認知心理学は,脳の情報処理を明らかにする学問領域です。
感覚と知覚は出題頻度が高いので,確実に覚えておきたいものです。
覚えるものの種類は多いですが,試験に出るものの種類は固定的です。
それでは,実際の問題をみてみたいと思います。
第31回・問題9 感覚・知覚に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 体制化における閉合の要因は,錯視の1つである。
2 形として知覚される部分を地,背景となる部分を図という。
3 仮現運動は,知覚的補完の1つである。
4 大きさの恒常性とは,網膜に映し出されたとおりに大きさを知覚することである。
5 圧刺激によって光を感じ取る場合,この刺激を適刺激という。
かなり手ごわいです。
少なくとも日本語的には答えを探すことはほとんどできません。
こんな問題を見ると,国家試験は難しいなぁ,と思うかもしれません。
難しいものですが,こういった出題頻度が高いものを確実に覚えることが得点力を上げることにつながります。
それでは解説です。
1 体制化における閉合の要因は,錯視の1つである。
閉合は,知覚の体制化の一つであることは適切です。
知覚の体制化とは,本来は意味のないものを意味のあるものとして知覚することをいいます。
閉合の例としてよく使われるのは,
( ) ( ) ( )
【 】 【 】 【 】
といったものです。形の向きによって,閉じているように見えます。不思議です。これがまとまりのあるものとして見えるという意味です。
錯視は,本来の形とは異なって見えることです。脳が誤動作(勘違い)するために生じる現象です。本当は直線なのに,曲線に見える,などの例があります。
ネットで錯視の例を検索するとたくさん出てくるので,実際に見てみると良いでしょう。
2 形として知覚される部分を地,背景となる部分を図という。
形として知覚される部分は,「図」
背景となる部分は「地」
このように聞けば,何となくわかるように思いませんか。
この知覚によって,物の形を認識します。
3 仮現運動は,知覚的補完の1つである。
これが正解です。
仮現運動は,静止している画像が連続すると,動いて見える現象です。原始的なものとしては,パラパラ漫画があります。
知覚的補完は,本来は見えていないものを,今までの経験を脳が覚えていて,きっとこうだろうと脳が処理することです。
パラパラ漫画も,つながっていない動きを脳が処理して,あたかも動いているように見えるものです。
4 大きさの恒常性とは,網膜に映し出されたとおりに大きさを知覚することである。
知覚の恒常性には,いくつかの種類がありますが,社会福祉士の国家試験に出題されているのは,大きさの恒常性と形の恒常性です。
大きさの恒常性は,網膜に映るものの大きさが異なっても同じ大きさに知覚する現象です。
例えば,人が自分の方に向かって歩いてくることを考えてみます。
遠くにいるときは,網膜には小さく映っています。
だんだん近づいているのにしたがって,網膜に映る人も大きくなります。
しかし,小さく映っても小さい人,大きく映っても大きい人,と認知するのではなく,同じ大きさの人に見えるように脳が処理します。これが大きさの恒常性です。
形の恒常性は,網膜に映る形が変わっても同じ形のものとして認知することです。
国家試験では,コップのふちの形を例に出題されていたことがあります。
丸い形をしているコップは,真上から見た場合,円形ですが,角度を変えると楕円が網膜に映っています。
しかし,脳が丸いコップだと処理して,網膜に映る形が変わっても丸いコップだと認知します。
知覚の恒常性は,脳がコンピュータのように形を自動で補正しているために生じるものです。
5 圧刺激によって光を感じ取る場合,この刺激を適刺激という。
これは,今まで何度も出題されていますが,正解になったことがないものです。
光を感じる器官は,目です。
目を閉じて目を押す(圧刺激)と,光を感じることがあるらしいです。
目を傷めるので,やらないほうが良いと思います。
適刺激と,感覚器官が本来感じる刺激のことです。
例えば,目は光,耳は音,鼻はにおい,といったものが適刺激です。
圧刺激によって光を感じ取ることがあっても,それは目にとって適刺激ではありません。
社会福祉士の国家試験には出題されたことはありませんが,共感覚というものがあります。
これは,色を見るとにおいを感じるといったものです。人の脳は実に不思議です。