2020年7月13日月曜日

福祉行政の近年の動向


「福祉行財政と福祉計画」は,歴史的な問題が出題されたことがなかったのですが,最近は出題されてきています。

スタートラインは,1990(平成2)年の福祉関係八法改正以降辺りなので,それほど昔のことではないですが,次に進むために,今までを整理してきているのだろうと思います。

過去は今,今は未来につながっています。

それでは,今日の問題です。

過去を過去のものとして考えていると難しくなります。

29回・問題46 1990年(平成2年)以降の行財政等の動向に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 いわゆる福祉関係八法改正によって,自治体に地域福祉計画の策定が義務づけられた。

2 介護保険法の施行によって,新ゴールドプランが策定された。

3 「地方分権一括法」の施行によって,養護老人ホームへの入所措置は市町村の法定受託事務となった。

4 平成の大合併によって,市の数は減少した。

5 「三位一体の改革」によって,国庫補助金及び地方交付税が削減された。



この問題にある事柄はおそらく,テキストなどには記述されていたものだと思います。

しかし,このように並べて出題されると,難易度がとても高くなりますね。

それでは解説です。

1 いわゆる福祉関係八法改正によって,自治体に地域福祉計画の策定が義務づけられた。

地域福祉計画の策定は,今までに義務化されたことがありません。
この問題が出題された当時は,策定は任意でした。

2018(平成30)年に,地域福祉計画の策定は,努力義務化されています。
過去ではなく今である,というのはこういうことを指します。

なお,地域福祉計画は,2000(平成12)年の社会福祉法で規定されたものです。


2 介護保険法の施行によって,新ゴールドプランが策定された。

ゴールドプランは,

1989(平成元)年 ゴールドプラン
1994(平成6)年 新ゴールドプラン
1999(平成11)年 ゴールドプラン21

と策定されてきました。

介護保険法が施行された2000(平成12)年以降は,高齢者福祉サービスに関する計画の策定はされていません。

そのかわり,介護保険の基本指針(定めるのは厚生労働大臣)で,介護保険サービスについて定めています。


3 「地方分権一括法」の施行によって,養護老人ホームへの入所措置は市町村の法定受託事務となった。

この問題で実はちょっとびっくりしたことがあります。

養護老人ホームの入所措置は,1990(平成)2年の福祉関係八法改正の時に,市町村に権限移譲されたと思っていたら,実は,1999(平成11)年の「地方分権一括法」の施行で,権限移譲されたみたいです。

養護老人ホームは,専門科目の「高齢者に対する支援と介護保険制度」で,問題のキーとなることが多いダークホース的な存在なので,これもしっかり覚えておきたいです。

しかし,いつ権限移譲されたかは知らなくても,福祉に関する事務は,自治事務なので,間違いであると判断できます。

地方自治体が行う事務のほとんどは自治事務です。

法定受託事務は,地方自治法の別表に示されているものだけです。
それ以外は,すべて自治事務です。

法定受託事務は,例えば,サービス提供事業者の指定,児童手当の支給など,全国一律の基準によって行われるようなものです。


4 平成の大合併によって,市の数は減少した。

これはクイズというか,知恵を試されているような出題です。

平成の大合併によって,市町村数は,約3,000市町村から約1,700市町村に減りました。

町村数は減っていますが,市の数は逆に増えました。町村が合併し,市になった自治体があるからです。

このことによってもう一つ覚えておきたいのは,福祉事務所の数です。

都道府県の設置する福祉事務所は減って,市町村が設置する福祉事務所は増えています。

これは,町村が減って,市が増えたことによります。

町村は福祉事務所の設置義務がないので,設置していない場合は,都道府県が設置します。

しかし,そこが市になれば,設置義務が生じるので,都道府県の福祉事務所は必要となくなります。

5 「三位一体の改革」によって,国庫補助金及び地方交付税が削減された。

これが正解です。

「三位一体改革」は,

国庫補助負担金の廃止・縮減
税財源の移譲
地方交付税の見直し

を一体的に行うことで「三位一体改革」と呼ばれました。

<今日の一言>

今日の問題と対になる問題があります。

第32回・問題47 福祉計画に関して,1990年(平成2年)の福祉関係八法改正より以前の記述として,正しいものを1つ選びなさい。
1 「エンゼルプラン」が策定された。
2 障害福祉計画が障害者自立支援法に規定された。
3 社会福祉施設緊急整備5か年計画が策定された。
4 「新ゴールドプラン」が策定された。
5 地域福祉計画が社会福祉法に規定された。

2年連続で同じような問題は出題されないと思いますが,エンゼルプランも押さえておいた方がよいかもしれません。

この問題の正解は,選択肢3です。

福祉関係八法改正以前は,福祉に関する計画は,社会福祉施設緊急整備5か年計画(1970年・昭和45年)くらいしかなかったのでしょう。

福祉関係八法改正で,老人保健福祉計画の策定が義務づけられたのは,それだけ重要なことだったと言えます。

最新の記事

ノーマライゼーションの国家試験問題

 今回は,ノーマライゼーションに取り組みます。 前説なしで,今日の問題です。 第26回・問題93 ノーマライゼーションの理念に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。 1 すべての人間とすべての国とが達成すべき共通の基準を宣言した世界人権宣言の理念として採用された。 2...

過去一週間でよく読まれている記事