2020年6月16日火曜日

アマルティ・センの提唱したケイパビリティ(潜在能力)とは?


社会福祉士の国家試験では,ブースによるロンドンにおける貧困調査,ラウントリーによるヨークにおける貧困調査がよく取り上げられています。

貧困になる要因は,古典的には,本人による問題であるととらえられていましたが,これらの貧困調査によって,社会構造や環境がその要因であることが明らかになり,その後,資本主義の国々は福祉国家に変貌していくこととなりました。

ラウントリーの調査では,最低生活費の算出にあたってマーケットバスケット方式が取り入れられています。

この当時は,物質的な豊かさを追い求めていたので,実質的に恵まれないものを貧困としていました。

それに対して,アマルティ・セン(以下,セン)は,財に恵まれていても,その人の置かれている境遇によって,それらを活用できないことを貧困だととらえました。

財を活用することができる機能の寄せ集めが「ケイパビリティ(潜在能力)」です。

いくかの例を考えてみましょう。

選挙権の例

選挙権を行使することができる。

そのためには,選挙会場に行く,文字の読み書きができる,などの能力が必要です。

それらができるのがケイパビリティを高めることとなります。


家族の例

愛する家族と一緒にいることができる。

そのためには,家族から近いところで仕事をすることが必要です。

もし,それができなければ,家族から離れた遠い国で仕事をしなけれぱなりません。

近いところに仕事がある,というがケイパビリティを高めることとなります。



29回・問題22 セン(SenA.)が提唱した「潜在能力(Capabilities)」に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 潜在能力とは,個人の遺伝的素質のことをいう。

2 各人の資源の保有量が同じであれば,潜在能力は等しくなる。

3 困窮した生活を強いられていてもその人がその境遇に納得しているかどうかという心理的尺度が,最終的な潜在能力の評価の基準となる。

4 豊かな社会の中で貧しいことは,潜在能力の障害となる。

5 「恥をかかずに人前に出ることができる」といった社会的達成は,潜在能力の機能に含まれない。


この問題では,「潜在能力(Capabilities)」と出題されていますが,「ケイパビリティ」と出題されることもあるので注意が必要です。

同じ問題であるとき,「潜在能力(Capabilities)」と「ケイパビリティ」では,「ケイパビリティ」と表記すると難易度が上がるからです。

問題のほんのちょっとの違いで,正解できたり,正解できない,ということが発生するのは,勉強が中途半端な人です。

しっかり勉強して人は,表記によって左右されることは少ないですし,勉強がまったく足りない人は,表記がどうであろうが,正解できません。

さて,それでは解説です。


1 潜在能力とは,個人の遺伝的素質のことをいう。

おそらく,この遺伝的素質とは,お金持ちの家に生まれた子どもの潜在能力は高い,ということに引っ掛けて出題したものだと思います。

しかし,潜在能力とはそういうものではありません。

お金をいくら持っていても,治療法が確立されていない病気に罹患したと考えるとどうでしょう。

潜在能力は,財があるかないかではありません。


2 各人の資源の保有量が同じであれば,潜在能力は等しくなる。

資源の保有量が同じであっても,それを活用できる環境に大きく左右されます。

お金があっても,物を売ってくれる人がいなければ,貧困となります。

そのような社会では,物がないわけですから,お金があることよりも,物を作り出す能力がある人のほうが潜在能力が高いことになるかもしれません。

前説の選挙権の例では,普通選挙が実施される国であれば,条件に合う人には選挙権があります。

しかし,選挙権を行使するためには,選挙会場に行くことができる,読み書きができる,といったことが必要です。

障害がない人と障害がある人では,潜在能力は異なります。

選挙権があっても,それを行使することができなければ貧困となるでしょう。


3 困窮した生活を強いられていてもその人がその境遇に納得しているかどうかという心理的尺度が,最終的な潜在能力の評価の基準となる。

潜在能力は,福祉的な自由を行使することができる機能の集合体をいいます。

選挙権で言えば,選挙に実際に行くかどうかは別にして,選挙権を行使しようと思ったらできることが潜在能力の評価の基準となります。


4 豊かな社会の中で貧しいことは,潜在能力の障害となる。

これが正解です。

例えば,治療法が確立している病気に罹患した場合,貧しいために治療を受けることができないとすれば,潜在能力の障害となります。

治療法の確立していない病気なら,お金のありなしに関係がありませんが,治療法が確立しているにもかかわらず,治療を受けるための財がないとすれば,潜在能力としての機能が一つ減ることになります。

この場合は,貧困者でも医療を受けることができるという医療保障が整っていることが潜在能力となります。

つまり,社会によっても潜在能力は異なります。


5 「恥をかかずに人前に出ることができる」といった社会的達成は,潜在能力の機能に含まれない。

「恥をかかずに人前に出る」ということはどういうことでしょうか。


きれいな身なり?
社会的教養?

人によって異なるでしょう。

きれいな身なりをするためには,お金が必要です。
社会的教養を持つためには,教育を受けることが必要です。

これらでわかるように「恥をかかずに人前に出る」というのは,決して当たり前のことではありません。

潜在能力の機能の一つだと考えられます。

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