2020年7月1日水曜日

地域・民族固有の知~日本の互助を考える~特に頼母子講



まずは,ソーシャルワーク専門職のグローバル定義を確認しましょう。

ソーシャルワーク専門職のグローバル定義(2014年) 
 ソーシャルワークは,社会変革と社会開発,社会的結束,および人々のエンパワメントと解放を促進する,実践に基づいた専門職であり学問である。
 社会正義,人権,集団的責任,および多様性尊重の諸原理は,ソーシャルワークの中核をなす。
 ソーシャルワークの理論,社会科学,人文学および地域・民族固有の知を基盤として,ソーシャルワークは,生活課題に取り組みウェルビーイングを高めるよう,人々やさまざまな構造に働きかける。
 この定義は,各国および世界の各地域で展開してもよい。

ソーシャルワークは,欧米生まれです。

そのために,カタカナ用語をたくさん覚えなければなりません。

2014年に採択されたグローバル定義は,地域・民族固有の知を認め,それをウェルビーイング(良い状態・福利)に役立てようと呼びかけています。

それに関連して,国試でも近年は,日本を振り返るような出題が続いています。
今日の問題もそんなタイプの問題です。

カタカナ用語が苦手なら,せめて日本の用語はしっかり押さえてほしいものです。


29回・問題34 日本における地域福祉の前史に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 頼母子講(タノモシコウ)は,共済的・金融的機能を持ち,経済的救済を目的とした組織のことをいう。

2 七分積金制度は,生活に困窮する者の救済を目的とした儒教的徳治主義を象徴とする天皇の慈恵政策のことをいう。

3 五保の制は,生活に困窮する者がいた場合には,まずは親族間での相互扶助を重視した制度のことをいう。

4 結は,江戸幕府の下で町人の負担する町の経費を節約した額の中から積立てをして,貧民や孤児を救済した制度のことをいう。

5 戸令(コリョウ)は,五戸を一組として,共助の機能を持った農耕と貢納のための組織のことをいう。


えーっ,これって本当に社会福祉士の国試問題なの?

という声が聞こえて来そうです。

今後,似たような出題があるかはわかりませんが,日本に古くからある互助に関するものを学ぶことは,今後の地域づくりに役立つものとなるでしょう。

ゼロベースからものを作り出すのは難しいですが,既にあるものを参考にすると,比較的たやすく新しいものを作ることができることでしょう。

それでは,解説です。

1 頼母子講(タノモシコウ)は,共済的・金融的機能を持ち,経済的救済を目的とした組織のことをいう。

これが正解です。

頼母子講については,高校の日本史でも学ぶので,覚えている人もいるかもしれません。

地域によっては無尽講とも呼ばれています。

住民同士による金融システムだと言えるでしょう。
国試には,これ以上詳しい知識は必要とされません。

2 七分積金制度は,生活に困窮する者の救済を目的とした儒教的徳治主義を象徴とする天皇の慈恵政策のことをいう。

七分積金制度も日本史で学びました。

松平定信による「寛政の改革」で創設されたものです。
江戸時代,長屋の住民には,税を課せられていませんでした。
その代わり,家主が町の運営費を拠出して,町の管理が行われました。

七分金積金制度は,町の運営費を節約し,それを積み立てて,低金利での融資,生活困窮者の救済などを行ったものです。

さらには,飢饉に備えて,コメの備蓄も行いました。


3 五保の制は,生活に困窮する者がいた場合には,まずは親族間での相互扶助を重視した制度のことをいう。

これは,五保の制ではなく,戸令です。


4 結は,江戸幕府の下で町人の負担する町の経費を節約した額の中から積立てをして,貧民や孤児を救済した制度のことをいう。

これは,結ではなく,七分積金制度です。


5 戸令(コリョウ)は,五戸を一組として,共助の機能を持った農耕と貢納のための組織のことをいう。

戸令は,「戸」の「令」,つまり,律令時代の世帯に関する法律です。



<今日の一言>

今日の問題は,おそらく「頼母子講」がわからなければ,正解するのはかなり難しい問題でしょう。

五保の制や戸令がわからないからです。

実は,この問題には元ネタがあります。

25回・問題34 地域社会において生活を支えてきた仕組みに関する次の記述のうち・正しいものを1つ選びなさい。

1 モヤイは,田植などの農作業の際に行われた労働力の交換である。

2 頼母子講などの講においては,一般的には家格の差が表面化しない比較的平等な人間関係が成り立っていたとされている。

3 村落の寄り合いでの決定は,全員の意見が一致することは困難であったので,多数決で行われることが多かった。

4 町内会は,地方自治法によって,世帯単位で加入することとされている。

5 消防団は,地域住民がある年齢に達すると参加する年齢階梯集団の一つである。

この問題の答えは,選択肢2

2 頼母子講などの講においては,一般的には家格の差が表面化しない比較的平等な人間関係が成り立っていたとされている。

今日の問題とこの問題は,いずれも頼母子講が正解でした。

ここから,感じるのは,いろいろなものが出題されていますが,互助システムとしての頼母子講(無尽講)を特に勉強しておいてほしいとメッセージが込められているように思いますが,いかがでしょうか?

この2つの問題は,第25回に出題された後,3年おいて,4年目の第29回に出題されています。

3年間の過去問では出てこないものです。

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