医療法は,病院・診療所の開設,医療提供体制の確保,医療法人などを規定していますが,医療の安全の確保も規定しています。
平成27年改正の医療法では,医療の安全の確保に関して,「医療事故調査制度」を規定しました。
<医療事故調査制度の概要>
医療事故が発生した場合,当該医療機関で院内調査を行い,民間の第三者機関である医療事故調査・支援センターに調査結果を報告し,センターがデータを収集・分析することで再発防止につなげる。
医療機関で,患者取り違え事故など,重大な医療事故が発生したことを受けて制度化したものです。
各医療機関は,事故が発生するとそれを独自に調査・分析していましたが,センターにデータを集積することにしたのです。
それでは今日の問題です。
第30回・問題74 医療法の内容に関する次の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。
1 病院又は診療所の管理者は,入院時の治療計画の書面の作成及び交付を口頭での説明に代えることができる。
2 市町村は,地域における現在の医療提供体制の把握と将来の医療需要の推計を勘案し,地域医療構想を策定することができる。
3 病床機能報告制度に規定された病床の機能は,急性期機能,回復期機能,慢性期機能の三つである。
4 一般病床,療養病床を有する病院又は診療所の管理者は,2年に1度,病床機能を報告しなければならない。
5 病院,診療所又は助産所の管理者は,医療事故が発生した場合には,医療事故調査・支援センターに報告しなければならない。
落ち着いて問題を読めば,消去法によって,答えは導き出せるはずです。
この手の問題は,とにかく落ち着いて冷静になることが必要です。
「勉強していない。分からない。ええ~い,これを選んでしまえ」と投げやりな気持ちになっては,負けです。
さて,それでは解説です。
1 病院又は診療所の管理者は,入院時の治療計画の書面の作成及び交付を口頭での説明に代えることができる。
これは間違いです。
入院診療計画書は,作成して交付しなければなりません。
生活保護などの申請は口頭でも受け付けることができますが,それは権利の主体は国民にあるからです。医療機関でも同じです。権利の主体は患者です。
医療機関が口頭による説明で済まされるなら,患者の権利は確保するのは難しいです。
権利の主体は口頭によるものは認められても,その逆は認められるものではありません。
2 市町村は,地域における現在の医療提供体制の把握と将来の医療需要の推計を勘案し,地域医療構想を策定することができる。
これも間違いです。
医療に関しては,市町村の役割はほとんどありません。これは基本形です。しっかり押さえておきましょう。
地域医療構想を策定するのは,市町村ではなく都道府県です。
3 病床機能報告制度に規定された病床の機能は,急性期機能,回復期機能,慢性期機能の三つである。
これも間違いです。
とても難しいです。
病床機能報告制度なんて聞いたことがない,と思うと負けです。
この選択肢を選ばないためのポイントが一つあります。
それは「三つである」というところです。
久々の登場
人は嘘をつくとき饒舌になる
という解答テクニックです。
この選択肢が正しければ・・・
病床機能報告制度に規定された病床の機能は,急性期機能,回復期機能,慢性期機能である。
で良いはずです。
しかし,本当はこれにもう一つ「高度急性期機能」が加わります。
「三つ」と限定しなければ,ケチをつけようと思えば,不適切問題だと指摘することができそうだと思いませんか?
