現時点(2020年7月)は,新型コロナウイルス感染症対策の真っただ中にあります。
数年後にこのブログを見た人が「そう言えばそんなことがあったね」と思い出話になっていると信じたいです。
時事ネタは,すぐ古くなってしまうので,あまり取り上げませんが,今回は,生活福祉資金貸付制度の緊急小口資金の特例貸与を取り上げたいと思います。
生活福祉資金は,低所得者世帯等に対して貸付を行うものですが,それ以外の世帯に対して,特例貸与が行われることがあります。
緊急小口資金は,現在,コロナ禍によって,特例貸付として,低所得者世帯以外にも,一時的に生活が困難になっている世帯に貸付を行っています。
このようにしばしば特例の緊急小口資金の貸付が行われます。この資金は利息なし,保証人不要で利用できるので,利便性が高いからでしょう。
災害で生活困難になった世帯に対しても特例貸付が行われます。
それでは今日の問題です。
第29回・問題40 災害時における支援に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 災害救助法が適用される災害において被災し,当座の生活費を必要とする世帯に対しては,生活福祉資金の緊急小口資金の特例貸与が実施される。
2 災害ボランティアセンターは,災害救助法の規定により,社会福祉協議会が設置することとされている。
3 共同募金会の呼び掛けにより集められた災害義援金は,全て被災自治体の復興事業に充てられている。
4 生活支援相談員は,被災者生活再建支援法の規定により配置されることとされている。
5 福祉避難所は,要配慮者とその家族・支援者だけではなく一般の被災者も同時に受け入れることとされている。
わが国は,自然災害が多い国です。
毎年,必ずどこかの地域で自然災害が発生しています。
そのため,「地域福祉の理論と方法」では,近年,災害に関する出題が続いています。
この問題の正解は,選択肢1です。
1 災害救助法が適用される災害において被災し,当座の生活費を必要とする世帯に対しては,生活福祉資金の緊急小口資金の特例貸与が実施される。
まさに現在,緊急小口資金の特例貸与が実施されています。
なお,特例貸与は,現在は,緊急小口資金のほかに,総合支援資金でも実施されています。
生活福祉資金は,4資金(9種類)がありますが,それを詳しく覚える必要はないでしょう。
覚えておきたいのは,ほとんどの資金の貸付を行うのに保証人がなくても貸付可能であることです。
保証人がなければならないものもありますが,保証人がなくても貸付を受けられるというのは,とても心強いものだと思いませんか?
2 災害ボランティアセンターは,災害救助法の規定により,社会福祉協議会が設置することとされている。
災害救助法は,災害の救助について定めたものです。
災害ボランティアについては定めていません。
というか,災害ボランティアセンターは,どの法律に基づくといったものではありません。
3 共同募金会の呼び掛けにより集められた災害義援金は,全て被災自治体の復興事業に充てられている。
例えば,令和元(2019)年の台風19号の災害に対して,中央共同募金会は,以下のような記述で,災害義援金を募集しました。
令和元年「台風19号 災害義援金」の募集について
10月12日から13日にかけて北上した台風19号により、東日本において広域に記録的な大雨となり、河川の堤防決壊等による洪水や土砂崩れ等の災害が各地で発生しました。
この災害により亡くなられた方のご冥福を祈るとともに、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げます。
中央共同募金会では、被災された方々の支援のため義援金を募集いたします。
受け付けた義援金は、義援金募集を行っている都県の被災状況に応じた按分率に基づき各都県に送金し、被災者へ配分されます。
引用:赤い羽根共同募金 https://www.akaihane.or.jp/saigai-news/gienkin/7572/
少なくとも,この時の災害義援金募集では,被災自治体の復興事業には充てられることは述べていません。
4 生活支援相談員は,被災者生活再建支援法の規定により配置されることとされている。
被災者生活再建支援法は,被災者生活再建支援金の支給について定めたものです。
生活支援相談員についての規定はありません。
5 福祉避難所は,要配慮者とその家族・支援者だけではなく一般の被災者も同時に受け入れることとされている。
福祉避難所は,要配慮者の避難所です。
一般の人の避難所ではありません。
<今日の一言>
今日の問題では,以下の法律が混じっています。
災害救助法
被災者生活再建支援法
このうち,災害救助法は,以下の選択肢で使われました。
1 災害救助法が適用される災害において被災し,当座の生活費を必要とする世帯に対しては,生活福祉資金の緊急小口資金の特例貸与が実施される。
2 災害ボランティアセンターは,災害救助法の規定により,社会福祉協議会が設置することとされている。
この2つの選択肢の違いは,選択肢1は,生活福祉資金の根拠として出題されているわけではないこと。
選択肢2は,災害ボランティアセンターは,災害救助法の規定によるものであると出題されていること。
同じ法律を出題しながら,まったく別なものです。
解答テクニック的に言えば,その問題を作った試験委員は,根拠法を変えて間違い選択肢をつくる作問法を使うタイプの人だと言えます。
2 災害ボランティアセンターは,災害救助法の規定により,社会福祉協議会が設置することとされている。
4 生活支援相談員は,被災者生活再建支援法の規定により配置されることとされている。
同じパターンになっています。
そうなると・・・
①どちらも正解である。
②どちらも間違いである。
となりそうです。
この問題は,正解を1つ選ぶ問題です。
「①どちらも正解である」はあり得ないので,「②どちらも間違いである」である可能性があります。
また,
5 福祉避難所は,要配慮者とその家族・支援者だけではなく一般の被災者も同時に受け入れることとされている。
が正しければ,
5 福祉避難所は,要配慮者とその家族・支援者と一般の被災者を同時に受け入れることとされている。
という文章のほうが自然だと思いませんか?
この問題の難易度は低くはありませんが,冷静に読むと,見えてくることもあります。
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