社会福祉士の国家試験には,さまざまな報告書が出題されます。
それらに目を通しておかなければ,正解できないかと言えば,必ずしもそうではありません。
というか,目を通しておかなければ解けないという問題の方が少ないと言えます。
今回は,社会保障制度改革国民会議報告書(平成25年)に関する問題です。
社会保障制度改革国民会議 報告書(概要)
~確かな社会保障を将来世代に伝えるための道筋~
平 成 2 5 年 8 月 6 日
社会保障制度改革国民会議
第1部 社会保障制度改革の全体像
1 社会保障制度改革国民会議の使命
○ 福田・麻生政権時の社会保障国民会議以来の社会保障制度改革の流れを踏まえつつ,改革推進法に規定する基本的な考え方等にのっとって制度改革を検討。
2 社会保障制度改革推進法の基本的な考え方
(1)自助・共助・公助の最適な組合せ
○ 日本の社会保障は,「自助を基本としつつ,自助の共同化としての共助(=社会保険制度)が自助を支え,自助・共助で対応できない場合に公的扶助等の公助が補完する仕組み」が基本。
(2)社会保障の機能の充実と給付の重点化・効率化,負担の増大の抑制
○ 社会保障の安定財源の確保と機能の充実の必要性や経済成長を上回る給付費の伸びを踏まえれば,国民負担の増加は不可避。国民負担について納得を得るためには,同様の政策効果を最小の費用で実施できるよう,同時に徹底した給付の重点化,効率化が必要。
○ 現在の世代に必要な給付は,現在の世代で賄うことが必要であり,「自助努力を支えることにより,公的制度への依存を減らす」,「負担可能な者は応分の負担を行う」ことにより,将来の社会を支える世代の負担が過大にならないようにすることが必要。
(3)社会保険方式の意義,税と社会保険料の役割分担
○ 日本の社会保障は,社会保険方式が基本。その上で,負担能力に応じた保険料や免除制度などにより,無職者等を含めたすべての者が加入できるように工夫した仕組み。しかし,非正規労働者などの増加により,保険料が未納の者が増し,社会保険のセーフティネット機能(防貧機能)が低下。被用者保険の適用拡大等や安定した雇用が課題。
○ 日本の社会保険には多くの公費が投入されているが,公費の投入は低所得者の負担軽減等に充てるべき。一方,保険者の制度間の負担の調整は基本的には保険者間で行うべきであり,原則としては公費投入に頼るべきでなく,公費投入は保険者間で調整できないやむを得ない事情がある場合とすべき。
(4)給付と負担の両面にわたる世代間の公平
○ 子育て中の若い人々などが納得して制度に積極的に参加できるように,すべての世代に安心感と納得感の得られる全世代型の社会保障に転換することを目指す。
○ 将来世代への負担の先送りを速やかに解消して,将来の世代の負担ができるだけ少なくなるようにすることが必要。
○ 一方,いわゆる「世代間の損得論」については,払った保険料と受給額のみを見るのは不適切。社会保障が充実することは,本来負っている親の扶養や介護の負担が軽減されるという意味で,子どもや孫の世代にもメリットがあることに留意が必要。他方,世代間の不公平論が広まる土壌にも目配りが必要。
3 社会保障制度改革の方向性
(1)「1970 年代モデル」から「21 世紀(2025 年)日本モデル」へ
○ 高度経済成長期に確立した「1970 年代モデル」の社会保障から,超高齢化の進行,家族・地域の変容,非正規労働者の増加など雇用の環境の変化などに対応した全世代型の「21世紀(2025 年)日本モデル」の制度へ改革することが喫緊の課題。
(2)すべての世代を対象とし,すべての世代が相互に支え合う仕組み
○ 「21世紀日本モデル」の社会保障は,すべての世代を給付やサービスの対象とし,すべての世代が年齢ではなく,負担能力に応じて負担し,支え合う仕組み。
(3)女性,若者,高齢者,障害者などすべての人々が働き続けられる社会
○
従来の支えられる側,支える側という考え方を乗り越えて,女性,若者,高齢者,障害者等働く意欲のあるすべての人が働ける社会を目指し,支える側を増やすことが必要。
(4)すべての世代の夢や希望につながる子ども・子育て支援の充実
○ 少子化問題は社会保障全体にかかわる問題。子ども・子育て支援は,親子や家族のためだけでなく,社会保障の持続可能性(担い手の確保)や経済成長にも資するものであり,すべての世代に夢や希望を与える「未来への投資」として取り組むべき。
