2020年6月17日水曜日
社会指標の基礎知識~より良い暮らしを測る
今回は,社会指標について学んでいきたいと思います。
その前に経済指標について考えてみたいと思います。
経済指標は,その名称どおり,経済の動向を測定するものです。
景気,物価,国内総生産の成長率などが経済指標となります。
物質的な豊かさを測定するものといっても良いでしょう。
つまりお金で換算することができるものです。
それでは,社会指標とは何でしょう?
今回のタイトルにあるように,より良い暮らしを測るものが社会指標です。
お金で換算することができないものと言えるのかしれません。
経済的に豊かであっても,アマルティア・センの「ケイパビリティ(潜在能力)」で学んだように,それを用いることができるか否かによって,その人の幸せ度合いは異なります。
生活指標という考え方が生まれてきたのは,国際的には1960年代だと言われています。
社会が経済的な発展と人々の暮らしやすさは,ある面では連動することもありますが,そうとは限りません。
日本では,1960~70年代にかけて,公害問題,交通問題などが発生しました。
社会指標は,より良い生活を測るものです。
その中には,主観的なものと客観的なものがあります。
主観的な指標には,幸福度などがあります。
客観的な指標には,子育て,教育などがあります。
経済指標も社会指標も,政策に生かすために作られます。
同じ指標を用いて測定すれば,国際比較も可能となります。
さて,今日の問題です。
第29回・問題23 OECDの「より良い暮らしイニシアチブ」で用いられる「より良い暮らし指標」(Better Life Index:BLI)の内容として,正しいものを1つ選びなさい。
1 人々の幸福を形成する多様な側面に着目して,「より良い暮らし」を測定するための枠組みを提示した。
2 非経済的幸福よりも経済的幸福を重視している。
3 就学,就職,結婚,退職,老後などに関する幸福度は,性別によって左右されないとされている。
4 職場における生活の質と個人の総合的幸福との間には関連性がないとされている。
5 人々の幸福を形成する諸側面の相対的重要性は,個人や国によって異なることはないとされている。
より良い暮らし指標の内容はわからなくても,この問題は解答テクニックで解ける問題です。
正解は,選択肢1です。
1 人々の幸福を形成する多様な側面に着目して,「より良い暮らし」を測定するための枠組みを提示した。
素直に読めば,これ以外は正解に見えないでしょう。
引っ掛かるとすれば,
5 人々の幸福を形成する諸側面の相対的重要性は,個人や国によって異なることはないとされている。
幸せだと思うことは,人によって違いはないと考える人もいるかもしれません。
しかし,そう考えるのは,満ち足りた生活を送っているからかもしれません。
例えば,人種差別問題を考えてみます。
国によって,生活に大きな影響を受けます。
差別があまりない国では,暮らしに影響を受けないかもしれませんが,差別が強い国では,警察官によって殺されることもあるかもしれません。
それほどの違いがあります。
<今日の一言>
国家試験の問題を分類すると
①教科書や参考書に書かれてものからの出題
②教科書や参考書に書かれていないものからの出題
今日の問題は,②のタイプです。
知識の差が生じるのは,①のタイプです。
②のタイプは,知識の差は生じないものです。
今日の問題を正解できた人も「より良い暮らし指標」を勉強していたわけではないでしょう。
それでも,正解できる人とできない人が生まれます。
しかし,合格するために必要なのは,こういった問題で正解するために,手を広げることではありません。
①のタイプの問題で正解できなければ,こういった問題で正解できても,ボーダーラインを超えることは難しいと言えます。
なぜなら,国家試験の大半は,①のタイプの問題だからです。
今日の問題を学ぶことの意味は,社会指標と経済指標の違いを押さえられることです。
特に福祉では,社会指標が重要です。
最新の記事
子ども・子育て支援法
子ども・子育て支援法は,これまでにも出題されてきましたが,正式に出題基準に含まれたのは,第37回国家試験です。 子ども・子育て支援制度は,市町村が実施主体になっています。 支給申請は,市町村に対して行います。 児童福祉法には,入所系があるので都道府県の役割がありますが,子ども...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
質的調査では,インタビューや観察などでデータを収集します。 その際にとる記録をフィールドノーツといいます。 一般的には,野外活動をフィールドワーク,野外活動記録をフィールドノーツといいます。 こんなところからも,質的調査は,文化人類学から生まれてきたものであることがう...
-
19世紀は,各国で産業革命が起こります。 この産業革命とは,工業化を意味しています。 大量の労働力を必要としましたが,現在と異なり,労働者を保護するような施策はほとんど行われることはありませんでした。 そこに風穴を開けたのがブース,ラウントリーらによって行われた貧困調査です。 こ...
-
ヒラリーという人は,さまざまに定義される「コミュニティ」を整理しました。 その結果,コミュニティの定義に共通するものとして ・社会的相互作用 ・空間の限定 ・共通の絆 があることが明らかとなりました。 ところが,現代社会は,交通手段が発達し,SNSやインターネットなどによって,人...
-
絶対に覚えておきたい社会的役割は, 第1位 役割期待 第2位 役割距離 第3位 役割取得 第4位 役割葛藤 の4つです。 今回は,役割葛藤を紹介します。 役割葛藤とは 役割に対して葛藤すること 役割葛藤を細かく分けると 役割内葛藤と役割間葛藤があ...
-
今回は,ソーシャルワークにおけるエンゲージメントを取り上げます。 第30回の国試で出題されるまでは,あまり知られていなかったものです。 エンゲージメントは,インテーク(受理面接)とほぼ同義語です。 それにもかかわらず,インテークのほかにエンゲージメントが使われるようになった理由は...