2020年6月9日火曜日

わが国におけるコミュニティ政策~1970年代と1990年代の対比から



コミュニティとは,ヒラリーによると

・社会的相互作用
・共通の絆
・空間の限定

がその要素に含まれるとされています。

さて,今回は,1970年代と1990年代のコミュニティ政策の違いについて考えてみたいと思います。

まずは,時代を検証してみます。

1970年代
1960年代から続く高度経済成長とその終焉,およびその後の低成長時代。

1990年代
1980年代後半のバブル経済の崩壊に伴う経済再編成の時代。

経済状況が大きく違うのがわかることでしょう。
資本主義で得られた利益を財源として,福祉を行うのが今日の福祉国家ですが,経済状況が変われば,福祉政策も変わらざるを得ません。

さて,人に目を向けてみます。

1945年に日本は戦争に負けて,国民みんなが貧困にあえぎながらも,モーレツに働き,1960年代には復興を成し遂げます。
その時代には,都会は大量の人材を必要として,地方から都市に人が大量に流れ込みました。

それでもまだ1960年代のコミュニティは,コミュニティとして,

・社会的相互作用
・共通の絆

は存在していたと考えられます。
古くからの住民がまだ地域で力を持っていたからです。

1970年代になると,ベッドタウンと呼ばれる,周辺地域に都市が生まれていきますが,住民はその地域に根差したものではなく,住民としての意識はそれほど強いものではありませんでした。

その後,新しい住民も自らの生活の改善を求めた活動を行うようになっていきます。
それが1970年代後半から1980年代前半の時代です。

1990年代は平成になり,昭和とは異なる道を模索し,現在の令和につながっていきます。

さて,コミュニティ政策に目を向けてみます。

1970年代と1990年代の大きな違いは,1970年代は,住民自治が重視され,1990年代は,自治体と住民の協働が目指されるようになります。

この間にあった大きな出来事は,1990年の福祉関係八法改正です。

それまでの施設中心から,地域福祉への道筋をつけました。


時代が変わると当然ですが福祉政策も変わっていかざるを得ません。

歴史を学ぶことは,今後の在り方を考えるうえで必要です。
ゼロからすべて考えることは難しいですが,過去から現在の流れを知ることで,新しい発想も生まれやすくなります。

1990年代は,地方分権の時代の流れとともに,住民がサービスを創造していく時代の幕開けとなり,「自助」「互助」が求められる令和の現在へとつながっています。

それでは,今日の問題です。

第29回・問題16 日本におけるコミュニティ政策の展開に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 1970年代におけるコミュニティ政策は,既存の自治会・町内会を基盤としてそれまでの地域のつながりを保持しようとしたものであった。

2 1970年代におけるコミュニティ政策は,過疎化によって村落の連帯感や凝集性が弱まったことへの対応を目的としていた。

3 1990年代のコミュニティ政策では,地方分権改革により,地域社会の自律・自立の担い手としてのコミュニティが改めて注目されるようになった。

4 1990年代のコミュニティ政策では,その焦点が,行政と住民の協働から住民同士の協働へと移行した。

5 1990年代のコミュニティ政策では,地域社会全体での対応よりも,治安・介護・災害などの課題領域ごとに分化した行政サービスによる対応の方が重視されるようになった。

「社会理論と社会システム」は,こういった問題が出題されるので,とても難しく感じるでしょう。
今までの勉強が不足していたという無力感もあるかもしれません。

しかし,それはすべての受験生が同じです。
第29回国試を受験した人の中で,コミュニティ政策を勉強して臨んだ人はおそらくほとんどいなかったと言えます。

おそらく,この問題と似たような問題はもう出題されることはないかもしれません。

それにもかかわらず,長々と書いたのは,勉強していないことでも正解できる可能性があることを知っておいてもらいたいためです。

それでは解説です。

1 1970年代におけるコミュニティ政策は,既存の自治会・町内会を基盤としてそれまでの地域のつながりを保持しようとしたものであった。

1970年代は,新しい住民が都市に大量に流入した時代です。
コミュニティの要素である「社会的相互作用」「共通の絆」はまだ生まれていません。
新しい地域のつながりづくりが求められる時代です。

2 1970年代におけるコミュニティ政策は,過疎化によって村落の連帯感や凝集性が弱まったことへの対応を目的としていた。

過疎化も問題にはなっていたと思いますが,連帯感や凝集性が弱まっていたのは,地方ではなく,新しい住民が増えた都市です。

過疎化ではなく,人口集中による都市の連帯感や凝集性の弱まりに対するものが1970年代のコミュニティ政策です。

3 1990年代のコミュニティ政策では,地方分権改革により,地域社会の自律・自立の担い手としてのコミュニティが改めて注目されるようになった。

これが正解です。
「改めて」というところに引っ掛かりを感じますが,米騒動以前は,自助・互助が中心であったことを考えると「改めて」で良いのかもしれません。


4 1990年代のコミュニティ政策では,その焦点が,行政と住民の協働から住民同士の協働へと移行した。

1990年代は,行政と住民の協働の時代です。


5 1990年代のコミュニティ政策では,地域社会全体での対応よりも,治安・介護・災害などの課題領域ごとに分化した行政サービスによる対応の方が重視されるようになった。

1990年代の日本のコミュニティ政策を知らなくても,イギリスのシーボーム報告および地方自治体社会サービス法は学んだはずです。

そこから考えると,日本が課題領域ごとに分化して行政サービスを強化するのは,おかしな感じがするでしょう。


<今日の一言>

人によっては,今日の問題のような問題を「歴史学者によるくだらない問題だ」と思う人もいるかもしれません。

しかし,私たちチームfukufuku21は,国試問題にはすべて意味があるものだと考えています。

教科書に書かれたものだけを出題すれば,記憶力の優れた人が合格します。

知識があっても知恵のない,まして実践力のない社会福祉士は,必要とされていません。

わからない問題はわからないなりに考えることが必要です。しかも限られた時間で考えることが必要です。

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