福祉行財政と福祉計画の特徴は,分野論ではないことです。
分野論ではない科目には「現代社会と福祉」もあります。
「福祉行財政と福祉計画」と「現代社会と福祉」の違いは,前者は,法制度に関するもの,後者は福祉政策に関するもの,という点です。
旧カリキュラムでは,この2つの科目は「社会福祉原論」という一つの科目でしたが,現行カリキュラムによって分離させたのです。
社会福祉原論は難易度の高い科目でした。それを2つに分けても難易度の高さは同様です。
福祉行財政と福祉に関して言えば,国試での出題のされ方は,出題ポイントが定まってきています。
しかし,受験する側にしてみれば,難易度が高い科目であることには変わりません。
今日取り上げる問題もそんな問題です。
第25回・問題42 福祉事務所及び社会福祉施設等の設備運営基準を定める地方公共団体の条例に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 福祉事務所において現業を行う所員の数については,各事務所につき,社会福祉法で定める数を標準として定めるものとされている。
2 児童福祉施設に配置する従業者及びその員数については,厚生労働省令で定める基準を標準として定めるものとされている。
3 養護老人ホームの入所定員については,厚生労働省令で定める基準に従い定めるものとされている。
4 介護保険法の指定居宅サービス事業に係る居室・療養室及び病室の床面積については,厚生労働省令で定める基準を参酌して定めるものとされている。
5 障害者総合支援法の指定障害福祉サービス事業に係る利用定員については,厚生労働省令で定める基準を参酌して定めるものとされている。
勉強が足りない人にとっては,まったく答えが分からない問題です。
勉強した人でも,答えるのはとても難しいものだと思います。
この問題は,この科目の典型例だと言えるでしょう。
制度が違う内容のものを横並びにしているからです。
この手の問題の攻略法は,決まっています。
前回と同じように,共通事項を押さえて,例外事項を押さえることです。
戦略を立てなければ,正攻法では間違う確率が高くなります。
地方公共団体が条例を定める場合,3つのポイントがあります。
<基準に従い>
文字通り,国の基準に従わなければならないものです。福祉施設の建築基準,職員の配置数などがこれに当たります。
<基準を標準として>
国の基準と異なっていても,合理的な場合は許されるものです。福祉施設の入所定員,通所施設の利用定員,福祉事務所の現業員(ケースワーカー)数,児童相談所の児童福祉司数などがこれに当たります。
児童相談所の児童福祉司は,以前は,「基準を参酌して」でしたが,現在は拘束力が大きい「基準を標準として」に変更されています。
<基準を参酌して>
国の基準を参考にして,定めることができるものです。民生委員・児童委員の定数などがこれに当たります。そのほかには,「基準に従い」「基準を標準として」以外のすべてのものです。
もう一度整理してみましょう。
基準に従い → 建築基準や職員の配置数など
基準を標準として → 施設の入所定員,児童相談所の児童福祉司の配置数など
基準を参酌して → 民生委員・児童委員の定数など
さて,これを頭に入れて,解説です。
1 福祉事務所において現業を行う所員の数については,各事務所につき,社会福祉法で定める数を標準として定めるものとされている。
福祉事務所において現業を行う所員の数 → 「基準を標準として」
よって正解です。
2 児童福祉施設に配置する従業者及びその員数については,厚生労働省令で定める基準を標準として定めるものとされている。
福祉施設の職員配置数 → 「基準に従い」
よって間違いです。
3 養護老人ホームの入所定員については,厚生労働省令で定める基準に従い定めるものとされている。
福祉施設の入所定員 → 「基準を標準として」
よって間違いです。
4 介護保険法の指定居宅サービス事業に係る居室・療養室及び病室の床面積については,厚生労働省令で定める基準を参酌して定めるものとされている。
福祉施設の建築基準 → 「基準に従い」
よって間違いです。
5 障害者総合支援法の指定障害福祉サービス事業に係る利用定員については,厚生労働省令で定める基準を参酌して定めるものとされている。
利用定員 → 「基準を標準として」
よって間違いです。
<今日の一言>
福祉行財政と福祉計画は,学習戦略を立てるための科目
今日の問題を見たときは,何を手がかりにして解けばよかったのか,さっぱり分からなかったのではないでしょうか。
しかし,先述の押さえるべきポイントが頭に入ったあとは,すらすら解けたのではないとょうか。
国試問題の多くは,このような問題です。
決してこれ以上深く突っ込んでは出題されません。
福祉行財政と福祉計画は,難易度の高い科目だと思います。
なぜなら,しっかりした知識が必要だからです。
あいまいな知識では,得点するには難しいです。
国試全体でもそうです。
国試に合格するには,深い知識が必要なのではなく,しっかりした知識が必要です。
この科目は難しいですが,覚え方の戦略を立てる上で,手がかりが多くあふれています。
制度一つひとつでは,見えないものが,制度間を並べてみると,その共通点,相違点が見えてくるからです。
そこに気がついて学習を進めていくと,分野論の科目でも必ず得点力が上がります。
人によっては,「この科目は,分野論の総まとめだ」と表現することもあります。
確かにそうとも言えます。しかし,分野論から入るよりも,各科目の要素がちりばめられている「現代社会と福祉」「福祉行財政と福祉計画」を先に押さえたほうが,確実な力をつけられると思います。
総まとめではなく,分野論の入り口となるからです。
総まとめだと思うと,知識があいまいになります。
この科目を手がかりにして,覚え方戦略を立ててみましょう。
制度間の共通点,相違点に着目することがコツです。
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