ケースワークと比べると,集団力学(グループダイナミクス)が働くので,ワーカーはより柔軟に対応する必要があります。
それでは今日の問題です。
第28回・問題115 事例を読んで,グループワークにおけるMソーシャルワーカー(社会福祉士・精神保健福祉士)の対応について,最も適切なものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
総合病院の精神科病棟でMソーシャルワーカーは,退院支援の一環としてグループワークを活用した社会生活技能訓練(SST)を行っている。退院後に症状が再発したときに備えて,どんなときに体調不良になるのかをグループで話し合っていたとき,メンバーのAさんが,唐突に「どうせ,そんなこと考えてもしょうがない。悪くなるときは悪くなるんだから」とぶっきらぼうに言った。それを聞いたメンバーのBさんは,「お前みたいなやる気がない奴は居ても仕方ない。出て行けよ」と冷たく言った。Aさんは怒りの表情でBさんをにらみつけた。
1 「Bさん,そんなふうに言わないで,みんな仲良くしましょう」
2 「Aさん,同じことを言ってた人が前にいたけど,グループで変わりましたよ」
3 「二人とも,気が済むまで話してください」
4 「お二人それぞれ思いがあるんですよね」
5 「Aさん,無理にグループに参加しなくてもいいですよ」
経験の少ないワーカーなら,この緊迫した場面から一刻も逃げ出したくなるかもしれません。
逃げることはしなくても,少しでも早くこの場を切り抜けたいと思うことでしょう。
しかし,そう考えるのは,事前に様々なことを想定していなかったからだと言えると思います。
リッチモンドは
ソーシャル・ケース・ワークを「人と環境の間を,個別に意識的に調整することを通して,パーソナリティを発達させる諸過程である」
と定義しています。
リッチモンドは,ケースワーク(個別援助技術)についてこのように述べていますが,グループワーク(集団援助技術)も同じです。
人と環境はグループメンバーということになります。
正解は
4 「お二人それぞれ思いがあるんですよね」
AさんとBさんの対立と葛藤は,グループダイナミクスが働き始めたことを示します。
この変化を活かすことがグループワークの醍醐味だと言えるでしょう。
準備をしっかりしたワーカーなら,心の中で「にやり」と思うかもしれません。
これ以外の選択肢は,個別化していないもの,集団力学を活用していないものばかりです。
1 「Bさん,そんなふうに言わないで,みんな仲良くしましょう」
2 「Aさん,同じことを言ってた人が前にいたけど,グループで変わりましたよ」
3 「二人とも,気が済むまで話してください」
5 「Aさん,無理にグループに参加しなくてもいいですよ」
<今日の一言>
誤解を恐れずに言うと,優秀なワーカーとは,より多くの方法論を持っていることだと考えます。
グループワークの場合は,集団力学を期待しているわけですから,集団に変化が現れたとき,あわててしまうのはあまりにも不適切な対応です。
柔軟に対応すること,つまり臨機応変さは,事前準備にかかっていると言えるでしょう。
今日の問題の場合,選択肢3は一見適切な言動だと思うかもしれません。
しかし,「気が済むまで」という対応は極めて無責任です。
気が済むことがなかったらどうするつもりなのでしょうか。
緊迫した場面は,避けたくなるかもしれません。
だからといって,小手先でかわすような取り繕いは,どこかで破たんします。
というよりもグループワークの意味を理解していないと言えるでしょう。
最新の記事
ノーマライゼーションの国家試験問題
今回は,ノーマライゼーションに取り組みます。 前説なしで,今日の問題です。 第26回・問題93 ノーマライゼーションの理念に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。 1 すべての人間とすべての国とが達成すべき共通の基準を宣言した世界人権宣言の理念として採用された。 2...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
国試での出題実績のあるアプローチは以下の12種類です。 出題基準に示されているもの ・心理社会的アプローチ ・機能的アプローチ ・問題解決アプローチ ・課題中心アプローチ ・危...
-
バートレットは,ソーシャルワークの共通基盤として 「価値」「知識」「介入(技術)」 を挙げています。 ソーシャルワーカーなら,フィールドが違えど,共通してもっているもの,という意味です。 3 つの中のうち「 価値 」は,「相談援助の基盤と専門職」で中心的...
-
今回は,ソーシャルワークにおけるエンゲージメントを取り上げます。 第30回の国試で出題されるまでは,あまり知られていなかったものです。 エンゲージメントは,インテーク(受理面接)とほぼ同義語です。 それにもかかわらず,インテークのほかにエンゲージメントが使われるようになった理由は...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ノーマライゼーションとは,「ノーマル(普通)」の派生語で「ノーマル化する」という意味です。 「ノーマル化する」のは,障害者の生活です。 世界で最初にノーマライゼーションを提唱したのは,デンマークのバンク-ミケルセンです。 1950年代のデンマークでは,保護の名のもとに...
-
社会福祉士の国家試験には,何度か「PIE(Person-in-Environment)」というものが出題されています。しかし,これは何なのでしょうか。 ネットで調べても,ほとんどヒットしません。 目ぼしいものとしては,相川書房「PIEマニュアル 社会生活機能における問題を記述、分...
-
繰り返しになりますが,ソーシャルワークは欧米生まれです。 なじみのない外国語がたくさん使われますが,苦手だと思うととても損です。 さて,今日のテーマは「ジェネラリスト・アプローチとは何だろう?」です。 まずは前回の復習からです。 ソーシャルワークは,ケースワーク,...
-
社会福祉士は,相談援助の専門職です。 心理職が行うカウンセリング技法は,ソーシャルワーク場面でも活用できます。 参考書には,たくさんの技法が書かれていますが,特に気をつけたいのは,感情の反映です。 感情の反映は,クライエントの発言の情緒的な面を言葉にして返す技法です。 事例問題が...