2018年11月21日水曜日

医師の業務の徹底理解

福祉の国家資格には業務独占の資格はありません。

医療の国家資格には,業務独占の資格はたくさんあります。誤った業務を行うと生死にかかわるからでしょう。

今回は,保健医療サービスにおける専門職の役割の締めくくりとして,医師の業務を取り上げます。

医師法において,医師の業務は,以下のように規定されています。

(業務)
第十七条 医師でなければ,医業をなしてはならない。
第十八条 医師でなければ,医師又はこれに紛らわしい名称を用いてはならない。
第十九条 診療に従事する医師は,診察治療の求があつた場合には,正当な事由がなければ,これを拒んではならない。
2 診察若しくは検案をし,又は出産に立ち会つた医師は,診断書若しくは検案書又は出生証明書若しくは死産証書の交付の求があつた場合には,正当の事由がなければ,これを拒んではならない。
第二十条 医師は,自ら診察しないで治療をし,若しくは診断書若しくは処方せんを交付し,自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し,又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し,診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については,この限りでない。
第二十一条 医師は,死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは,二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。
第二十二条 医師は,患者に対し治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合には,患者又は現にその看護に当つている者に対して処方せんを交付しなければならない。ただし,患者又は現にその看護に当つている者が処方せんの交付を必要としない旨を申し出た場合及び次の各号の一に該当する場合においては,この限りでない。
一 暗示的効果を期待する場合において,処方せんを交付することがその目的の達成を妨げるおそれがある場合
二 処方せんを交付することが診療又は疾病の予後について患者に不安を与え,その疾病の治療を困難にするおそれがある場合
三 病状の短時間ごとの変化に即応して薬剤を投与する場合
四 診断又は治療方法の決定していない場合
五 治療上必要な応急の措置として薬剤を投与する場合
六 安静を要する患者以外に薬剤の交付を受けることができる者がいない場合
七 覚せい剤を投与する場合
八 薬剤師が乗り組んでいない船舶内において薬剤を投与する場合
第二十三条 医師は,診療をしたときは,本人又はその保護者に対し,療養の方法その他保健の向上に必要な事項の指導をしなければならない。
第二十四条 医師は,診療をしたときは,遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。
2 前項の診療録であつて,病院又は診療所に勤務する医師のした診療に関するものは,その病院又は診療所の管理者において,その他の診療に関するものは,その医師において,五年間これを保存しなければならない。


細かくこれを覚える必要はありません。

こういったものは,何度か目にしておくだけで十分です。

本来は覚えなければならないですが,国家試験は一問一答式ではないので,他の選択肢との関連で答えは引き出せるからです。

勉強が足りない人は,ゼロから考えなければなりません。しかしこういったものをしっかり確認した人は,それが頭の中に残り,国試の時の判断材料になります。


今日は,2問続けて紹介します。

まずは,1問目です。難易度は高めです。


第24回・問題67 医師等に関する次の記述のうち,正しいものを一つ選びなさい。

1 医師は,死体に異状を認めたときは,厚生労働大臣に届け出なければならない。

2 医師の臨床研修のマッチング結果は,近年,臨床研修病院が大学病院を上回っている。

3 医師は業務として,医薬品の調剤を行ってはならない。

4 いわゆる医薬分業とは,医師の指示の基に薬剤師が処方箋を発行することをいう。

5 助産師以外の者は,助産所を開設することはできない。

前回の問題と比較すると,各選択肢の文字数及び表現にはかなりのばらつきがあるのが分かります。

近年はこのような作問が少なくなっているので,このような古い問題を見ると何となく気持ちが悪くなってきます。

難易度が高めである理由は,参考書等に掲載されている知識ではないものが問われたからです。国家試験終了後,この問題は試験委員の中では,問題となったのではないでしょうか。

それでは解説です。


1 医師は,死体に異状を認めたときは,厚生労働大臣に届け出なければならない。

これは間違いです。

医師は,死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは,二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。

と規定されています。

届け出先は,所轄警察署です。

参考書等には,おそらく法を引用して,上記のように記載されていると思います。

国家試験を知らない人は,妊娠4か月の「4か月」,あるいは「24時間」といったところを覚えようとするかもしれません。

しかしそんなところを引っ掛けるような出題はされていません。

覚えるポイントは,

死体に異常を認めたときの届け出先は,所轄警察署

これで良いのです。


2 医師の臨床研修のマッチング結果は,近年,臨床研修病院が大学病院を上回っている。

これが正解です。

臨床研修は,国家試験合格者に対する卒後教育です。大学病院又は厚生労働大臣が指定する臨床研修病院で研修を受けます。

臨床研修のマッチングとは,研修希望者の希望と臨床研修病院の研修プログラムの組み合わせについてコンピュータを使って,最適なものを見つけるものです。結婚相談所のようなものと言えるでしょう。

「あなたの最適な臨床研修先は,大学病院ではなく,臨床研修病院です」という結果が続ているのです。

これを正解選択肢にした理由が見えないと思いませんか?

