社会福祉士の国家試験は第37回から,精神保健福祉士の国家試験は第27回から新しいカリキュラムによるものになります。
前回のカリキュラム改正と異なり,今回は新しいカリキュラムに慎重に移行していきます。
そのため,新しいカリキュラムになっても,それほど混乱なく対応できるとは思いますが,できるなら,現在のカリキュラムで学んだ人は,第36回までには資格を得ておきたいです。
現時点(2021年3月)では,現在のカリキュラムによる国家試験はあと4回もあります。
さて,今回は,効果測定を取り上げます。
現在のカリキュラムでは,効果測定は「相談援助の理論と方法」に含まれていますが,次のカリキュラムでは,「社会調査の基礎」の後継科目である「社会福祉調査の基礎」の中に含まれることになります。
次のカリキュラムに備えて,今のカリキュラムで効果測定について出題してくるでしょう。
今のカリキュラムでは,効果測定の方法の一つである事例研究はあまり取り上げられていないのです。
今回のテーマである「単一事例実験計画法(シングルシステムデザイン)」は,介入の効果を測定するための方法です。
シングルシステムデザインは,以下に区分して,介入の効果を測定します。
介入前(ベースライン期) |
介入期 |
介入後 |
この中で注意が必要なのは,「介入前(ベースライン期)」です。
国試では,介入前とは出題されず,ベースライン期と出題されるので注意が必要です。
介入前と出題すると簡単すぎるからでしょう。
それでは,今日の問題です。
第28回・問題106
ソーシャルワークの評価方法の一つである単一事例実験計画法に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 PIE(Person-in-Environment)を用いてクライエントの変化を測定する。
2 個人家族,小集団に対する介入の評価に用いる。
3 介入後の段階から繰り返して観察・測定を行う。
4 ベースライン期に行った介入を評価する。
5 調査対象者を実験群と統制群に分けて観察・測定を行う。
シングルシステムデザインのことを少しでも知っていれば,とても簡単な問題ですが,少しも知らないと正解するのは極めて難しい問題です。
「相談援助の理論と方法は,事例が多いから簡単だ」と思って勉強をあまりせずに国試に臨むと痛い目に遭います。
正解は,選択肢2です。
2 個人家族,小集団に対する介入の評価に用いる。
その通りです。何のひねりも引っ掛けもないものです。
しかし,国試は,正解以外の選択肢が,正解に容易にたどり着くのを阻みます。
この問題では,正解以外のものは,すべて強敵です。
それではそれ以外のものを解説です。
1 PIE(Person-in-Environment)を用いてクライエントの変化を測定する。
PIEは,国試で何度も出題されていますが,今一つよくわからないものです。
第31回国試では,いよいよPIEが明らかとなりました。
PIE(Person-in-Environment)は,クライエントが訴える社会生活機能の問題を記述し,分類し,コード化する。
これが正解になったので,今の参考書は,この記述を参考にして,おそらく説明されているのではないかと思います。
Person-in-Environmentは,「環境の中の人」と訳されます。つまり,クライエントが生活上困難に感じている環境因子を明らかにするために使われるものだと覚えていて良いと思います。
この問題は,この時点ではよくわからなかったPIEを含めて出題して,正解選択肢にたどりつくことにうまく成功していると言えるでしょう。
シングルシステムデザインは,介入の効果を測定するものであって,アセスメントツールではありません。
3 介入後の段階から繰り返して観察・測定を行う。
シングルシステムデザインでは,介入前(ベースライン期),介入期,介入後に分けて,測定します。
介入後だけでは効果測定はできません。
4 ベースライン期に行った介入を評価する。
これが最も注意すべきものです。
ベースライン期は,介入前です。ベースライン期はまだ介入していません。
5 調査対象者を実験群と統制群に分けて観察・測定を行う。
分けて観察・測定するのは,介入前,介入期,介入後です。
因みに,調査対象者を実験群と統制群に分けて観察・測定を行う方法もあります。
これは,集団比較実験計画法と呼ばれます。
実験群とは,介入するグループ。
統制群とは,介入しないグループ。
という意味です。
介入する必要があるのに介入しないことは,問題があります。
そのため,実験が終わったら,適切に介入することが必要です。