2020年6月24日水曜日

自殺対策基本法



世界的に見ると,日本の自殺者数は,韓国とともに多い国に属します。

19982011年には,年間の自殺者数は3万人を超え,2012年以降は減少しつつあります。

しかし,若年者の自殺は減少を見せていません。

若年者の死因の第1位が自殺であるというのは,世界的に見ても稀有な国となっています。

そんな中,2006(平成18)年に,自殺対策基本法が作られています。
同法は,2016(平成28)年に,改正されています。

今回は,その改正ポイントを中心に押さえてみたいと思います。

法の目的
この法律は,近年,我が国において自殺による死亡者数が高い水準で推移している状況にあり,誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現を目指して,これに対処していくことが重要な課題となっていることに鑑み,自殺対策に関し,基本理念を定め,及び国,地方公共団体等の責務を明らかにするとともに,自殺対策の基本となる事項を定めること等により,自殺対策を総合的に推進して,自殺の防止を図り,あわせて自殺者の親族等の支援の充実を図り,もって国民が健康で生きがいを持って暮らすことのできる社会の実現に寄与することを目的とする。
基本理念
自殺対策は,生きることの包括的な支援として,全ての人がかけがえのない個人として尊重されるとともに,生きる力を基礎として生きがいや希望を持って暮らすことができるよう,その妨げとなる諸要因の解消に資するための支援とそれを支えかつ促進するための環境の整備充実が幅広くかつ適切に図られることを旨として,実施されなければならない。
2 自殺対策は,自殺が個人的な問題としてのみ捉えられるべきものではなく,その背景に様々な社会的な要因があることを踏まえ,社会的な取組として実施されなければならない。
3 自殺対策は,自殺が多様かつ複合的な原因及び背景を有するものであることを踏まえ,単に精神保健的観点からのみならず,自殺の実態に即して実施されるようにしなければならない。
4 自殺対策は,自殺の事前予防,自殺発生の危機への対応及び自殺が発生した後又は自殺が未遂に終わった後の事後対応の各段階に応じた効果的な施策として実施されなければならない。
5 自殺対策は,保健,医療,福祉,教育,労働その他の関連施策との有機的な連携が図られ,総合的に実施されなければならない。
自殺予防週間
9月10日~9月16
自殺対策強化月間
3月
自殺対策計画
都道府県・市町村は,それぞれ都道府県自殺対策計画・市町村自殺対策計画を定める
関係者の連携協力
国,地方公共団体,医療機関,事業主,学校,民間の団体その他の関係者による相互の連携・協力。
心の健康の保持に係る教育・啓発の推進等
①国民の心の健康の保持に係る施策として「心の健康の保持に係る教育及び啓発の推進並びに相談体制の整備,事業主,学校の教職員等に対する国民の心の健康の保持に関する研修の機会の確保」を規定。
② 学校は,保護者・地域住民等との連携を図りつつ,各人がかけがえのない個人として共に尊重し合いながら生きていくことについての意識の涵養等に資する教育・啓発,困難な事態,強い心理的負担を受けた場合等における対処の仕方を身に付ける等のための教育・啓発その他児童・生徒等の心の健康の保持に係る教育・啓発を行うよう努める。
医療提供体制の整備
自殺のおそれがある者への医療提供に関する施策として,良質かつ適切な精神医療提供体制の整備,精神科医とその地域における心理,保健福祉等に関する専門家,民間団体等との円滑な連携の確保を規定。

わが国の自殺者の判明している自殺の理由で,最も多いのは健康問題です。
約半数は,健康問題が占めている状況です。

イメージ的には,借金を抱えて自殺に追い込まれるのが多いように思うかもしれません。
しかし経済問題が理由で自殺しているのは,2割程度です。

健康問題はいろいろあるかと思いますが,その一つはうつ病があります。
そういった意味合いから,医療提供体制の整備を組み込んだものと思います。


それでは,今日の問題です。

29回・問題28 自殺対策基本法に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 精神保健的観点から自殺対策を強化することが,優先的課題とされている。

2 自殺対策を,生きることへの包括的な支援として捉えている。

3 国は地方公共団体の自殺対策に関与してはならないとされている。

4 自殺予防に関し,保健所が一元的に担うこととされている。

5 自殺未遂者への支援として,就労支援施策を実施することが義務づけられている。



まずは,解答テクニックからです。

一般的に,義務規定はそれほど多くはありません。

多いのは,努力義務です。
義務規定は,「〇〇しなければならない」,あるいは「〇〇するものとする」
努力義務規定は,「〇〇するよう努めなければならない」

となります。

これから勉強を進めていくうえで,法を見る機会が増えると思いますが,義務規定は思ったほど多くないことに気が付くことでしょう。

さて,解説です。


1 精神保健的観点から自殺対策を強化することが,優先的課題とされている。

うつ病患者の自殺対策は重要ですが,若年者の自殺対策も重要です。

法では,何を優先するかについて規定していません。

というか,法でわざわざ優先的課題を挙げる必要性がないと言えます。

特に,この法律は,自殺対策基本法なのですから,様々な対策を掲げることが必要でしょう。


2 自殺対策を,生きることへの包括的な支援として捉えている。

これが正解です。

自殺対策は,生きることの支援である,ということです。
なかなか良いことを述べていると感心しませんか?


3 国は地方公共団体の自殺対策に関与してはならないとされている。

国は,前条の基本理念(次項において「基本理念」という。)にのっとり,自殺対策を総合的に策定し,及び実施する責務を有する。
2 地方公共団体は,基本理念にのっとり,自殺対策について,国と協力しつつ,当該地域の状況に応じた施策を策定し,及び実施する責務を有する。
3 国は,地方公共団体に対し,前項の責務が十分に果たされるように必要な助言その他の援助を行うものとする。

と規定されています。

この規定を知らなくても,国は,地方公共団体の支援を行う存在です。

関与させないという規定を設けることは,めったにないことでしょう。


4 自殺予防に関し,保健所が一元的に担うこととされている。

保健所は,1965年以来,精神保健行政の第一線の機関に位置づけられています。
しかし,それでは不十分だったので,自殺者の増加を招いたとも言えるでしょう。

基本理念には

自殺対策は,保健,医療,福祉,教育,労働その他の関連施策との有機的な連携が図られ,総合的に実施されなければならない。

と規定されています。


5 自殺未遂者への支援として,就労支援施策を実施することが義務づけられている。

自殺理由には,経済問題もありますが,半数は,健康問題です。

うつ病患者のことを考えた場合,就労支援は逆効果になりかねません。

もしこんな義務規定があったなら,自殺者をもっと増やす気なのか,と疑ってしまいます。もちろんこのような規定はありません。

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