2020年6月18日木曜日

社会福祉法人の始まり



社会福祉法人は,社会福祉法が規定する特別法人です。

社会福祉法は,今からさかのぼること約70年前の1951(昭和26)年に社会福祉事業法として成立したものです。

戦前の1938(昭和13)年,社会事業法ができています。
この法律によって,当時の社会事業は,地方長官(現在の都道府県知事にあたる)の指導を受けることになりましたが,その一方で国は社会事業に対して,補助を行うことができました。

国によって守られていたと言えます。

しかし,それが一変することになったのは,日本国憲法です。

第八十九条 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

この規定のために,社会事業者は補助金を受けることができなくなります。

そのために,公の支配に属する法人として,社会福祉事業法で,財団法人などの公益法人とは別に社会福祉法人が創設されることになりました。

措置制度は,福祉サービスを必要としている人が行政に相談し,行政がその必要性を判断して,行政処分として福祉サービスを提供するものです。

実際の福祉サービスは,行政が運営する福祉サービスを提供する,あるいは社会福祉法人に委託して提供することとなります。

同法では,公私の関係について,以下のような規定が設けられています。

(事業経営の準則)
第五条 国、地方公共団体、社会福祉法人その他社会福祉事業を経営する者は、左の各号に掲げるところに従い、それぞれの責任を明確ならしめなければならない。
一 国及び地方公共団体は、法律により帰せられたその責任を他の社会福祉事業を経営する者に転嫁し、又はこれらの者の財政的援助を求めないこと。
二 国及び地方公共団体は、他の社会福祉事業を経営する者に対し、その自主性を重んじ、不当な関与を行わないこと。
三 社会福祉事業を経営する者は、不当に国及び地方公共団体の財政的、管理的援助を仰がないこと。
2 前項第一号の規定は、国又は地方公共団体が、その経営する社会福祉事業について、要援護者等に関する収容その他の措置を他の社会福祉事業を経営する者に委託することを妨げるものではない。


この「事業経営の準則」は,現在の社会福祉法でも規定されています。

第六十一条 国,地方公共団体,社会福祉法人その他社会福祉事業を経営する者は,次に掲げるところに従い,それぞれの責任を明確にしなければならない。

一 国及び地方公共団体は,法律に基づくその責任を他の社会福祉事業を経営する者に転嫁し,又はこれらの者の財政的援助を求めないこと。

二 国及び地方公共団体は,他の社会福祉事業を経営する者に対し,その自主性を重んじ,不当な関与を行わないこと。

三 社会福祉事業を経営する者は,不当に国及び地方公共団体の財政的,管理的援助を仰がないこと。

2 前項第一号の規定は,国又は地方公共団体が,その経営する社会福祉事業について,福祉サービスを必要とする者を施設に入所させることその他の措置を他の社会福祉事業を経営する者に委託することを妨げるものではない。



また,社会福祉事業の経営主体として,以下のように規定されています。

(社会福祉事業の経営主体)
第四条 社会福祉事業のうち、第一種社会福祉事業は、国、地方公共団体又は社会福祉法人が経営することを原則とする。

社会福祉法人は,民間法人でありながら,国および地方公共団体と同様に,第一種社会福祉事業を行えるという特権を与えたのです。

第一種社会福祉事業は,共同募金を除き,入所系サービスが規定されています。

入所系サービスは,通所系サービスと違い,外部の目が入りにくいので,下手をすると人権侵害が発生する恐れがあります。

さらには,サービス利用者の生活を守るという意味で,確実・堅実な経営が求められます。

このようにして,社会福祉法人は創設されました。

現在も社会福祉事業の担い手としての社会福祉法人の重要性は変わるものではありません。

現在では,地方公共団体が設立した第一種社会福祉事業の施設を株式会社などの営利法人が運営するという「公設民営」も出てきていますが,営利法人は,第一種社会福祉事業を設立することはできません。

それでは,今日の問題を紹介します。

29回・問題24 社会福祉事業法制定時における社会福祉法人創設の趣旨に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 社会福祉法人の公設民営の原則を徹底させるため。

2 公の指導監督を受けない民間組織として社会福祉法人を普及させるため。

3 社会福祉法人が社会福祉事業以外の公益事業を行うことを禁止するため。

4 社会福祉事業における収益性を強化するため。

5 社会福祉事業の公共性を高め社会的信頼を得るために,民法の公益法人とは別個の特別法人を創設するため。


この問題のつくり方は,今となっては,あまりないだろうなぁと思います。

各選択肢の文章の長さが異なっています。

おそらくこの試験委員が重視したのは,文末をそろえることでしょう。

問題慣れしている人は,表現にばらつきがあると,そこから答えを推測してしまいます。

しかし,この問題はもう一つの視点が抜けています。

もう一つの視点とは,各選択肢の文字数にばらつきが生じていることです。

さて,正解は,選択肢5です。

5 社会福祉事業の公共性を高め社会的信頼を得るために,民法の公益法人とは別個の特別法人を創設するため。

民法の公益法人とは,財団法人や社団法人のことです。

社団法人がいつできたのかは知りませんが,社会福祉法人は,社会福祉事業法(現・社会福祉法)で規定した特別法人です。

第二種社会福祉事業は多くの設置主体が開設することができますが,高い倫理性が必要な第一種社会福祉事業は,多くの民間法人には開かれていないのです。

それでは,ほかの選択肢も確認します。

1 社会福祉法人の公設民営の原則を徹底させるため。

「公設民営の原則」という原則はありません。


2 公の指導監督を受けない民間組織として社会福祉法人を普及させるため。

社会福祉法人は,憲法第89条に反しないために創設されたものです。


3 社会福祉法人が社会福祉事業以外の公益事業を行うことを禁止するため。

社会福祉法人が公益事業を行うことができる規定は,昭和26年の社会福祉事業法のときからあります。

現在は,公益事業に加えて,収益事業を行うことも認められています。


4 社会福祉事業における収益性を強化するため。

収益性を強化するためなら,特別法人を創設せずとも,措置委託費を上げれば良いことでしょう。

そうではないのは,もっと別な意味があるということです。

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