今回も医療法に取り組んでいきたいと思います。
医療法では,医療の安全の確保の規定があります。
それに関連して,医療安全に係る医療法施行規則というのもあります。
施行規則から出題すると細かくなりすぎますが,過去に出題されたのは,安全管理委員会に関するものです。
それでは,今日の問題です。
なお,第28回の国試問題ですが,最近の国試にしては,問題の作られ方が雑な問題です。
第28回・問題73 医療法に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 市町村は,医療機関に関する医療機能情報を集約し住民に提供する。
2 退院療養計画書には,患者の退院後の療養に必要な保健医療又は福祉サービスに関する事項が記載されている。
3 入院診療計画書には,リハビリテーションに関する事項は含まれていない。
4 医療に係る安全管理のための委員会の開催は,無床診療所にも義務づけられている。
5 医療計画における医療の確保に必要な事業の中に,災害時における医療は含まれていない。
「雑な作られ方」という意味は分かりましたか?
それも含めて,解説します。
1 市町村は,医療機関に関する医療機能情報を集約し住民に提供する。
これは間違いです。
医療機能情報の公表は都道府県の役割です。
この問題の作り方は,超定番です。
都道府県と市町村を入れ替えれば,簡単に間違い選択肢を作ることができます。
医療に関するもののほとんどは都道府県の役割です。
というか,医療に関するもので市町村の役割はほとんどありません。
村立診療所が一つしかないという小さな村を考えると集約もなにもないだろうと想像することができます。
サービスの公表に関するものもほとんどが都道府県の役割です。
基本を押さえて,例外事項を押さえる覚え方が最も効率的です。
2 退院療養計画書には,患者の退院後の療養に必要な保健医療又は福祉サービスに関する事項が記載されている。
これが正解です。
これが分からなくても,ほかの選択肢はあるポイントに気がつけば消去できます。
3 入院診療計画書には,リハビリテーションに関する事項は含まれていない。
これは間違いです。
この選択肢が雑な問題の筆頭です。
もちろん含まれるということになります。
もし,含まれない,という表現にしたいなら,すべての選択肢を「含まれない」とそろえて現在は出題されます。そのように出題すると難易度が上がります。
知識が足りない人は正解できないことになります。
4 医療に係る安全管理のための委員会の開催は,無床診療所にも義務づけられている。
これも間違いです。
この選択肢も雑な問題です。
「にも義務づけられている」という表現から,「には義務づけられていない」が正しいのだろうと類推することができるからです。
今の問題は,文章が短くなっているのて,類推がほとんどできなくなっています。
勘の良さでは合格できないのです。
5 医療計画における医療の確保に必要な事業の中に,災害時における医療は含まれていない。
これも間違いです。
選択肢3と同じように,災害時における医療は含まれます。
医療計画で定める5事業は,救急医療,災害時における医療,へき地の医療,周産期医療,小児医療(小児救急医療を含む。)です。
<今日の一言>
参考書で勉強していると,例えば,医療計画に定める「5疾患・5事業」の内容をしっかり覚えないといけないと思うでしょう。
もちろんしっかり覚えて覚えたほうが良いに決まっています。時間あるときなら,もちろん覚えたほうが良いです。
しかし,実際に出題される時には,今日の問題のようにすべてをしっかり覚えておかなければならないというものではありません。
過去問を使って勉強することの意味はたくさんありますが,無駄な勉強をしないというために,出題されるポイントを知っておくという意味は特に重要です。
よくある疑問に
どのくらいの勉強時間を確保したら合格できるの?
というものがあります。
しかし間違った勉強をしていたら,どれだけ勉強時間をかけても合格するのは難しいですし,覚えなくてもよいポイントを覚えようとする効率性が悪い勉強では時間をかけても得点するのは難しいということになります。
覚えなくてもよいのは,「●●説(理論)は,●●が提唱した」といった人名です。
設立したのは人名は覚える意義がありますが,「●●説(論)」の提唱者が問われることは,ほとんどないからです。
社会福祉士の国家試験は,多くの人が思うほど難易度は高くはありません。
今日の問題を例にとると,医療機能情報の提供は都道府県の役割であるということが分かれば,正解できたことでしょう。
医療に関するもので市町村の役割はほとんどない,とい大原則はほかのものにも応用できる知識です。
こういった原則が分かっているのと分かっていないのでは,大きな差が出てきます。
しっかり覚えておきたいです。
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