2022年9月16日金曜日

ウェクスラー式の知能検査

平成19年カリキュラム改正以降,出題基準で示されている「知能・創造性」が国家試験に出題されたことはたった1回しかありません。

 

しかし,新しい国家資格である公認心理師が創設されて以来,社会福祉士の心理学が公認心理師を意識した出題になっているので,注意が必要です。

 

今日のテーマから少し離れますが,公認心理師を最も意識したものとして,次の問題が挙げられます。

 

33回・問題13 心理検査に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 特別支援学級への入級を検討したい子どもの知能検査を学校から依頼されたので,ロールシャッハテストを実施した。

2 改訂長谷川式簡易知能評価スケールの結果がカットオフポイントを下回ったので,発達障害の可能性を考えた。

3 10歳の子どもに知能検査を実施することになり,本人が了解したので,WAIS-Ⅳを実施した。

4 投影法による性格検査を実施することになったので,矢田部ギルフォード(YG)性格検査を実施した。

5 WISC-Ⅳの結果,四つの指標得点間のばらつきが大きかったので,全検査IQ(FSIQ)の数値だけで全知的能力を代表するとは解釈しなかった。

 

公認心理師の問題よりは簡単ですが,びっくりする出題です。

カットオフポイントとは,心理検査で得られた数値を上回るか,下回るか,によって障害等を判断する基準点のことです。

認知症のスクリーニング検査はできることをチェックしていくので,カットオフポイントを下回ると認知症が疑われます。

逆に不安などの心理検査は,症状があることをチェックしていくので,点数が高くなるほど不安等の度合いが強いことを示します。

 

選択肢4はびっくりです。

 

<4つの指標得点>

言語理解

言語の理解の程度をみる指標

知覚推理

非言語的な推理能力をみる指標

ワーキングメモリー

聴覚の記憶の程度をみる指標

処理速度

作業が手際よく処理できるかをみる指標

 

IQは,おおよそ以下のように見ます。

 

130以上:非常に高い

120129:高い

110119:平均の上

90109:平均

8089:平均の下

7079:低い

69以下:非常に低い

 

IQ69以下だと知的能力障害が疑われますが,知能検査は診断のための一つの材料に過ぎず,知能検査の結果で,知的能力障害だと診断されるものではありません。

 

問題の中にあるばらつきとは,たとえば,以下のようなものです。

 

全検査IQ 100

言語理解 85

知覚推理 100

ワーキングメモリー 110

処理速度 105

 

全検査IQだけでは,この子の知的能力はよくわからないことがよくわかるでしょう。ということで正解は,選択肢5です。知らなくてもこれを選べそうです。

 

さて,ここからが今日の本論です。

 

よく使われる知能検査には,ビネー式ウェクスラー式があります。

 

ウェクスラー式の知能検査には,対象の年齢によって,3つの検査があります。

 

低年齢児用:WPPSI(ウイプシ)

子ども用:WISC(ウイスク)

成人用:WAIS(ウェイス)

 

対象年齢は,きっちり決まっていますが,公認心理師ではないので,各知能検査が誰を対象としているのかがわかれば十分です。

 

なお,各検査のWは開発者のウェクスラーを意味しています

 

それでは,今日の問題です。

 

30回・問題10 思考や知能に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1 拡散的思考とは,問題解決の際に,1つの解答を探索しようとする思考方法である。

2 洞察とは,問題解決のための方法を1つひとつ試して,成功する手法を探していく思考方法である。

3 知能指数(IQ)は,知能検査から得られる生活年齢と暦年齢の比によって計算される。

4 結晶性知能とは,過去の学習や経験を適用して得られた判断力や習慣のことである。

5 成人用知能検査であるWAISは,フランスのビネー(BinetA)によって開発された。

 

これもかなりびっくりする問題かもしれません。

 

しかし,正解は,選択肢4です。

4 結晶性知能とは,過去の学習や経験を適用して得られた判断力や習慣のことである。

 

知能の種類の分類には,キャッテルによる「結晶性知能」と「流動性知能」があります。

 

そのうち,過去の学習や経験を適用して得られた判断力や習慣は,結晶性知能です。

 

流動性知能は,新しいものに対応する知能です。

 

WISCで述べた4つの指標得点のうち,

結晶性知能をみるのが「言語理解」

流動性知能をみるのが「知覚推理」

です。

 

難しい問題ですが,「結晶性知能」と「流動性知能」は,この当時の参考書にも書いてあったものだと思います。そのため,しっかり勉強した人は確信をもって解けたのではないかと思います。難しそうにみえてもどこかに手がかりはあるものです。

 

それでは,ほかの選択肢も確認します。

 

1 拡散的思考とは,問題解決の際に,1つの解答を探索しようとする思考方法である。

 

思考方法には,「拡散的思考」と「収束的思考」があります。

 

そのうち,1つの解答を探索しようとする思考方法は,「収束的思考」です。

 

拡散的思考」は,1つのことから,発展させて思考を広げるものです。

 

2 洞察とは,問題解決のための方法を1つひとつ試して,成功する手法を探していく思考方法である。

 

問題解決のための方法を1つひとつ試して,成功する手法を探していく思考方法は,試行錯誤です。

 

洞察は,試行錯誤せずとも答えがひらめくものです。


学習理論で学ぶ試行錯誤学習洞察学習の知識を応用して考えることが問われています。

 

3 知能指数(IQ)は,知能検査から得られる生活年齢と暦年齢の比によって計算される。

 

知能指数(IQ)は,精神年齢を生活年齢(暦年齢とも言う)で割ったものです。

 

精神年齢が高ければ,IQが高くなります。精神年齢は,ビネー式知能検査で知られるビネーが提唱したものです。

 

5 成人用知能検査であるWAISは,フランスのビネー(BinetA)によって開発された。

 

WAISを開発したのは,ウェクスラーです。WIPPSIWISCWAISWは,ウェクスラーの頭文字です。

 

ビネーが開発したのは,ビネー式です。

先に紹介した知能指数の100を平均とした数字は,ビネー式とウェクスラー式でほぼ一緒ですが,一部異なる部分があります。

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