用されず,地域福祉,低所得者,児童,障害(一部),の領域はかやの外です。
つまり,社会保障の科目で学ぶ内容は,一部の科目にしか活用できないと思います。
それに比べて,福祉行財政と福祉で学ぶ内容は,極めて広範囲にわたります。
そういう面で,法制度を学ぶ入り口の科目としては最適だと思うようになってきました。
具体的に言えば,各領域に共通するものを見つけやすいと思います。
分野論では,共通するものを押さえたうえで,それと違うものを押さえていくといった手法が使えます。
それでは今日の問題です。
第23回・問題46 市町村が策定する福祉等の計画に基づく事業を実施するための財源に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。
1 市町村老人福祉計画に定められた老人福祉事業の実施に要する費用については,介護保険法による給付に優先して,市町村が支弁することになっている。
2 現行の市町村介護保険事業計画に盛り込まれる包括的支援事業については,第2号被保険者の保険料の負担はない。
3 市町村障害福祉計画に基づき市町村が支弁する障害福祉サービス費等の負担対象額について,国・都道府県が3分の1ずつを負担するものとされている。
4 市町村地域福祉計画には,市町村の一般財源によって実施される事業に限定して盛り込むこととされている。
5 市町村健康増進計画に基づく健康増進事業は,市町村の一般財源から2分の1,国民健康保険財源から2分の1の支出で実施されるものとされている。
法制度に関するものは,しっかり押さえないと得点することはほとんどできません。
なぜなら,国語的に破たんした問題は少ないからです。
さて,今日の問題は,選択肢2が正解です。
制度が分かっていないとこれを〇にすることは難しいです。
しかし,この問題は,受験テクニックに長けたスーパー小学生は内容を知らずに正解してしまう可能性があります。
内容は分からなくても,何となく「これかな?」と思うのです。
この問題には,実は破たんポイントがあります。
なぜなら,選択肢2だけが,否定形になっているからです。
それ以外はすべて肯定形です。
すべて否定形にする,あるいはすべて肯定形にする。
否定形と肯定形をほどよく織り込む。
という処理をしないと,意図せずして「答えはこれだよ」と示してしまうこともあります。
今はこんなへぼ問題が出題されることはないと思いますが,解答テクニックの一つとして覚えておいて良いと思います。
ほかの選択肢も簡単に解説すると,
1は,介護保険が優先されるからです。
2は正解です。
3は,国,都道府県,市町村の負担割合が違います。
国が2分の1,都道府県と市町村はそれぞれ4分の1です。
4は,もちろん特定財源も盛り込みます。一般財源で行う単独事業は15%,特定財源で行う補助事業は85%,圧倒的に補助事業の方が多かったですね。
5は,このような規定はありません。
(今日の一言)
健康増進法に基づく健康増進事業では,以下のような事業が行われています。
(1)健康手帳の交付
(2)健康教育
(3)健康相談
(4)機能訓練
(5)訪問指導
(6)総合的な保健推進事業
ここで着目したいのは,健康手帳の交付です。
健康手帳は,(2)~(5)を受けた者,及び高齢者医療確保法に基づく特定健康診査を受けた者に対して市町村が交付するものです。
手帳にはいくつかの種類があります。
市町村が交付するもの → 健康手帳,母子健康手帳
高度,かつ専門的な判断は求められません。
都道府県が交付するもの → 身体障害者手帳,精神障害者保健福祉手帳,療育手帳
障害認定という,高度,かつ専門的な判断が求められます。
発達障害者には,発達障害のための手帳はありませんが,精神保健福祉法では精神障害者の中に発達障害者を含みます。
2018年から,障害者雇用促進法に基づく法定雇用率の算定基礎に精神障害者が加わり,雇用義務化されています。
今まで発達障害者は,精神障害者保健福祉手帳の交付を受けることは少なかったかもしれません。
しかし精神障害者が雇用義務化されたことにより,発達障害者も交付を受けることで,就職しやすくなり,また働きやすくなるのではないかと期待しているところです。
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