2018年2月22日木曜日

国試における「貧困」の出現数の年次推移~社会福祉士国試は時代を映す鏡です!!

現在,社会福祉士を目指す方は,介護保険制度に関連した介護支援専門員などが多いと思います。

介護保険が出来る前は,高齢者介護は,社会福祉制度である老人福祉法によって行われていました。

介護保険が出来た時は,「介護の社会化」というキーワードが盛んに使われましたが,社会保障制度上は,低所得者層を対象とする社会福祉制度から,一般所得者層を対象とする社会保険制度に変わった,ということはとても重要なことです。

介護保険関連に従事している方は,国試を通して,改めて社会福祉制度を学んでほしいと思います。

そういった意味で,前回紹介したような老人福祉法の変遷などが出題されるのだと思います。

本題です。

社会福祉士の国家試験は,平成元年に第1回が実施されています。

国家試験問題は,第1・2回は非公表(つまり持ち帰り不可)で実施されています。

公開されているのは,第3回国試からです。

第3回国試は,170問もあります。びっくりですね。

第4回から150問になり,現在に至ります。

国試が始まった平成元(1989)年は,バブル景気の中で行われています。

平成元年の保護率はわずかに8パーミル程度です。

社会福祉士国家試験で「貧困」という言葉がどのように増減していると思いますか?

以下は,その結果です。

第3回 13回
第4回 5回
第5回 0回
第6回 1回
第7回 5回
第8回 0回(保護率が底だった年度。ここから保護率が上昇して来る)
第9回 3回
第10回 5回
第11回 4回
第12回 0回
第13回 1回
第14回 6回
第15回 6回
第16回 8回
第17回 0回
第18回 13回
第19回 12回(リーマンショックが起きた)
第20回 11回
第21回 6回

第22回 13回(現行カリキュラムの第1回試験)
第23回 16回
第24回 2回
第25回 8回
第26回 8回
第27回 22回(最多)
第28回 10回
第29回 16回
第30回 8回

これは,国試問題中に「貧困」という言葉が現れた回数を拾ったものです。

貧困問題そのものを取り上げた問題,といった別の切り口で調べると,また違ったものが見えてくるかもしれません。それは研究者に任せましょう。

この過程で分かったこと

初期の国試での貧困に関する出題

ブース,ラウントリーなどの貧困調査,あるいはタウンゼントの相対的剥奪など,古典的な貧困。


近年の国試での貧困に関する出題

社会的問題としての貧困を取り上げて来ている。


ここから見えてくるのは,約30年前は,貧困問題は過去のものであり,それから今の問題に変わってきたということです。

さて,第31回国試に関連して着目すべき第27回国試では,最も多い22回も出て来ています。


第27回国試における貧困に関する出題(一部)

問題22 

貧困及びニードのとらえ方に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 タウンゼント(Townsend,P)は貧困者には共通した「貧困の文化(culture of poverty)」があることを明らかにした。
2 リスター(Lister,R)は,「ノーマティブ・ニード」に加えて,「フェルト・ニード」を提案した。
3 ルイス(Lewis,O.)は,「相対的剥奪」の概念を精緻化することで,相対的貧困を論じた。
4 ブラッドショー(Bradshaw,J)は,絶対的貧困・相対的貧困の二分法による論争に終止符を打つことを目指した。
5 スピッカー(Spicker,P)は,「貧困」の多様な意味を,「物質的状態」,「経済的境遇」及び「社会的地位」の三つの群に整理した。

