2020年7月2日木曜日

日本におけるソーシャルアクションの例

制度創設などを求めて活動することを「ソーシャルアクション(社会活動法)」といいます。

それでは,今日の問題です。


第29回・問題35 ソーシャルアクションに関する次の記述のうち,適切なものを2つ選びなさい。

1 欧米におけるソーシャルアクションの源流は,1960年代のアメリカの福祉権活動とされている。

2 戦前の方面委員による救護法制定・実施の運動は,ソーシャルアクションの事例とされる。

3 ソーシャルアクションは,コミュニティオーガニゼーションと密接に関わるソーシャルワークの方法である。

4 ソーシャルアクションは当事者の活動に限られ,福祉専門職は関わらないとされる。

5 ソーシャルアクションの展開過程には,住民の理解の促進及び世論形成は含まれない。


この問題は,正解を2つ選ぶものです。
ところどころに,2つ選ぶ問題が織り込まれているので,注意が必要です。

1つめの正解は,選択肢2です。

2 戦前の方面委員による救護法制定・実施の運動は,ソーシャルアクションの事例とされる。

救護法は,1929(昭和4)年に制定されました。
しかし,この年には,世界大恐慌が発生し,わが国も不況に陥ります。

そのため,政府は,救護法の施行に二の足を踏むこととなります。

そこで立ち上がったのが,方面委員(現・民生委員)です。
救護法制定に向けて活動を実施していきます。

インターネットで,方面委員,救護法,皇居 と検索すると皇居前に方面委員の代表が集まり,皇居に向かって深々とお辞儀している写真を見つけることができるでしょう。

この活動がわが国における有名なソーシャルアクションです。

この活動の結果,競馬法を改正して財源を確保し,1932(昭和6)年に救護法が施行されることとなったのです。

この活動に一役買ったのが,次の一万円札の肖像画に採用されることが決まっている渋沢栄一です。
しかし,残念ながら法の施行を見届けることなく,渋沢はこの世に別れを告げました。

もう一つの正解は,選択肢3です。

3 ソーシャルアクションは,コミュニティオーガニゼーションと密接に関わるソーシャルワークの方法である。

コミュニティオーガニゼーションとは,地域組織化活動をいいます。
コミュニティオーガニゼーションについて,述べた人物には,ロスとロスマンがいます。

混同しそうですが,今までの国家試験では,ロスとロスマンを混同させるような出題はされたことがありません。

社会福祉士の国試は,多くの人が思うほど意地悪ではないのです。

そのうち,ロスマンという人は,コミュニティオーガニゼーションについて以下のように分類しています。

小地域活動モデル(地域の課題解決のため,住民が主体となって活動するもの)
社会計画モデル(計画を立てて,予算を確保するもの)
ソーシャルアクションモデル(地域の課題解決のために,制度などの創設を求めて活動するもの)

の3つです。

これでわかるように,ロスマンは,ソーシャルアクションをコミュニティオーガニゼーションの一つに含めています。

それでは,ほかの選択肢を確認しましょう。


1 欧米におけるソーシャルアクションの源流は,1960年代のアメリカの福祉権活動とされている。

ソーシャルアクションの源流は,もっと古く,セツルメントなどもソーシャルアクションの源流だと言えるでしょう。
そうなると,1800年代には既に動きはあったこととになります。

実は,この選択肢は,矛盾を抱えていると言えるのです。

日本の例として救護法が示されているのに対し,欧米の始まりは1960年代であるというのが,ちょっとおかしいように感じませんか?

中には,欧米よりも日本の方が早く始まったものはあるかもしれませんが,多くの場合,欧米のほうが早いものです。

4 ソーシャルアクションは当事者の活動に限られ,福祉専門職は関わらないとされる。
5 ソーシャルアクションの展開過程には,住民の理解の促進及び世論形成は含まれない。

この2つは,内容がわからなくて,解答テクニック的に消去できそうですね。

選択肢4に関しては,ソーシャルアクションにはさまざまな方法があり,福祉専門職が関わらないということはありません。

選択肢5に関しては,「含まれない」という言い切り表現は,多くの場合,正解にはなりにくいものです。


<今日の一言>

この問題の難しいところは,正解を2つ選ばなければならないことです。

この問題に限らず,一つめの正解は比較的わかりやすいのですが,もう一つの正解は選びにくいという傾向があります。

この問題で正解するための考え方ポイントは,「ソーシャルワーク専門職のグローバル定義」の「地域・民族固有の知」です。

そのため,日本再発見のような問題がみられるのでしょう。

おそらく,今後も日本再発見のような問題が続くことでしょう。

世界の中に日本のことが含まれる問題は,日本を正解にしたい意図があることも覚えておきましょう。

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