健康保険法の目的には,以下のように規定されています。
(目的)
第一条 この法律は、労働者又はその被扶養者の業務災害以外の疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関して保険給付を行い、もって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とする。
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これでわかるのは,医療保険よりも労災保険の方が優先されることです。
「そんなこと知っているよ」という人は多いと思いますが,法ではこのように規定していることを知らないという人も多いのではないでしょうか。
「社会保障」には事例問題がありますが,意外と難しいです。
慎重に考えることが必要です。
それでは今日の問題です。
第29回・問題54 事例を読んで,Dさんの保険給付に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
〔事 例〕
健康保険の被保険者であるDさんは,勤務先の業務がない日に自動車の運転を誤って電柱に衝突し,骨折したため病院に入院し,翌日から会社を休んだ。
1 Dさんには労働者災害補償保険から休業補償給付が支給される。
2 Dさんの骨折の治療には自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)が適用される。
3 Dさんには,雇用保険から基本手当が支給される。
4 Dさんが協会けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険)の被保険者である場合,健康保険の傷病手当金は,受給できない。
5 Dさんが二日間入院して退院し,その翌日から休業せずに勤務を続けた場合,健康保険の傷病手当金は支給されない。
傷病により仕事ができなくなった場合の所得保障には
労災保険の「休業補償給付」
健康保険の「傷病手当金」
の2種類があります。
労災の場合は,「休業補償給付」
労災以外の場合は,「傷病手当金」
が給付されます。併給はあり得ません。
どちらも,労務不能になった日から連続して4日目以降の休業で,給与が支払われない場合に給付されます。
ということで,正解は,選択肢5です。
5 Dさんが二日間入院して退院し,その翌日から休業せずに勤務を続けた場合,健康保険の傷病手当金は支給されない。
傷病手当金が支給されるためには,労務不能になった日から連続して4日目以降の休業です。給与が支払われる場合は支給されません。
この事例では,2日間しか休んでいないので,傷病手当金の対象外です。
それではほかの選択肢を確認します。
1 Dさんには労働者災害補償保険から休業補償給付が支給される。
Dさんの事故は,業務外なので,労災は適用されません。
2 Dさんの骨折の治療には自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)が適用される。
自賠責保険は,人身事故のみに適用されます。
しかも最高額では300万円(死亡時)です。
任意保険に加入せずに人身事故を起こしたらと考えると,怖すぎて運転できません。
3 Dさんには,雇用保険から基本手当が支給される。
雇用保険の基本手当は,失業している場合に支給されるものです。
4 Dさんが協会けんぽ(全国健康保険協会管掌健康保険)の被保険者である場合,健康保険の傷病手当金は,受給できない。
傷病手当金は,実はちょっと複雑です。
健康保険では,傷病手当金は法定給付です。
しかし,国民健康保険では,任意給付となっています。
市町村国民健康保険では,給付しているところはありません。
国保組合では,半数が給付しています。
<今日の一言>
社会保障の事例問題は,法制度を確実に覚えていないと正解するのはかなり難しいです。
この問題では,傷病手当金はどのような場合に出題されるのかを押さえていることが得点するためのカギでした。
傷病手当金&休業補償給付は,どちらも労務不能になった日から連続した4日目以降の所得保障です。