リスクマネジメント(危機管理)とは,リスクの発生防止と事故が発生した時の対応に関する経営手法です。
人はミスをする生き物です。そのため事故の発生は,完全にゼロにすることはできませんが,リスクマネジメントによって,限りなくゼロに近づけることができます。
重要なのは,「ヒヤリ」や「ハット」したこと(インシデント)をそのままにしておくことなく,その経験を活かして,今後の対策を立てることです。
ハインリッヒの法則では,1つの重大なアクシデントの後ろには,29の軽微なアクシデントがあり,さらにその後ろには300のインシデントがあると考えます。
それでは今日の問題です。
第28回・問題124 「福祉サービスにおける危機管理(リスクマネジメント)に関する取り組み指針」(厚生労働省)におけるリスクマネジメントに関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 リスクマネジメントの基本は,危機管理体制の確立よりも個別事故への対応である。
2 利用者から苦情が寄せられたときは,迅速に対応しなければならない。
3 事故が発生した場合,職員は周囲に動揺を与えぬよう,事故内容をできる限り秘匿すべきである。
4 事故を防止するためであれば,利用者へのサービスの質が向上しなくてもやむを得ない。
5 重大な事故に至らないものであれば,その内容を記録化し分析する必要はない。
この問題を見て「福祉サービスにおける危機管理(リスクマネジメント)に関する取り組み指針」(厚生労働省)」なんて勉強したことがない,と思う人は危険です。
国家試験を作成する上で重要なことはいくつかあると思いますが,その中でも特に重要なのは,問題の正確性です。
不適切問題を発生させないために,正しいものは確実に正しく,正しくないものは確実に正しくない選択肢で構成しなければなりません。
それは実はかなり難しいものです。
今回取り上げるのはリスクマネジメントですが,コンサルタントによって,その考え方がまったく違うかもしれません。
問題の正確性を高めるために,その根拠を明らかにするのが「福祉サービスにおける危機管理(リスクマネジメント)に関する取り組み指針」ということになります。
多くの場合,そういった指針を勉強することなく,それに関連する知識を持っていれば,正解できる問題となっています。
そのように問題は設計されています。
それでは,解説です。
1 リスクマネジメントの基本は,危機管理体制の確立よりも個別事故への対応である。
先に述べたように,リスクマネジメントは,リスクの発生防止と事故が発生した時の対応に関する経営手法です。
「危機管理体制の確立」(予防策)も「個別事故への対応」(事後対応)もどちらも極めて重要です。
2 利用者から苦情が寄せられたときは,迅速に対応しなければならない。
これが正解です。
極めて当たり前のことです。
3 事故が発生した場合,職員は周囲に動揺を与えぬよう,事故内容をできる限り秘匿すべきである。
事故が発生した場合,できるだけ早い時点で,そのことを説明することが大切です。
そのうえで,今後どのような対応を行うことで同様の事故防止に努めるのかについて,同時に説明します。
隠ぺい体質に良いことは何もありません。この事後対応は,事故による損失を最小限にするために必要なことです。
4 事故を防止するためであれば,利用者へのサービスの質が向上しなくてもやむを得ない。
これは,介護保険が導入する前に,当然のことのように行われていた身体拘束を意味しているものだと思います。
身体拘束は,人権侵害です。その意識がなければ「事故を防止するためであれば,利用者へのサービスの質が向上しなくてもやむを得ない」という考えになります。
利用者へのサービスの質向上を目指しながら,事故防止策を講ずるのが福祉サービスを提供するプロフェッショナルです。
5 重大な事故に至らないものであれば,その内容を記録化し分析する必要はない。
ハインリッヒの法則で説明したように,1つの重大な事故の後ろには,数多い軽微な事故や事故にはならなかった「ヒヤリハット」(インシデント)が隠れています。
インシデントレポートは,始末書ではありません。
ヒヤリハットしたことをみんなで共有し,そこを気をつけるためのものです。
<今日の一言>
今日の問題はそんなに難しくないものでしょう。しかし,確実に正解にするのはそれほど簡単なものではありません。
こういった問題を確実に正解することが国試合格に必要です。