詳しい説明は,別の機会にすることにして,

正解は選択肢5です。

スピッカー(Spicker,P)は,「貧困」の多様な意味を,「物質的状態」,「経済的境遇」及び「社会的地位」の三つの群に整理した。

一見さんが正解になるのは,とても珍しいものです。

この時の一見さんは,第30回国試にも出題されたリスターと,第27回で正解になったスピッカーの2人です。

スピッカーとリスターはセットで覚えておきたいです。


スピッカー

「容認できない貧困」を中心に置いて,その周りに「物質的状態」「経済的境遇」「社会的地位」を配置しています。


リスター

「物質的欠乏」を車輪の軸にして,その周りの車輪として「非物質的欠乏」(社会的排除,スティグマなど)を配置しています。


もう一問


問題63 

貧困と格差に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 一人当たり可処分所得を低い順に並べ,中央値の半分に満たない人の割合を相対的貧困率という。
2 ジニ係数は,その数値が小さくなるほど,所得分布が不平等であることを表す。
3 タウンゼント(Townsend,P)は,栄養学の観点から科学的,客観的に貧困を定義する絶対的貧困の概念を主張した。
4 貧困の再発見とは,貧困線付近の低所得世帯より公的扶助世帯の方で可処分所得が上回ってしまい,いつまでも公的扶助から抜け出せないことをいう。
5 生活保護世帯の子どもが成長し,再び生活保護世帯になるという貧困の連鎖については,日本では確認されていない。

答えは,相対的貧困率の選択肢1です。


どちらの問題でも分かるように,古典的貧困と現代的貧困を並べて出題されているのが分かると思います。

古典的貧困は,ブース,ラウントリーらの「貧困の発見」,タウンゼントらの「貧困の再発見」が軸となります。

現代的貧困は,ポーガム,ピケティ,リスター,スピッカーらが出題されています。絶対に覚えておきたいのは,リスターの「車輪モデル」とスピッカーの「貧困の家族的類似」でしょう。

社会福祉士が真のソーシャルワーカーになるためには,制度の垣根を超えた複合的な問題を抱えたクライエントを理解することは欠かせません。

そのために,まずは現代的貧困をしっかり押さえていくことが大切です。


因みに第3回国試問題で出題された貧困に関連する問題はこれです。

第3回・問題9 

貧困水準に関する次の記述のうち,適切でないものを一つ選びなさい。
1 B.S.ラウントリー(Rowntree,B.S.)は,第1回のヨーク市調査において,その所得の総収入が肉体的能率を維持するための最低限を示す水準を,第1 次貧困線とか絶対的貧困線といっている。
2 B.S.ラウントリーは,第2次貧困線として,その収入が飲酒とか賭博などのように平常とは異なったものに消費されない限り,第1次貧困線以上の生活を送ることのできる水準を設定している。
3 B.S.ラウントリーは,第2回のヨーク市調査において,第2次貧困線を最低の社会生活を示すものとして捉え,第1次貧困線の代りに第2次貧困線で,貧困世帯を捉えることにした。
4 貧困水準を2つに分ける考え方は,チャールズ・ブース(Booth,C.)の第1次ロンドン調査のなかで示されている。
5 エンゲル(Engel,C.L.E.)の法則に示された家計に占める食費の割合は,貧困水準を示す有力な基準の一つとされている。


今はもうない「適切でないもの」を選ぶ問題です。

正解が「すぐにこれだ」と分かるものではなく,消去法で選択肢3が残る問題です。

間違いポイントは,第2回の調査では,第1次貧困線の設定は行っていない,というところらしいです。とても厳しい問題ですね。

この当時は,試験委員もどのように出題したらよいのか,模索していたのではないでしょうか。

受験生にとっては,参考書が充実していない時代ですから,ものすごく難しかったものと思います。

合格率はわずか20.6%。受験者数も少ないですが,見事合格をつかみ取ったのは,全国でわずか528名です。


第3回国試は,問題数は多いし,マニアックな問題は出題されるし,ものすごくハードな試験だったことでしょう。

今は,30回も国試が実施され,どんなところをチェックしておけば良いのか,何を覚えたらよいのか,それらはよく分かります。

マクロ的な視点を持つと,国試ではとても強いです。

チームfukufuku21は,独自の視点でそれを伝えていきたいと思っています。

平成の時代に生まれた国家資格を,次の時代につなげていけるようにみんなで頑張っていきましょうね!!

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