現時点(2021年2月)で最も新しい国家試験は,第33回です。
国家試験問題を作成する試験委員は,第32回に大きく変わり,第33回ではほとんどが留任しました。
今の問題はプール制と言って,国家試験で使われなかった問題は,また使えることになっています。
しかし人が作った問題を焼き直して試験センターに納品するということは,試験委員の立場になると考えにくいものです。
そのため,試験委員が大きく変わらない限り,問題の傾向はそれほど変わらないものです。
第37回から新しいカリキュラムでの国家試験になるので,今の試験委員チームはその間にノウハウを蓄積して,新しいカリキュラムに備えていくと思われます。
試験委員も人の子です。その領域の専門家であっても,問題を作るプロではありません。そのために慣れがある程度必要です。
さて,今回のテーマは,「第33回国試から考える合格できる勉強法」です。
まずは述べておきたいことは,ヤマを張って合格できるような試験ではないということです。出題範囲に示された内容をひたすら確実に覚えていくことが欠かせません。
もう一つは,3年間の過去問を完璧に覚えても合格できるものではないということです。
国家試験問題を一つひとつ分解してみると,それほど複雑に出題されているものではありません。
合格に必要なことは,過去に出題されたものを中心として,確実にその意味を押さえていくことです。
3年間の過去問を勉強しても,2年連続で出題されるものは少ないので,国試に役立つのは2年分となります。心許ないと思いませんか。
第33回国試では,以下の問題が出題されています。 赤字が正解
第33回・問題98 次の記述のうち,人と環境との関係に関するソーシャルワーク理論として,最も適切なものを1つ選びなさい。
1 リッチモンド(Richmond,M.)は,「人」,「状況」,「人と状況の相互作用」の三重の相互関連性を説いた。
2 ピンカス(Pincus,A.)とミナハン(Minahan,A.)は,生態学的視座に立ち,人が環境の中で生活し,社会的にも機能していると説いた。
3 ホリス(Hollis,F.)は,パーソナリティの変容を目指し,人と環境との間を個別に意識的に調整すると説いた。
4 バートレット(Bartlett,H.)は,人々が試みる対処と環境からの要求との交換や均衡を,社会生活機能という概念で説いた。
5 ジャーメイン(Germain,C.)は,クライエントの環境は,アクション・システムなど,複数のシステムから構成されると説いた。
この問題は,全部入れ替え作問法という方法で作られているので,一つ手がかりがあると芋づる式に答えを見つけ出すことができます。
されはさておき・・・
この問題を目にした時,「しめた,勉強したことのある人たちばかりだ,ラッキー」と思った人は多かったのではないかと思います。
なぜなら,第32回に以下のような問題が出題されているからです。
第32回・問題93 ソーシャルワーク実践理論を発展させた人物に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 ベーム(Boehm,W.)は,人間と環境の交互作用を基本視点とした生態学的アプローチを展開した。
2 ジャーメイン(Germain,C.)は,ソーシャルワークを本質的な観点から検討し,ソーシャルワークの活動を三つの機能に分類して定義化を試みた。
3 シュワルツ(Schwartz,W.)は個人と社会の関係は共生的な相互依存関係であるとし,ソーシャルワーカーの媒介機能を重視する相互作用モデルを展開した。
4 ゴールドシュタイン(Goldstein,H.)は,価値の体系,知識の体系および多様な介入方法の3要素に基づくソーシャルワーク実践の共通基盤を提唱した。
5 バートレット(Bartlett,H.)は,システム理論を指向した一元的アプローチを展開し,後に認知的―人間性尊重アプローチを展開した。
これも全部入れ替え作問法です。おそらくこの2つは同じ試験委員が作成したものだと思われます。
同じ人が作るのですから,2年連続して同じような内容のものを出題するわけがありません。専門家としてのプライドが許さないでしょう。
とはいうもののマニアックな問題を出題するのは,誰も解けなくなるので不適切です。
第33回国試問題の元ネタと言える問題が存在しています。
第27回・問題98 ソーシャルワークが対象としている「人と環境との関係」に関する次の記述のうち,適切なものを1つ選びなさい。
1 リッチモンド(Richmond,M.)は,人々と資源システムとの連結や相互作用としてとらえた。
2 パールマン(Perlman,H.)は,人と環境及び両者の相互作用の連関性としてとらえた。
3 ホリス(Hollis,F.)は,他の相互作用によって影響を受けた累積的相互作用としてとらえた。
4 バートレット(Bartlett,H)は,人々が試みる対処と環境からの要求との間で保たれる均衡関係としてとらえた。
5 ジャーメイン(Germain,C)は,社会生活の基本的要求を充足するために,社会成員が社会制度との間に取り結ぶ関係としてとらえた。
この問題の正解も第33回と同じくバートレットです。
これに関連する記事
https://fukufuku21.blogspot.com/2019/04/blog-post_24.html
https://fukufuku21.blogspot.com/2017/09/blog-post_26.html
同じ内容で出題されたのは,第27回ということです。
ここの事実に着目してほしいと思います。
3年間の過去問の範囲ではないということです。
しかし,問われている内容は過去の内容とそっくりです。
第33回 バートレット(Bartlett,H.)は,人々が試みる対処と環境からの要求との交換や均衡を,社会生活機能という概念で説いた。
第27回 バートレット(Bartlett,H)は,人々が試みる対処と環境からの要求との間で保たれる均衡関係としてとらえた。
異なるのは,第27回で出題された時には使われなかった「社会生活機能」ということばが使われていることです。
これに対しては,さらに元ネタと言える問題があります。
第25回・問題101 相談援助における「個人」と「環境」をめぐる諸説に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 ジャーメイン(Germain,C.)らは,生態学の視点を用いて,個人に焦点化した適応概念について説明した。
2 ホリス(Hollis,F.)は,パーソナリティの発達を目指して,個人と社会環境との間を個別に意識的に調整することについて論じた。
3 パールマン(Perlnan,H.)は,役割概念を用いて,役割ネットワークのなかで生成している存在として個人をとらえた。
4 バートレット(Bartlett,H.)は,人間にとってふさわしい場所の質は,その人の願望,能力,自信,環境の資源の機能によって決定されるとした。
5 ゴスチャ(Goscha,R.)らは,社会生活機能の概念を,環境からの要求と個人が試みる対処との交換及び均衡に焦点化してとらえた。
もう分かると思いますが,ゴスチャと出題されているものがバートレットのことです。
参考書は,こういった出題を分析して,最も効率的に学べるように作成されます。
3年間の過去問の知識ではスカスカなので,参考書を使って勉強することは欠かせません。
<今日の一言>
過去問にこだわる人は,さらにさかのぼって過去問を購入すればよいと思う人もいるかもしれません。
しかし,年度が替わる過去問解説は書いている先生が変わるため,年度間の関連は書かれません。
そういった意味で,国試に確実に合格するためには,参考書に書かれている知識は欠かせないと考えます。
過去問を解いて,正解した,間違った,ということを重視する勉強では,ボーダーラインを大きく超えることは難しいと言えるでしょう。
合格発表を余裕を持って迎えたいものですね。
第34回国試に向けた戦いは始まっています。