それを防ぐため,つまり確実に不正解にするために「三つ」という言葉をつける必要があるのです。
正解であれば,わざわざ「三つ」と限定する必要がないのです。
4 一般病床,療養病床を有する病院又は診療所の管理者は,2年に1度,病床機能を報告しなければならない。
これも間違いです。
報告するのは,1年に1度です。
2年に1度と出題したのは,診療報酬改定に引っ掛けたものたと思いますが,報告が2年に一度というのは,あまりにも中途半端です。
5 病院,診療所又は助産所の管理者は,医療事故が発生した場合には,医療事故調査・支援センターに報告しなければならない。
これが正解です。
<今日の一言>
国試で正解するのは,簡単なものではありませんが,今日の問題のように,落ち着いて問題を読めば,答えは導き出せる問題もたくさんあります。
今は,過去問を解きながら勉強をしている人が多いと思います。
3年間の過去問から繰り返し出題されるのは,極めて少ないです。
3年間の過去問の知識で合格できる
嘘の情報です。
それにも関わらず過去問を解くことが必要なのは,国試問題に慣れることが大切だからです。
国家試験の合格は,決して難しくないですが,3年間の過去問の知識で合格できる試験ではありません。
最新の記事
子ども・子育て支援法
子ども・子育て支援法は,これまでにも出題されてきましたが,正式に出題基準に含まれたのは,第37回国家試験です。 子ども・子育て支援制度は,市町村が実施主体になっています。 支給申請は,市町村に対して行います。 児童福祉法には,入所系があるので都道府県の役割がありますが,子ども...
過去一週間でよく読まれている記事
-
ソーシャルワークは,ケースワーク,グループワーク,コミュニティワークとして発展していきます。 その統合化のきっかけとなったのは,1929年のミルフォード会議報告書です。 その後,全体像をとらえる視座から問題解決に向けたジェネラリスト・アプローチが生まれます。そしてシステム...
-
今回から,質的調査のデータの整理と分析を取り上げます。 特にしっかり押さえておきたいのは,KJ法とグラウンデッド・セオリー・アプローチ(GTA)です。 どちらもとてもよく似たまとめ方をします。特徴は,最初に分析軸はもたないことです。 KJ法 川喜多二郎(かわきた・...
-
問題解決アプローチは,「ケースワークは死んだ」と述べたパールマンが提唱したものです。 問題解決アプローチとは, クライエント自身が問題解決者であると捉え,問題を解決できるように援助する方法です。 このアプローチで重要なのは,「ワーカビリティ」という概念です。 ワー...
-
ホリスが提唱した「心理社会的アプローチ」は,「状況の中の人」という概念を用いて,クライエントの課題解決を図るものです。 その時に用いられるのがコミュニケーションです。 コミュニケーションを通してかかわっていくのが特徴です。 いかにも精神分析学に影響を受けている心理社会的ア...
-
イギリスCOSを起源とするケースワークは,アメリカで発展していきます。 1920年代にペンシルバニア州のミルフォードで,様々な団体が集まり,ケースワークについて毎年会議を行いました。この会議は通称「ミルフォード会議」と呼ばれます。 1929年に,会議のまとめとして「ミルフ...
-
質的調査では,インタビューや観察などでデータを収集します。 その際にとる記録をフィールドノーツといいます。 一般的には,野外活動をフィールドワーク,野外活動記録をフィールドノーツといいます。 こんなところからも,質的調査は,文化人類学から生まれてきたものであることがう...
-
19世紀は,各国で産業革命が起こります。 この産業革命とは,工業化を意味しています。 大量の労働力を必要としましたが,現在と異なり,労働者を保護するような施策はほとんど行われることはありませんでした。 そこに風穴を開けたのがブース,ラウントリーらによって行われた貧困調査です。 こ...
-
ヒラリーという人は,さまざまに定義される「コミュニティ」を整理しました。 その結果,コミュニティの定義に共通するものとして ・社会的相互作用 ・空間の限定 ・共通の絆 があることが明らかとなりました。 ところが,現代社会は,交通手段が発達し,SNSやインターネットなどによって,人...
-
今回は,ソーシャルワークにおけるエンゲージメントを取り上げます。 第30回の国試で出題されるまでは,あまり知られていなかったものです。 エンゲージメントは,インテーク(受理面接)とほぼ同義語です。 それにもかかわらず,インテークのほかにエンゲージメントが使われるようになった理由は...
-
絶対に覚えておきたい社会的役割は, 第1位 役割期待 第2位 役割距離 第3位 役割取得 第4位 役割葛藤 の4つです。 今回は,役割葛藤を紹介します。 役割葛藤とは 役割に対して葛藤すること 役割葛藤を細かく分けると 役割内葛藤と役割間葛藤があ...