社会福祉法人が行う事業は,以下のように整理することができます。
必須事業(法人の事業の主たる地位を占めていなければならない)
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〇社会福祉事業 |
第一種社会福祉事業及び第二種社会福祉事業 |
任意事業(社会福祉事業の円滑な遂行を妨げるおそれのないもの)
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〇公益事業 |
公益を目的としたもので,社会福祉事業以外の事業。例えば,子育て支援,有料老人ホームの経営など。
要件:社会福祉と関係のないものは認められない。社会福祉事業の円滑な遂行を妨げるおそれのないものであること。
剰余金は,当該法人が行う社会福祉事業又は公益事業に充てること。 |
〇収益事業 |
収益を社会福祉事業又は公益事業の財源に充てるために実施する事業。
事業の種類:制限はないが,法人の社会的信用を傷つけるおそれがあるもの又は投機的なものは適当ではない。 収益は,当該法人が行う社会福祉事業又は公益事業の経営に充てること。 |
医療法人と比較すると,医療法人には,一部の公益事業を行うは認められていますが,収益事業は求められていないところに違いがあります。
医療法人が収益事業を実施するためには,「社会医療法人」として都道府県知事の認定を受けなければなりません。
特定非営利活動法人(NPO法人)には,収益事業が認められます。
社会福祉法人の社会福祉事業が主たる地位を占めているという意味は以下の通りです。
社会福祉事業の規模 > (公益事業+収益事業)の規模
全体を100とすると,社会福祉事業の規模は50を超えていなければなりません。
それでは,今日の問題です。
第28回・問題119 社会福祉法人の制度に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 社会福祉法人は,社会福祉事業と公益事業以外を行ってはならない。
2 非営利組織である社会福祉法人は,自主的に経営基盤の強化を図る必要はない。
3 社会福祉法人には,出資持分が認められている。
4 社会福祉法人が解散した際の残余財産は,社会福祉法人その他の社会福祉事業を行う者又は国庫に帰属する。
5 1つの市の区域のみを事業の対象とする社会福祉法人の所轄庁は,都道府県知事である。
「出資持分」という聞き慣れない用語が出題されていますが,そういったところには正解はめったにありません。慌ててはなりません。
正解は,
4 社会福祉法人が解散した際の残余財産は,社会福祉法人その他の社会福祉事業を行う者又は国庫に帰属する。
社会福祉法人の解散及び合併については,旧カリキュラムの国試では,1問丸ごと出題されたこともあります。
しかし,現在のカリキュラムでは,あまり出題されず,解散1回(第28回),合併1回(第29回)が選択肢の1つとして出題されているだけです。
とはいうものの,しっかり覚えておきたいです。
解散及び合併は後述します。
ほかの選択肢も見てみましょう。
1 社会福祉法人は,社会福祉事業と公益事業以外を行ってはならない。
社会福祉法人は,収益事業を行うことができるのが特徴です。
収益事業を行うことができないのは,医療法人です。
2 非営利組織である社会福祉法人は,自主的に経営基盤の強化を図る必要はない。
社会福祉法では,以下のように規定されています。
(経営の原則等)
第二十四条 社会福祉法人は,社会福祉事業の主たる担い手としてふさわしい事業を確実,効果的かつ適正に行うため,自主的にその経営基盤の強化を図るとともに,その提供する福祉サービスの質の向上及び事業経営の透明性の確保を図らなければならない。
前回に引き続いて,2回目の登場です。
3 社会福祉法人には,出資持分が認められている。
出資持分とは,出資者の責任です。
株式会社の場合は,株券の分の責任を持ちます。
100万株を10人の株主で10万株ずつ持っていたとすると,その会社の10分の1ずつの責任を持つことになります。
この場合の責任とは,10分の1は自分の持ち物であることを指します。
出資持分が認められているとは,出資者の持ち物であることが認められていることを意味しています。
社会福祉法人は,誰かが土地や建物を提供して設立しますが,法制度上は誰の持ち物でもありません。つまり,出資持分は認められていない,ということになります。
5 1つの市の区域のみを事業の対象とする社会福祉法人の所轄庁は,都道府県知事である。
社会福祉法人の所轄庁は変更があったので,出題されたと思います。
1つの市の区域のみを事業の対象とする社会福祉法人の所轄庁は,市長です。
これは難しいと思うかもしれません。
しかし日本語的に考えるとちょっと変です。そして都道府県の役割としても不自然です。
都道府県の事務は,地方自治法の規定により,広域にわたるもの,市町村に関する連絡調整に関するもの及びその規模又は性質において一般の市町村が処理することが適当でないもの,とされています。
1つの市の区域のみを対象とするなら,都道府県の出番はないはずです。
日本語的なちょっと変だと思う理由は,
1つの市の区域のみを事業の対象とする社会福祉法人の所轄庁は,都道府県知事が正しいなら,1つの都道府県の区域のみを事業の対象とする社会福祉法人の所轄庁は,都道府県知事である。
で良いはずです。
1つの市の区域のみを事業の対象とする社会福祉法人の所轄庁 → 都道府県知事
1つの都道府県の区域のみを事業の対象とする社会福祉法人の所轄庁 → 都道府県知事
といったようにどちらも都道府県の役割になってしまいます。
正しくは
1つの市の区域のみ → 市長
2つ以上の市の区域 → 都道府県知事
2つ以上の都道府県にまたがる場合 → 厚生労働大臣
所轄庁で重要なことは,基本は都道府県であるが,市長にも権限移譲がなされているということです。
<今日の一言>
現在のカリキュラムではほとんど出題されていませんが,解散及び合併について押さえておきたいです。
社会福祉法では,第46~55条で規定されています。
<解散事由>
第四十六条 社会福祉法人は,次の事由によって解散する。
一 評議員会の決議
二 定款に定めた解散事由の発生
三 目的たる事業の成功の不能
四 合併(合併により当該社会福祉法人が消滅する場合に限る。)
五 破産手続開始の決定
六 所轄庁の解散命令
2 前項第一号又は第三号に掲げる事由による解散は,所轄庁の認可又は認定がなければ,その効力を生じない。
3 清算人は,第一項第二号又は第五号に掲げる事由によつて解散した場合には,遅滞なくその旨を所轄庁に届け出なければならない。
<残余財産の帰属>
第四十七条 解散した社会福祉法人の残余財産は,合併(合併により当該社会福祉法人が消滅する場合に限る。)及び破産手続開始の決定による解散の場合を除くほか,所轄庁に対する清算結了の届出の時において,定款の定めるところにより,その帰属すべき者に帰属する。
2 前項の規定により処分されない財産は,国庫に帰属する。
<合併>
第四十八条 社会福祉法人は、他の社会福祉法人と合併することができる。この場合においては、合併をする社会福祉法人は、合併契約を締結しなければならない。
合併には,以下の2つの形が規定されています。
〇吸収合併(一方の社会福祉法人がもう一方の社会福祉法人を吸収するもの)
〇新設合併(既存の社会福祉法人を消滅させて,新たな社会福祉法人を設立するもの)
いずれの場合も,登記することによって,その効力を生じます。