覚えておいて損はありませんが,同じような出題はないように思います。

この問題の難易度が高いのは,この選択肢を正解にしたからです。

しかも勘の良い人ならこれを選ぶと思います。知識のありなしではなく,勘の良しあしで解ける問題は,国家試験には本来は向かないです。

保健医療サービスは,第22回国試から加わったものです。この問題は3回目に当たるので,まだまだ内容が安定していなかった時なので,仕方がないところかもしれません。
試験センターも毎年試行錯誤しながら出題しているのです。


3 医師は業務として,医薬品の調剤を行ってはならない。

これは間違いです。

調剤は,薬剤師しか行うことができない業務独占です。しかし医師には調剤が認められています。


4 いわゆる医薬分業とは,医師の指示の基に薬剤師が処方箋を発行することをいう。

これも間違いです。

東洋医学では,医師が調剤も行っていました。この名残が選択肢3の医師も調剤を行うことが認められている理由です。

明治になって,薬剤師のルーツとなる資格が生まれて,医師は処方を行い,薬剤師は調剤を行うという仕組みができます。これが「医薬分業」です。

ある程度の年齢の人なら「薬価差益」ということばを聞いたことがあるかもしれません。病院が院内調剤を行うことで,薬代も設けることを言います。

そのため,薬価を引き下げ,調剤薬局で調剤を行うように政策誘導がなされました。

その結果として,現代の医薬分業は,病院は医療を提供し,調剤は調剤薬局で行うという形で進んでいます。


5 助産師以外の者は,助産所を開設することはできない。

これも間違いです。

助産師以外の者でも,助産所を開設することができます。

それでは続けてもう一つの問題です。


第30回・問題75 医師法に規定された医師の業務に関する次の記述のうち,最も適切なものを1つ選びなさい。

1 時間外の診療治療の求めに対しては,診療を断る権利がある。

2 医師の名称は独占ではないが,医師の業務は独占である。

3 処方せんの交付は薬剤師に委任できない。

4 診療録の記載は義務となるが,その保存は義務とはならない。

5 患者の保健指導は義務とはならない。


この問題の文字数は,123文字です(設問は除く)。

1問目の問題の文字数は,180文字です。文字数の差は57文字です。

それほど大きな差ではありませんが,このような小さな差であっても積み重ねるとジャブのように効いていきます。選択肢一つ分に匹敵します。

各選択肢の文字数が完全にそろっていませんが,ばらつきは小さくなっています。


それでは解説です。


1 時間外の診療治療の求めに対しては,診療を断る権利がある。

これは間違いです。

第十九条 診療に従事する医師は,診察治療の求があつた場合には,正当な事由がなければ,これを拒んではならない。

正当な事由があれば診療を断ることはできますが,それは権利ではありません。

正当な事由に当たるものには以下のようなケースが考えられます。

・医師が不在
・ほかの患者の診療中 など

休診中でも,患者からの求めがあった場合は応じなければなりません。

医師の報酬は高いですが,24時間にわたって患者に向き合わなければならないことを考えると決して高すぎるとは言えないのかもしれません。


2 医師の名称は独占ではないが,医師の業務は独占である。

これも間違いです。

医師は,名称独占であり,業務独占です。

今は,ニセ医師の話はあまり聞くことはありませんでしたが,昔は時々聞いたものです。
ニセ医師は,名称独占も業務独占も違反していることになります。


3 処方せんの交付は薬剤師に委任できない。

これが正解です。

処方せんの交付は薬剤師に委任することができません。

委任してしまうと医薬分業ではなくなってしまいます。


4 診療録の記載は義務となるが,その保存は義務とはならない。

これも間違いです。

第二十四条 医師は,診療をしたときは,遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。
2 前項の診療録であつて,病院又は診療所に勤務する医師のした診療に関するものは,その病院又は診療所の管理者において,その他の診療に関するものは,その医師において,五年間これを保存しなければならない。

このように,診療録の記載とともに5年間の保存の義務があります。


5 患者の保健指導は義務とはならない。

これも間違いです。

第二十三条 医師は,診療をしたときは,本人又はその保護者に対し,療養の方法その他保健の向上に必要な事項の指導をしなければならない。

このように療養の方法とともに保健の指導の義務があります。


<今日の一言>

医師に関する問題は,第24回と第30回に一問まるごと出題されています。

第31回はまるごと出題されないと思います。

しかし,ほかの専門職と含めて出題されてくることはあると思いますので,第24回と第30回の内容だけは最低でも覚えておきたいです。

そして,理学療法と作業療法,診療の補助についての整理もしておくと良いです。

なお,参考書を読むとこれだけの内容をすべて覚えなければならない,と思うことでしょう。
しかし国試問題を見てみれば分かりますが,必ずしもそれらをしっかり覚えておかなくても正誤が分かるものもたくさんあります。

「覚えられない」と焦る必要はありません。

落ち着いて勉強を進めていくことが大切です。

最新の記事

子ども・子育て支援法

  子ども・子育て支援法は,これまでにも出題されてきましたが,正式に出題基準に含まれたのは,第37回国家試験です。 子ども・子育て支援制度は,市町村が実施主体になっています。 支給申請は,市町村に対して行います。 児童福祉法には,入所系があるので都道府県の役割がありますが,子ども...

過去一週間でよく読まれている記事