イギリスの報告書は,模擬試験等で取り上げられることも多いので,国家試験での出題頻度は高いように思われるかもしれません。
しかし,調べてみると,出題が多かったのは,旧カリキュラムである第21回以前だったようです。
主だった報告書の出題数と出題回
報告書名
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出題数
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出題回
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シーボーム報告
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7回
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第6・13・14・17・18・23・29回
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エイブス報告
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1回
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第29回
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ウォルフェンデン報告
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2回
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第17・29回
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バークレイ報告
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8回
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第12・15・16・17・18・23・29回
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ワグナー報告
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2回
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第17・18回
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グリフィス報告
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6回
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第12・13・17・18・23・29回
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現在のカリキュラムは,第22回以降ですから,出題されているのは,第23回と第29回のわずか2回だということになります。
それに比べると,第21回以前はかなりの頻度で出題されていることがわかるでしょう。
旧カリ時代は,3年間の過去問を解けば,その中に報告書の出題が含まれている可能性がありましたが,今はそのような高頻度では出題されていないので,過去問ベースの勉強では対応できないということになります。
それでは,今日の問題です。
第29回・問題33 イギリスの各種の報告書における地域福祉に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 シーボーム報告(1968年)は,社会サービスにおけるボランティアの役割は,専門家にできない新しい社会サービスを開発することにあることを強調した。
2 エイブス報告(1969年)は,地方自治体がソーシャルワークに関連した部門を統合すべきであることを勧告した。
3 ウォルフェンデン報告(1978年)は,地方自治体の役割について,サービス供給を重視した。
4 バークレイ報告(1982年)は,コミュニティを基盤としたカウンセリングと社会的ケア計画を統合した実践であるコミュニティソーシャルワークを提唱した。
5 グリフィス報告(1988年)は,コミュニティケアの基礎となるナショナル・ミニマムの概念を提唱した。
知識不足の人は,5分の1の確率でしか正解できない問題です。
それでは解説です。
1 シーボーム報告(1968年)は,社会サービスにおけるボランティアの役割は,専門家にできない新しい社会サービスを開発することにあることを強調した。
シーボーム報告ではなく,エイブス報告です。
2 エイブス報告(1969年)は,地方自治体がソーシャルワークに関連した部門を統合すべきであることを勧告した。
エイブス報告ではなく,シーボーム報告です。
エイブス報告はは,この時が唯一の出題でしたが,内容がなじみ深いシーボーム報告なので,消去可能です。
3 ウォルフェンデン報告(1978年)は,地方自治体の役割について,サービス供給を重視した。
ウェルフェンデン報告は,多様なサービス提供主体によるネットワークの重要性を提唱したものです。
特にボランタリーセクター(非営利的組織)の重要性を強調しています。
この報告書が出された1978年同時のイギリスは経済が疲弊して,それまでの社会民主主義的な分厚い福祉政策はとれない状況にあり,1979年にサッチャー首相が誕生していくことになります。
4 バークレイ報告(1982年)は,コミュニティを基盤としたカウンセリングと社会的ケア計画を統合した実践であるコミュニティソーシャルワークを提唱した。
これが正解です。
バークレイ報告では,コミュニティソーシャルワークを提唱しました。
ここでは,カウンセリングという用語を使っていますが,ソーシャルワークのことです。
5 グリフィス報告(1988年)は,コミュニティケアの基礎となるナショナル・ミニマムの概念を提唱した。
ナショナル・ミニマムを提唱したのは,グリフィス報告ではなく,ベヴァリッジ報告です。
ウェッブ夫妻が提唱したナショナル・ミニマム(国家による最低限度の生活保障)をベヴァリッジ流にアレンジして作ったのが,ベヴァリッジ報告だということになります。
<今日の一言>
地域福祉にかかわるイギリスの報告書は複数あり,混乱しそうですが,しっかり覚えておきたいのは,
①シーボーム報告
②バークレイ報告
そして
③グリフィス報告です。
①シーボーム報告とセットで覚えておきたいのは,「地方自治体社会サービス法」(1970年)
③グリフィス報告とセットで覚えておきたいのは「国民保健サービス法及びコミュニティケア法」(1990年)
とりあえずは,これでほとんどの問題は解けるはずです。