社会福祉士の国家試験は,現時点(2020年6月)まで,32回実施されています。
そのうち,ラウントリーによる貧困調査が出題されたのは,14回です。
かなりの高確率です。
これから勉強をしっかりやっていけば,わかると思いますが,ラウントリーによる貧困調査の特徴は,マーケットバスケット方式という手法で,ヨーク市民に対して調査を行ったことです。
マーケットバスケット方式とは,必要な最低生活費を算定するために,何にどれだけお金がかかるかを積み上げるものです。
この方式によって,
肉体を維持するのにギリギリの収入しかない世帯を,第一次貧困
お酒などに使わなければ最低生活を何とか維持できる世帯を,第二次貧困
と分けることが可能となりました。
貧困調査では,ブースによるロンドン調査が有名ですが,ラウントリーは,その調査に刺激を受けて実施したこともあり,ブースの調査よりもラウントリーの調査の方がより緻密となっています。
それでは今日の問題です。
第29回・問題25 ラウントリー(Rowntree,B.S.)が実施したヨーク調査に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 貧困は怠惰や努力不足の結果であるため,自己責任として放置すべきであるという貧困観を補強する資料となった。
2 貧困の分析に相対的剥奪の概念を用いた。
3 貧困により社会に参加できなくなる過程を社会的排除として概念化した。
4 結婚前の20歳代前半層に貧困が集中することを発見した。
5 最低生活費を基準として貧困を科学的に計測する方法を生み出した。
19世紀後半に実施されたブース,ラウントリーらの貧困調査によって,貧困に陥るのは,本人の問題ではなく,雇用や環境が影響していることが明らかとなり,20世紀には,国家が国民の最低生活を保障するという「ナショナル・ミニマム」という考え方が生まれていきます。
そして,現代の福祉国家が形成されていくこととなります。
福祉を考えるとき,その礎の一つとなった貧困調査は,極めて重要であると言えます。
それでは,解説です。
1 貧困は怠惰や努力不足の結果であるため,自己責任として放置すべきであるという貧困観を補強する資料となった。
貧困調査は,貧困問題に対して,逆に国家が介入すべきものと考えるきっかけをつくる資料となりました。
2 貧困の分析に相対的剥奪の概念を用いた。
相対的剥奪の概念を用いたのは,20世紀半ば以降の話です。
相対的剥奪とは,自分が生活している社会の中で,人よりも収入が少ないために,社会への参加の機会が減少していることをいいます。
タウンゼントらによる貧困調査で用いられました。
3 貧困により社会に参加できなくなる過程を社会的排除として概念化した。
社会的排除の概念は,さらに時代は進み,1970年代以降に生まれてきたものです。
4 結婚前の20歳代前半層に貧困が集中することを発見した。
ラウントリーは,ライフサイクルと貧困には関連していることを発見しました。
貧困が集中するのは,就労によって賃金を得にくい時期です。
つまり,子育ての時期と高齢期です。
5 最低生活費を基準として貧困を科学的に計測する方法を生み出した。
これが正解です。
この科学的に計測する方法というのが,マーケットバスケット方式です。