(5)低所得者・不安定雇用の労働者への対応
○ 雇用の不安定化が,格差・貧困問題の拡大につながらないよう,非正規雇用の労働者の雇用の安定や処遇の改善,被用者保険の適用拡大が必要。また,格差・貧困問題の解決を図るには,所得再分配の強化を図りつつ,経済政策,雇用政策,教育政策,地域政策,税制など様々な政策を連携させていくことが必要。また,年金税制等の問題を検討し,低所得者を把握する仕組みが必要。
(6)地域づくりとしての医療・介護・福祉・子育て
○ 住み慣れた地域で人生の最後まで自分らしく暮らせるよう,医療機能の分化・連携や地域包括ケアシステムの構築について,コンパクトシティ化などハード面の整備やサービスのネットワーク化などソフト面のまちづくりとして実施し,「21 世紀型のコミュニティの再生」を図る。
(7)国と地方が協働して支える社会保障制度改革
○ 子育て・医療・介護など社会保障の多くが地方公共団体を通じて国民に提供されていることを踏まえ,制度改革は,地方公共団体に理解が得られるものとし,国と地方がそれぞれ責任を果たしていくことが必要。
(8)成熟社会の構築へのチャレンジ
○ 人口構成の変化や高齢化等をネガティブに考えるのではなく,様々な課題に正面から向き合い,一つ一つ解決を図っていくことを通じて,世界の先頭を歩む高齢化最先進国として,「成熟社会の構築」へチャレンジすべき。
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これは,15ページある概要の一部です。
報告書自体は,53ページもあります。
目を通しておいた方が良いに決まっていますが,そんなに時間はとれないのが現実です。
そこに時間をかけるなら,出題される確率の高いものを勉強した方がずっと得点力を上げるでしょう。
それでは今日の問題です。
第29回・問題26 「社会保障制度改革国民会議報告書~確かな社会保障を将来世代に伝えるための道筋~」(2013年(平成25年)8月)において示された社会保障制度改革に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 「病院完結型」の医療の確立を提案した。
2 給付の拡大を提案した。
4 非正規雇用者向けの独立した社会保険制度の新設を提案した。
5 市町村による地域医療ビジョンの策定を提案した。
この問題を解くヒントは,報告書の副題となっている「確かな社会保障を将来世代に伝えるための道筋」です。
社会保障制度を破綻させることなく,存続させるために現役世代は何をすべきなのかの知恵を出していることが想像できそうです。
さて,この問題の正解です。
3 切れ目のない「全世代型の社会保障」を提案した。
全世代型型の社会保障とは
必要な財源を確保した上で、子ども・子育て支援を図ることや、経済政策・雇用政策・地域政策などの施策と連携し、非正規雇用の労働者の雇用の安定・処遇の改善を図ること等を始めとしてすべての世代を支援の対象とするもの。
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この中で述べられている必要な財源とは,消費増税を指しています。
この報告書で述べられていることに「21世紀(2025年)日本モデル」があります。
この中では,これに対比して「1970年代モデル」が述べられています。
1970年代モデルは,年金・医療・介護が社会保障制度の中心だったことを指します。
ほかの選択肢も確認します。
1 「病院完結型」の医療の確立を提案した。
この報告書で提案したのは,地域完結型の医療です。
病院完結型の医療では,かつての医療と変わりません。
2 給付の拡大を提案した。
経済成長がある時なら,給付は拡大できますが,そうではない時は,拡大路線は取れません。
提案したのは,給付の抑制です。
4 非正規雇用者向けの独立した社会保険制度の新設を提案した。
非正規雇用者の対策としては,社会保険の適用拡大で対応しています。
月収が,98,000円から88,000円に引き下げられたのは記憶に新しいところでしょう。
5 市町村による地域医療ビジョンの策定を提案した。
地域医療ビジョンを策定するのは,都道府県です。