日本は元号で時代を整理されることが多いと思います。
20世紀だけでも大正,昭和,平成という時代に分けられます。
それぞれの時代は,それぞれの時代の特徴があります。
19世紀と20世紀の大きな違いは,19世紀は産業化の時代,20世紀はさらに発展した科学化の時代と言えるでしょう。
20世紀は,人類が空を飛び,月にまで到達した時代でもあります。
芸術では,前近代的な香りのアールヌーボーから近代的な香りがプンプンするアールデコに移り変わっていきます。
アールデコ芸術を改めて見ると,20世紀らしさを強く感じます。ネットで見てみると良いでしょう。
さて,モダニズムは「近代的」を意味します。
そのため,本来「モダニズム」は,時代が進めば,時代とともに変化するものですが,20世紀の科学化をイメージするものに固定されるようです。
ソーシャルワークの科学化を目指した人物がいます。
「ケースワークの母」と呼ばれるメアリー・リッチモンドです。
そこから,診断主義派ケースワークが生まれ,それを批判する形で機能主義派ケースワークが生まれます。まさにこれらはモダニズムです。
診断主義派ケースワークは,心理社会的アプローチに発展していきます。
その後
問題解決アプローチ
行動変容アプローチ
課題中心アプローチ
などが生まれていきます。
これらは,クライエントの行動とその結果を重視する「実証主義」の影響を強く受けていると考えられています。
これらが,ソーシャルワークのモダニズム(モダン)です。
1970~80年代以降は,モダニズムを批判して,ポストモダニズム(ポストモダン)が生まれています。新興勢力といってもよいでしょう。
ポストモダニズムの系譜に位置づけるアプローチ
ナラティブアプローチ
解決志向アプローチ
エコロジカルアプローチ
ジェネラリストアプローチ
エンパワメントアプローチ
フェミニストアプローチ
ケアマネジメントアプローチ
など
第31回国試では,ポストモダニズムについて出題されましたが,どれがモダニズム系か,どれがポストモダニズム系か,を分類して覚えることに重要性はないように思います。
第31回国試を考えると,出題者の出題意図は,ポストモダンではなく,社会構成主義だったように思います。
ポストモダン,ポストモダニズムとは何?
https://fukufuku21.blogspot.com/2019/04/blog-post_13.html
社会構成主義は,「現実は社会が構成するものである」と考えます。
現実は,人の認識によって変わるという意味です。
リッチモンドは,ソーシャル・ケース・ワークを「人と社会環境との間を個別に意識的に調整することを通して,パーソナリティを発達させる過程」と定義づけました。
20世紀は,科学は万能だと信じられていた時代だったのかもしれません。
人は空を飛んで月にまで到達してしまったのですから,そう考えるのも極めて自然であると思えます。
ポストモダニズムは,パーソナリティの発達を目指すものではありません。
むしろその人らしさを目指すものだと言えます。
21世紀に入って「ボタニカル」が流行しています。
まるでアールデコの時代から,アールヌーボーの時代にさかのぼったかのようです。
<今日の一言>
モダニズムとポストモダニズムは,相反するものではありません。
どのアプローチが優れているといったものではありません。
クライエントの問題に合わせて適用し,柔軟に運用されるものです。
国試では深い理解は求められていません。
しかし,社会福祉士がソーシャルワーカーであるならば,資格取得後に深めていきたいものだと思います。
理論に裏付けられた実践は,多くの先人たちの知恵を拝借することができます。
それによって,対人援助実践に多彩な方法を取り入れることができます。
最新の記事
ノーマライゼーションの国家試験問題
今回は,ノーマライゼーションに取り組みます。 前説なしで,今日の問題です。 第26回・問題93 ノーマライゼーションの理念に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。 1 すべての人間とすべての国とが達成すべき共通の基準を宣言した世界人権宣言の理念として採用された。 2...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
バートレットは,ソーシャルワークの共通基盤として 「価値」「知識」「介入(技術)」 を挙げています。 ソーシャルワーカーなら,フィールドが違えど,共通してもっているもの,という意味です。 3 つの中のうち「 価値 」は,「相談援助の基盤と専門職」で中心的...
-
今回は,ソーシャルワークにおけるエンゲージメントを取り上げます。 第30回の国試で出題されるまでは,あまり知られていなかったものです。 エンゲージメントは,インテーク(受理面接)とほぼ同義語です。 それにもかかわらず,インテークのほかにエンゲージメントが使われるようになった理由は...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ノーマライゼーションとは,「ノーマル(普通)」の派生語で「ノーマル化する」という意味です。 「ノーマル化する」のは,障害者の生活です。 世界で最初にノーマライゼーションを提唱したのは,デンマークのバンク-ミケルセンです。 1950年代のデンマークでは,保護の名のもとに...
-
社会福祉士の国家試験には,何度か「PIE(Person-in-Environment)」というものが出題されています。しかし,これは何なのでしょうか。 ネットで調べても,ほとんどヒットしません。 目ぼしいものとしては,相川書房「PIEマニュアル 社会生活機能における問題を記述、分...
-
繰り返しになりますが,ソーシャルワークは欧米生まれです。 なじみのない外国語がたくさん使われますが,苦手だと思うととても損です。 さて,今日のテーマは「ジェネラリスト・アプローチとは何だろう?」です。 まずは前回の復習からです。 ソーシャルワークは,ケースワーク,...
-
国試での出題実績のあるアプローチは以下の12種類です。 出題基準に示されているもの ・心理社会的アプローチ ・機能的アプローチ ・問題解決アプローチ ・課題中心アプローチ ・危...
-
社会福祉士は,相談援助の専門職です。 心理職が行うカウンセリング技法は,ソーシャルワーク場面でも活用できます。 参考書には,たくさんの技法が書かれていますが,特に気をつけたいのは,感情の反映です。 感情の反映は,クライエントの発言の情緒的な面を言葉にして返す技法です。 事例問題が...