わが国の障害者手帳は,以下の3種類があります。
種別
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身体障害者手帳
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療育手帳
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精神障害者保健福祉手帳
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根拠法
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身体障害者福祉法
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根拠法なし
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精神保健福祉法
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申請窓口
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市町村
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市町村
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市町村
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交付
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都道府県
(指定都市・中核市)
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都道府県
(指定都市)
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都道府県
(指定都市)
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判定
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身体障害者
更生相談所
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児童相談所
あるいは
知的障害者
更生相談所
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精神保健福祉センター
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交付の効用
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手帳の交付がなければ,法定上の身体障害者とならない。
➡ 障害福祉サービスを利用するためには,手帳交付が必要となる。
JR料金の割引,公共料金の減免など。
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JR料金の割引など,公共料金の減免など。
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障害者雇用促進法に基づく法定雇用率の算定対象となるので,障害者雇用枠での採用が可能となる。
自治体により独自支援あり。
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更新
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等級変更以外には更新はない。
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おおむね2年ごと(法的根拠なし)
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2年ごと
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身体障害者の障害等級は,1~7級がありますが,この等級は,国民年金と厚生年金の受給のための等級とは異なります。
インターネットの情報を見ると,精神障害者が障害年金を受給できることを知らない人が結構いるようです。
20歳前傷病で,障害基礎年金を受給する場合は,所得によって受給額の減額や支給されないということもありますが,20歳以降の被保険者期間の傷病の場合は,所得に関係なく受給することができます。
これは,たとえ就労できていたとしても働きづらさや生活のしづらさがあることにほかなりません。
福祉政策は,福祉を必要としている人に対してスティグマを与えることなく,いかにしてサービスを提供することができるか,が重要です。
同じように,精神障害者保健福祉手帳の交付を受けることに対してスティグマを感じる人は多くいます。
しかし,障害者雇用促進法で精神障害者の雇用が義務化されたことで,精神障害者を雇用することは企業のメリットになる可能性が広がったと言えます。
それでは,今日の問題です。
第29回・問題60 障害者手帳に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 療育手帳は,発達障害者支援法に基づき交付される。
2 療育手帳の交付の申請は,知的障害者更生相談所長に対して行う。
3 身体障害者が「障害者総合支援法」のサービスを利用する場合には,身体障害者手帳の交付を受ける必要がある。
4 手足の麻痺や音声・言語障害のない高次脳機能障害は,身体障害者手帳の交付対象である。
5 精神障害者保健福祉手帳の更新は,5年ごとに行わなければならない。
この問題の難易度はかなり高いです。
なぜなら,障害者手帳に関する出題はよくありそうですが,実はそれほど多くはないからです。
つまり過去問を解いているだけでは,おそらく出会うことがないということです。
3年間の過去問を3回解けば合格するという極めて科学的根拠のないことをいう人がいます。今の国試では科目数が多くなり,1科目の出題数が少ないこともあり,3年の過去問では,出題基準の範囲をカバーしきれないので,3年間の過去問をいくら完璧に解けるようになったところで,合格するために必要な知識量にはなりません。
さて,この問題の正解は,選択肢3です。
3 身体障害者が「障害者総合支援法」のサービスを利用する場合には,身体障害者手帳の交付を受ける必要がある。
理由は,障害者総合支援法に規定される障害者の定義によります。
この法律において「障害者」とは、身体障害者福祉法第四条に規定する身体障害者、知的障害者福祉法にいう知的障害者のうち十八歳以上である者及び精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第五条に規定する精神障害者(発達障害者支援法第二条第二項に規定する発達障害者を含み、知的障害者福祉法にいう知的障害者を除く)のうち十八歳以上である者並びに治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病であって政令で定めるものによる障害の程度が厚生労働大臣が定める程度である者であって十八歳以上であるものをいう。
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身体障害者は,前説のように,身体障害者手帳の交付を受けないと,法制上の障害者とはなりません。
ここが知的障害者と精神障害者との違いです。
(身体障害者)
第四条 この法律において、「身体障害者」とは、別表に掲げる身体上の障害がある十八歳以上の者であつて、都道府県知事から身体障害者手帳の交付を受けたものをいう。
それでは,ほかの選択肢も見てみましょう。
1 療育手帳は,発達障害者支援法に基づき交付される。
療育手帳には,法的根拠がありません。
これは何度も繰り返して出題されています。
2 療育手帳の交付の申請は,知的障害者更生相談所長に対して行う。
障害者手帳の申請窓口は,市町村です。
知的障害者更生相談所など都道府県の設置する機関では,住民にとって遠すぎるのです。
そのため,基本的な住民サービスを行う住民にとって身近な基礎的地方公共団体である市町村が窓口となり,都道府県の機関に送られる仕組みを採用しています。
4 手足の麻痺や音声・言語障害のない高次脳機能障害は,身体障害者手帳の交付対象である。
身体障害の種類
視覚障害(永続するもの)
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1 両眼の視力がそれぞれ0.1以下のもの
2 一眼の視力が0.02以下、他眼の視力が0.6以下のもの
3 両眼の視野がそれぞれ10度以内のもの
4 両眼による視野の2分の1以上が欠けているもの
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聴覚又は平衡機能の障害(永続するもの)
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1 両耳の聴力レベルがそれぞれ70デシベル以上のもの
2 一耳の聴力レベルが90デシベル以上、他耳の聴力レベルが50デシベル以上のもの
3 両耳による普通話声の最良の語音明瞭度が50パーセント以下のもの
4 平衡機能の著しい障害
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音声機能、言語機能又はそしゃく機能の障害
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1 音声機能、言語機能又はそしやく機能の喪失
2 音声機能、言語機能又はそしやく機能の著しい障害で、永続するもの
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肢体不自由
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1 一上肢、一下肢又は体幹の機能の著しい障害で、永続するもの
2 一上肢のおや指を指骨間関節以上で欠くもの又はひとさし指を含めて一上肢の二指以上をそれぞれ第一指骨間関節以上で欠くもの
3 一下肢をリスフラン関節以上で欠くもの
4 両下肢のすべての指を欠くもの
5 一上肢のおや指の機能の著しい障害又はひとさし指を含めて一上肢の三指以上の機能の著しい障害で、永続するもの
6 1から5までに掲げるもののほか、その程度が1から5までに掲げる障害の程度以上であると認められる障害
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内部障害
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心臓、じん臓又は呼吸器の機能の障害その他政令で定める障害で、永続し、かつ、日常生活が著しい制限を受ける程度であると認められるもの
〈政令で定める障害〉
一 ぼうこう又は直腸の機能
二 小腸の機能
三 ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能
四 肝臓の機能
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表にしてみるとこんな形になりますが,これを知らなくても,手足の麻痺や音声・言語障害のない高次脳機能障害が身体障害になるとは思わないでしょう。
それでは,何の対象になると思いますが?
精神障害に位置づけられ,精神障害者保健福祉手帳の交付の対象となります。
5 精神障害者保健福祉手帳の更新は,5年ごとに行わなければならない。
精神障害者保健福祉手帳の更新は,2年ごとです。
精神障害者以外の障害者は,先天性の障害,あるいは疾患が治癒したあとに障害が残った場合に障害者となります。
それに比べると,精神障害者の特徴は,精神疾患を抱えた障害者であることです。
つまり精神病患者でありながら精神障害者です。そのため,病状が良くなったり悪くなったりする特徴があります。これはほかの障害者にはありません。
そのため,精神障害者保健福祉手帳の更新は,2年ごとという短いスパンで行う必要があります。