前回は,入手できる国試問題の中で最も古い第3回の問題を紹介しました。今と似たような問題,ぜんぜん違う問題がありました。
国試問題は毎年少しずつ形を変えていきます。
過去問は大切ですが,過去3年の過去問では戦えないことは明白です。
それにも関わらず,3年間の過去問を3回解けば合格できるという都市伝説が今も健在なのかがどうも納得できないのです。
チームfukufuku21は,その理由をプラスアルファ,別な言い方をすれば,ブラックボックスの部分があることを見落としているのではないかと見ています。
プラスアルファの部分,あるいはブラックボックスの部分とは,「問題を読み解く力」なのだと思います。
これはみんなが同じく持っているわけではありません。
過去問を解くのは,「問題を読み解く力」をつけることに他ならないと思います。
過去問の知識だけで合格しようと思えば,7年分以上の情報量は必要です。
なぜなら,4年周期で出題されるものも多いからです。
第31回の4年前は,第27回。第27回の4年前は第23回。
しかし実際にこれだけの情報を取る苦労を考えれば,参考書に頼った方が賢明です。
古本屋さんで古い過去問を買っても,ほとんど使えません。
なぜなら,毎年1~2割程度の問題は制度が変わっているからです。
さて,もう一つの節目である第20回国試問題を紹介します。
問題51 社会集団の概念に関する次の記述のうち,適切なものに〇,適切でないものに×をつけなさい。
A ゲマインシャフトとは,管理社会の中で孤立化した人々が人工的に組織する集団である。
B リファレンス・グループとは,個人の態度形成や意思決定の準拠フレームとなる集団である。
C アソシエーションとは,そのメンバーによって,特定の関心や目標の実現を目指そうとする集団である。
D プライマリー・グループとは,生計を成り立たせる上で不可欠な集用であり,主として職場集団のことである。
問題52 「団塊世代」に関連する次の記述のうち,適切なものに〇,適切でないものに×をつけなさい。
A 団塊世代が高校に進学する年齢に達した昭和40年代初頭(1960年代半ば)以降,我が国では,電気洗濯機や電気冷蔵庫などの家庭電化製品の普及率は急激に上昇した。
B 団塊世代が大学に進学する年齢に達した昭和40年代半ば(1960年代末)以降,我が国の大学進学率は目立って上昇した。
C 団塊世代は,被用者になるものが多く見られたため,我が国の就業人口に占める自営業の割合を減少させる一方,被用者の割合を増加させた。
D 団塊世代は,進学・就職時に3大都市圏以外に移住した者が多く見られたため,我が国では3大都市圏に居住する人口比率が低下傾向をたどった。
問題53 マスメディアの特徴に関する次の記述のうち,適切なものに〇,適切でないものに×をつけなさい。
A マスメディアは,オリジナルなコンテンツを複製し流通させる機能をもつ。
B マスメディアは,読者や視聴者にステレオタイプをもたらす疑似環境となるリスクをもつ。
C 一方通行的な性格の強い電子メディアとは異なり,マスメディアは双方向的なコミュニケーションが可能である。
D マスメディア集中排除原則とは,表現の自由と言論の多様性を確保するためのものである。
問題54 家族に関する次の記述のうち,最も適切なものを一つ選びなさい。
1 進学や就職のために別居している人は,家族には含まれない。
2 我が国では,住民基本台帳の記載は家族を単位として行われる。
3 我が国の民法では,扶養義務の範囲は1親等内の親族に限られている。
4 核家族とは,一組の夫婦のみによって構成される家族である。
5 定位家族とは,子どもが生まれ,社会化される場としての家族である。
問題55 高齢者介護と家族の機能に関する次の記述の空欄A,B,Cに該当する語句の組み合わせとして,正しいものを一つ選びなさい。
かつては介護を必要とする家族成員に対して,家族内の性別役割分業に基づく女性による( A )が現在よりも一般的であったが,家族の介護機能の縮小につれて,介護の( B )が進行した。我が国でも介護保険制度の導入以降,高齢者介護が家族以外の従事者によって担われる機会が増加している。
ケアの提供においては,身体的な世話をすることと,相手を思いやることが大切であるが,介護の( B )が進行する中,( C )側面と情緒的側面のどちらか一方だけに陥らない工夫が必要である。
A B C
1 フォーマルケア-------------社会化-----------手段的
2 インフォーマルケア---------個人化-----------表出的
3 インフォーマルケア---------社会化-----------手段的
4 フォーマルケア-------------個人化-----------手段的
5 インフォーマルケア---------社会化-----------表出的
問題56 感情社会学アプローチによる感情に関する次の記述のうち,適切でないものを一つ選びなさい。
1 個人の特定の感情は,権力や地位など特定の社会関係に応じて喚起される。
2 どのような種類の感情をどれだけ持続するかは,社会的な影響を受けることなく,個人の主観に任されている。
3 カウンセラーやセラピストなどの専門家がどのような視点や方法で感情を扱うかは,私たちの日常的な感情のあり方に影響をもたらす。
4 特定の職業活動では,その目的実現に適合的な感情の管理が,労働者に要請される。
5 現代人は感情に非常にセンシティブで,それに大変こだわったり,囚われたり,あるいはそれを大事にして生きている。
問題57 国土づくりに関する次の記述の空欄A,B,Cに該当する語句の組み合わせとして,正しいもの-一つ選びなさい。
我が国の国士づくりの長期的指針となる( A )は,昭和37年に初めて策定されて以来,これまで5次にわたり策定されている。平成10年に決定された第5次( A )では,( B )による国土づくりが新たな指針として示された。しかし,人口減少時代を迎えつつある中,開発基調・量的拡大を志向する( B )は時代に合わなくなってきた。そのため,これまでの( A )に代えて,新たに( C )を策定することとなった。( C )の基本理念の中には,「地域社会の自立的な発展」「活力ある経済社会」「国民生活の安全」「豊かな環境」といった方向性が示されている。
