介護保険にかかわる人でも「介護相談員」を知らない人は多いと思います。
介護相談員派遣等事業は,介護保険の地域支援事業の任意事業なので,実際に実施している市町村は少ないからです。
介護相談員は,介護サービス提供の場を訪ね,サービス利用者等の話を聴き,相談に応じる者で,利用者の疑問や不満の解消やサービスの質の向上を図る役割をもちます。
しかし,基本は市町村が派遣するボランティアです。
この文章は,前回の問題文をちょっと加工したもので,正しいものですが,重要な部分が抜け落ちています。
それは,
介護サービス提供事業者及び行政との橋渡し
であるということです。
自らが解決するような役割を果たすのではなく,橋渡しなのです。
ここが注意点です。
厚生労働省のホームページの資料
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/0000114155.pdf
それでは今日の問題です。
第31回・問題132 介護相談員に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 介護相談員派遣等事業の実施主体は,都道府県である。
2 介護相談員派遣等事業は,苦情に至る事態を防止すること及び利用者の日常的な不平・不満又は疑問に対応して改善の途を探ることを目指すものである。
3 介護相談員の登録は,保健・医療・福祉分野の実務経験者であって,その資格を得るための試験に合格した者について行われる。
4 介護相談員派遣等事業は,介護保険制度における地域支援事業として実施が義務づけられている。
5 介護相談員が必要と判断した場合,相談者の同意がなくても,その相談者に関する情報を市町村等に提供することができる。
この問題の正解は,選択肢2です。
2 介護相談員派遣等事業は,苦情に至る事態を防止すること及び利用者の日常的な不平・不満又は疑問に対応して改善の途を探ることを目指すものである。
今後は,この選択肢を中心として参考書が作られると思いますが,介護相談員は,ボランティアです。
自らは,改善を図るような調整やあっせんを行うものではありません。
具体的には,利用者の話を聴いて,不満を解消すること。
そして,不満を施設に伝えることです。
もちろん,それは利用者の同意が必要です。
これが,
介護サービス提供事業者及び行政との橋渡し
という意味です。
本格的に問題の解決を図る機関としては,
介護保険法では,国民健康保険団体連合会(国保連)。
その他の福祉サービスでは,都道府県社会福祉協議会に設置される運営適正化委員会。
があります。
介護相談員は,それらのような専門的な機能は持ち合わせません。
基本はボランティアであることを忘れてはなりません。
それでは,ほかの選択肢を解説します。
1 介護相談員派遣等事業の実施主体は,都道府県である。
介護相談員派遣等事業の実施主体は市町村です。
市町村は,基礎的地方公共団体として,住民サービスを行います。
都道府県は,広域的な地方公共団体して,市町村では難しいものを行います。
この基本をしっかり押さえましょう。
3 介護相談員の登録は,保健・医療・福祉分野の実務経験者であって,その資格を得るための試験に合格した者について行われる。
介護相談員は,都道府県が実施する研修を受講して登録します。試験はありません。
試験があるのは,介護支援専門員です。
4 介護相談員派遣等事業は,介護保険制度における地域支援事業として実施が義務づけられている。
介護相談員派遣等事業は,任意事業です。
5 介護相談員が必要と判断した場合,相談者の同意がなくても,その相談者に関する情報を市町村等に提供することができる。
同意は必要です。
<今日の一言>
介護相談員は,よく知られていないだけに,今までは脇役でした。
しかし,とうとう第31回の国家試験では,主役に躍り出ました。
一度主役になった人は,要注意です。しっかり押さえておきましょう。
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