2020年7月20日月曜日

遺族年金のあれこれ


わが国の公的年金制度の中心は,1階部分の国民年金(基礎年金)と2階部分の厚生年金です。

以前は,公務員等には共済年金がありましたが,現在は厚生年金に一元化されています。

1階部分も2階部分も老齢・障害・遺族年金があります。

前回は,障害年金を取り上げました。今回は,遺族年金を取り上げたいと思います。

遺族年金は,年金の受給資格をもつ者が死亡し,その者によって生計を維持されていた者に対して給付されるものです。

遺族年金の場合,注意したいのは,遺族の範囲が基礎年金と厚生年金で異なることです。


遺族の範囲
遺族基礎年金
遺族厚生年金
死亡者に生計維持されていた18歳未満の子

または18歳未満の子がいる配偶者
子・孫(18歳未満であり,婚姻していないこと)
夫・父母・祖父母(55歳以上)


<優先順位>
 
①子のある妻,子のある55歳以上の夫,子
※「子のある妻」,または「子のある55歳以上の夫」が遺族厚生年金を受給している間は,子への支給は停止。
②子のない妻,子のない55歳以上の夫
55歳以上の父母
④孫
55歳以上の祖父母

30歳未満の子のいない妻の場合は,5年間支給される。

大きく異なるのは,遺族基礎年金は子がいないと給付されないのに対し,障害厚生年金は,子がいない妻にも給付されることです。

ただし,30歳未満の若い妻の場合,給付は5年間に限定されます。

また,障害基礎年金は,父子家庭にも給付されます。

それでは,今日の問題です。

29回・問題53 公的年金の給付内容に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 障害等級2級の受給者に支給される障害基礎年金の額は,老齢基礎年金の満額の1.25倍である。

2 老齢基礎年金の年金額の算定には,保険料免除を受けた期間の月数が反映される。

3 老齢基礎年金の年金額は,マクロ経済スライドによる給付水準の調整対象から除外されている。

4 遺族基礎年金は,国民年金の被保険者等が死亡した場合に,その者の子を有しない配偶者にも支給される。

5 遺族基礎年金の受給権を有する妻の遺族厚生年金の受給権は,受給権を取得した日から5年を経過したときに消滅する。


正解は,選択肢2です。

2 老齢基礎年金の年金額の算定には,保険料免除を受けた期間の月数が反映される。


老齢基礎年金は,480か月(40年間)にわたって保険料を納付することで,満額が支給されます。

障害基礎年金と遺族基礎年金は,定額制であることが異なります。

保険料納付を免除する制度があります。

生活保護受給者などに対する法定免除
収入減による者,産前産後などに対する申請免除

免除を受けた期間は,国庫負担分が年金額に反映されます。

現在は,国庫負担は2分の1となっています。
国試では何度か出題されていますが,以前は3分の1でした。

一般的な生活を送っていれば,国庫負担が3分の1から2分の1に引き上げられたことは,あまり関係しませんが,保険料免除を受ける場合は,大きな違いとなります。

満額が90万円だったとすると(実際には,現在は78万円くらい)

もし,これから40年にわたって全額免除を受けた場合,
年金の支給額は,45万円となります。

国庫負担が3分の1のままだったとしたら,年金の支給額は,30万円です。

月額にすると1万円以上の違いがあります。これは大きいですね。

それでは,ほかの選択肢も確認していきましよう。


1 障害等級2級の受給者に支給される障害基礎年金の額は,老齢基礎年金の満額の1.25倍である。

老齢基礎年金の満額の1.25倍になるのは,障害等級1級の場合です。


3 老齢基礎年金の年金額は,マクロ経済スライドによる給付水準の調整対象から除外されている。

マクロ経済スライドは,2004(平成16)年の改正で導入されたもので,賃金や物価,平均寿命などの変化によって,年金の給付水準を調整するものです。

老齢基礎年金の年金額は,調整対象です。

対象にならないのは,付加年金と死亡一時金です。

マクロ経済スライドの仕組みが導入されたのは,2004(平成16)年のことですが,初めて調整を行ったのは,2015(平成27)年です。

その同時,かなり話題になったので,覚えている人もいるのではないでしょうか。


4 遺族基礎年金は,国民年金の被保険者等が死亡した場合に,その者の子を有しない配偶者にも支給される。

遺族基礎年金の遺族の範囲は,子及び子のある配偶者です。

そのため,子を有さない配偶者には支給されません。

一方,遺族厚生年金は,
子・孫(18歳未満であり,婚姻していないこと)
夫・父母・祖父母(55歳以上)

子がなくても支給されます。

夫の場合は,55歳以上の場合です。国試ではまだ出題されたことがありませんが,夫が遺族厚生年金を受給することができる権利があっても,5559歳までは給付されず,実際に受け取れるのは60歳になってからです。


5 遺族基礎年金の受給権を有する妻の遺族厚生年金の受給権は,受給権を取得した日から5年を経過したときに消滅する。

遺族厚生年金の受給権が5年間に限定されているのは,受給権が発生した時点で30歳未満の若い妻の場合です。


<今日の一言>

遺族年金は,今まで出題されたことが少ないものです。

第32回国試では,一問丸ごと遺族年金が出題されています。

2年連続して,出題されることは少ないと思いますが,遺族基礎年金と遺族厚生年金の違いを確実に押さえておくようにしましょう。

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