2020年7月19日日曜日

障害基礎年金のあれこれ


今回は,障害基礎年金を取り上げたいと思います。

わが国の社会保険は,

年金保険
医療保険
労働者災害補償(労災)保険
雇用保険
介護保険

の5種類があります。

社会保険は,事前の保険料納付を給付の前提条件とします。

しかし,制度の中には,事前の保険料納付を前提にしていないものがあります。

一つは,老齢福祉年金です。

もう一つは,障害福祉年金(現・障害基礎年金の一部)です。

これらは,国民年金法が施行された1961(昭和36)年に制度化されたものです。
これらの制度をつくることで,国民皆年金が作り上げられました。

老齢福祉年金は,制度ができたときに既に高齢だったために,保険料を納付していない人を対象とした無拠出の年金です。

1916(大正5)年以前に生まれた人に給付されています。国民年金法では,老齢福祉年金の規定が削除されているので,この方々がいなくなったら,制度もなくなります。

障害福祉年金も無拠出の年金制度です。
1986(昭和61)年の改正で,障害基礎年金となりました。

さて,障害基礎年金は,今でもその流れをくむ部分が存在しています。

社会保険ですから,本来は被保険者となって,保険料を納付し,その期間に保険事故が生じた場合に給付されるものですが,初診日が20歳前にある障害で,1級・2級に該当する場合は,障害基礎年金が給付されます。

この20歳前傷病でも給付されるのが,障害基礎年金の大きな特徴です。

ただし,20歳前傷病で障害基礎年金の給付を受ける場合は無拠出のため,本人の所得によっては,給付されない,あるいは給付額が減額される,といった制限が設けられています。

老齢福祉年金も無拠出のため,障害基礎年金と同じように制限があります。

障害基礎年金を20歳前傷病によって給付を受けられる制度は,年金保険制度の中にありながら,税負担による社会福祉制度に似た一面を持っています。

そのため,年金保険制度の中でも障害基礎年金は,社会福祉士の勉強ではとても重要な位置づけにあるといっても良いでしょう。

それでは,今日の問題です。


第29回・問題52 事例を読んで,Cさんの年金の取扱いに関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

〔事 例〕
 先天性の視覚障害で,全盲のCさん(25歳,子どもなし)は,20歳になった翌月から1級の障害基礎年金を受給している。これまでは,仕事に就かず,年金以外にほとんど収入はなかったが,今年からU社に就職し,厚生年金に加入した。Cさんの視覚障害は,今後も回復が見込めないものとする。

1 Cさんは,障害基礎年金を受給しているので,厚生年金の保険料を免除される。

2 Cさんは,先天性の視覚障害により,障害厚生年金を受給できる。

3 Cさんは,先天性の視覚障害により,労災保険の障害補償年金を受給できる。

4 Cさんの障害基礎年金は,就職後の所得の額によっては,その全部又は一部の支給が停止される可能性がある。

5 今後,Cさんに子どもが生まれても,Cさんの障害基礎年金の額が加算される可能性はない。


Cさんは,先天性の視覚障害を持っているので,20歳前傷病にあたります。

社会福祉士の国家試験では,シビアな問題はそんなにないかもしれませんが,障害に関する事例の場合は,いつ傷病を負ったのかが極めて重要な意味を持ちます。

20歳前傷病では,20歳になった時点で,障害基礎年金が給付されます。
Cさんは,1級なので,老齢基礎年金の満額の1.25倍が給付されます。
2級の場合は,老齢基礎年金の満額と同じです。

これでわかると思いますが,障害基礎年金には,老齢基礎年金のように減額制は取らず,定額支給となっています。

老齢基礎年金は,40年間保険料を納付して満額支給となるので納付した期間で,年金額が変わります。

これに対して障害基礎年金は定額です。ただし,子がいた場合は,子の加算があります。

それでは解説です。

1 Cさんは,障害基礎年金を受給しているので,厚生年金の保険料を免除される。

国民年金は,20歳から60歳になるまで加入します。

老齢基礎年金の場合はそれで問題はありませんが,障害基礎年金の場合は,障害基礎年金の給付を受けながら,保険料を納付することになってしまいます。

そのため,障害基礎年金を受給すると保険料納付が免除されます。

ただし,これは障害基礎年金だけの話です。

厚生年金で保険料が免除されるのは,

産前産後休業(産前42日,産後56日)
育児休業等休業

の場合です。


2 Cさんは,先天性の視覚障害により,障害厚生年金を受給できる。

20歳前傷病で,障害年金を受給できるのは,障害基礎年金です。


3 Cさんは,先天性の視覚障害により,労災保険の障害補償年金を受給できる。

障害補償年金は,傷病が治癒したのち,障害が残った場合に給付されます。

Cさんの視覚障害が労災であったなら,障害補償年金を受給できますが,先天性のものなので,労災保険の対象ではありません。

もし,Cさんの視覚障害が労災による場合であったなら,障害基礎年金が満額支給され,障害補償年金は調整されます。

このように調整するのは,調整しないともともとの給与よりも高くなってしまうことがあるからです。


4 Cさんの障害基礎年金は,就職後の所得の額によっては,その全部又は一部の支給が停止される可能性がある。

これが正解です。

Cさんは,先天性の視覚障害で障害基礎年金を受給してます。

20歳前傷病の場合は,保険料が無拠出なので,所得による制限が設けられています。

被保険者期間に生じた障害を理由として障害基礎年金を受給する場合は,所得制限はありません。

5 今後,Cさんに子どもが生まれても,Cさんの障害基礎年金の額が加算される可能性はない。

障害基礎年金には,子の加算があります。


<今日の一言>

わが国の年金制度は,2階建て構造になっています。

この2階建て構造になったのが,1986(昭和61)年の制度改正の時です。

1階部分の国民年金(基礎年金)
2階部分の厚生年金ともに,老齢,障害,遺族年金があります。

基礎年金の部分には,無拠出の部分が含まれていることを押さえておきたいです。

無拠出の部分とは,被保険者になる前に生じた障害であっても,20歳になると障害基礎年金が給付されることです。

障害基礎年金となって30年以上経ちますが,受給にスティグマを感じる人は少なくないようです。

老齢基礎年金は,保険料を拠出していることを実感するので,年金をもらうことは当然の権利だと思いますが,障害基礎年金は無拠出でも給付される仕組みがあるからなのでしょう。

せっかくスティグマを感じないように社会保険制度の中に組み組んだのですから,障害基礎年金を受給するのにスティグマを感じないような社会にしたいものです。

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