A B C
1 社会資本整備重点計画----------参加と連携------------国土保全計画
2 社会資本整備重点計画----------定住構想--------------国土形成計画
3 社会資本整備重点計画----------参加と連携------------国土形成計画
4 全国総合開発計画---------------定住構想-------------国土保全計画
5 全国総合開発計画---------------参加と連携-----------国土形成計画
問題58 地域社会のとらえ方に関する次の記述のうち,適切なものに〇,適切でないものに×をつけなさい。
A 「家連合」とは戦前農村での家々の相互補完的な関係を表現したものであるが,家同士の垂直的結合である「組」と水平的結合である「同族」の2つの形態がある。
B 「自然村」とは,人為的に制定された「行政村」に対置して提示された概念であり,「村の精神」によって統合された社会的統一としての村落を意味する。
C 我が国の大方の地域社会にみられる町内会の特徴として,加入単位は個人である点や入会・退会が自由である点が挙げられる。
D 「都市的生活様式」は「村落的生活株式」に対置される概念であり,専門処理システムへの高度な依存を特色とする社会的共同生活を意味する。
問題59 社会調査の倫理に関する次の記述のうち,正しいものに○,誤っているものに×をつけなさい。
A 調査活動は,常に「調査される側」よりも専門的な「調査する側」の立場から行われなければならない。
B 調査者は,調査対象者の求めに応じて,調査データの提供先と使用目的を知らせなければならない。
C テープレコーダーなどの記録機材を使用した記録は,内容の一貫性を保持する必要から,調査対象者の要請があっても破棄・削除してはならない。
l〕調査者は,調査対象者を,性別・年齢・出自・人称・エスニシティ・障害の有無などによって差別してはならない。
問題60 近代の組織類型の一つとしてヴェーバー(Weber,M.)が取り上げた「官僚制」の特色に関する次の記述のうち,適切でないものを一つ選びなさい。
1 規則によって,権限が秩序づけられている。
2 上下関係がはっきりした職階制を採る。
3 秘密主義である。
4 職務が専門化する。
5 文書による事務処理が行われる。
この問題は,社会学(現在のカリキュラムでは社会理論と社会システムに該当)です。
今も通用する問題は,社会集団,家族,社会調査,ウェーバーだけです。
この科目が難しいのは,昔も今も同じです。
この当時は,心理学,社会学,法学の3科目は勉強するのを捨てて,すべて3か4をマークする(すべてが大切)といった技法が使えました。
変に勉強して,0点を取るよりは,確実に点数を取ることができたからです。
第20回の国家試験が行われた年には,すでに新しいカリキュラムは明らかになっていたので,実は少しずつ,新しい国試に関連する問題を出題していたのです。
その一つが社会調査です。それまでも社会調査は,社会学,あるいは社会福祉援助技術(現在の相談援助に相当)では出題されていましたが,本当に意識して出題されたことがよく分かります。
国試は毎年少しずつ形を変えて出題されます。
あと数点の壁はそんなところから生まれます。
問題を解くのは,問題を読み解く力をつけることに他なりません。
内容を覚えるだけでは,あと数点を取るための力はつきにくいと言えます。
分からなくても分からないなりに思考を動かして,推測することを心がけましょう。
最後の最後は,その力が大きな意味を持ちます。
最新の記事
児童手当法と児童手当
今回は児童手当法と児童手当を学びます。 児童手当法,児童扶養手当法,特別児童扶養手当法は,児童扶養手当法(1961年),特別児童扶養手当法(1964年),児童手当法(1971年)の順で成立していきました。 児童手当法の児童の定義は,18歳に達する日以後の最初の3月31日までの...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
質的調査では,インタビューや観察などでデータを収集します。 その際にとる記録をフィールドノーツといいます。 一般的には,野外活動をフィールドワーク,野外活動記録をフィールドノーツといいます。 こんなところからも,質的調査は,文化人類学から生まれてきたものであることがう...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
19世紀は,各国で産業革命が起こります。 この産業革命とは,工業化を意味しています。 大量の労働力を必要としましたが,現在と異なり,労働者を保護するような施策はほとんど行われることはありませんでした。 そこに風穴を開けたのがブース,ラウントリーらによって行われた貧困調査です。 こ...
-
ヒラリーという人は,さまざまに定義される「コミュニティ」を整理しました。 その結果,コミュニティの定義に共通するものとして ・社会的相互作用 ・空間の限定 ・共通の絆 があることが明らかとなりました。 ところが,現代社会は,交通手段が発達し,SNSやインターネットなどによって,人...
-
今回は,ソーシャルワークにおけるエンゲージメントを取り上げます。 第30回の国試で出題されるまでは,あまり知られていなかったものです。 エンゲージメントは,インテーク(受理面接)とほぼ同義語です。 それにもかかわらず,インテークのほかにエンゲージメントが使われるようになった理由は...
-
絶対に覚えておきたい社会的役割は, 第1位 役割期待 第2位 役割距離 第3位 役割取得 第4位 役割葛藤 の4つです。 今回は,役割葛藤を紹介します。 役割葛藤とは 役割に対して葛藤すること 役割葛藤を細かく分けると 役割内葛藤と役割間葛藤があ...